Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (21)
私達の外堀を埋められていく状況としてね、私の大事な人はどう思っているのか…どういう心境を抱いているのか聞いてみたいんだけど、ちょっと、勇気が無くて本音は聞けていない。
私の大事な大事なお母さん…お母さんもね、私達の関係が進むことを望んでくれれば良いんだけど…
なんかねー、ユキさんの時は結構親身になって相談してくれていたからさ、私達が恋仲になって共に生きることになったら祝福してくれそうな気がしたんだけど、この件に関しては完全にノータッチでいようとしているんだよねぇ、単純に忙しすぎてそれどころじゃないってだけかも?
勇気くんとは、ユキさんの時の様に親密になれる程に、関わっていないもんね。判断っと言うか気持ちの整理がつかないのかも?
まさか、ねぇ?お母さんがまさか、愛する人の息子に、なんて、ねぇ?無いと思いたいけれど…彼の美貌は飛びぬけているし心も清らかだもんなぁ、心惹かれないわけないもんなぁ…
むぅ、そうなると本気の本気で困る。
だって、一人の女性としてターア・ジラと言う人物を客観的に見るとね、ガチで勝てる気がしないんだよね。
プロポーションも性格も、全てにおいてお母さんの方が女性らしくて綺麗だもん…勝ち目ないんだよなぁ…
もやっと、湧き上がる衝動に駆られ、ついつい感情を声にのしてしまう。
「それとも、勇気くんとしてはさ、お爺ちゃんのムーブに不満が生じているのってさ、こういうこと?好みってあるじゃん?」
声色からか、私から不穏な空気が滲み出てしまったのか、直ぐに察し、目を明後日の方向に逃がしやがった、逃がさないよ?
「男としてさー、最も心惹かれる体型から離れている人よりも~、男として最も心惹かれる体型を持つ人物に~~、勘違いされたくないってぇ~…ことぉ?そうなのかなぁ?ん?んん~~??」
少しだけ殺意を込めて睨みつけると視線を一切合わすことなく
「さて、メイドさん!次の実験は何をするのかな?俺が呼ばれるってことは危険な内容なのだろう?さぁ、やろう!今すぐやろう!」
その場から一目散に逃げる為に、メイドちゃんを利用しようと動き出す、その後ろ姿は、怒られた犬のように尻尾を下げて歩いているようにみえる。まったくもう!逃げ足も速いんだよなぁ!!
もう、煮え切らないなぁっと溜息を溢してしまう。
幸いなことにね、彼が誰かと何かあったっていう話は一度も聞かない。私の我儘なんだけどさ、その、やっぱりさ、好きな人の一番ってさ、最初ってさ、欲しいなぁって思っちゃわない?…生前の話は置いといてね。
尻尾を丸めてきゃんきゃんって鳴き声が聞こえてきそうな後ろ姿が遠ざかっていくのを見送っていると、足音が此方に近づいてくるのが聞こえる。
足音だけで誰が近づいてくるのかわかっているので振り向かないでいると、その一連の流れを遠巻きに見ていたお爺ちゃんが私の肩をポンっと叩き
「ったく、なんじゃい孫のやつは…名前まで貰っておいて」
しまった、この話題か!肩を叩かれる前に勇気くんを追いかける様に逃げればよかった!!
この話題が出ると話が長くなる…仕方がない、次の準備まで、時間もあるし付き合ってあげたい…けれど、時間はあるんだよ?かまってあげる時間はね…
でもね、その話題は出来ればしたくない、だって、実のところ、一番私にとって頭が痛い話題だもん…
逃げようとしても…逃げれない!逃げたいが、逃げれないんだよね!だって、彼の手が私の肩に置かれているから…っく、逃げようと足を動かそうとすると制止させられる!肩に手を置かれているだけなのに!何その謎技術!!
はぁ、観念してこの話題に向き合うとしましょう。
お爺ちゃんが言いたいことはよくわかるよ?騎士にとって、守るべき相手から名を授けてもらうという意味っというか、重要性をね、よくわかっているよ。
騎士が主君から名前を貰う、それも相手は女性であれば、貴族社会に属している人だったらロマンスの香りしかしないわけなんだよね。
そういった出来事が貴族の長い歴史の中では、ちょくちょく起きているんだよね。
私が知る話だとね、
貴族の屋敷に勤める狭き門である王都騎士団に所属できなかった門番と守るべき家主の一人娘との禁じられた恋物語とか、
騎士を志して研鑽を積む若き騎士見習いに恋をした貴族とかね。
そういった物語の多くが貴族社会で生きる女性から名前を授けてもらい、二人は離れないといけない運命だと言われても離れる事のない愛を二人で紡ぎ、名を授けてもらった騎士は一生傍に居てどんな困難だろうと愛する人を守り通すっていう恋物語が多い。
なので、私と勇気くんの関係はまさにその恋物語って感じと周りは捉えている。
っま、私達の関係は主従関係よりも、もっと深く深く心が繋がった関係、何方かが死ねば共に死ぬくらいの運命共同体だと私は思っている。
だからね、貴族たちの恋物語…それ以上の関係性と見られるくらいが、当然なんだけど、ね…うん、勇気くんはどう思っているのか、平和な世界を勝ち取ってから聞けばいいよね。
私達の関係性を恋物語としか考えられないお爺ちゃんは何時だって疑問を感じている。
「専属の騎士となると宣言しておきながら、恋心がないっというのか?そんな事はありえんじゃろうて、男として心惹かれる女性に出会ったのなら進んで関係を進めるべきじゃろうて、奥手すぎんか?本当にわしの血筋か?まったく、煮え切らんのう。わしはな、その話を聞いて涙が溢れそうになったのにのぅ、瞬間的に彼の時を垣間見たというのに…孫は、息子と同じ道を歩むのかと…期待しておったのだがな~~」
肩から手を放して流れる様に私を慰めようと頭を撫でながら言うのは良いんだけどさ…
毎度のことながら私の頭を撫でるのってさ、もしかしなくても、私の頭の位置がちょうどいい高さだから肘置きみたいな感じで扱ってない?って思うくらいに、毎度の毎度、触れてくるんだが?気安く触れてきやがってー…彼に勘違いされ、る、わけも、ないか…
昔からの仲だし、頭を撫でられること自体に関しては、悪い気はしないんだよね。
ただねー、こう、スキンシップを許し過ぎるのもなぁ…お爺ちゃんがもっと若かったら惚れてたんだろうなぁってしみじみ思っちゃうからなぁ…
基本的に私もメイドちゃんと同じで男の人に触れられるの嫌いなんだけど、どうしてだろう?お爺ちゃんからは嫌悪感を感じないんだよなぁ。
やっぱりあれかな?命のやり取りをした間柄ってやつだからかな?強敵と書いて友と呼ぶってやつかな?
気心が知れているっていうのも、悪い気はしない。だからこそ胸の内をさらけ出せる。
「いいの、私達の間柄はこういう感じでいいの、私達がこの街に集結しているのは…色恋じゃないから」
この発言をするとね、お爺ちゃんは決まっていっつも同じ事を言うんだよなぁ、このやり取りも何回目だろう?お年寄りは同じことばっかりいうものなのかな?
「むぅ、理解できん、我が一族で在れば恋と愛に真っすぐ突き進めと言うのに、あれは、母親に似たのか?っで、あれば、さもありなん…彼女は気高き魂をもっているからのぅ、薄い胸板じゃがな…」
うんうんっと頷いて勝手に納得してはちらっと私の胸見たでしょ?ちょんぎるよ?悪いけど私の方が大きいです!たぶんだけど!!
何処かのタイミングで同じ流れになると、毎度の様にこうやって色々といじってくるのは、何の意味があるのだろうか?って、疑問を抱いてしまう。
きっと、深い意味は無いんだろうなぁ…
本能のままに動いているのだろう、考えていそうで考えていない、直観力で動き続けるこの人の悪い部分だよね。
彼が持つ直感力を否定するわけではないよ?良い方向に動くときもあれば悪手の時もあるからね?
問題があるとすれば、行動力が高くて権威のある人って部分、そんな彼を私一人じゃ御しきれないや…
あと考えられる事としてエロ爺だから、流れに乗ってセクハラしたいだけかも?
「それとな、姫ちゃん」
っで、この流れに行くのも何時もの事!手は肩から離れている!逃げるのなら今!さぁ、逃げるか!
踵を返して天幕に移動しようとしたら肩に手を乗せられ動きを封じられる、ぐぅ、うごけん!!
指先に力は込められていないんだけど、不思議と前に出れなくなる!?厄介な技術だなぁ!
「わしの名前は決まったかの?わしの新しい門出に名前を付けてくれる約束じゃろう?じゃろう?いつまで待てばいいのかな?約束を交わしてから何年経つんじゃ?」
声からは圧を感じないけれども、肩に置かれた腕からはプレッシャーを感じる!!
ぐぎぎぎぎ、逃げたいのに逃げれない!!適当に安請け合いするんじゃなかった!!人の名前を考えるのって苦手なんだよ!!ネーミングセンスが皆無なのぉ!!
それなのにさ!苦手だけど、頑張って何個か候補を出してみたじゃん!!
受け止めてよ!!自分が気に入る名前が出なくても受け止めてよ!!我儘なんだよなぁ!ぜんっぜん!!納得してくれないお爺ちゃんにも問題があると思うんだけど?
名付けて欲しいって言っておいてさぁ~、名前の候補を出すと、それは、ちょっとなぁ、ってのは筋が通らないと思わない?なんだよもう!!
っていうか何で私なんだよ!他の人に頼んでよ!!
王を守る剣という古き人生から、新しい人生として、孫と共に世界を救う為に命を懸けて戦うと決めたのだから、わしだって新しい人生を歩む為に名が欲しいって言われるとなぁ!断りづらいっての!っていうか、そっち都合じゃん!私関係ないじゃん!私に魂を捧げてないじゃん!一蓮托生じゃないじゃん!恋物語じゃないじゃん!!って文句を言っても。
孫だけ、名前が与えられるのは不平等、って言われてもさぁ!それなら、文句を言わないで!名前が気に入らないってごねるのはどうなの?
これについて、お母さんに相談してみたら、私から何も言えませんって笑顔で逃げるし!




