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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ (11)

最後に聞こえた音は・・・ずっと聞いていた落ち着く声が・・・聞こえてきたような・・・気がした・・・



私の意識は大きな水槽に一滴だけ垂らした淡く薄いピンク色の液体…直ぐに混ざって…消える。










「うご!?ぇ、っげほ、ご・・うぇ・・・」

突如、喉元から何かが抜かれるような感覚、嗚咽に近い感覚で目が覚め涙目になってしまう。

「いっつ…」

上半身を起こそうとすると背中が何かに引っかかったような感覚、引っ張られるような感覚が痛みとなって響く。

まるで、骨に何かが触れたような削られたような鈍痛。


「こら、上半身を起き上がらせないの、動くときは声かけなさい」

ぬっと、視界の端っこ、それも白い境界線からお母さんが出てくる。

一瞬驚いてしまったけれど、直ぐに理解した。そっか、ベッドの上に横向きで寝かせられて呼吸用の魔道具を引っこ抜かれた衝撃で目が覚めたのか。

「少し待ちなさい、今、痛み止めを投与するから、それで少しは…痛みからは解放…されないわね、若干だけどましになるわ、回復の術式も起動してあるから、明日には動けるわよ」

ベッドの近くをテキパキと動き続ける白衣の天使…ううん、お母さんが動き続けてくれている。やっぱり、お母さんは頼りになるね。

「・・ぁ・・さ・・・ぁ・・お・・ぁ・・・」

声を出そうとしたのだけれど、上手く声がだせない、出そうとすると喉の奥が引っ張られるような感じがする。

かといって、勢いよく声を出そうとすると背中に響きそうで出すのが怖い。

「はいはい、声を出さないの、暫くは安静しなさい、まったく、ゆっくりするときはゆっくりする」

感謝の言葉を言いたかったんだけなんだけどなぁ、まぁいいか。忙しそうだし、落ち着く頃には声も出せるかな?


ベッドで横になっていると、徐々に背中の引っ張られるような感覚も鈍痛も薄れていく。うーむ、流石は毒の女王。もとい、薬においては誰よりも見識が深い。

どんどん痛みや不快感から解放されていく、それだけで、心のストレスが抜ける様だ。


…そして、心に余裕が出来るとついつい、視線を彷徨わせて状況を把握しようとしてしまう。だって、暇なんだもん。

あの術後じゃなかったら、上半身を動かして、直ぐにでも活動したいけれど…骨とか削ったりしているし、皮膚もくっ付いていないだろうから動くのはやめておこう。

変わらない景色を眺めていると、景色が変化する、目の前に椅子が置かれてどかっと大きな胸を揺らしながら椅子に座ったと思った人物が直ぐに動き出し、私の顔面にまで、大きな胸を近くにまで近づけてきたと思ったら、色々と私の体を触り始める

「ん~、うん、我ながら完璧ね、研鑽を積んできてよかったわよ」

「傷…残ってない?」

「全部、外したら多少は残るでしょうね…まったく、綺麗なお肌しているんだから、貰い手が減るわよ?」

「ぇー…んじゃ、お母さんがもらってー」

「はいはい、もうとっくに貴女は私の娘よ」

「にへへ」

優しく頭を撫でられたらふぁさっと薄い布がかけられる。


「まったく、するならするって、日時を言いなさいよね。ユキのやつが休みの日っていうのに気が付いて慌てて飛び込んでみたらこれよ」

顔は見えないけれど呆れているんだろうなぁ…首を動かそうにもちょっと動かすと背骨が動く、動こうとすると引っかかる感覚がするので、これ以上動かすと痛くなりそうで動かせれない。

だから、お母さんの顔を見ることが出来ない。

「だって…お母さん、反対してたじゃん」

「今だって反対しています!」

むにっと鼻をつままれてしまう

「だっでぇ」

情けない声を出すと、ぱっと鼻から指が離れる。

「ふふ、反論できるくらい元気があってよかったわ。貴女にもしものことがあったら、って考えると」

優しく撫でられる手が震えている。

「…謝らないよ?」

「ええ、謝らなくていいわよ、私も許さないから。貴女が幸せになるまで絶対に許さないからいいわよ」

ぅ、ぐ、そんな風に言われると泣いちゃう…じゃん…


「絶対よ、絶対…一緒に海、見に行きましょう」

頬を撫でられる腕から悲しい感情が伝わってくる。お母さんは私の針が…もう長くないことを知っているんだろうな。

「うん、行こうね。一緒に…泳ぐの無理でも、一緒に、二人で…みんなで・・・いこう、ね・・・」

安心したのか、痛みから解放されたからなのか、目を開けるのが辛い…だめだもう、いしきをたもてれない・・・







「・・・?」

目が覚める、寝ていた景色が寝る前と変わっている?…ぁ、そっか、背中についているやつを気遣いながら寝返りをしてくれたんだろう。

褥瘡を作らないためにってわけだね。

頭の向きが変わっている、ほんの小さな変化、私じゃ無ければ気が付かないね!ってね。


ベッドに手を付けて起き上がろうとするが、力を入れた瞬間に鈍痛が襲い掛かってくるので瞬時に諦める

「おっと、サクラ?ダメだぞ?安静にしていないと、何だ?起きないといけない状況なのか?」

少し離れた場所から駆け寄る様に小走りで駆け寄りながら声と共に来てくれた、まるで、本当の父親が娘を心配するかのように…

勇気くんがお父様だったら、私はきっと懐いていたんだろうな…

「んとね、えっと…なんでもない」

ただ、体を起こせるのかどうか試したかっただけなんて言えない。

「そうか…遠慮するなよ?俺が出来る事であれば何でも言ってくれればいいからな?」

「んじゃ、撫でて」

「ああ、わかった」

優しく優しく頭を撫でられ、背中を腰を優しく摩られる、血の流れが良くなるのを感じる。心地が良い。

「お父さん、マッサージ上手…もっとー、足もしてー」

「ああ、わかった」

太ももや、ふくらはぎ、足裏もしっかりと摩ってもらう。

ふふ、私って誰かに触られるの嫌いだったと思ってたけれど、こういうのって良いね。心地が良い。

お母さんがどうしてマッサージが好きなのもちょっとわかったかも。


ただただ、無言で色んな場所を摩ってもらう、ふへへ、いいなぁ、安心する、落ち着く、心地いい。ずっとこうしてもらいたい。


「おかあさ…ジラさんは?」

「団長は点滴とか薬とかを取りに病棟に向かって行ったよ、後10分もすれば戻って来るんじゃないか?」

「そか…」んじゃ、今は二人っきりだねっていう言葉を言うとでも思ったか?残滓共?いわないよ!

「それにしても、俺はやっぱり彼女が苦手だ…まさか、今瀬も正座させられ説教されるとは想像だにしなかった」

たぶん、二人だけで無茶なことをしたことについて、叱られたんだろうなぁ…お母さんからすればユキさんの中身が変わっているなんて思わないだろうからね。

情けないって言うのも変だけど普段のユキさんの姿を見ているお母さんからすれば頼りないだろうし、医療の知識も技術も無い人が何してんだって感じだよね。


「前世って言うか、柳の時の?」

「ああそうだ、彼女の面影っていうか、瓜二つすぎてな、性格までそっくりだ、あの姉御肌…頭があがらんよ」

「初恋の相手だから尚更?」

「まて、何処まで俺の世界を見た?」

「にひひ、なぁ~いしょ」

のぞき見は良くないぞっと小声でつぶやいても時すでに遅し!魂の同調っていう技術をある程度理解し把握している今なら、逆に覗き込むことも容易ってわーけ!

次の機会があれば全部丸裸にしてやんよ?

「ラジアータ姉さんは…俺の事を手のかかる弟としか、思っていないよ。あの人は…全ての人を平等に愛してくれていたからな、一人の男性に留まるようなイメージはなかったさ」

ふ~ん?んじゃ、似てないよ。お母さんはシヨウさんにべた惚れだもん、一つ所に留まらないんじゃなくて誰も、ラジアータさんの心を射止めれなかっただけでしょ?

まったく、自分たちの魅力の無さを人のせいにして~男ってやつはー、ほんっと自尊心のかったまりー!めんどくせぇ…

「…何か言いたそうな顔だが、良い、わかっている。俺達が至らないだけだったのだとわかっている。ラジアータ姉さんが側室に入った家も家柄ってだけで選ばれていたからな…恋だの愛だのでは無いのは重々承知だ…」

「だったら、俺の家にこいよってどうして言わなかったの?」

摩られている手が止まる?

「…ぁ、れ?どうして、だ、ったかな?…済まない、本気でその辺りの出来事は覚えていない」

やめよう、これ以上この話題は危険な気がする。叔母様と同じ気配を感じた。


「細かい話はおいとこー、おいとこ。うんうん、昔の事なんて忘れるもんだよね。それよりもさ、無事成功して良かったじゃん!」

「ぁ、ぁ、ぁぁ、ああ!そうだな!焦ったぞユキのやつがパニックを起こしてだな」

『起こしてない!お兄ちゃんが神経の位置とか血管の位置がわからなくなるのがいけないと思いませんか?姫様!』

っどわ!?ぇ、ユキさんもそれ、出来るようになったの?

『あ、いえ、正確にはできない、よ?ません。お兄ちゃんが繋いでくれてるから、かな?じゃない、繋いでくれていますです。』

ふふ、敬語はいいって、やめてよ、何かユキさんの敬語ってさ、くすぐったく感じるからいいよ。やめてほしいくらいだよ。

「慣れていないからな、お互い、俺も敬語は苦手だ。される側だったからな」

はいはい、国王様は偉いですねー

『わた、私はそうじゃないよ?周りがそういう風に話しているの滅多にないんだから。仕方ないと思うよね?』

育った環境って大事だよね、私も敬語を使われる側だったし、社交界に出ない限り敬語なんてかたっくるしいの嫌い

「だな、必要な場面で適切に使う、それでいいじゃないか。俺たちは畏まる様な間柄じゃない、仲間だろう?」

ぶっぶーちがいまーす

『ぇ、違うの?』

寂しそうな声を出さないのー、私は、友達…もしくは、家族だって感じてるよ?

「…そうだな、俺も、そういう雰囲気を感じてはいる。背中を守りあう仲間でもあり、志を共にする友であり、苦楽を支えあう家族でもある。そういうことだな?」

『なる、ほど?』

ふふ、ユキさんって察しが悪いよね?

『む、ぐ…』

馬鹿にしてるわけじゃないよ?それも個性、いいんじゃない?そういう子の方がからかいや…おっと、いけない。

『馬鹿にしてるでしょー!いいもん、皆からよくからかわれてたからそういうの慣れてるからいいですよーだ』

「本当に、今回の一件は学びが多かった、医療と言うのは複雑なのだと、医者が如何に素晴らしいのか、心底から拍手を送りたくなったよ。今まで俺に関わってきた医師たちにな」

昔の医者なんて、適当に藪の中に入っていって適当に草積んできて適当に煎じて渡していた藪医者ばっかりじゃないの?

「…そう言われると、自信満々に違うと言えないのが情けない事だな、病気知らずだったからなぁ…」

そう、なんだ、ふ~ん?なにで、亡くなったんだろうってきけねぇよ馬鹿たれ

『そうだよ、そういう暗い話はやめようよお兄ちゃんと違って私達はデリカシーあるよ?』

「え?」え?

『…デリカシー、あるよ?はぁ?え?何?私にそういうのは無いって言いたいの?二人揃って?馬鹿にしてない?』


二人揃って笑い、ユキさんが見えないけれど頬を膨らませている様な感じが伝わってくる。

ああ、いいなぁ、こういう世界。嗚呼、いいなぁ…ずっと…続けばいいなぁ…


私が望んだ世界は、もしかしたら、ずっと直ぐ、隣にあったのかもしれない…

次…次があれば、あるというのなら、残滓共と同じになったとしても…そんな機会があれば…いいなぁ…


理想郷のような世界で包まれ、微睡むように私の意識は深い闇へと沈んでいった…

体を癒す為には、寝るのも…しごとだよ、ね…




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