Dead End ユUキ・サクラ (12)
「よっと…っとと、バランスむっず」
「ほら、頑張りなさい、背中に10キロのリュックを背負っていると思って歩きなさい」
両手を持ってもらって私はお母さんの腕を掴んでの歩行訓練、ただ、歩くだけじゃなく、白線を引いた上から足が外れないように歩く。
背中に刺さっている魔道具がそこそこ重たい、もう少し、筋トレをこまめにしておけばよかったと後悔している。
私の背中には大きな?って程でも、短剣と同じくらいのサイズ?重さも2キロぐらい?だったかな?…いや、大きいか?
そんな魔道具が背中に刺さっている。刺さってはいるけれども、外せれないわけじゃない。
鉄の板のようなものをボルトで皮膚を通して背骨に固定してある。そして、その中央にある魔道具が取り付けられている。
この魔道具は取り外しは可能、可能だけど、私独りじゃ取り外しできない、面倒だからずっとつけっぱなしにする予定。
この魔道具の先端が、私の肝臓にまで届いている。そして、大きくて長いケーブルが、私とある魔道具へと繋げている。
ケーブルが繋がっている先は…この部屋の壁、そして、その壁の向こうにある大型魔石から魔力を吸いだしたりするための魔道具と繋がっている
そう、私と大型魔石をケーブルでつなぎ、この大陸の人々から集められた祈りと言う魔力が内蔵されている大型魔石。そこから流れ込んでくる魔力を…私の体内に問答無用で注ぎ込む。注ぎ込まれている…祈りがノイズと感じるのは副作用だ…
そう、本来であれば、魔石の中に流れる魔力を吸収することはできない、それはなぜか?
魔石の中にある魔力っというのは、人の意志が宿っているから。他人の思考がダイレクトに脳内に入ってくる、異物もいいところだ、拒絶反応が起きるのなんて至極当然だよ。
敵の体内から取り出された魔石なんて尚更、過去に誰かが吸収できない試したことがあるが全員が体内に取り込めなかった。
本能で拒絶したのだろう…だけど、私と繋がっている大型魔石は敵から奪ったやつじゃない、私が作った魔石で、魔石の中を満たしているのは教会で祈りを捧げる多くの人達の祈りから出来ている。
人々の祈りから産まれた魔力なら、馴染むはず。そう信じて繋がった…ん、だけれどさー…俗物すぎる願いがめっちゃ流れ込んできてうっとおしいったらない!
美味しご飯が食べたいとか、酒が飲みたいとか、成りあがりたいとかは良しとするけれど、ほんっと男ってやつは煩悩しかねぇのかってくらい…シスター達をそういう目でみるなっつーの!!ったく!!
…こういう時に残滓たちが居てくれてよかったなんて感じるとは思っていなかった。
今この瞬間も流れこんでくる魔力の中に眠る人々の祈りを残滓たちが濾過する作用として働いてくれている。
最初は、それはもう、夢の中がパニック映画かってくらい、色んな人が溢れ出てきて困惑したっつーの…麻酔が効いてるときはそんなの一切なかったのに、普通に寝れる様になったらこれだよ。
そうだよ?もう、あれから五日も経過したんだから。
この五日間、薬の作用で微睡んでいることが多かったし、リハビリしたりと…色々とあって、一瞬だった。
その色々ってのが、幹部会!
幹部会でこの先どうするのかっていう会議を、この地下で行って、私はどうしても完成させないといけない研究の為に地下から出れないと宣言した。
代行として普段なら参加しないメイドちゃんも今回は参加していた…聞きたくない宣言から、メイドちゃんに待ち受ける未来を察したみたいでさ、メイドちゃんが絶望の表情で崩れ落ちた。
カジカさんは、何とも言えない表情で俯いていた…
お母さんは知っていたから視線を背けていた。
他の人達も皆、同じ感じだった。
それを見て少し救われたような気がした。私は…今代の私も、皆にとって大事な存在なのだと肌で感じれたから。
少しだけだけど、ささくれのような痛みが取れたような気がしたよ。うん、犠牲になってよかったってね…
私は…独りじゃない、皆と繋がっている。それがわかってしまうだけで、自然と体が軽く感じるようになった、嫌いな研究も頑張れる気がする。
幹部会は恙なく終わったっていってもいいのか、わからない程に、重苦しい雰囲気で幕を閉じた。
そして!!この五日間でわかったことがある!!潤沢な魔力というやつは…最高だってわかっちまった!!ごめん!皆の祈りをめっちゃ無駄遣いしちゃってる!
肉体を強化するのにも使ったりしてるし、喉が渇いたら念動力を使って冷蔵庫から歩かずに取り出したり、遠くにあるろうそくの火を消すときに風を起こしたり、暑いなーって思ったら風を起こして涼んだり、めちゃくちゃ無駄遣いしてめっちゃ快適な生活を送っちゃってる!!っていうか、魔力が潤沢にあるから今までできなかった術式の研究も息抜きで出来ちゃってんだよなぁ!!早くこれに繋がればよかった!!!鎖?ばかいえ!牢獄?ばかいえ!!
天国じゃん!!!果て無き理想郷はここにあったんだよ!!いやー、気が付かなかったわぁ!!
思考超加速も使いたい放題!!
ご飯は時間になれば勝手に届く!!
甘いジュースも一緒にね!!
栄養?手厚く点滴を定期的に交換しにお母さんがきてくれる!!
ついでに、甘えれるんだなこれが!!
夜になったら勇気くんが部屋の片づけとか、研究の手伝いにきてくれるし、勇気くんが知り得ている術式について質問も出来ちゃう!!
取引に出かけないといけないっていう時間の無駄もない!!!
あっれー?理想郷じゃね?ここって?理想郷ですわぁ!!
ついつい、リハビリ中にそんな事を考えてしまいでへぇっと頬を緩ませてしまうと
「こ~ら、集中しなさい?貴女は筋力が凄く弱いんだから」
お母さんに注意されてしまう…てへへ、うっかりうっかり。ぇ?魔力で身体コントロールできるんだろ?リハビリ必要なのかって?
必要ないよ?うん、まったくもって不必要だよ?筋肉動かすよりも念動力で身体をコントロールしたほうが楽だよ?
なら、なんでするのかって?言わせんなよったく!…独りで寂しいからだもん。こうやって患者に会いに行かないといけないって理由があれば、お母さんもここにきやすいでしょ?
…別に、いいよね?うん、何も悪くないよね?ちょっとお母さんを独り占めしたいってだけじゃん?
お昼のちょっとした時間、ほんの30分ほど、リハビリをして、その後は軽い世間話をするとお母さんは地下室を出ていく。
一気に静かになる地下室…ノイズが聞こえてくるのを頑張って聞かないようにして、研究を開始する。
思考超加速を常に使い続ける、それくらいの気持ちで取り組む。
夕方になると、ご飯が届くので念動力で取り出して机の上にドンっと置いて食べていると、バンっと、ドアが開く音が聞こえ、ドンドンっと、階段を下りてくる音が聞こえてくる?誰だろう?って、こんな豪快な音を出す人なんて一人しかいないじゃん
「姫ちゃん!ご飯届けにきたさー!!」
ガッハッハっと豪快な声でドスドスと中に入ってきて机の上にドン!っと大きな肉が置かれる…
「って、既にご飯が届いていたのかい!!って、野菜ばっかりじゃないか!だめさぁ!肉も食べないと!!」
ぅぅ、お肉は脂っこくてちょっと、なんて言えない。
愛想笑いをしていると、すぐ隣に椅子を置いたと思ったらドカっと豪快な音と共に座り、持って来たお肉をテキパキと一口サイズに切り
「ほれ!口開けな!あーん!ほれ!」
口を開けろと…ぅぅ、昔の私じゃないんだから、お肉はあんまり食べれないよ?
仕方なく口を開けるとお肉が放り込まれる、ぅぅでっけぇ…ぅぅ、かってぇ…噛み切れねぇ…牛を運動させ過ぎじゃない?肉が引き締まってるぅ…
「ちゃんと弾力のある肉を選んできたさぁ!噛む力が減っちまうのはよくねぇ!柔らかいモノばっかり食べてねぇで噛み応えのあるモノをちゃんと食べなきゃだめさー!」
ぅぅ、女将程、私は筋肉ないのー!仕方がない、女将にバレないように、口の中で小さな力場を発生させて肉を小さくばらす!!っく、結構難しい!!
だが!細かい制御が良い訓練になるじゃん!!これは、これで…楽しいかも?
だんだん、口の中に放り込まれる肉を口内で噛む仕草をしながら念動力や、力場などを駆使して細かく肉の繊維を解く様にして小さくしてから噛んで食べるっという行為が楽しくなってきて、つい笑顔になってしまう。
「っな!うめぇ肉は笑顔になるんさぁ!ちゃんと肉を食え!」
肉を飲み込むと頭をがしがしっと豪快に撫でられる。悪い気はしない。めっちゃ不正してるけどね!嗚呼、魔力使いたい放題って最高!!
用意されたお肉全部食べ終えると、お腹いっぱいになる…量が多い…昔から、私は小食だっていうの、女将はわかってくれない、いや、わかっていても用意してくるんだよね!
「おー!よく食べきれたねぇ!姫様は小食だから、食べきれないと思ったんだがねぇ!」
っく、やっぱり、わかっていて尚且つ、この量を持って来たんだね…うん、正直に言えば、苦しい…ちょっと横になりたい。
「あー、そうさーねー…あそこにある背もたれが真ん中あたりで縦に分かれている変な形のベッド?椅子?に寝かせればいいのかい?」
うんっと頷いて運んでもらう…はー、らっくー!!マリンさんからすれば、私なんて小指一本で持てるんだろうなぁ
「姫様は軽すぎんだよ!もっと運動しなー!あたしのとこの娘よりも軽いさー!」
繋がっているケーブルが引っかからないように気を付けてベッドに寝かせてもらう、今回の為に特別に用意してもらったベッド。
お陰で上向きで寝れる。ずっと横向きで寝返りがうてないのかぁって思ってたけれど、お母さん達、医療班の人達が意見を出し合って作ってくれた。
それも経ったの二日で!はぁ、至れり尽くせりだよぉ~…
横にならせてもらってから女将が最近、王都で流行っている食べ物とか子供達の間で流行っている遊びとか、子供達から教えてもらったことを話してくれた。
相変わらず女将のとこの娘さん達は活発で大変らしい、このまま、男勝りに育ったら貰い手がいなくなるんじゃないかって不安を密かに感じているのは驚きだったな。
色んな話をしていたら気が付くと一時間も経過していて、女将が時計を見て店に戻らねぇっといけねぇっと慌てて地下室から出て行った。
…1時間っていう僅かな時間でも顔を出してくれたのは嬉しかった。




