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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ (6)


ふと、目が覚める。

意識が浮上した?今代の私は主導権を握られるのが嫌がって、油断も隙も、見当たらない。

よっぽど疲れたのか、今代の私は気持ちよさそうに寝ていて起きる気配がしない。


…意識が浮上したとはいえ、何もすることが無い。今代の私の方が失敗した私よりも知識が深い、私では何も助言する事なんて出来ない。

研究室を見回しても、私よりも遥かな高みに居るのが分かる。

かといって、何もしないで寝るのは違う。何かできることをしてあげるべきだ。


かといって、過度に筋肉を使うようなことをすると今代の私が目を覚ます。

ん~…どうしようかな?

何をしようかと悩んでいると、他の私達がお風呂に行ってきなよっと背中を押す様に声を掛けてくれたので、大浴場に向かうとしますか。


汗で体がべとついたりはしないけれど、気持ちが悪い事には変わりはない。

今代の私は、幼い頃からっていってもこの街に来てからだから、幼いってわけでもないか。


多感な時期に自由を削り倒して、自由を奪って、総意と言う民主の声によって雁字搦めにしてストレスばっかり感じていたから。

私達とは、根っこの部分が大きく変質してしまっているような気がする。

そういう部分で少し、不安を感じていたけれど、愛する人を大事にするって部分は変わらないみたい、ね。


だから、取って代わろうとかは誰も考えてはいない。

次があるとすれば…何か遊ぶ機会があれば、彼女に優先的に意識を浮上させてあげれたらいいなって思ってしまう。

そんな事、自由にできるわけないんだけどね。


大浴場に到着して服を脱いで、鏡に映った自分の体を見て絶句してしまう。


何時もの私とは大違い、外に出る頻度が少ないみたいで肌が白い。

研究室に籠っているからか、運動をしていないのが目に見えてわかる。

腕も細いし足も細い。それでいて、ちゃんとご飯を食べていないんだろう、肋骨が浮いて見えるくらいにガリガリ

でも、生きているってことは健康食品か、点滴とかで、栄養を強制的に摂取しているのだろう。

鏡に近づいて、顔を見る、目の下にクマが、濃いクマが出来ている、ムニムニっとクマを触ってみるが、ちょっとやそっとじゃ取れない気がする。

髪の毛もボサボサ、綺麗に整っていない、綺麗じゃない。


身だしなみが面倒に感じるくらい、今代の私は、外に対しての興味を失せる程に押し付けてしまっているのだろう。


少しでも、体を綺麗にして、血の流れを良くして、明日起きたらスッキリ起きれるようにしてあげたい、

コップ一杯の水を飲んでから、体を洗って、髪の毛を洗って、湯船に浸かる。


何時もの私だったら、独りでいると色んな人が声を掛けてくれるけれど。

今代の私は多くの人と関りを取っていないのだろう、誰も声を掛けてくれない、遠慮して声を掛けてくれないんじゃない。

視線すらこっちに向けられない、存在感が、消えてしまったみたい。


彼女は、孤独の中、ずっと戦い続けてきたのだろう、自分の全てを犠牲にして。

そして、最後の最後、自分の体がもたなくなってきているのを薄っすらと感じつつあるときに、私は押し付けた。


最後の策を…


自責の念で涙が溢れてしまいそうになる。

湯船の中で膝を立てて合わせるように閉じ、その上に両腕を被せて枕のようにして頬を乗せて物思いに老けてしまう。



何分?何十分?そうしていたのだろうか?

気が付くと、大浴場には誰もいない。

涙なのか汗なのかわからない液体が頬を伝っていく。


湯船から立ち上がる


視界がすっと一瞬で真っ暗になる、しまった…立ち眩みだ。

たぶん、お湯に叩きつけられる衝撃で今代の私が目を覚ますだろう、願わくばパニックにならずに冷静に湯船から這い出てもらえると、嬉しい、かな…

目を閉じて衝撃に備える…


でも、衝撃どころか弾力のある場所に私の頭は収まっている

「あぶないじゃない、しっかりしなさい」

その声に私の手は彼女の背中に回し抱き着く様にしてしまう。

彼女の放漫な胸に伝ったのは汗だ、涙じゃない。きっと、そう。


「ありがとうお母さん、いつも、守ってくれて」

「あなた、そう、こういう時もあるのね、大丈夫?立てる?」

ぐっと、抱きしめられるように支えられる、なんて力強いんだろう。どうして、私は、この人と疎遠になっちゃったんだろうなぁ…

私が子供だったから、だよね。情けない、よね。


「ごめん、のぼせちゃったのかな?連れて行ってもらえる?」

「もちろんよ」

しっかりと腰に手を添えられ抱き寄せる形で湯船の外に出してくれる。

そのまま、整い目的で設置している横に慣れるタイプの椅子をを用意しているのでそこに寝かしてもらう。

横になるとふわぁっと意識が飛びそうになる、これは、体調が悪くて?それとも、私の意識が飛びそうになっているから?


霞む視界で何処か遠くへ行こうとする人の背中を見つめる。

意識が浮上している時に貴女に会えてよかった、嬉しかった。

元気な姿を見れただけでも、良かった…


全身がふわぁっと溶けてしまいそうな、意識の境界線が無くなっていきそうな感覚に包まれていると

ゆっくりと上半身を起こされる、こんな医療事業者しかしない丁寧な起こし方。

視界がぼやけて見えないけれどお母さん以外にあり得ない。


唇に固い何かがあたると角度が代わり、薄っすらと空いている口の中に冷たい液体がゆっくりと流し込まれるので、喉を動かして受け入れると、凄く心地よかった。

生きた心地がするっていうのはきっと、こういうことなのだろう。

最後まで水を飲み干すとゆっくりと椅子の上に寝かされる。

放心するかのように、椅子の上で脱力していると徐々に、ぼやけていた視界がはっきりとしてくると同時に全身から汗が湧き出てくるのを感じる。


大金をはたいて作った大浴場の天井も、誰かが手入れをしているのか綺麗。

少しだけ上半身を起こすと、お母さんが湯船に浸かっているのが見える。

私の状態が良くなったのを確認したから、安心して浸かっているのだろう。

ふぅっと自然と溢れ出てくる吐息と共に上半身の力を抜いて横になる。



汗も引いてきて、体が渇いてくるのを感じるくらい横になっていると

「隣失礼するわよ」

「うん、お気遣いなく」

空返事に近い、ちょっと距離のある言い方をしてしまった、今代の私の事を考えるとでしゃばるのはよくないもんね。

「ねぇ」「なぁに」「貴女に、相談してもいいかしら?」

…でしゃばるつもりはなかったけれど、そんな風に、弱々しく声を掛けられちゃったら乗るしかないよね

「いいよ。何が知りたいの?私は…」「いいの、辛い思い出を思い出さなくていいのよ」

うん、言わずもがな、わかってるよね。湯船で助けてもらったときに気が付いてるよね。

「貴女の入れ知恵?」何を言いたいのかわかる「うん、そうだよ」否定することは無い。

「…そう、そうよね、それじゃ、あの子はあのこは…」

隣からすすりなく声が聞こえてくる、声を殺そうとしているみたいだけど喉の奥から悲痛な叫び声が聞こえてくる。

悲痛な鳴き声の中、聞こえてくる声…耳を塞いだりしない、私の業だから。弱かった私が今代の私に背負わせてしまった、これは私の罪だ。

「誰を恨んだらいいの?何が正解なの?私は、失うばかりじゃない、私は、何も救えない」

そんな事ないよ、貴女は、私の心を救ってくれた、貴女は、私の命を伸ばしてくれた、貴女が居るから、この街にいる人達は生きていけている、心も体も。


私なんかよりも、貴女の方が人類を導き救う聖女としての器があるよ。

違うのは奇跡ではなく、人が紡いできた技術で人の命を救っているって部分だけ、人の体を癒し、病気や、怪我で明日を見失った人達を支え、朝日を見る勇気を与え続けている。

誰がどう見ても、貴女の方が聖女様だよ…


「…ねぇ」擦れた鼻声が聞こえてくる「なに?」多くは言わない、言いたいことの予想はついている。

「私達は死ぬの?」未来を告げるのは良くない。でも、言わざるを得ない「うん、間違いなく負ける」

知りたくなかった答えを受け入れたのか、声を押し殺した音が聞こえてくる、小さな小さな悲痛な悲鳴、隣に居る私しか聞こえないくらいの小さな悲鳴。

「犠牲にしないといけないのね」「うん」

ぁぁぁっとまた、小さな唸り声が聞こえる

「貴女は、あの子がどれ程までに、どれ、ほど。犠牲にしてきたかわかってるの?」「もちろん、わかってるよ…見てきたんだから」

悲痛な声が少しずつ、少しずつ大きくなっていっている。

「私は、あの子が、未来を捨てるのが許せなかったの!!出会ったときは目を輝かせて、術式の全てを解き明かすんだって言ってたの、なのに、ある日を境にすこしずつすこしずつ、あの子の表情が曇っていくのが見ていて辛かったの、何かしてあげれないか魔力をあげながら考えに考えたけれど、何も思い浮かばなかったの」

貰ってばっかりで、申し訳ないくらいだよ。いつも甘えさえてもらってありがとう。

「あの子がつい、一か月前くらいに言ってたの、もう少しである程度、研究の目処が立つから、その後は、研究を皆に引き継いで、私は一年くらいゆっくりしたいなって言ってたのよ、お互い、南の海岸へ遊びに行きましょうって言ってたのよ!!そしたら…唐突に、ぅぅ、そんなのないじゃない!!終わるにしろ、あの子に、あの子に…自由を与えて欲しかった…」

仕方が無いんだよ、どうしても、どうしても…何処かで犠牲にならないといけなかった。

研究内容が難しすぎて、専門外過ぎて、資料も無さ過ぎて、悪意しかないものしかなかったんだから。


今代の私が恐らく、今までの私達よりも最も先へ、研究者として高みへと昇っている。

仮に今代の私以外に、研究を引き継いだとしても、理解してその先が見えるのに時間が掛かりすぎてしまう。研究が遅れるだけ。

限界ギリギリまで今代の私が研究を進める方が一番…理に適ってるの。

彼女が最も功績を残し最も犠牲になる。本来であれば輝かしい未来を与えられ賞賛されるべきなんだけどね。頑張った結果、与えられたのは刑罰に近い牢獄。


そんな人生を歩めと、私達は罪のない彼女に押し付けてきた。非人道的なこと、許されるとは思っていない。

いつか、何処かで私達は、私達の罪を清算しないといけない。例え、同じ個を陥れたとしても、ね。


後悔の念は感じてはいる、だけど、未来を掴む為には犠牲がつきものだという、自分たち都合の正義をかざしている自分に対して、弱かった己に対して何時だって悔いは刺さっている。

「…ねぇ、私は、あの提案を受け入れないといけないの?」

私が死ぬ前に用意した次の…犠牲を強いる為に用意した設備。

それを稼働させるためにはお母さんの手伝いは必須。


答えをしっかりと与えてあげたい、そうすれば、私がやれっという命令の下。実行したって部分で罪の意識からは、免れるだろう。

でも、その後の彼女を慰めれる人はいない。私の意識が浮上すること自体、奇跡に近い、こんな邂逅はもう二度とない。

だから、言えない。


「ごめんなさい、それは、いえない。後は貴女達が決める事」

椅子から立ち上がり、声にならない切なく絞り出すような息が漏れ出てくる音を背に、私は地下の研究室へ帰る。

死者は…土の中がお似合いだ。


お母さんなら、きっとっという願いを託すのは我儘であり自分勝手だと、わかっている。

わかっているけれど、期待をしてしまう、お母さんならきっと…





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