Dead End ユUキ・サクラ (9)
細々とか細い声で語られた言葉を聞いて、こうなってしまう理由には、納得の一言。やっぱり、ショックだったんだね、勇気くんに負けたのが。
それも、大勢の前で…新兵に土をつけられてしまったんだから、誉れある騎士だったら旅に出てしまうくらいショックだよね。
相手がユキさんだったらカジカさんから一本取るなんて不可能だけれど、勇気くんなら不思議じゃない。
そもそも、カジカさんは対人戦ってよりも、対獣戦に特化しているから仕方がない。
勇気くんは落ち着いた雰囲気から感じ取れないかもしれないけれど、戦乱の時代を生き抜いた人だからね。対人戦としてのノウハウは圧倒的に勇気くんの方が上手だろう。
真実を伝えるわけにもいかないので勝手に立ち上がって立ち直ってもらうしか無いか…カジカさんの事は置いといて、折角、メイドちゃんに会ったんだし、話しておきたいかな。
「にしてもさ、メイドちゃん、おっと、今はメイド業務じゃないから華頂ちゃんって、呼んだ方がいいかな?」
「いやです!!代行はまだしも!華頂はやめてください!!その名前だいっきらいなんですから!!姫様からはメイドちゃんって呼ばれたいです!!」
そうだった、忘れてた、メイドちゃんの名前って特殊だったんだった、本人が望んだ名前じゃないぽかったよね。記号みたいなもんだもんな、メイドちゃんからすると
「久しぶりに姫様に会えたのに、もう、私のこと忘れちゃったんですかぁ?メイドは悲しいですぅ…」
うえーんっと鳴きまねをするので、はいはい、ごめんごめんっと平謝りすると「えへへ、姫様が謝ってくれるなんて珍しいですね」にこやかな笑顔を向けてくるんだけど、目の奥が笑っていない。これは…そうとう溜め込んでいる気がする。
正直、メイドちゃんのメンタルケアをしてあげたいけれど、付き合う時間は無いんだよなぁ。
たぶん、一夜でどうこう出来るラインをとっくに超えているから、一週間くらいはケアの為に付き合わないといけなくなる。それは無理。
病みつつある、メイドちゃんに、私の予定を伝えるべきなのかどうか悩んでいると
「それにしても、噂は本当だったんですね、あのカジカさんが噂の彼に一本取られたってのは」
すぐさま容赦なく相手を刺す。容赦ねぇな…何時もなら気遣いで絶対に触れないのに、わかりきっていて抉ってくる辺り、メイドちゃんの心の余裕も無いのだろう。
私もしちゃったから言う資格は無いんだけど、カジカさんは叩くと鳴るおもちゃじゃ~ないぞう?サンドバックにしても許してもらえる人じゃないぞ?
「ぅぅ、代行までその話題であるかぁ…」
容赦ないぶっこみに盛大な溜息が溢れ出てその勢いは、土煙を巻き上げそうな程、こりゃぁ、相当だな、奥様を召喚して慰めてもらった方がいいんじゃね?
…まて、確か奥様って武家の出自、剣で新兵に負けたなんてバレたら慰めてもらえるどころか傷口をより深く抉られないか?…うん、家庭の事情に首を突っ込むのはよそう。
「吾輩だって、吾輩だって!まさか、ユキがあそこ迄、卓越な技巧に用意周到な戦略を練って待ち構えているとは、思っていなかったのである、流石は、筆頭騎士殿に鍛えられているだけはあるのである。何度か手合わせをしたときはそんな素振り一つも無かったのに、油断したのである。彼がここまで勝利に貪欲で強かであったと見抜けなかった吾輩の読みが甘かっただけである、これまではずっと、此方の手札を確認していただけであったのであろうなぁ…」
純粋に戦う相手が変わっただけだよって教えてあげたいけれど、言ったところで信じるわけないよね。
カジカさんの良いところは、ちゃんと反省するところなんだよね、自分がどうして負けたのか、自分の何処が至らないのかしっかりと自己分析をする。
そして、それをしっかりと自分だけではなく、面倒を見ている新兵達の弱い所、修正するべき点をしっかりと見極めて伝えて教育する点が昔から評価されているんだよね。
その事を過去に褒めたことがあるんだけどさ、全ては戦士長から教わったことであるっと天を見上げながら微笑んでいたね。
「そう聞くと、やっぱりユキって人物は、成長が期待されている通りってことですよね?」
メイドちゃんが目を輝かせている。ぁ、これは勝ち馬に乗りたいと考えてるな。
「代行よ、ユキにちょっかいをかけるでないのである、あいつに色恋はまだ早いのである、せめて、独り立ちしてから各馬一斉にアタックして欲しいのである」
ほほう?流石は、カジカさん、勇気くんが女性陣に注目されているのを既に知っているんだね。
「ぶー!カジカさんは知ってますよね?私に自由がほっとんどないの!出遅れたらどうするんですか?行き遅れたらどうするんですかぁ!?」
「そんなもの、知ったことではないのである、代行であれば貴族の一人や二人既に、引っかけているであろう?ユキのメンタルを惑わすのは良くないのである、ユキの為であれば、代行と言えど吾輩は敵となる所存であるぞ?」
「むぅ、これは分が悪いですね。カジカさんが敵に回るとユキとの距離を詰めるのが難しくなるじゃないですか」
私を置いてけぼりにして二人がどうでもいい攻防を始める。
っていうか、メイドちゃん、貴族の一人や二人ひっかけているって部分否定しないってことは、何人かめぼしいの見繕ってんな。
流石は諜報員、めざといなぁ…どの貴族が釣れたんだろう?まぁいいか、好きにしていいよって言ったのは私だもんね。
そう、私が地下に籠るために絶対に必要な条件、取引どうするのかって問題…それをどうにかするために、メイドちゃんに取引の全てを代行してもらっている。
相手方がどうしても、私の意見を聞きたいっという場合を除いて、全権限をメイドちゃんに渡している。
最初は、絶対に嫌だと拒否されたんだけど、自由にしていいから、責任は全部私が取るからっと頼み込んで頼み込んで、代行っと言う形で頷いてくれた。
だから、メイドちゃんはメイド業を離れ、私の代わりに貴族との取引に出てもらっている。
大元が大国の諜報員だから、大国にとって有利となる取引とかも目を瞑っている。それがメイドちゃんとしての本来の役目だもん。
だからだろうね、滅多に手に入らない禁制の品を褒美としてもらっているのだろう。
煙草とかであれば、あわよくば、それなしで生きていけなくすることも不可能ではない、依存してしまうと、ね。
その中毒性をメイドちゃんはしっかりと理解している、自身で使用するのは絶対にしないのだろう、本国がメイドちゃんを傀儡として薬漬けにするための第一歩だと心底理解しているからだろう。
だけど、貰ったものを無駄にするのも違う、かといって良くしてもらっている取引先に禁制の品物を渡すのはよくない。
悩んだ末に、引退しているであろうカジカさんの実家にいる貴族なら禁制品ではないので、消費してもらえる。
そして、あわよくば、カジカさん側の貴族と縁ができるって考えたんだろうね。武家との繋がりって商家と違って繋がりを得るのは難しいからね。
うん、政治家に向いてるよ、メイドちゃんは。
そして、それを知ったうえで、メイドちゃんだったら禁制品を渡したら、本国が望む用途通りに動いてくれるだろうと大国のやつは考えたんだろうね。どっちに転んでもいいようにね。敵に回したくない程に策略家が多そうで本当に厄介だよなぁ、本気で人類統一するときに真っ先に敵に回りそう。
…そういえば、大国って歴史がありそうだけど、大昔はどうだったんだろう?今度、勇気くんに聞いてみようかな?
そんな、先の事を、つい考えてしまう…癖だろうね、長い事、背負い過ぎたんだよ、残滓共含めて、私は…わたしは…先なんて無いのにね
自分の習性が悲しくもあり頼もしくあるっと噛み締めているとメイドちゃんがニマニマと、相手を茶化すような表情で声を掛けてくる。
「姫様は、私がユキを籠絡することに関しては如何思われますか?」
籠絡って自ら言うのは如何かと思うよ?好きにすれば?
…その程度で勇気くんがなびくとは思えれないからね…
後、たぶん、勇気くんの好みからメイドちゃんは外れていると思うんだよね、主に胸の部分とか、ね…っけ。
「どうでもいいよ、好きにしたら?」
呆れた顔で言うと「姫様、冷たい…私頑張ってますよね?見捨てられてないですよね?」寂しそうな顔で此方を見てくる。病んでるメイドちゃんは扱いが難しい、メイドちゃんには、まだまだ、頑張ってもらわないといけないから、適当にあしらうわけにはいかないっか…
「見捨ててないよ、見捨てるわけないじゃん、色恋に興味がないだけっていうか、そもそも、色恋じゃなくて政治としての策略を感じるから尚更、好きにしなよって感じ?」
メイドちゃんは、本国に始祖様の血を持ち帰るのも一つの役目なのだろうって予測を立てている、私としては使命を果たそうとしている諜報員としか今の彼女を見ることが出来ない。
「ならいいのですがぁ…メイドは、出来るのなら姫様の御傍にずっと、居たいですからね?」
はいはい、本国から一度は、切り捨てられていて解体寸前まで追い詰められて行き先が無かったのを拾って貰えた恩があるって言いたいんだろうけれど、単純に保険でしょ?
私がその気になれば、ううん、この国が本気になれば本国くらい…攻め落とせれるからね。策略?知略?関係ないよ、圧倒的な武力の前じゃぁね。
メイドちゃんは知っている、この街にある戦力を、そして、王都にいる騎士団も、私が開発している武具が行き渡りつつあるのを。
対人型用に開発した新機軸の盾や鎧は頑丈だからね、大国が持つ刃じゃ、貫けないだろうね。
そういう打算的な部分も私は評価している、だからこそ、取引を任せられるってもんだよ。
「ぅぅ、そんな目でメイドを見ないでくださいよ姫様ー!メイドの心は何時だって姫様ですから!忠誠心は姫様だけですからぁ!!」
貴族と取引する席に立つために用意した小奇麗な服で抱き着くなっての、汚れるよ?まったく…
「わかったわかった、信じてるからね。それじゃ、私は実験しないといけないから、じゃぁね」
べりっと剥がして後ろを振り返らず、地下の研究所へと向かって行く。
はぁ~めんどくさ、政治とかほんっと、どうでもいい…どうせ、この世界は滅びるんだから。
煙草の影響か、歩くときに少し、ふらついてしまった。
弱い体に毒物はダメだ、好奇心も満たしたことだし、今後は手を出さないでおこうっと誓いながら歩いていく。
後ろから、冷たくあしらわれた人の視線を感じる、振り返ったりはしない。
彼女には、したくない仕事を押し付けているっと言う、後ろめたさがあるから、甘やかしてしまいそうになる。
ちゃんと一線を引かないと、ね…未練が残る。




