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最前線  作者: TF
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残されたものだけにしかわからない毒

…おかしい、陣に反応があった、つまり、セーフティネットが反応したのは間違いないわね。

何かが起きたのは明白、なのに…団長の意識が此方に戻ってくる気配がない、意識を団長に向けると、団長の魂と呼ぶべきものは奥底に残ったまま。


何かがあったけれども、戻るつもりは無いって事?

そんな無茶を?…いや、するしかないのね、これが最後だから、セーフティネットが発動して、帰って来るっという事は失敗を意味する。

それ即ち、姫様を失うという事…


私達の大切な人を永久の…光届かぬ暗闇に、残してしまう。


彼女が…愛する娘が死ぬまで永遠に、何もない暗闇しかない場所へ閉じ込めてしまう…

彼女の身を案じる中に、もう一つ危惧している物がある。それが、私達は、彼女無くして生き残る術が見いだせないってことね。

私が知る限り姫様を除いて、今の状況を打開するような策を講じれる人を知らない。つまり…人類の最大の知恵者を失った状態で最後の戦いへ…勝てる気がしない。


今、この瞬間も、私は…彼女から託された選択肢を選ばないといけないのだと、人類の未来を何方に託すのか迫られている…

こんな切羽詰まった、愛する娘と二度と会えなくなるかもしれないという瀬戸際、母として、彼女の母としてあろうとしてるのに、私の中に突きつけられてくる選択肢を冷静に考えさせようとしている、貴女は…こんな状況だというのに、冷静に考えさせるなんて、貴女…やっぱり人として間違ってるわよ?それでも聖女なの?…貴女の本質は政治家の方が向いているんじゃない?


選択肢を突き付けてきて決断を迫ってくる相手に悪態をついてみるが…

…ふん、だんまりね。都合が悪くなると直ぐに隠れようとする。わかってるわよ…眠ったのだと思っていたはずの貴女が何となく起きつつあるのを感じていたわよ、わかってたわよ。

答えの出せない状況に陥ったときに、どうしたらいいのか、こっそりと私の思考に混ざろうとしてきているの、わかってるわよ。


貴女が、子供を産むという選択肢を姫様…貴女の姪から、私の娘から与えられた選択肢、未来を勝ち取る為の選択肢、保険として選ぶように自分に言い聞かせてきた選択肢。

その結果、今の私には、選択肢が二つ与えられてしまった。これも、見越していたわけってことね、貴女は…私の諦めた願い、貴女の諦めた願い、それを叶えたくて、私が断りづらい状況を作り、そして、最愛の娘か、息子か、その何方を優先するのか…私が悩み苦しむ選択を用意したって事かしら?


思考が苛立ち、疑心、認めた相手が裏切ろうとしているんじゃないかっと心が締め付けられていく。

非情な状況にため息をついている暇なんて無い、冷静に考えるべき。


突きつけられてきた選択肢は二つ

一つは、最愛の娘を暗闇の中から救い出す事

一つは、最愛の娘を暗闇の中に置いて行く事


置いて行く場合は、私はスピカと共にここから旅立つ、私達が愛する人の子供…人類の希望となる救世主を育てるために。

スピカにはその力がある。姫ちゃんの研究がそう教えてくれたもの。…まさか、あんな突拍子もない研究がこんな形で芽吹くなんてね…

敵の目から逃げる為に、人類を見捨て、外の大陸へと逃げる。その為の繋がりとしてメイドがいたんだけど、もう、海を越えた先に人はいない。

いないからこそ、敵の目を欺きやすくなる。人は死んでも、人が生きた後は残っている、廃墟の中から使えるものを搔き集めれば、10年やそこらくらい耐えれる、耐えて見せる自信がある。


生きていく、たった、二人で生きるだけなら、出来る自信がある、この街にきてから、私は大きく成長した、医療の知識もある、闘う技術もある、術式の技術も知恵もある、料理は焼けば何とかなる、だから、姫ちゃんは…私に託したのだろう。でも…だけど…考えている今この瞬間も…


可愛い愛しの息子と過ごした日々がずっと浮かび続けている…


っふ、おかしな話ね、考える迄も無いじゃない、どちらの方が選択肢として正しいのか、そんなの…決まっている。



娘を助けるに決まってるでしょ!!



私の思考を乱そうとしても、この信念は揺るがないわよ!!私はね!欲張りなの!両方を諦めるわけないでしょ!

まだ、まだ!最善を尽くしきっていない!それだけじゃない!!


もう一人の私の…私達の娘は諦めていない!貴女は、愛する人が残した子供を信用できないの?自分が産んでいない…腹を痛めていない子は子供だと認めないの?血のつながった、貴女の唯一の肉親何てどうでもいいと思っているの?そうだというのなら、私は貴女を永遠に軽蔑するわよ?


今だって、この瞬間だって!!姉を助けるために、命を…まって…あのうねりは…そう みたことが ある いのちを もやそうと している?


後輩の…団長の…愛する騎士様が…残した…娘の背中が…重なってみえる、あの時の、あのときの、忘れることが出来ない、あの瞬間とだぶってみえる。

予兆、あれは、予兆、命を捨てる覚悟を決めた人の…見える、立ち上ろうとしている、魔力の柱が、命の本流が彼女の背中から登ろうとしている…!!


私の意識が逸れた瞬間を見計らったように事態が進展している!!


アナタ!気が付いていたでしょ?時間稼ぎしようとしたわね?冷静に…冷静に!!命を天秤にかけたな!!人類が生き残る未来、その可能性が一番高いのはどれか!誰が犠牲になるべきか!!!貴女ってひとは!!!

直ぐ近くに置いてある緊急事態を知らせるブザーが鳴る魔道具を叩きつけるように力いっぱい押す


ブザーが外に鳴ると直ぐに、医療班全員が部屋の中に入ってくる、いつ呼ばれても良いようにドアの前で待機していたのだろう、入ってきたメンバーも医療班の中で長年活躍していた人達ばかり

「団長に全力で魔力を注いで!!魔力操作を扱えれる人は全員!!戦士だろうが!騎士だろうが!研究員だろうが!全員よ!!!」

大声で全員に指示をだす、医療班の中で普段から姫ちゃんに魔力を注いでいる人達は躊躇うことなく持てる魔力全てを団長へと注ぎ始める。

何年も魔力操作をしてきた人達は魔量譲渡法が上手い、問題は無いわね。

魔力操作が苦手な…先輩は急いで外へと駆け出して行った、恐らく、魔力操作が出来る人を連れてくるために走っていったのだろう。

今にして思えば、あの人が毎朝ジョギングをしているのは、健康の為ではなく、いつでもどこでも動けるように日々、鍛え続けていたのだろう。

彼をストイックに動かし続けてのは、きっと、月の裏側へ逝ってしまった友に託されたから…あの人には一生頭が上がる気がしないわね。


後顧の憂いはない、なら、私がするべきことは一つ!

団長に、命を投げ捨てるなと伝える!!魔力が必要なら、私達を頼れと激を飛ばしに行く!!たるんだ後輩に喝を入れるのも!年長者の役目よ!


足元から囁く様に淡く輝いている陣…私達を繋ぐ命綱。

目を閉じて意識を向ける、どんな事態になろうとも、今もなお、ずっと私と団長を繋いでいる陣…繋がった感覚を、さらに、深く繋げる!!

セーフティ機能が作動している今の状態だと深く繋げた際に、連動して団長の意識を自身の肉体へと引っ張り上げることはしてはいけない!

そうならないように注意しながらも、私の意識を奥深く、団長が居る場所まで潜らないといけない…


理屈ではわかっていても、理性がお前では無理だと語り掛けてくる。

私では、才のない私では、到達できるとは思えれない域に行かないといけない。

弱気になろうとする心が私の足を引っ張ろうとしてくる…貴女って人は…弱い心に引っ張られない様に我を強く保つ!絶対に助けるという心の強さを保つ!!

どうにかして、私も一瞬だけでいい!一瞬だけでいいから、だんちょうが…


愛する娘がいる領域まで潜る!!どうにかして、団長の足跡をたどって彼女の下へ!!お願い!いいや、違うわね!誰に何を願うっての!やってみせるわよ!!

一瞬でも良いの!彼女に一声、一声かけないと!!修羅場の数だけなら誰よりも潜っている!!根性見せな!ってわけよね!!


覚悟をお腹の奥深くに根付かせ、飛び込む。


時間なんて無い、悠長なことは言ってられない、最速で深く潜っていく…自己最速だと感じるほどに深く潜っていく、視界がちらつく、視界が暗くなったり明るくなったりするし、歪んだり、まわったり、何処が上で何処が下で、どっちが前かわからなくなってくる。

自我の境界線が揺らぐ・・・光が弾けて、まざって、流れていく…無我夢中で僅かに感じる繋がりだけを頼りに進んでいく、前後不覚に陥ろうがこれさえ、あれば…あれ、ば…


とつじょ、かんかくが うすく なる

恐らく、私が潜れる限界付近まで潜ったのだろう…感覚が、潜った先の感覚が無くなっていく。視界からの情報が得られない。


みえない、さきが、みえない…だめだ、命綱の感覚も感じなくなってきている、今自分がどの方向に向かって潜っていたのか、方向を見失っている気がして、自分を信じることが出来ない。


立ち止まり、感覚を鋭く、命綱を探す様に手を伸ばすが…自分の手が何処にあるのかもわからなくなってきている。

私では、この先へ向かう術が、わからない…視界が徐々に黒に染まっていく…このままだと、意識が途絶えるか、強引に本体へと戻るしか…


もともと、術式ってやつは、教わったやつしか、扱えれなかった…

わたしは かこに いちども、そこまで あなたちの りょういきに たどりつけていない…


わたしじゃ、だめ、わたしじゃ…届かない、この先へと繋げる方法が思いつかない!!


焦りからか、目を開けようとすると肉体の方の目が開き、見えてしまう。視界から映し出される情報が刻一刻と変化しようとしているのが見えた…命の流れが、大きな流れが生まれようとしているのが、止めないと!!アレに慈悲は無い!!願いの代償は命!!発動したら最後!!猶予が無い…


肉体からの情報をカットするために、何とか目を瞑り、意識を、団長が通っていった足跡を辿るために、細くなっていく彼女の足跡を探し、私の意識とリンクさせるように繋がないといけない。いけないのだが…届きそうで届かない、見つけれそうで見つけれない!!貴女は…あなたは どこに いるの?どうやって このおくへ 潜ったの?


焦りが、心を押しつぶそうとする、焦りが、不安となる、焦りからか、思い描く理想の未来を闇の中へと吸い込まれて消えていくように感じてしまう

脳裏に思い浮かぶのは、愛する娘たちの笑顔、あの二人が揃い、仲睦まじく過ごした日々、影ながら見守り続けてきた愛する二人…



わたしは うしなうの? わたしは また うしなうの?

不安に駆られパニックへと、ありとあらゆる感情が渦巻き、トラウマが巣くう混沌へと沈みそうになる


あと一歩で、トラウマに全てが食いちぎられ、心が折れそうになる。

その瞬間、諦めるなと、背中を叩かれた気がした、肌身離さず持っていた形見のネックレスを握りしめる様に祈りを捧げ心を強く持つ


諦めるわけにはいかないの!!お願い、繋がって、繋げて!

意識を声を!深く深く、潜ってしまった、愛する娘に!!お願い…とどいて…きしさま…おねがい、私を貴方の愛する娘に、届かせて…


祈りの影響か、視界が一瞬だけ開けた、心を強く持てば、まだ、先が見えるのだと、希望が見えた…だが…


いくら、気合を入れようが、心を奮起させようが、視界が徐々に…徐々に道が閉ざされていくように暗く、くらく、きえようとしていく

才のない私では届かない領域…研鑽を積んできた、練習も幾度となくしてきた、愛する娘達ともに努力はし続けてきた、けれども…その神域に迄、私は一度も踏み入れたことが無い。


私は、しょせん…才のないモノ…持たざる者…失うだけが…私の人生だって言うの?

伸ばした手は何も掴むことなく、ただよい、手の輪郭が消えようとしている…もう、もたない…私では…


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