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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ (13)

うとうと、と…少し舟をこいでしまっていた?ううん、少し寝てたみたい。

気が付くとカジカさんと勇気くんっという珍しい組み合わせの二人が研究所の片付けをしてくれているのが見えた。


声を掛けようかと、様子を伺っていると、意外と?二人は冗談を言い交えながら仲良く片づけをしていた。

この間に割って入るのは無粋ってやつ、かな?このまま、ぼんやりと眺めているのが良いよね。

『そうだよ~姫様は二人の会話に混ざらない方がいいよ!男ってやつはーって、なるよ?まったく』

あ、こんばんは、ユキさん

『うん!こんばんは!姫様!』

二人の会話に混ざらない方がいいって、やっぱり、その手の話題?

『そー!男ってそんな話題ばっかり!』

仕方がないんじゃないかなー。ほら?カジカさんってユキさんのお父さんの自称一番弟子だからさ、そういう会話が出来るのが嬉しいんだよ

『他にも話題あるんじゃないのかなぁって』

仕方がないんじゃないかなー。ほ、ほら?カジカさんって、博識じゃないからさ

『…ぁ、隊長って貴族じゃないの?』

正確には貴族だよ、でも、婿入り、だったかな?らしいよ。私もカジカさんとそういう話題あんまりしないから、経歴忘れちゃうんだよね。

本人も自分の昔の事、基本的に語らないからね…確か、平民出身だよ

『そうなんだ、口調からてっきり』

うん、奥様の為に変わろうと努力してるんじゃないかな?



それにしても、この会話方法、自由に使えれるようになったの?

『ううん、今も片づけをしながら隊長と会話しつつ、私と姫様の…なんて言ってたっけ?パス?を繋げてくれているんだって』

うわぁ、凄いな。よく三つも同時の事が出来るよね?

『だよねぇ、いつか、私もそれくらい同時に色んなことが出来るように成れたらいいなぁって尊敬しちゃう』

そうだね、ユキさんなら、出来るよ。

『…うん』


何も無い、何も始まらない、ただの世間話

これだけだっていうのに、私の心は何か満たされるような感じがする。

求めていたものがこれだったのかと、胸の奥が締め付けられるように感じてしまう。


涙を見せるわけにはいかない、こんな時に涙を見せると変に心配されてしまう


『そういえばさ』

なんだろう?

『姫様って雰囲気変わった?』

ん?それはどういう意味かな?

『もっと意地悪なイメージだったから、今日はそういう気分なの?』

うん!ユキさんはノンデリカシーだよね?人の気持ち理解できないタイプでしょ?

『っだ!?意地悪のままだった!違いますー!皆から気が利く子だねって言われて育ったから違いますー!』

それって、単純に作業を手伝って手伝って、慣れてきたから手順を覚えたから先回りしただけって、やつでしょ?

『…ん?ぇ、気が利くって人の気持ちが分かっているからってことじゃないの?』

ぁ、ごめん、何でもない。ユキさんはそのままでいいよ?そのまま、誰かの為に頑張ってね♪

『なーんか、トゲを感じる?馬鹿にしてない?』

してないしてない。ユキさんはユキさんのままでいいんだよ。


その方が、からかいやすいから。


『む、最後の部分、聞き取れなかった?』

気にしなくてもいいんじゃない?そのままでいいよって言っただけだし?

『んー、そっか、なら、いいのかな?』

うんうん…流されやすい子だ、純粋なんだろうなぁ、悪い人に捕まらないようにしてあげないとね…

もし、何処かの世界軸で彼女が政治に巻き込まれそうになったら、守ってあげないとなぁ…

ゆきさんって、なんか、うん…妹みたいに感じるんだよなぁ…ぁぁ、そっか…


私がお母さんの娘だとしたら…ユキさんはぁ、義理の妹ってことじゃん、そう、だよね。そうなる…よね。お姉ちゃんとしてまもってあげ、ないとなぁ…


そんな事を考えていると、眠くなってきてしまって気が付けば眠ってしまっていた…





ぱちっと、目を開く、うん。凄く目覚めが良い。

ぐっと、背筋を伸ばそうとするとグっと後方に引っ張られてしまい、こけないように念動力で体を受け止めるが、そんな事をしなくてもお尻は椅子に座ったまま。

そうだった、起座位でも寝れる用の椅子をプレゼントでもらっていたんだった、うっかり背を伸ばした勢いで背中にあるケーブルが椅子に引っかかっちゃったかな?

背中に手を回してケーブルがどう引っかかっているのか探り、ちょちょいっと動かして引っかかりを取り、立ち上がる。


もう一度ぐっと背筋を伸ばすと…うん、引っ張られる感覚ってやつは、慣れそうもない。

念動力を使えば背中にケーブルがあろうがなかろうが、問題なく動けるから慣れたらいいんだろうけれど…


あまりにも日常的に魔力を使うとノイズが激しくなってきて頭痛くなるから、控えようかな?

思考超加速中なら、ノイズが私の思考に到達する前に書き消えてるような感覚だからノイズは気にしなくてもいいんだけどなぁ…

思考超加速状態で、歩けるのかな?ぇ?やめとけ?…そっか、肉体の感覚が狂っちゃうか。


試すのはやめておこうかなっと

ケーブルを引きずって歩くっていう普通の人が絶対に体験しないレアな体験でけてんだから、良しと思おう。

動くとやっぱり引っ張られていたい、たぶん皮膚かな?

刺さった部分まで振動が伝わるとめちゃくちゃ気持ち悪いのはしょうがない。肝臓までさ、魔道具の先端が届いてんだから。

背筋を伸ばそうとした馬鹿な行為で背骨のボルトがいてぇわ、一生やや猫背だわこれ。


資料を取りに机の前にいくと嬉しい光景にちょっと感動する。

机の周囲が綺麗に整理整頓されている。紙は紙、ペンはペン、消しかすを払い落とす羽なども綺麗に区分けされて並べられている。

今日来たメンバーで言えば、出来そうなのはユキさんかな?こういう気配りが出来る人って良いよね。甘えたくなっちゃうよ。


机に触れながら周囲を見回しただけで、胸が締め付けられる様な気がした。

効率を重視するために、無駄を省き、掃除とかも死ななければしなくてもいいんじゃない?って感覚で最低限の事しかしてこなかった。

いらないものは置かない、不必要なものは捨てる。効率を求めて、効率だけを求めて…結果、この部屋には…何もない。


薄暗い中、ぼんやりと光り輝く大きな試験管、耳を澄ませると隣の部屋から聞こえてくる振動音。

上を見上げると部屋を照らす為の魔道具は点灯しているけれども、昼間のように明るいわけじゃない、必要最低限の光量に抑えている。

最低限見えたらいい、最低限動けたらいい、最低限…研究が出来ればいい。


私が理想とする部屋とは大違い、可愛いモノが好き、フリルがついた服が好き、綺麗なものが好き、美しいと感じるものが好き、綺麗な音が出るものが好き…

あの頃の私はどこにいっちゃったのかな?



もう一度、部屋を見渡す…可愛いモノはない、綺麗なモノはない、美しいと感じるものはない…あるのは…殺風景な機能性だけ。

嗚呼、やっぱりここは監獄だ…必要なモノさえあればいい、背中にあるモノは鎖だ…私はもう、日の目を浴びることは無い…


涙が溢れ出てくる、どうしてこうなったのか…どうしてこれを選択してしまったのか。

どうして、私は効率を求めたのか?そんなのわかりきっている。



皆と一緒に遊びたかったからだ。

皆の笑顔が見たかったからだ。

大好きな人、愛する人、守りたい人に囲まれて幸せな日々を送りたかったからだ。



一刻も早く、この地下室から抜け出る為に無駄を省き続け効率だけを求め、研究に打ち込んだんだ。

全ては…残り短い人生を謳歌するため…だったのに…


涙が頬を伝っていく

地下室には幼き少女の小さな鳴き声が永遠と響き渡り、誰にも届くことなく地の底へと慟哭は吸い込まれていく…




お母さんがずっと…ずっと…この地下室に籠ることを…反対していた理由がわかった、いずれ…私の心が壊れると予想していたからだろう。

この日を境に私の心は何か、何かがずれていくような感覚がぬけることが無くなった。




「ひめさまー!」「なにー?」

培養液から取り出した臓物を解剖して状態をチェックしながらソファーの方で声を荒げる人に返事を返す

「私、もう代行いやですー!」「がんばってー」

今更私が、外に出て外交したりする余裕なんてない。

「もう、値踏みされるような視線を浴びるのいやですー!」「色仕掛けの一つや二つできるでしょー?」

下卑た笑みも下卑た視線も下卑た声も混濁としたカオスを飲み込んでこそ、諜報員でしょ?

「いやですー!私は好きな人と添い遂げる為にそういったのを使いたいんですー!」「はいはい、貴族だったら誰でもいいんじゃないのー?」

心底どうでもいい会話って言いたいけれどさ、私が今まで味わってきたことだから、他人事じゃないんだよなぁ。

慰めてあげたいけれど、どんな言葉をかけてあげればいいのかわからない。

「違いますー!姫様は私が本国から渡されている秘密裏の指令を知っているからってその言いぐさは酷いですー!」「今だったら選び放題じゃん?いいの?」

臓物をゴミ箱に捨て、後ろを向くと

「・・・・」

俯いて…手を握りしめて…小さく肩を震わせていて…いつどこで弾けて消えて無くなりそうな…小さな小さな猫がいる…


ふぅっと、溜息をついてから、どうやって声を掛けようかと悩む。

思い返せば、小さかった頃に…外交を任されるようになってから、私も感じたなぁ。


女なのに取引の場に出てくるのか?

こんな幼く年端も行かぬものが取引なんぞできるのか?

力と権力でねじ伏せてしまった方が楽じゃないのか?


か細い腕、か細い腰、育ってもいない果実…ちょっと手を伸ばせば蹂躙で来てしまいそうな程…弱い。

見えない所で舌なめずりをしているような糞共の相手をするのは、辛いよね…


「ごめん、言い過ぎた。メイドちゃんだって、気持ち悪い奴に取り入るのは嫌だよね」

「そうですぅ…これも、何もかも姫様のせいなんですがらぁ…」

泣き叫びながら飛びついてきたと思ったらしがみ付く様に泣いちゃって…メイドちゃんだったら出来るだろうって思っていたけれど…

出来ない事も無いけれど、頼まれてしまっては…心を鬼にして歯を食いしばれば、出来ると言えば出来る。っていうラインだったんだろうな。見誤った。


抱き着いてきた猫を宥める為に血の付いた手袋を外してその辺の床に放り投げてから、抱きしめる。

彼女には荷が重すぎたか…大元は捨て駒、生きる為に訓練に身を投じ、果て無き闇を歩んできた人だと…この人であれば清濁併せ吞むくらいやってのけるだろうと思っていた。


期待違いだったかなっていう冷たく評価してしまう部分もあるけれど…弱くしてしまったのは私のせいでもある。

張り詰めて、張り詰めて、生きる為に必死になっていた…切ってはいけない緊張の糸っていうのがある。

私が、それを切った。彼女が生きる為に必死に張り詰めていた緊張の糸を切った。


そして、メイドとして傍に置いたんだ。


その緊張の糸をもう一度、繋いで張り詰めろ…そんな無茶をさせたんだ。無茶をさせたんだけど、引っかかる点がある…私が取引をしてきた相手で、そこまで酷い俗物なんて、居たかな?

私が表舞台に出なくなって、何か変化が起き始めたのだろうか?だとしても…


…もう少しくらい持つだろうと思っていたんだけどなぁ、外では私が知らない何かが起きつつあるのかもしれない。


助けるために何をするべきか、答えは明白だ、私が外に出て全てを断罪するかのように動けばいい。

だけど…外に出ることはできない。彼女にはもうひと踏ん張りしてもらわないといけない。


よしよしっと抱き着いてきた猫の頭を撫でてから、喉が渇いたからお茶でも淹れてよっと声を掛けると小さな声が私のお腹に吸い込まれて行った。



お湯を沸かして、自分の好きな茶葉を楽しそうに選んでいる。

淹れている過程で溢れ出てくる心を落ち着かせる独特の香りが地下室を満たしていく。


暖かい紅茶が出来上がるころには彼女の涙も冷たいモノから暖かいモノへと変わり

「お待たせしました!メイドちゃん特製ブレンドですぅ!!」

笑顔で紅茶を運んでくれる。目の端には小さな水滴がついている。でも、その水滴は冷たくは無さそうだ。


ソファーに座り、紅茶を飲みながら二人で他愛のない会話を楽しんだ。

陰鬱な気分を払拭するように溢れ出てくるように色んな貴族の名前が出てくる。

メイドちゃんの口から出てくる人達の名前を覚えれたら覚えておこう、そして、次があれば粛清すればいい…

心の中にある閻魔帳に名前を書き込んでいく…


紅茶を2杯も飲み終わるころにやっと、メイドちゃんから嫌いな人達の名前が出てこなくなった。

落ち着いてきたからなのか、疲れが溢れ出てきたのか、絶対に仕事中だと私に見せない姿を見せてくる。


眠たいのだろう、外交官の仕事をするために着せてある煌びやかなドレスのまま、うつらうつらと舟をこぎ始めている。

横になっていていいからねっと声を掛けてからソファーから立ち上がり、研究を再開する。


小さな…小さな異変だと確信がいった。

貴族の名前を聞いた限り、残滓たちが口を揃えて声を上げる。

『その名前の人達は清廉潔白、平民ですら愛する真っ当な人達だと』

世界は私が知らないうちに変貌していっているのであろう、それが敵の策略だとわかってしまう。


狙いはただ一つ

私を表舞台に駆り出して研究を中断させたいのか、もしくは、単純に人類を導いてはいけない方向へと導き滅亡へと向かわせたいのだろう。

そう…人類を死滅させるっという狙いが見える。


っは…どうでもいい、勝手に滅びろ、どうせ…どうせ・・・どう、せ・・・このせかいは ほろびるんだから


王都で私のことを応援してくれた人達、未来を求めて目を輝かせた人達が思い出されてしまう。

そして…その先に待ち受けている惨劇も…

涙が溢れ出てくる、それに呼応してノイズが声を荒げる。


歯を食いしばって思考を加速させる…ノイズが付いてこれないようにする為に、滅びるという未来を見つめたくない一心で


全てを忘れるように思考を加速させる…



『世界が、平和でありますように…』



そんなの、そんなの…私にとってはただのノイズだ…





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