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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ (22)

「…あと少しで終わっても良い、かな?どうだろう?」

培養液から取り出した臓物、これをみるともう、すべての条件を満たしていると考えてもいいだろう。

なぜなら、完全に機能していたからだ、1号から取り出したこの贓物。

かなりの長い期間、培養液の中ではあるが、問題なく機能していた。精製時間もかなり早い、残滓が求めているレベル…

ってことは…次の段階に行くべきだろう。


人体実験だ…


ずっとデータを取ってきたからこそ、見届けてきたからこそ、自信は…ある!ある…ある、けれど…人体実験の過程を考えると、足が竦む。

問題はない、理論上は問題ない、なら…誰を?誰で?どうやって…実験するかって事…


…考える迄も無い、自分を使う。


それが、最も効率が良い、それがわかっているから…培養液五号に浮かんでいる臓器を見る、培養速度を一番速めたタイプ…精製は終えている、つまり、今、するしかないよね。


試験管に手を触れながら膝が折れ、地面に崩れ落ちてしまう。過程を考えてしまったからだ…

冷たい床、誰もいない部屋、試験管に頭をつけ、冷たい試験管によって頭が冷やされていくような感じがする。


効率を求めた魔女はだぁれ?わ・た・し…なら、悩む必要なんて無い。

心を虚無へと導き、過程を箇条書きにしてただ、それを遂行する為だけの人形へと精神を振り切る。


ペタペタと歩き、向かうは水槽。

浸透水式の水槽に私の下半身が浸かる程度に液体を貯める。液体の中に五号から取り出した贓物をゆっくりと入れる。


さぁ、料理でもするかぁ~おっと、いけな~い。その前に時刻の確認、誰かが入ってきたら確実に止められる咎められる~、なんつってね…精神が乱れやすい、心の変化がおかしい、まだ、心を殺しきれていない…


冷静になる為にも、時計を確認する、ご都合よく深夜…目を閉じて、自分が如何に効率的に生きてきたのかわかる。

その時間だってわかってて行動しているんだけどね…逃げる隙間なんて元からない、自分で、自分を追い込んだのだから。


時計から視線を下げる、心の奥底で何かスイッチが入った感じがする。ううん、スイッチをいれた…時期始まる。

水槽の向こうに今からするねっと声を掛ける。首を横に振られる、頷いてくれない。

服を脱ぎすて、冷たい液体に浸かる、うひゃぁちべたいぃなぁもう…この冷たさで一気に全ての意識が目が覚める、集中力を高めるにはちょうどいい。


魔力を産み出す。痛みが伴う。キニシナイ、きにしない、気にしない!!スイッチを入れた時にこうなるのはわかっていた!!!麻酔なんて効かない!!

身が裂けるような痛みは体からなのか、心からなのかわからない。


痛みを無視して浸透水式に意識を落とす。

水の中から見える、私自身を見るのは鏡を見るのとは違って不思議な感覚。


ぼんやりと自分自身を眺めていたって仕方がない…

…長い時間をかけるわけにはいかない、さぁ、命がけの人体実験を開始!!精神を高めろ!心を保て!自我を見失うな!己の行いに悔いなかれ!!!


浸透水式を開始する!!








「ぁ、っは…ぅ、おえ…」

ばしゃぁっと胃の中にあるもの全てを吐き出しながら這い出る様に水槽から体をだそうとするのだが、力が入らないので念動力で体を浮かし、そのまま、念動力で体を動かしお湯に浸したタオルで体を拭いていく。


浸透水式は成功した。

問題は、どの程度…五号から取り出した臓器が稼働するかだ…


月に一度、強制的に結果を教えてくれるから、わかりやすいよね…へへ…きもちがわるい…


ギリギリの状態で意識を保ち、何とか、服を着て何時ものお母さん達が用意してくれた椅子のようなベッドに座る様にして眠りにつく。少しでも体力を回復しないといけないからね…



吐き気が、押し寄せてくるのを感じながら…意識を落としていく…その吐き気は…疲労から?浸透水式で疲れたから?酔ったから?…失った臓器から?

胃液なのか、涙なのか、もう、よくわからない液体が腕に落ちてくるのを感じながら…夢の中へと落ちていく…








「何か食べたい物とか、して欲しい事とか、会いたい人とかいる?」

髪の毛を梳かれながら優しい声が後ろから聞こえてくる。

「食欲は無い、でも、お酒は飲みたいかも?」

「お酒はダメよ、もう少し、体力をつけてからにしなさい」

ちぇ~…もう長い事、飲んでいないから味忘れちゃったな~

「して欲しい事は、お母さんがしてくれるから…いい」

本当は術式の実験がしたい!魔力が無限ってわけじゃないけれど、無尽蔵にあるから使いたい!!…んだけど、過去に研究結果を送る為には魔力を残さないといけないから。

始祖様の術を研究することはできない。私の体は、私の夢を追うことが許されない程に…脆い…

「そう、言ってくれるのは嬉しいわよ?でもね、遠慮しないでね?」

きゅっと後ろから抱きしめられてしまう、暖かい、お母さんは何時だって暖かいん、だけど…腕が震えている…震えている腕に優しく触れる、慈しむ様に…ううん、違う、懺悔の心だ、これは…

「ありがとう、ごめんね。お母さんに悲しい想いばっかりさせちゃって、いう事きかない悪い子で…ごめんね」

返事は返ってこない、擦れるような音しか聞こえない。お母さんの心は、たぶん…愛する人を失うのは、どんな時だろうと…辛い。一度、心が砕け裂かれそうな想いをしているお母さんは、たぶん、次は耐えられない…何か、支えが必要だろう…なら、私がもしも、死ななければいけない結末になるのであれば…彼女の心を支える何かが必要だろう。


それが、最悪の…今回の実験で得た最悪の…”     ”を誘う為の手を使わないといけない結末を辿ったときに備え、何かしてあげるべきだ。

それが…私が貴女に出来る…最後の親孝行に、なるだろうから。愛してますお母さん…


今回で得られるものは本当に多かった、犠牲になってよかったと思えるようになった気がする。

それにね、地下から出れなくなってからも、私は満たされ続けているよ?だって…会いたい人は何時だって、会いに来てくれるから、だから、私は…犠牲になってもいい、良かったって思えれちゃう。


私は…満たされている。


細くなってしまったお互いの体を抱きしめあって、お互いを想い続ける。

それだけでいい、それだけで…いい…私の未来はもうない、悔いはある、でも、それも、もういい。




終わりが近い

終わってもいい時が近い






すんすんっと鼻を鳴らしながらずっと私の膝から顔を離さない…

時間的な余裕があるからいいんだけれどさ…何があったんだろう?知ってる?首を横に振る、頷いてくれない。

「わだじ…もう、嫌です。無理でずぅ…びめざまぁ、まだ、研究終わらないんですかぁ?」

膝が解放されて見えた彼女の顔…酷さと言ったら…形容しがたい、しがたすぎる。私が知る言葉では表現できない程に…


憔悴しきっている。

嗚呼、心が病み切って、自死を迎えようとする人はこういう顔をするのだろう…


目の下には大きなクマ、眠ることが出来ないのだろう、重圧に耐えきれなくなったか。

それとも…日々状況が悪化していく、けれでも彼女は責任感が強い、だからこそ、打開する方法を探したのだろう。

だが、足搔き藻搔き苦しみぬいても、解決の糸口がつかめずにいた、そして、彼女は行きついてしまったのだろう考えてはいけない答えに。


その一端が自分にあるんじゃないかってね…


そうなると、考えられるのが、足元を見られやすい状況、功を焦ってしまったりとか?

小賢しい貴族共であればメイドちゃんの心くらい徐々に掌握することなんて可能ってわけ?っは…次はお前たちを同じ目に合わせてやらないとな。


可愛そうに…頬もこけてしまって…

前は…まえ?まえって、いつ?私の記憶に残っているメイドちゃんの顔は天真爛漫で可愛らしい笑顔でちょっと悪戯心のある可愛らしいイメージだ。

それから、もう、何日?何週間?経過したのだろうか?私は…彼女とどれくらい会ってなかったんだっけ?日にちの感覚がもう私には無いから、わからない。


泣き止まない彼女の頭を撫でるが…撫でる髪の毛もサラサラしていない、ケアする余裕も無いの?それとも…ケアする商品を手に入れるお金が無いの?

涙の奥に見える瞳に光が無い…眉間の皺がとれないほどにこびりついている…嗚呼、よく見ると、暗い地下室でもわかってしまう程に肌が荒れているし、張りも無い。

あの頃の彼女とは違う過ぎる、私が…彼女の心を壊した、彼女を不幸にした…してしまったんだ。


彼女が求めている答えは知っている…

もうじき、研究が終わる…それを言えば彼女の心は、救われるだろう…だろうけれど…私はその先に何があるのか知っている。


伝えて問題はない、嘘では無いから。

懸念していた一つの研究データも取れた…月に一度のアレがこなかった…危惧していたことは正解だった。

あと一つ、人体実験をして、それから、半年…経過すればもう、終わっても良い。おわっても いい おわ って も いい

なら、最後の最後くらい、彼女には笑顔になってほしい…おわるせかいでも あなたは ちいさく ほほえんで いて ほしい


彼女を不幸にした、彼女の笑顔を壊した、なのに、私は、彼女の笑顔が見たい、あの頃のような綺麗で可愛らしい笑顔を見たいというエゴが、顔を出してくる…


「あのね、あと、半年くらいでね、研究の目処がつくの」

終わってもいいっという言葉を出そうとしたら喉がひっかかって、声がでなかった

「ぇ!ほ、本当ですか!?」

ポロポロと涙が溢れ出ていた涙がより大粒の涙へと変わり流れていく、冷たい涙に少しだけ、熱がこもったように感じる。

瞳に少しだけ光が宿っている様に感じる。これで、半年くらい、持ってくれると嬉しいかな…


私の言葉がよほどうれしいのか

あは、あははっと壊れたおもちゃみたいに、笑い続けている…外はかなりひどい状況なのかもしれない。

笑っていたと思ったら抱き着かれお腹に顔を押し付けられてしまう。子宮に帰りたいのかな?かえりたいんだろうなぁ…だけど…


頭に浮かんだ言葉を忘れる様に、抱き着いてくる小さな子供の頭を撫でてあげる


この子は弱い…今回で分かった、この子は…判断能力が高すぎる、故に決断が出来ない。

1の選択肢を取れば、何かが無くなる。2の選択肢を選べば、1から反感を買う、3の選択肢を選ぶしか無かったら、4が不幸になる、4を選べば…全てを敵にする。

全てが不幸が無く、全てから不満が無く、全てから喝さいを浴びる。そんな選択肢を選ぼうとしたのだろう…だが、それが出来ない状況が長い事、続いたのだろう。

その結果、失ってきた数々の幸福を見て、心が耐え切れなかったのだろう…貴族が持ちかける取引なんてそんなもの、あいつ等の根底にこびりついた悪臭は取れない。


良い人達もいるんだけどなぁ、メイドちゃんから聞いた話だと良い人達も性根が腐ってしまったのかな?

人の心は何処でどう変わるかわからない、その殆どが切羽詰まったときが多い…外の情勢が悪くなったのだと考えるのが一番だろう。


外…外の守りと言えば、思い当たる人物は一人。あれから…カジカさんを見たのは何時だろう?いつ以来、会っていないんだろう?

そうだよね、彼がここに顔を見せないのが…その証拠だよね…


わかってる、冷静に考えればわかっている、わかっていた、わかっていても…

私は、外に出るつもりはない。もう、終わっても良いけれども、まだ終わっていない。最後まで、やり遂げないと意味がない。


お腹の前にあるやつれた子供の頭を撫で落ち着かせよう、私の犠牲に彼女も付き合わせてしまった。彼女がこうなってしまったのは私の采配が悪かったからだ。

ただただ、彼女の小さな鳴き声が聞こえてくる地下室で彼女の頭を撫で続ける。世界はまだ、頑張れそう?頷いてくれない。

「…気のせいですよね?」

お腹に声が響く

「…きっと、気のせいですよね?」

震えるような声が聞こえる

「冷たい…」

うん、だってもう…機能しないから取り出したからね…熱源は一つ、消えたよ…


世界から隔絶された姉妹は、ただただ、お互いを抱きしめあった。

次の世界は、きっと、心の弱い妹を守って見せると、ぽっかりと空いてしまったお腹に次は絶対に守ろうという決意を満たしていく…




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