Dead End ユUキ・サクラ (2)
そして、次の日から、勇気くんが表に出て活動を開始することになった。
表に出てから何か変わったこと、困ったことがあれば、夜にここにくれば、私が居るから遠慮しないで相談してねっと昨日の夜に伝えているので問題はないだろう。
問題があるとすれば…この状況だ…
「いやよ」
両腕を組んで、眉間に大きな皺を作って、怒りを顕わにしている人物の説得だ…
この人の協力無くして、この先は無い。
何とか説得したいんだけど、首を縦に振ってくれそうにない。
ちらっと上目遣いで表情をもう一度見るが、心臓が怖い!って叫ぶかのようにバクバクと鳴り響く。
直視するのが怖すぎて…怒った顔が怖すぎて、真っすぐ相手を見ることが出来ない、自然と頭を下げるようにして視線も気が付けば床に釘付けだよぉ…
「どうしても?」
「いやに決まってるでしょ!!絶対に嫌!協力できない!!出来るわけがない!正気で言ってるの?本気で言ってるの?こうなるとわかっていたでしょ?」
勇気をきゅっと固めて振り絞って声を出したって言うのに、間髪入れずに怒号が飛んでくる、ぅぅぅ、怖いよぉ、そうだよね、私も多少、覚悟を決めていたけれど、嫌われたくない人に嫌われるような事を言うのは辛い…っていうか、単純に目の前の人の表情が怖い。
「わかってるよぉ…だから…こうなるとわかっていたから、心が辛くなったから!耐え切れなくなっちゃったから甘えに行ったの!」
「いやな予感はしたわよ!何しでかそうとしているのか!想像以上よ!こ、こんな!こんなのって!!予想だにしてなかったわよ!なにこれ!?こんなこと…こんなこと!!!貴女を愛する私が許すわけないでしょ!!!」
めちゃくちゃ、キレてる…こんなお母さん見たことない、叔母様助けて…何とか内側からお母さんを宥めてくれない?
恐る恐る、視線を怒っている人物に向けると、目が完全に座っている…奥にいるであろう叔母様に向けて願いを飛ばすが、返事が返ってくるわけもなく…
下手人が法の裁きを受ける時ってこんな感じなのかもしれないってくらい、周囲に漂う空気、威圧感は高まっている。
その行いは正しくない、お前の中では正義かもしれないが、法はお前を許すわけにはいかないっと、言わんばかりの強烈な相手を否定する圧を感じる。
ぅぅぅ、誰でも良いから助けて欲しい…
残滓に助けを呼び掛けるが、誰も返事をしない!こういう時は全力で逃げるよね!普段は文句ばっかり言うくせにさ!!
どうやったら切り抜けられるか指示出してみろよ!指示出してくれよぉ!助け船を!逃げる為の口実を考えてよぉ!!
正直に言うと、もっと理詰めでしっかりと下地を用意してからYESとしか言えない状況になってから声を掛ければよかったとめっちゃ後悔してる!
なんとかなるっしょ?まっすぐ行った方が効率的じゃない?お母さんなら納得してくれるっしょ?…考えが甘かった、普通に考えればわかることじゃん!絶対に反対されるって!
…ちょっと、自暴自棄になりすぎていたのかもしれない、もう、犠牲になるつもりでいたから、私が死ぬことなんてどうでもいいやって感覚で動きすぎた。
私が良しとしても、私の事を大事にしてくれている人は絶対に良しと言わないって…わかりきっていたのに…
でも、これを逃すと、作業開始時間が遅れに遅れる…そんなの時間の無駄じゃん、どう足掻いても、私が犠牲になる未来は…決まってるんだから
これ以上、時間を無駄にするのもっという焦りも感じ始めているので短期決戦、強引に話を進めようと正面からぶつかる覚悟を体の奥にねじ込む。
ぐっと、お腹に力を入れ、ぐっと、奥歯を噛み締め、視線を前に向けた瞬間…体の奥にねじ込んだと思った覚悟が吹っ飛んでいった…
「…っぴ…」
変な声が喉の奥から漏れてすぐに、横を向いてしまった。鬼だ…鬼が居る…
でも、ここで、ここでぇ。ひくわけにも、いかないんだよぉ~…もう、そういう設備も前準備も出来上がっちまってんだよぉ…
何処かの世界で絶対にしないといけないんだよぉ…そうしないと、もっともっと…数多くの私が死ぬ世界線が生まれちまう。
視線を横に向けながら何とか声を出す
「ぉ、かぁさん、だって、わか、理解してる…でしょ?こ、これが必要なのって」
「わかるわけないでしょ!!」
バンっと大きな音が地面から伝わってくるほどに…怒りに任せた足踏みが聞こえ、つい、その音がした方に視線を向けてしまったのがいけなかった。
鬼の形相を真正面から見てしまった私は恐怖のあまり
「おかあさんのばかー!」
走って逃げてしまった…
「っとまぁ、こんな状況になりまして…」
大きな試験管に浮かんでいる肉片の状態を眺めるように観察しながら、情けない声で、近くで荷物を整理してくれている人に昼間の出来事を報告をすると
「君は、俺の事を馬鹿にしておいて…無策にもほどがないか?」
呆れた声が返ってくる、はい、ごもっともです。
「だぁってぇ!お母さんなら、わかって…わかってくれると思ってたもん!」
はぁぁ~~っと昼間の事を思い出し、あの見た事も無い形相を思い出してしまい、震えるような溜息を吐き溢してしまう。
「彼女であれば、確かに理解はしてくれよう、だがな、母の愛と言うのは深いものだ…愛する娘が人生を犠牲にするからその準備を手伝って、なんてな…同意できるわけもないっと君ならすぐにでもその答えに辿り着くだろう?」
ぅぐー、そうだよ、お母さんは絶対に反対するってわかってたもん、だから、なんかあるんだろうなってかる~く匂わせてから、怒られるとわかっていても、声を掛けに行った、つまりは、それしか道が残されていない、覚悟を決めてお願いに来たんだって!問答無用で受け止めてくれると思ったの!!
無策じゃないもん!!ちゃんと軽くジャブは打った!響かなかっただけだもん!!
「ねぇ~、ユキさんならどうやって、お母さんを説得するー?っていうか、この街に志願するときに反対されなかったの?」
「っわ!?ぇ、急に表に出さないでよお兄ちゃん!びっくりするでしょ!」
後ろの方から驚いた声と共に、女性らしい柔らかい雰囲気の声が聞こえてくる、試しに振ってみたら、まさか、そんな瞬時に切り替えできるとは思っていなかった。
悪い事をしちゃったかも?出てくるなんて思っても無かったから。
「私の時はお父さんの敵討ちがしたい、お母さんを悲しませたやつを許せないからって話したら、頷いてくれたよ?」
なるほど、敵討ちっか、この恨みを晴らすまで復讐の灯は消えず、他のことなぞ些末!!っか、なるほどなるほど!いいじゃん!そっちで行くべきだったかな?
今までの恨みを晴らす為にこの身を犠牲にしてでも打って出る!ってくらいの熱い血潮をぶつけたら涙を流して肩を組んでくれたかな?
夕日に向かって走り出せれたかな?
『君が抱くイメージを穢して悪いのだが、少々理解できない、彼女はそういうタイプの人ではないだろう?冷静に諭されるのが見えているぞ?』
ぅっわ!?勝手に私の思考を覗き込まないでよ!!油断ならないなーもう!部屋に入ってくるときはノックしてって言ったよね?お父さん!?
『ぁー…ぉほん、すまない、以後気を付けよう』
偉そうなカイゼル髭を触りながら後ろ手を組んで佇んでいるロマンスの香りがするおじ様のイメージが伝わってくる。
気を付けてくれるのなら、許す!…っで、前に出てきたってことは何かよい策が思い浮かんだって事でしょ?期待してもいいよね?
『・・・』
そこで、黙るの反則じゃない?
「姫様でも、困ることってあるんだね、おっと、あるんですね」
部屋の片づけを勇気くんから引き継いでせっせと、働きながらも声を掛けてくれる、敬語いらないよ?
「ぇー、っでも、立場上、私は、その、ほら?ん~…」
以外と上下関係がしっかりとしている人だよね。教育が厳しかったんだろうね。
「いいよ、気にしないで、慣れてきたら普通に…その、友達みたいに…接してくれると嬉しい・・・かな」
こういう言葉っていった事が無いからすっごく気恥ずかしい!みんなってどうやって友達って作っていったんだろう?みんな、こんな感じのをしてきたのかな?
「ぁ、ぅ…うん、宜しくね、姫様!」
へへへっと鼻の下を指でこすってしまいそうになるくらい、気恥ずかしいや。
その後も、ユキさんの幼い時の話を聞いてみたり、私が幼い頃の話をしたり、お互いの父親から感じてた不満を愚痴りあったり、普通の…本当に、普通の友達のように会話を楽しみながら、研究を進めれることが出来た。
辛いことがあっても、こうやって気兼ねなく相談出来たり、誰かと話が出来るのって、こんなにも心が軽くなるんだと…知らなかった。
夜の九時辺りを過ぎると、ユキさんたちは、自室へと帰っていった、ベテランさんの訓練が厳しく体の疲労を少しでも明日に残さないためにしっかりと休みたいと言われたので解散となった。
独り、静かになった研究室にぽつんといると、涙が出てきそうになる。
そっか、楽しさを、人の温もりを知ってしまうと孤独感も感じやすくなるんだ…
ごしごしと目から出てくる水を拭ってから、研究を再開させる。
少しでも、少しでも早く、研究を終わらせたいから、その為には、思考超加速は必須、常に常時、発動できる環境を整えないと…
その為にも、お母さんの協力が必須。私独りで準備を終わらせれない事も無いけれど…
リスクを考えると、出来ない。
小さな隙間時間を計算に回しつつ、どうやって、鬼を説得すればいいのか、色々と案を、策を考案していく。
医療の父を味方につける
└絶対に無理、内容を伝えたら反対されるのはわかってる。
医療の父の奥様を先に説得する
└今何を研究しているのか開示しないといけない、全てを伝えると絶対に興味を持つ。あの人も此方の研究に足を踏み込むのは避けたい、研究塔を管理する人がいなくなる。
他に説得できそうな人ー…女将は無理だな、私の深い事情を知らないから表面だけ説明しちゃうと完全にどう足掻いてもお母さん側につく。
此方の事情を知っていて、説得が出来そうでお母さんの心に刺さりそうな人…やっぱりどう考えても、勇気くんか、ユキさんだろうなぁ…
二人にお願いしておけばよかったかも?それとなく、お母さんの様子を見て、話を聞いて、思考を誘導してもらえないかって。
会話が楽し過ぎて、ついつい、先の事を考えるってことを放棄しちゃったや。
はぁ~私ってやつは、ダメダメだな~…
その日の夜は溜息が時計の針が動く音よりも多く地下室を響き渡らせていた。




