おまけ 大地染めるは…②
『さぁ!次は、伝説の人物!食堂や、物資調達班からの度重なるお願いによって重たい(物理的に)腰をあげてくれた人物!早朝から昼までは愛する旦那と子供達、それと多くの従業員、全部を含めてファミリー達と共に、眩しい笑顔や豪快な声を大地に轟かせながら俺達の明日を支えてくれる!それだけじゃなく、夜は俺達の胃袋も満たしてくれている!疲労困憊で心も体も疲れ切っている俺達に、肉々しい筋力増強メニューによって立ち上がらせてくれる!疲れた心には、姫様御用達!珠玉の!ここだけでしか味わえないお酒の数々!それらを扱う人物はこの大地に一人だけ!伝説の粉砕姫こと!女将さんだー!!』
ドンドンっと豪快な足音を出しながら壇上に上がってくると、食堂のおばちゃん筆頭に図太く低い声援が壇上に向かって届くと、まんざらでもない表情でサムズアップ宜しく親指を立てて豪快な笑顔で応えている。
『伝説に続くは、姫様の伝説に憧れ若くしてこの街にやってきた第二の天才児!!武家の出自でありながら頭脳明晰、だが運動神経は皆無!…なのだが!研究塔の中では運動神経は上位ランク!閃光姫が血筋!研究塔からは閃光紡ぎし姪と言われ、暗い雰囲気漂う研究所を明るくしてくれる一筋の閃光!通称!姪っ子ちゃん!堂々の入場だ!』
こういったイベントで表舞台に出ることが無い姪っ子ちゃんは、恐る恐る、おどおどとした雰囲気でゆっくりと背中を丸めて壇上に登ったのはいいが、足が前に出ようとしていない、よく見ると足が震えてる。
震える足が動かないのか、必死に前へ出ようと、すり足で歩を進めるが前へ進まない、その状況を見かねたベテランさんが姪っ子ちゃんの近くに歩み寄り手を差し伸べると姪っ子ちゃんは縋る様に手を掴み、ゆっくりと壇上の奥へと進んでいく、その微笑ましい光景にかわいいー!っと、子供に恵まれなかった、相手に恵まれなかった人達の声援が壇上にまで届き、その声を聴いた姪っ子ちゃんは、顔を真っ赤にしてベテランさんに隠れるように逃げるが、少しだけ顔を出して小さく手を振って声援に応えると、かわいいーっと更に声援が大きくなった。
『何とも…微笑ましい光景でしたね!ではでは、続きまして…えっと、戦士の部と騎士の部はわけられているのですね、僕としてはてっきり、彼は出場しないと思っておりましたよ、なら、医療班もわけてほしかったですね。え?具体的にどうわけるのかって?…そんな些細なことはどうでもいいのです、望むのは、僕と団長が最後まで残り続ける様に雌雄を決し、長き戦いの末、産まれる新たな感情、お互いを認め合い、惹かれあい、あい…ぁ、はい、申し訳ありません、指先を向けないでください姫様。あとお前ら!ブーイングやめろ!』
彼の妄想劇場に付き合う気はなく、会場からは、我を出すな、引っ込め青二才、お前が団長に釣り合うと思ってんのかっという大きなブーイングに包まれていると、申し訳なさそうな表情をしながらも、こういった場所に上がる練習を幾度となくさせられてきたがゆえに、身についてしまった所作…気品あふれ優雅に壇上に上がって、ついつい、癖で壇上の真ん中へと向かって歩いていく、ティーチャーくんの姿を見て慌てる様にNo3が紹介文を読み上げる。
『ぁ、ぁぁ、も、申し訳ありません!先輩!…騎士の部からは微笑みの知将!実力を見れば戦士の部にいい加減に所属してもらって、ベテランさんの後を引き対ぐべき人物だが、騎士の部を取りまとめる人物がいなくなるから、後任を育て導きたいという本人の希望により戦士の部へ移籍しない頑固者!…ティーチャーさんだー!…気のせいでしょうか?私怨こもってません?』
紹介文を読み上げると会場からは多くの女性達から裂けるような悲鳴にしか聞こえない声援が聞こえてくる、彼もまた罪づくりなんだよなぁ…
壇上の中心に来てから、ぁ、っと気が付いたのか、ぺこりと頭を下げている、傍から見たらファンサービスなんだろうけれど、彼の背景を知っている私からすれば、あれは染みつく様に教え込まれた幼き日の教育からだろう。
頭を下げるとファンからは更なる絶叫が生まれ、それを背中で受け止めながら、団長の横に並ぶように立つと、そういった空気を一切気にすることなく、そうだったの?っと、団長が小声でティーチャーくんに声をかけるが、微笑みを絶やすことなく何も言わないで、答えをはぐらかそうとしている。
都合の悪いことは基本的にああやって切り抜ける悪い癖が彼にはあるんだよなぁ…王家の血筋ってやつは、仕方ねぇな~。
会場の中をこだまする様に黄色い声援が鳴りやまない中、我関せずと言った感じで紹介文を読み上げるよりも前に、スタスタと次の人が壇上に上がっていくのを見たNo3が慌てながら
『ああ、また!?す、すみません!つ、続きましては、どうやったのか、どういう経緯で彼を呼べたのか!?王国の盾にして剣!我らが王を守り続けてきた騎士として憧れないモノはいない!!元王国筆頭騎士であり、団長の…ぼ、…お爺さんの御入場です!!ぇっと、あ、抜けてました…彼を送り出したの隠蔽部隊の部署からです!!』
姿勢を正して壇上を歩き、ティーチャーくんと団長の間に割り込む様に陣取り、正面を向いてから小さくを手を振って会場の声援にこたえている。
『以上が、各部署の代表者です!…えっと、他にも部署がありますが、代表者を決めることが出来なかったので辞退させていただきますとのことです!では、今一度、拍手にて締めさせていただきたいと思います、では、拍手を』
No3が両手を上げて拍手をすると、会場にいる全員が盛大な拍手を代表者たちに送り続けている、会場の熱量が増していくのを全身で感じ続けていると、徐々に拍手が落ち着いてくる。拍手もパラパラと小さな音になってきたので、次へ進めよう。
「はーい!皆からの暖かい声援に拍手!ありがとうねー!」
声を出すと一気に会場が静まりかえる、しかし、会場に集まった人達の視線は熱いまま、今か今かと賭ける内容を聞きたがっている。
私が時たま開くイベントを介した賭場によって大富豪の仲間入りをしたという噂話がこの街に根付いている。
最初のころは博打打ちの心理を知らなかったから上限はここ迄っと決めずに、青天井で賭けていいって、イベントを開催してしまったのがいけなかった…
ただ一度のイベントで大勝利をぶちかまし、大富豪の仲間入りした人が出ちゃったんだよね…人生を賭けてくるとは思っても無かった。
その伝説が尾ひれはひれついてしまったがゆえに、己の運命力直観力洞察力全てを最大限に、最大域に奮い立たせ人生一発逆転を夢見ている人がいるってこと。
流石にもう、青天井での賭け事はしないよ!あれによって私の財源、結構減ったからね?まぁ、3か月の間に魔道具を売りまくってマイナス補填が終わったからいいけどさ…
賭け事に夢中になっていて、目が血走っていて、今か今かと脳内に駆け巡るドーパミンを維持し続けている人達を待たせることなく説明していかないとね~
会場の熱を冷ますわけにもいかないので、説明をするために、合図を送ると、研究員達が壇上に駆けあがり、壇上に予め用意された的に向かってボールのような物を投げつけるとボールが弾け液体が飛び出し的を緑色に染める。
突如始まった出来事に会場全体がどういう意図なのか思考を巡らせ始めている
「はい、今のを見て、何を感じたか…そして、何をするのか聞かされていない代表者の一部は、これだけで嫌そうな表情をし気が付き始めているね!これが何を意味するのかみんなはー。どう思うー?どんな戦いかなー?」
会場に向けて問いかけると、色んな人があれは、とか、これって、とか、考え始めていく。どよめくだけで答えが出てこないので、代表者に聞いてみよう!
「女将はこれを見て、どう思う?」
会話を振られると思っていなかった女将は完全に油断していのか、一瞬だけビクっと体を震わせるように驚き、緑色に染まった的を見て
「ぁー、あたしが、わかるわけねぇのはわかってるだろ?姫様ー…緑色の液体が飛び散って、床が汚れただけさぁね~?つまり、全身が汚れるってことだろぉ?はぁ、洗濯する身にもなってやれってなー」
農業や牧場を営んでいると汚れるのは当たり前、子供達は元気に走り回っているので泥だらけ、それを毎日洗うのが、お母さんである女将の仕事ってね。
うん、私が狙っている答えに近い反応、女将はああ見えて洞察力がある、今回のイベントにとってかなり不利だけどダークホースだと私は思っているからね!
「その通り!今回用意したのは、色のついた液体が入ったボール、水風船っていうおもちゃ、これを使ったイベントだよ」
私の言葉に釣られる様に会場全体がどよめいていき、街の清掃などは各部署が持ち回りで行っているので汚れは誰が落とすんだという声が聞こえたような気がした。
「イベントの内容はね!代表者を守れ!スリーマンセル!生き残ったチームの優勝!!XDayバトルロワイヤル!!だぁ!!」
掃除に関してはちゃんと誰がやるのか決まっているので、問題ない、そこはスルーしていく。
それよりも、ルールの内容を聞きたくて聞きたくて仕方がなく、誰に駆ければ良いのか考え続け、真剣な眼差しを向けられ続けているので、このままの流れでルールを説明していく




