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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ (4)

幾度か繰り返してある程度、手順に関してはイメージトレーニングが出来た、後は、練度の問題。

麻酔を投与した状態で浸透水式を行ったことが無いから、いつどこで意識がぷっつりと途絶えるかわからない、最中で意識が飛んでそのままあの世いきっていうのが一番怖い。

たぶん、そこをクリアしない限り、成功確率は20%を超えることは無いんだろうね。


誰に対してみせるんだって感じだけど、デモンストレーションってわけじゃないけれど…まぁ残滓共には見せつけれるかな?

今の自分がどの程度、集中できるのか試していかないと失敗が許されないからね、集中力が高まっている時にやらないと成功確率が下がる。


小さな水槽に少量の液体を入れて、両手を手首まで漬ける。

両手を漬けた状態で陣を起動させ、目を瞑って意識を水槽に溶け込ませるように向けていく…

視界が開けてくる、上を見上げると目を瞑った私が居る。意識を液体に溶かすことは問題ない、ダイブできている。

右腕を持ち上げるように意識を向ける…うん、水槽の中にある私の腕は持ち上がろうとしない、意識の分断は出来ている。

右腕の毛穴から中へ浸透していく…あっさりと橈骨の先端までたどり着く。

うん、骨に触れる事も出来ている、感覚もやんわりと伝わってくる。骨を直に触られるのって気持ち悪い、嫌な振動…

問題があるとすれば、徐々に自分の体の感覚が朧気になっていく…境界線を失いつつある。これ以上、意識を液体に溶け込ますのは良くない、目を瞑って感覚を辿る。

背中の皮膚を引っ張られている様な感覚を頼りに自分の肉体へと戻り、恐る恐る目を開け、視界に映る映像を見て安堵する。

ぱしゃっと、液体から手をぬき、ハンカチで液体をふき取ると

「っぷわ…」

全身から滝のように汗が湧き出てくる…はぁ、毎度のことながら、独りでダイブすると、目を開けるのが一番怖い。

意識を肉体に戻したと思って、目を開けてみたらまだ、水槽の中だったときは、死を覚悟した…意識が返ってこれず液体に溶けていき、境界線を無くしてしまうと…

私の意識が溶け込んだスープが出来上がってしまう。

あの時は、お母さんがセーフティーとして機能してくれていたから、私のスープが出来上がることなく、事なきを得たんだけど…


今回は、命綱が無い…これもまた、問題の一つ、独りで浸透水式をするのはリスクが高すぎるって部分。

陣の中に非常事態となったら、強引に肉体へと意識を引き戻す術式を埋め込みたいんだけど、今だ、完成していない。

残滓にお願いして、保険になってほしいけれど、私の意識が消えたら、喜んで肉体の主導権を奪いに来るだろう…誰が渡すか!今代の私は私だ!!


…なら、残滓にお願いして、術式を担当してもらった方が良いのかもしれない…失敗しても、未来の私が過去の私に送った情報をロストするだけ。

今となっては、全ての情報を得ているであろうから、ロストしたところで問題はない。


残滓にお願いしても、誰も返事を返さない…

体の主導権を握りたいってことね…虎視眈々と狙われてますわ、私の体。


…やっぱり、お母さんを説得するしか、道は残されていない。

どうやって説得すればよいのか考えるが全てにおいて鬼の形相となり怒られる展開しか読めきれず、背筋が凍り付きそうになる。


唐突に、ふわぁっと意識が飛びそうになる、眩暈がして床に倒れそうになる。

床からの衝撃に備えて目を瞑る…だけど、床からの衝撃が頭を揺らすことは無く、暖かく柔らかい衝撃しか伝わってこない。


ゆっくりと目を開けると


「貧血か?辛いのなら部屋で横になったらどうだ?」

腕の中へと抱きしめられる形で勇気くんが私を受け止めてくれている。

まだまだ、細い胸板だって思っていたけれど抱きしめられると分かる、訓練によって徐々に筋肉が肥大し、引き締まっていっているのを。

男らしくなっていってる、彼女が彼へと変わって、まだ、二日?一日?ってくらいなのに、こんなにも変化が起きるなんて、驚きだよね。

不思議と、落ち着く…離れて大丈夫だよって言いたいけれど、まだ、視界が滲んでいるし、回っている。暫く抱きしめていてもらいたい、硬い床で寝るよりか、ましだもんね。

「話せないほどか…部屋に連れて行こうか?」

ゆっくりと首を横に振る、おでこが胸板に当たっているので動きでわかってくれるはず。

「NOっということかな、ならば、致し方ない、しばし腕の中で休め」

ゆっくりと首を縦に振る、彼の心音が聞こえてくる、凄く落ち着いた一定のリズム…落ち着く。


世界がぐるぐると回り、音が遠のく感覚が落ち着くまで優しく抱きしめてもらう。

小さな子供がお父さんにあやされるみたいに…腕の中で安らかに休ませてもらう。


ふわぁっとした、浮遊感、そんな感覚も無くなり、視界が回るような感覚も無い、音は…周囲で稼働している魔道具の振動音がちゃんと聞こえる。

うん、問題なさそう、胸を指先でちょんちょんっと叩くと

「落ち着いたか?」

こくりと頷くと、ゆっくりと立ち上がらせてもらう

「っと、まだ大丈夫じゃないじゃないか」

しかし、私の体は力が入っていないみたいで、上手く立てなかった。

見上げると心配そうな顔で此方を見つめてくれる綺麗な顔立ちの男性、ん~む、こんな至近距離でその美貌は反則だっての…

はぁ、なんだろう、気持ちが上がらない、やる気が…ぁぁ、そうか、魔力だ、たったあれだけで消耗し過ぎたってこと?


ほんっと、この体は何をするにしてもダメ、直ぐに問題が発生する。


「どうする?気まずいだろうが病棟へ連れて行こうか?」

その気まずいってやつは勇気くんも含まれているでしょ?出来れば行きたくないって伝わってきてるよ?


『魔力を貰え』


ん?…ぁぁ、そっか、勇気くんって魔力譲渡できるんだね。ありがとう残滓。

抱きしめる為に私の腰に彼の手がある、その手をとんとんっと叩いて

「これね、魔力が無くて、こうなってるんだ。だから」

「わかった、魔力を渡せばよいのだな。ユキ、これも経験だ魔力の流れを感じとってみなさい」

言葉が言い終わると同時に、魔力が流れ込んでくるような感覚がある。不思議、本当に不思議な感覚。

彼が使う方法と、私達が扱う方法は違うのだろうか?お母さんは力強くこじ開けられる様な感覚なのに、彼からの魔力は、染み込んでいくかのような…病気の時に飲む白湯のような、そんな風に優しいと感じてしまう何かがある。


…どうして、彼はここまで魔力の扱いが、卓越しているのだろうか?彼は…始祖様が生きた世界よりも前の人、魔力が無い時代の人…どうして?


一瞬だけ、残滓が視線を送ってきたような気がした。


体に魔力が満たされていくと、少しずつ気分も良くなってくる。変な不安感も消えていく。

…うん!思考も正常になってきているのがわかる!まったく、魔力切れってやつはほんっと、メンドクサイ!


「ありがとう!動ける!」

添えられた腰の手がゆっくりと離される、地面に接している足に力を込めて立ち上がる、うん、いける、問題なし。

ぐぐっと背筋を伸ばしてから、後片付けをするために水槽の近くに行く。

一度使った浸透液は色々と成分が変化して使い物にならなくなる。

再利用できたらいいんだけど、まだ、その技術は完成していない、試行回数が少ないからサンプルが少ないって言うのもあるし、優先順位が低いから進めていない。


液体を片付けようとしたら

「先ほども何か集中していたみたいだが、それは…なんだ?」

興味があるみたいで一緒に付いて来ている。

そういえば、これは、私が、この!研究ばかり押し付けられた私が!実用段階まで!完成させることが出来た品物だったね!!

他の残滓共では辿りつけなかった域!マウントを取らんばかりに、優雅に高説を垂れ流す。


…小さな声で、完成したっていうけれど、実用できるギリギリの段階じゃんってツッコミが聞こえてきたけれど無視する。





「ってなわけで、ベースとなっている液体は敵の体液、それを幾重と濾過したり、成分を抽出したり、徹底的に変化させて、性質を調整するために錬金させて、生み出した液体!」

おお~っと歓声と共にパチパチと拍手で説明会が締めくくられる。なんだろう?この高揚感?なんだろう、このプライド高い奴らを屈服させるような感覚?残滓共がハンカチを噛んでこっちを睨んでいるのがよ~っく…っへっと笑みが零れてしまいそうな程に気持ちがよい景色が見えるぜ!

「なるほどな、やつらの体液は魔力を良く通すからな、理には適っている。発想力が凄いんだな君は」

その美貌でそんな素直に褒めないでよ~、照れちゃうじゃん、まっすぐみれねぇ、笑顔が眩しいな、でへへ。

…っま、培養液を作る過程で生まれた副産物なんですけどね、あの魔女が残した罠に惑わされて辿り着いた失敗作なんだけどね。


何でも、スライムを作る為の素材がこの液体らしい、この液体をベースとして魂を疑似的に用意して、魂をこの液体に溶かして、思考を魔術によって上書きしてスライムを産み出す。らしい…魔女は何の目的でスライムなんて造ってたんだろうね?まぁ、どうでもいいか。


私にはその技術の域に迄、到達できる気もしないし、スライムなんて造ったところで役に立つとは思えれない。


幸いにして、培養液を作り出す途中で、浸透水式用の溶液へと方向を途中で変えることも出来るって事かなー?ただー…培養液を作る液体はまだ素材的に作りやすいけれど、これは、ほんっとコストがかかり過ぎる。手に入りにくい素材ばっかり必要なんだよね。

まさか、培養液を目指して研究を重ねていたら応用編を先に完成させてしまったって感じかな?魔女からすると培養液はスライムの元液よりもずっと手前だったってわけ。


費用も高くつくし、手間も物凄く…

そんな高級品で造り出したスライムが何の役にも立たない雑魚って…そのお金で剣でも作った方が万倍も役に立つってね!

浸透水式へと転用が聞かなかったらガチで切腹レベルの大失敗だったんだよなぁ…


ストレートに褒められて照れている間も、目の前の彼は私が説明した使用例を反芻しては、驚いている。

「これがあれば、折れた骨を綺麗に繋ぐことが出来るし、外部からの強烈な衝撃で切れてしまった血管、本来であれば皮膚を切っちゃうと出血死しかねない内出血も、皮膚を割くことなく縫合することが出来るので、出血死っという危険を回避できる、のか…なるほど、説明を受ければ受ける程、素晴らしい。これが俺の時代にあれば、聖女様が四方八方を飛び回る事も無かった、救える命も多かっただろうに…これは確かに…新しい医療の形だ…」

ぁ、それは、でへへ、演説きいてたのー?やだなーもう。照れんじゃん。褒めんなって、もう、気持ちがいいなぁもうでへへ。

「浸透水式っというやつは、俺でも扱えたりしないか?習得は難しいのか?」

真剣な顔でこっちを見つめんなって、照れんじゃんっつってね!

ぬふー悪い気がしない!本当なら時間の無駄になるとわかりきってるから?興味程度でご教授なんて?しませんけど?

そんなにも、真剣な顔に声で興味がおありな感じだとね?断りづらいなぁ。いいよ、レクチャーしてあげようっかな~。

まぁ、万が一?勇気くんが術に適性があれば?凄く助かるんだけど、そうそう簡単に



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