Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (15)
少しでも現場の雰囲気を切り替える為にパンパンっと乾いた音を響かせるように手を叩いてお通夜のような空気を切り替えていく。
乾いた音によって多くの人がはっとし、夢から覚めた様に視線を此方に向けてくる。多くの人が我に返ったみたい。
周囲の視線が此方に集まったので、試したい人がこの状況を感じてもなお、居るのかどうかの確認…何てする必要なく、次にいくよーっと大きめの声を出してみるが、あの衝撃から覚めているはずなのに、次がどのようなものを見せてくれるのかという心躍る様にテンションが上がることは無く私の声は観客席に吸い込まれる様に消えていく。
気持ちの切り替えが上手い事で来ていない…
それ程までに衝撃的だったのだろう、彼らにとって火薬という物質が日常において有り触れていないモノなのだと、この状況をもって痛感してしまう。
んー、火薬はやっぱり本能的に怖いのかなぁ?恐れてしまうのかな?生存本能に訴えかけられる衝撃ってこと?…
ん~、どうなんだろう?まぁいいか、気にしたって仕方がない。心理学とか、そっちの学問は私の専門外。単純に、今後は火薬を控えめにすればいいし、なんなら、この衝撃に慣れてもらえばよし!精神論って好きじゃないけれど、こればっかりは慣れてくれとしか言いようがないもんなぁ。
切り捨てるような感じに聞こえてるかもしれないけれど、致し方ないんだよね。
どうせ、深く考えたところで、彼らが驚かない怖くないって、基準まで性能を落とすつもりなんて毛頭ない!
考えてみてよ?威力を落とすってことは殺傷能力が低下するって事、すなわち弱すぎてしまうっということになる、そうなれば?当然、敵に通用しなくなる、それじゃ本末転倒だもんね。敵を殲滅する道具を作っているのに敵を殲滅できない道具を作ってどうすんだっての!
ってなわけで、根性論万歳、精神論歓迎!
死の大地へと出撃したいのなら気合を込めて根性見せろや!そこんとこヨロシクゥ!!ってなわけで、少しずつ慣れてもらえばいいや。
大雑把に教育方針も熱烈猛進で行く方向で決まったことだし、気持ち切り替えて行こう!
さてさて、空間を支配するものは空気を読むな飲まれるなってね、この空気を換える為にもちゃちゃっと進行を開始しましょう!
次にお披露目するのも接近戦用の武器、見た目はごく普通の細い槍。
この場に出すのだから当然、ちょっとした仕掛けが施してある槍、ここからは、研究員では扱いきれないので、騎士に実演してもらう。
見た目は普通の槍、先端についている刃の部分が頼りないように見える程度に細い、っそ、標準的な槍に比べて細い…が!標準的な槍の先端よりも細いがこの槍が真骨頂を発揮するために先端部分が気持ち捻じれている、ドリルほど捻じれてはいないが、螺旋を描いている。
つっても、小さな捻りだから、遠めだと分かりづらいからかな?槍を取り出しても雰囲気が変わる様子が無い。念のために、耳を澄まして様子を伺う。
観客席から漂ってくる気配は予想通り、あんな細くて使い物になるのか?ってね、不安を感じるような音が宙を漂い地面に吸い込まれていく。
空気を呼んではいけないが、その漂う空気感は…理解るよ?
さて、空気を読まずに説明をしていこうかなっと、槍の使い方の一つとして叩くっと言う使い方がある、叩くのであれば先端が重ければ重い程、槍をしならせて打撃するときの衝撃力が増す、なのに、こんな先端が細い槍なんて打撃力が落ちるって思ってるよね?
残念ながら槍の持ち手の部分もしなる素材を用いていません、何故なら、これは打撃を目的とした槍じゃないからなんだよね!
重きを置いているのは一撃離脱!対象の急所を貫き一人一殺を目的とした一撃必殺&離脱を目的とした槍なんだよね。
説明を口に出すが、会場は依然静まったまま、聞くよりも見た方がわかりやすいよね。
合図を騎士に送る。
デモンストレーションを行ってくれる騎士の方はね、事前に一度触れているからこの槍をどう扱うのかわかっているし注意点も理解してるので安心してみていられる。合図を送ってから騎士の様子を眺めていると予め伝えている通りに動いてくれる、槍の演武というアドリブは聞いてないけど、彼なりにこの空気を変えようとしてくれたんだろうね。
演武が終わり、ゆっくりと狙いを定める様に的を見据える。
今回の的は分厚い木の板、厚みで言えば10センチかな?かなり厚め。
何処からどう見ても槍を真っすぐに突くという姿勢から、的に向かって綺麗な突きが繰り出されると綺麗に先端が刺さる。
特に歓声が沸き上がる事も無し、ただ木の板に槍が刺さっただけだもんね。これだけ見れば、何がしたいのか誰もわからないだろう…
本番はここから!
デモンストレーションを担当してくれている騎士を見つめていると、ふふっと不敵な笑みを浮かべている。
この後に起こるであろう歓声を想像してしまったのかな?ついつい感情が零れてしまったんだね。不敵な笑みを隠すことなく槍のある箇所をぐっと握りしめ、手首をぐるっと捻る様に回すと、槍のとある場所が小さな変化が起き始める。
小さな変化、その小さな変化に気が付いた会場にいる数人が、ぉぉっと小さな声を出していく、その小さな声が連鎖する様にがあちこちから聞こえてくる。小さな驚きの声が会場全体に広がるころとほぼ同時に、的の方からガリガリガリっと異音が聞こえてくる。
音から察しれた人は勘が良いね、この特殊な音は的が削られていく音、日常ではあまり聞くことのない音が、会場全体に響いていく…
音がする的を見つめていると、刺さった槍の部分がドリルの様に回転し分厚い木の板を削っていき少しずつ先端が的の奥へと進んでいくように、深く刺さっていく
会場に鳴り響く異音、この会場に相応しくない何かが削れていく音が何処からするのか視線を彷徨わせ、徐々に多くの人が気づけ始めていく。
一人が気が付き、その一人が指を刺し、次々と視線が音がする場所に集まっていく。
会場の視線が一点に集まるころには、先端が当たっている箇所から木屑が巻き上がり槍の中央まで、的の奥へと進んでいくように削られていく。
刃が中央にまで深く刺さっていくと、先ほどまで会場内を漂っていた冷え切った空気が回転している槍と的との間から発生している摩擦熱が伝わったかのように熱を帯びていき、始めてみる光景に驚き自然と歓声がおおーっと湧き上がり会場全体に熱が宿っていく。
うん、これは怖くないみたい、衝撃が激しくないからかな?…私からすれば先ほどの小槌よりも、こっちの方が怖いんだけどな、対人兵器として冷静に見て考えると…相手取りたくない程に最悪の性能だよ?
これの主な役目は貫くことでしょ?それだけなら何も脅威じゃないって思うじゃん?でもね、対人戦となると戦術の幅が一気に広がるんだよね。
例えばね、刺さって回るっと言う特性が非常に厄介、どうしてだと思う?人はね、服を着ているから。
先端さえ服の一部に刺してしまえば強力な捻り作用によって服が引っ張られ各関節の動きを固定させることにより…身動きがとりにくくなり相手を拘束できる。それだけじゃない、服じゃなくて皮膚に先端部分が直接刺さったら最悪、悶絶もんだよ?
皮膚ってね知覚作用が高い、つまりは痛みを感じやすい部位、その痛みを感じやすい部位をひっかく様にひきちぎってごらん?拷問だよ?
皮膚を引きちぎれなくても、物凄い力で抓られていると想像してみてよ?…痛すぎる。
以外とっていうか、そんな経験なんて無いよね…服を掴まれて捻られるなんてね。
実はね、服を力強く捻るだけで人の動きってのは、ある程度、拘束できちゃうんだよね。
何処でそれを参考にしたのかっていうか実体験なんだよね、ゴミとか使い道に困る木屑を細かく粉砕するための魔道具を研究しているときに、研究員が粉砕するために回転している刃に服が引っかかっちゃって引っ張られちゃったんだよね、死者は出てないよ?慌てて魔道具を止めて何事も無かったよ?
でね、その光景を見ていた他の研究員がさっさと服を脱いで逃げろよって、攻めるんだけど、粉砕機の刃に引っ張られていく研究員が服を脱ぐことも動くことも何も出来なかったっていう実体験から、服を捻られる恐怖を知ったんだよね。
それから、それを回避するにはどうしたらよいのかと、話し合いをしてわかったのが、服に切れ目を入れて服を裂くしかないって結論かな?
ただ、困ったことに、私達が汚れても良いように作った作業着こと、隊服ってけっこう丈夫に作ってあるからナイフでとっさに切れるのかって言われると…ってことで、粉砕用の魔道具を使う時は一人で使わないっていう、決まりが出来たんだよね。
話は戻して~、この槍の怖い所が、研究所内や、戦場ならいざ知らず、日常でナイフとか常に携帯しているわけでも無い服を切るなんてとっさの判断で出来ないし、そもそも、この槍を扱っている人もナイフを出して服を切ろうとしたらそうさせないように動く。
仮にね、敵が鎧を着ていても鎧の下に着用している布の部分が露出していたら、そこを狙えばいい。鎧の下に着ている布が引っ張られると、鎧の種類によっては、鎧がずれてしまって動きにくくさせることができる、鎧の下に着用している服を裂こうと、ナイフを取り出しても鎧の下に着用している布ってやつはね、直ぐには切れない。
っま、切れやすい布とか、使い古したぼろい布だと直ぐに裂けちゃうからね、そうなると拘束することはできないけれど、肌を晒すのは戦場では非常に危険なんだよね。街中だとしたら見えてはいけない場所が見えてしまって次からはその付近を歩くことができなくなっちゃうよね
他にも、フルプレートが相手だと、関節の隙間に先端を刺してしまえばこっちのもの!
刺してぎゅるっと回転ギミック+人の力で先端を回転させて一瞬で関節部をえぐり取る!関節部を損傷すると人の機動力は大きく低下するからね?
はぁ、想像するだけでげんなりしちゃう、あーやだやだ、人に向けちゃいけない代物だよ。
ガリガリガリっと音が響いている中、彼と同じようにこれが人に向けられるどの様な脅威となるのかついつい考えてしまう。
長い事さ~彼と共に行動しちゃっているからね、色々と影響されちゃうんだよね~…これも好意を寄せているからこそ、相手に染まりたいってやつだったり?でへへ、、、思考がそっちよりに傾いちゃうのも仕方がないよねぇ?
なんてね、元より何年も、ううん、何代も前から始祖様を通じて得られる地球の情報は危険な運用方法が多すぎて、迂闊にこっちに持ち込んではいけないって思ってたけどね。
私達は醜いから。日本人みたいにモラルが整っているわけじゃないもん。
奪うのは当たり前、人を蹴落とすのも当たり前、身分の高い人が身分を低い人を殺すのも当たり前。
だから…始祖様は愛想をつかして課題を残してこの星を旅立って行ったっていうのが、幼い頃に私が…ううん、加護を通じて幾重にも幾代にも繋げてきた寵愛の加護を受け継ぎ紡いできた一族の答え、私もそれに賛同した。
っとと、いけない、思考がそれてしまった。いけない癖だよね。




