Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (24)
忙しい戦士長に頼むのは、解決策としては愚策だと思うでしょ?こっちだって事情があるの!
昔ならまだしも、忙しくなっていく彼に頼むのなら、いっその事さ、お爺ちゃん専属の侍女っていう部署を設けて彼の近くに置けばいいって思うじゃん?
それが絶対にできない理由があるんだよ!その理由が発生すると奥様連合の堪忍袋の緒が切れてお爺ちゃんをこの街から強引にでも連れ戻されちゃう、もしくは、奥様連合がこっちに頻繁に足を運びかねないの!
なら、執事でいいのでは?って思うでしょ?
…この街で働いてもらっている人で執事っていう役職に回せれる余裕はないんだよね。
仮に執事が居れば!執事という役職を用意することが出来るのであれば!お爺ちゃんの傍に置いても良いんだけど…
この街だとね、男の人にしか出来ない力仕事が山ほどあるので、執事っという役職なんて作れないんだよね。貴重なマンパワーを、誰かの傍に置いて置くなんてもったいなくて出来ない。
侍女は彼の傍に置いて置けない理由?そんなの決まってるじゃん…
いつお腹が大きくなってしまうか、わかったもんじゃないんだよね!!
侍女サイドとしても、お爺ちゃんの側室になれるのだったら喜んで!ってな感じ!!
玉の輿っという、野心を腹の内側に抱えている人なんてね、山ほどいるんだからね!
だから、お爺ちゃん専属の侍女なんて用意できない。
っとなると、この件に関しては、お爺ちゃんに、対等に意見を言えて尚且つ、お爺ちゃんの魔の手からメイドちゃんを逃せれる人物は勇気くんしかいないってわけ…お母さん?無理無理、鼻で笑ってメイドちゃんを挑発してお終いだよ。
ってな、事件…って程でもないけれど、色々とあったんだよね…
「私個人としてはね、気さくな人だから…悪い気はしていないよ?私個人としてはね…メイドちゃんの心を乱さない限り、ね…」
「サクラに何かすることは無いだろう、あの人は、認めた相手に対して紳士である、認めているからこそ相手を尊重する。サクラがあの人に認められている証拠だ…メイドさんに関しては申し訳ない、その、なんだ…これからも善処する」
最後の部分は諦めている感じが凄く伝わってくる…勇気くんなりに頑張ってくれてはいるけれど、日常的に染みついた癖は抜けないってことを暗に示してしまっている。ってことは、屋敷の中ではスキンシップとして侍女にセクハラしてるってことだね。
メイドちゃんからすれば私がお爺ちゃんに認められているのは才能ゆえにって思っているだろうね。
メイドちゃんが私達と会う前に起きた一件によって認められていると、私はそう感じている。
お爺ちゃんって財力や知力だけじゃ敬意を示さないだろうからね。
生涯で一生味わう事のない完璧な敗北を自分よりも力も才も何もかも劣るであろう幼く少女に完膚なきまでに負けてしまったっていう、彼の人生で考えられない、ありえない出来事。
現実味が無さ過ぎて誰も信じないだろうから、誰にも言えない、誰も知らない出来事。ぁ、情けない男は知ってるか命令したのはあいつだもんな。
お爺ちゃんからしたら恥かもしれないから、私だって言い触らす気はない、っま、言い触らしたところで誰も信じないだろうしね。
勇気くんからの認めらえているっと言う部分に対して「そうだといいね」っと、謙遜的な返しをすると「謙遜する必要はないです!姫様の軍事力!財力!英知!その全ては、あのえろ…あの人を越えています!謙遜する必要なんてないです!姫様は素晴らしい方です!あんなえろ…なんか気にせず叩きのめしてください!!」
勇気くんよりも早く、私の次の言葉を遮る様に間髪入れずにメイドちゃんが反応し怒りが見え隠れしている辺り…
メイドちゃんとお爺ちゃんとの間にある壁は分厚く、和解するために壁を砕くことは不可能だろうなぁ…
セクハラしてくる相手の事を許せないってのは、女性としてわかるけどさ、尻や胸を幾度となく揉まれた触られた撫でられた摘ままれたくらい…って、よくよく考えるまでもなくギルティだけどさ…
メイドちゃんが怒るのも無理ないよね、何度も此方が我慢して我慢して、上司から注意してもらっているのにも関わらず、懲りずに悪びれもせずにセクハラしてきたら…誰だってキレるよね。
「すまない、あの人は、根っからの」「どうしようもない人ですよね!女性の尊厳ってやつを理解しようとしてくれません!!」
身内として何とかフォローしようとしたが間髪入れずに言葉を遮られてしまったエロ爺の孫は、我が事の様に恥ずかしそうに眉をひそめている。
彼の記憶を垣間見たから言えるけど、勇気くんは清廉潔白な人生を生きてきたんだと感じられた。
だからこそ正義を貫こうとする聖女を支えようと共に歩んできたのだろう。
欲にまみれた戦乱の時代で、そういう正しき道を歩もうとする姿勢は貴族として貴重な存在だったんじゃない?
…だから王の一人になったのかな?
王に至るまでの経緯とか色んな話を聞きたいけれどさ、お互い時間が無いからなぁ~…
平和になったら彼の大きな腕を枕にしてさ、髪の毛でも撫でてもらいながら語ってもらいたいなっつってね!ピューピューっと過去の私が口笛を吹いて盛り上がっているぅ!…盛り上がっていく最中、テンションが上がってしまったせいか思い出したくも無い出来事を思い出し、多少触られた程度ってという発言を撤回したくなってくる。
過去の私達が幾度となく色んな場所で経験してきた貴族との取引…彼らの女性を軽視している風習に苛立ったことが天丼宜しく、身に染みている。
過去の私が、貴族からの申し出として御屋敷に部屋を用意してあるので一泊して行かれては如何だ、という提案に乗ってしまったばっかりに夜這いされたことがある…
ほら?私って容姿端麗で見目麗しいでしょ?だから、私しか出せない色気に惑わされてね!だったらまぁ、悪い気はしないし、やんわりと断ったりしたんだけどさ、用意された部屋にさ!許可も無くノックも無く勝手に鍵を開けて入ってきて、運悪く着替えている途中の私の体を見た時のあの顔…
財産目当てで嫌そうな顔で夜這いにくんじゃねぇよ!殺すぞ!!ったくよぉ!!!
そういう無礼を働く馬鹿には全力でお灸をすえてやったけど、禍根は残り続けるからな!!ったく!!
それ以降、絶対に泊まらない!って、決めてたけれど、下手な宿だと馬鹿が財産目当てで襲いに来るし、刺客を放つ奴もいるんだよなぁ…
だから、貴族の屋敷で泊まることになっては、夜這いしてくる馬鹿が出てくる…その繰り返し…一部本気で夜這いに来た人もいるけれど、それはそれで今思い出しても鳥肌が…はぁ、思い出すんじゃなかった気分が滅入る、はぁ、気持ち悪かったなぁ、多感な時期に醜悪な人を見て育ったから色恋が苦手になったんだよね。あの時からお爺ちゃんが私を警護してくれていたら男の人に嫌悪感を抱かなかったのかな?
…いや、どの道、嫌悪感は遅かれ早かれ抱いていたかな。
湧き上がる怒気という感情が表に出てしまったのか、敏感な人物に伝わってしまったみたいで、心配そうに?いや、怯えているっぽいかな?ちらちらと、此方をメイドちゃんが様子を伺う様に此方を見ているので、自分の中に渦巻く感情を鎮火させ落ち着かせる。
さぁ、気持ちを切り替えて行こう!今はそういう時じゃないっての!なんか今日は昔の事をよく思い出す日だなぁ!
そう言う日もあると自分を納得させるように言い聞かせないとね!危ない実験の最中に意識が逸れるのは良くないからね、安全第一!ヨシ!
心の中で頬を叩くイメージをして切り替えていく。ミスが許されない世界に向けて集中力を高める!
…程なくして、危険な実験をするための心構えへと切り替わっていくのを感じる、水面が静かだ。
すぅっと音がする程度に息を吸い込み、周囲に声をかける。
「はい、お待たせお待たせ!お待ちかねの実験を開始するよー!」
パンパンっと手を叩いてくことによって緩んだ空気を引き締める。ついでに自分の気持ちも引き締める。特にね、今日は…何でかわからないけれどさ、昔の事をよく思い出して思考が逸れてしまうからね。
周りの状況を再確認するために視線を右から左へと動かす、研究員の人達は…うん、準備万端。此方が声をかける前から防護服に着替えていてる。もしもに備えて観客を守るために警備していた騎士達も兜をかぶっている、うん、目も真剣そのもの。各々、気を引き締め始めている。
私の思考が逸れている間に、的が用意されている。
後は、これから披露する魔道具を私がセッティングするだけかな?披露する魔道具は、本当に危険な代物だからね、迂闊に誰かの手に渡ると…下手すると死人が出るほどに危険だからね、厳重に管理している。
扱いを間違えると見に着ている観客から怪我人が出てしまう程に危ない魔道具を台座にセットしてっと…
緊張感を高める為にも、もう一度しっかりと声をかけて注意しといたほうがいいよね?
再度、しつこいかもしれないが、本当に危ない魔道具なので注意喚起をするために、観客全体を呼びかける様に注意喚起を行う。
怪我の保証も出来なければ命の保証も出来ないので、絶対に!盾を構えている騎士の前に出ない事、大声を出さない事、この場で見たことは関係者以外に他言無用などなど。
これから行うことは非常に危険であると伝えると会場の緊張感が一気に膨れ上がっていくのを感じる。
周囲にいる人達にアイコンタクトを取ると全員が静かに頷き真剣な表情で此方を見ている、うん、程よく緊張している気が緩んだりしていない…さぁ、実験を開始しましょう。
最終確認として、馬鹿な行動をしようとしている馬鹿がいないかチェックするために観客席の人達が安全地帯にいるのか、少しだけ体を捻って騎士達の隙間から様子を見ると、固唾をのむ様にし忠告通り姿勢を低くして身構えている。その高さであれば、万が一は無い!よしよし、突如湧く馬鹿はいないな。
騎士達は観客席の前に立ち特殊コーティングした盾を地面に対して真っすぐに立てかけるのではなく角度をつけて斜めに構えて待機、何があろうとも、ここにいる人達を守る姿勢
会場の覚悟も高まったことだし、さぁ、始めよう。危険な実験を!
一つ目としては目の前の台座にセットした小型魔石
名称(仮)として、広域閃光小型種殲滅魔道具っと名称をつけている、長い名前を呼ぶのがめんどくさい時は対小型っとかになるかもね、そのうちだれかがこれに名前を付ける迄はこれで行く予定。
名前の通り、非常に物騒な魔道具、名前からして危険な香りが漂う魔道具なのに、その大きさは小石程度。
小石程度の魔石に特殊な術譜が巻いてある、この術譜に刻み込まれた術は、一度限りの特殊な術。どうして一度限りなのか、単純に魔石の中にある魔力が無くなって二発目が撃てないだけ、後は、発動した術で術譜そのものが損傷して使えなくなる。
台座にセットした小石程度の魔道具、これを勇気くんに発動してもらう。
発動する条件、とてもシンプルにしてある、魔力を術譜に込めると術譜が魔石から魔力を吸いだし発動する。
感覚で言えば、術譜に触れて発動っと念じる程度で反応する。実験だからね、本番では魔力を通してから何分後に起動とか出来る様に仕組みを変える予定。
今回の的は木の板、厚みたったの5センチ。
ただの木の板じゃない魔石から放たれる光に多少は耐えて欲しいので燃焼を防ぐ為にちょっとした液体を塗布してある。
この液体がどの程度、抵抗できるのかも実験内容に含まれている。
特殊な液体でコーティングせずに的に撃つと一瞬で貫くのはわかっているからね。あの程度の木の板じゃぁこの魔道具から放たれる閃光は防げない
それにコーティングしとかないと、貫通してから的に火がついて燃えあがる恐れがある消火作業も面倒だからね。
…恐怖心を煽るのなら~、まぁ、燃えてしまってもいいんだけどね、恐怖心を煽る為が目的じゃないし、コーティングした液体がどの程度耐えられるのか、実験したからね~。
どうせやるなら一石二鳥ってね!




