Dead End ユUキ・サクラ (14)
ノイズを地平の彼方に置き去りにして加速し続け、演算が終わり、次へのアプローチ方法が見えたので加速から抜け出る。
抜け出た反動、その全てを潤沢な魔力によってカバーされる…だがノイズが追い付くと同時に数の暴力で私を殴りつけてくる
大勢のノイズが脳内を駆け巡る、思考超加速よりも脳への負担が強いのか頭が痛くなる。
その痛みにつられて背中が痛くなる、表面の方じゃ無くて中の方…何処かの内臓に負荷がかかっているのかもしれない。
精密検査なんて上等なものはこの世界にないからね、CTとかMRIとか作ってみたいよ。っま、前提がむりげーなんだけどね、コンピューターってのが前提で必要みたいだけど、そんな技術を確立するには私が何世代いるんだってのー。
足を動かす為に念動力で足を持ち上げ足を支え歩く。
思考超加速の影響なのか身体の制御が難しい時がある、感覚のズレってやつかな?
まぁ今後、この思考超加速を乱用するようなことはないだろうから、私の経験を次の私にフィードバックする必要ないから、いいけどね。
慣れた手つきっていうのもおかしいけれど、念動力を使って冷蔵庫を開けて飲み物をとりだ…さなくてもいいみたい。
「これが、取りたかった、でいいのかな?」
お仕事上がりなのか、ほのかに汗が滲んでいる勇気くんが冷蔵庫に入れてある飲み物を取り出してくれる。
軽快にお礼を言い蓋を開けて飲む、あー!冷たいジュースうっま!最高過ぎる!!
…味、あんまりわかんないけどね。ただ単純に火照った体に冷たい液体が流れたのが心地よいだけなんだけどね。
「俺も一ついただくぞ」
此方が何も言う間も無く勝手に開けて勝手に飲み始める、お父さんってやつは、娘の物は自分の物って思ってない?まぁいいけどさ。
「はー…本当、全てにおいて時代の変化に驚かされるなぁ」
ジュースを喉の奥に流し込んだと思ったらすぐに表情がかわる。
その驚いた表情が何を意味するのか気になるので、昔と今だと何が違うのか色々と話を聞いてみる。
どうやら、この前、カジカさんに誘われて女将のお店に食べに行ったときに出てきた料理が過去の王族でも食べれない程に豪華で、用意されたお酒も全てが一流を名乗ってもよいほどに洗練されているし、何よりも冷えた飲み物があることが贅沢過ぎるっか~。氷室とか当時なかったのだろうか?ん~…そもそも氷が手に入らないか。
お肉は手に入ったんじゃないの?
「猟が上手い事いけばな、乳牛は大してうまくない、俺達貴族は食べない、食べるのは産まれて少し育った雄の子供だけだ」
…それは語弊じゃない?乳牛は美味しいよ?
「最低でも、昔の王都では乳牛は…確か、三回は子を産んでもらうだったかな?その後は、ある程度余生を楽しんでもらってから食べるから、最も美味しいと感じる時を過ぎていて肉の質が落ちているんじゃないか?」
あ、なるほど。年齢とか、育てている環境かな?王族の癖によく知ってるじゃん。
「王都では、そういった産業が主流だったからな、管理するためにも下々が何をしているのか知る必要があったからな、王都で暮らす様になってから魚を食べる機会が大きく減って辛かった思い出がある」
お魚かー…正直に言えば骨とかどけるの面倒だから、食べるのなー、腸とか苦いし、ん~…育った環境の違いかな?実家の方で良く出てきたけれど、私は好きじゃ無かったかなー。食べれることは食べれるよ?ただ、好んで食べないってだけ。
「今の時代は素晴らしい、ユキの瞳から見える世界は何時だって輝いていてみえる。人々が手を取り合って助け合う、憎しみの連鎖が一つも無い。全員が明日を生きることを望み、全員が明日を目指して歩み寄っている」
そうなるように、幼き頃の私が頑張ったんだから、当然じゃない?
「教会の教えも素晴ら…しいのだろうな、色々と俺が知る教えとは変わってしまっていたが、人々が成長する過程で教えも変わっていったのだろう、そういう部分は致し方ないと思う、だが、それよりも、教会の姿勢、教会に訪れる人達の柔らかい笑顔…あれこそが、俺らが求めた平和そのものだったよ」
生活苦が大きく改善された今、教会の炊き出しなどはしなくてもいいんだけど、昔からの風習で今も続けているし…何よりも司祭が少しでも愛する人に振り向いて欲しいから献身的に活動しているってのが大きいんじゃない?っは、内情を知っていると打算的過ぎて笑えるよね。
「だからだ…」
俯いて、どうしたの?そんな暗い表情をしてさ?
「俺が、この世界にいる理由が分からなかったんだ」
嗚呼、そっか…世界の秩序が乱れていて、今もなお戦乱の世の中だったら、それを正す為に受け継ぐべき心を思い出せるために神から与えられた過ぎ去りし時間って考えれたのに、そういうわけでもなかった。
勇気くんからすれば、自分の存在意義が見いだせなかったんだね。
「ユキの父上が死んでしまったという訃報が入ったときに、悟ったよ、俺は人ではない何かと闘わなければいけないのだろうと」
「怖くなった?」
人との闘いであれば、経験差がものをいう、負けるつもりはなかったんじゃないかな?でも、ノウハウがない獣だと
「いや、まったく、寧ろ…父上の訃報が届いた時に…笑ってはいけないが笑ってしまった…下に見てしまったよ」
…それは人としてどうなのだろうかって思ってしまいそうだけれど、勇気くんが生きた時代から考えれば、致し方ないのかも
「俺の知る獣っというのが大きな角がある鹿、草むらに隠れている兎、畑の野菜を狙う鼠、農家の羊や鶏を狙う犬…その程度だと思っていた、大袈裟な防衛砦を築いて、何がしたいんだかって思っていた…」
生きた時代に白き獣はいなかったのだろうね
「いや、いないことはいないぞ?鶏なんて白いのが殆どだし、北の…そうだな、ここだな、此方の方には白い兎が居ると言われいるし、大きな白い熊が時折姿を見せることがあるっと聞いたことがある…純粋に俺が知らないだけなのかもしれないな」
天然の生きる為に…カモフラージュの為に白を選択した純粋な獣じゃなくて、ここにいる食べられない獣だよ
「…わからない、俺はそういった記憶を持ち合わせていない」
”貴方を殺したのは白き獣の軍勢なのに?”
っどわ!?いきなり残滓が声を荒げるなっての、しっしっ、ったく…
「…昔から不思議な感覚が繋がる時があった、ユキが幼い時から、俺は、それが神か何かだと思っていた…だが、時が経つにつれ神がユキに与える影響が人として間違っていると感じるようになってきた、一度だけその感覚を辿った、その時に…だから、俺は、それらを弾く方法が無いか模索し…大昔に、俺に教えてくれた方法を使ってきたのだが…この大地に来て直ぐに悟ったよ…神では無いとね」
残滓の思念を押し込んでいる間、何か、勇気くんが呟いていたような気がするけれど、聞こえなかった。
神妙な顔つきだけど、うん、あまり触れてはいけないような気がするので、ここは話題を変えるべきだろう。
「ん?なんだ?…本?また、解剖学っというやつか?」
違う違うっと手を振り中身を見せてみる
「魔導書の類か!」
んお?想定外な食いつき?
あれかな?男たるもの力を求めよってやつ?中二病だねぇ…にしし
「おおお!初めて見たぞ!!こういうのは閲覧を許されなかったからな~」
…?どうして?王族でしょ?
「ぁ、生前のころは呼んだ記憶が朧気であるぞ?内容は一切覚えていないが、ユキと共存するようになってからだな」
ん!なるほど!それはそう!平民が手を出す必要が無い品物だからね!…閲覧を許されなかった?どういうこと?
「ユキのお爺様がそういった本を所持していてな、ユキが読もうとしたみたいだが、貴重な本だからダメだと言われてしまっていたのだよ」
なんだ、教会の奥にある本をこっそり持ち出そうとしたとかそういうのじゃないのか、残念。
司祭様って管理がズボラだから、貴重な本をいくつか紛失しているって言ってたから、ちょっと期待しちゃったよ。
「何歳のころだったか?忘れてしまったな…もしかしたら魔導書ではなく奥義書の類かもしれないがな」
あの家だったら貴重な本はありそうだよね、いつか、探索しきってみたいもんだよね。
「これは読んでもいいのか?」
勿論!私が研究したかった資料だけど、時間が無かったんだ!興味があるのなら是非とも読んで研究して欲しい!
「応!任されよ!」
凄い笑顔で受け取ってくれるのは良いんだけど、ちょっと勘違いをしてそうなので釘を刺そう
「え?ぇ?持って帰ってはいけないのか?ここでのみ閲覧を許可するっというわけか?…」
納得できないって顔だね。うんうん、わかるよ!読みたい本をお預けされるのっていやだよね?ちゃんと理由があるんだよ?危ないんだもん。
「危険な内容だからか…下手に発動させて暴発すれば危険極まりないっか、なるほど、それもそうだな、わかった、共同研究っというやつだな!」
うんうん!ガチで暴発すると危ない内容だからね?絶対に発動するときは声かけてね?
「ああ!わかった!すまないが作業は一時中断して…メイド、さん・・・だったかな?」
ソファーを見て座る場所が無いと直ぐに判断する辺り、賢いね。何食わぬ顔でメイドちゃんが寝ているソファーに腰かけたら飛び蹴りしてたよ?
「…まぁ立って読むのも良しだな」
良しじゃない、ほらこっちおいで
手招きしながら勇気くんを連れて行き、私が普段、食事をとったり書類を書いたりしている机の前に置いてある椅子に座るように手招きをする
んだけど、なんで、悲しそうな顔をするのだろうか?私の椅子に座るの嫌なの?
「すまない、つい、背中の物が目に留まってしまってな…」
憂いてくれたんだね、優しいな勇気くんは…そんな申し訳なさそうな顔をしないでよ、ちょっと胸が締め付けられちゃうじゃん。生贄になるのは
私自身が選んだ道だから、勇気くんにも手伝ってもらったけれど、責任を感じる必要は無いんだけどね…
うん、ここはひとつ!小粋なギャグでもかまして場を和ませるか!
背筋を丸めて、やや前傾姿勢になって両手をやや前に!
「エヴァーンゲーリヲーン」
がおーっと声を出しながら両手を上に持ち上げて威嚇するようなポーズを取るとははっと笑ってくれる
「言葉の意味は分からないが、楽しそうでなりよりだ…すまないな」
威嚇するポーズのままでいるとそっと、頭を撫でられる…申し訳なさそうな微笑みが逆に胸に響くって、たくよー…その父性に甘えたくなるだろーっての。
それに、たしかこの言葉って福音って意味が含まれているじゃなかったっけ?まぁいいや
両手を下ろして、何かあれば声を掛けてっと手を振って離れ、私も研究を再開する。
集中し過ぎたからか、意識を現実に戻すのに時間を要してしまった。
ぼやける視界に、ふわっとする思考、魔力は足りていても栄養が足りていないのだと直ぐに判断し、魔力を使って点滴パックを引き寄せ点滴をセットし、手の甲に流れている血管に針を突き刺し点滴の中身を流し込む。
ぼやける視界が正常に戻るまで、専用の起座位で寝れる椅子に座って体を休ませる。
効率を重視した結果、体を蔑にし過ぎた、これはよくない、次からは気を付けてしっかりと栄養だけは体に流そう。
目を瞑ると、ノイズが一斉に話しかけてくる…うざいなぁもう、残滓たちはなにしてるんだ?…ぁ、そうか、さっき抑え込んだから出てこれてないのかな?
もう出てきてもいいから、ノイズを軽減してよー?…ぁ、反応が無い、魔力を使い過ぎたかも?仕方がない。ノイズでも眺めながら魔力が体になじむまでじっとしようかなぁ…
はぁ、うっとおしい。
ノイズの声に耳を傾けると頭が痛くなるので、はいはい、そうですね、あーそうですねーっと相槌を打ちながら適当に点滴が全身をめぐるまで浸透するのを待ち続ける。
…ノイズの声が止まる?…魔力が体に満ちたからだろうか?まぁいいや。
立ち上がって地下室をみわたすと、勇気くんもメイドちゃんもいない。
帰る時さー一声かけてくれてもいいのにって、ちょっともやっとした残念な気持ちが湧き上がる。
頬を膨らませながら勇気くんが座っていた椅子に座ると、椅子は冷たくなっていた。
っとなると、結構前に帰ったんだな。
机の上に置かれている本の間に紙が挟まっているのでなんだろうと、本を開いて紙を見てみると
紙は白紙だった、ドッグイヤーの類だろう、貴重な本を曲げるなんて愚かなことはしないあたり、やっぱり育ちが良いのだと痛感する。
何のページが気になっていのか読んでみる…ぁーなるほどね、やっぱり男の子だねー!好きだよね!こういうの!
まぁ、私も胸躍る内容だけど、私が発動させてもなぁって感じで再現しようと思わなかったんだよね
『槍の構築』
そう、神槍と比喩されるほどに凄まじかった始祖様が使っていた槍。
実はあれって、始祖様が生み出した得物なんだよ。
何処かの星でしか取れない希少な材質とか一切なし!触媒は自分の体。理想は髪の毛。
自身の体の一部を触媒として幾年も幾年も魔力を触媒に押し込めていき、槍として顕現させる術式。
始祖様は天空…大空のその先に迄、届かせたんだよね…この槍を…
投げる力だけでは絶対に敵に届くわけがない、きっと、槍そのものが何かしらの術が付与されていたんだろう。
現に、この槍をつかった戦術術式も記載されているから、たぶん、そうなんだと思う。
惜しむらくは、投げた後は返ってこないってことかな…天空のその先へと投げられた槍は…未だ、空を彷徨っているのだろう。
”そう、私達がいなければね”
…うん、寵愛の加護…それの大元は天空のその先へと投擲された始祖様が愛用していた槍、それが加護となって私達を見守ってくれている。
もし、私達に加護を与えられていなかったら今も、天空のその先を漂って、観察することが出来たんだと思う。
観察できるという事は入手することが出来るという事、その槍を触媒にして何かしらの儀式へと転用することも可能だったんじゃないかなって思う。
っま、私達がその技術を確立する前にさ、絶対、敵が先に槍を奪取されている可能性の方が高いから、加護にしてもらってよかったと心底思ってるけどね!
この槍を勇気くんが持てたら、持つことが出来るとすれば…まさに始祖様の再来になるんだろうね。
槍を持った始祖様に激似の人物…ぁ、これだめだ、王族ともめるわ、一瞬即発だ、教会としてもメシアとして祀り上げちまう。
なるべく、人前でこの術式を発動しないように勇気くんに教えとかないといけないね。
本を閉じて、飲み物を取りに椅子から立ち上がるとソファーに白い物が置かれているのが見えたので何が置かれているのか、引き寄せてみる…
【メイドが起きないので、連れて帰る】
…ほほぅ?どうやって?
残滓共が一斉に声を荒げる…私もこればっかりはちょっとメラっとした何かが沸き上がったよ?
次来たら絶対に問い詰めてやろう…うん、そうしよう…
湧き上がるどす黒い感情を鎮火させるために冷蔵庫にあるジュースを引き寄せて蓋を開けて一気に胃の中に流し込むが…鎮火されることは無かった。




