Dead End ユ キ・サクラ (100)
ふと思い出す、大昔の生贄だとか、魔女狩りだとかの怖い話…ぁ、王族なら当然、知ってそう。呪い師っていう職業があるくらいだもん、概念くらいありそうだ。
「…たまに、夢の中で誰かと遊んでたような夢をみることがある。不思議と、その夢をみた次の日は体の調子が良かったりした、だから、私としては良い夢をみたのだと、それくらいの感覚だったけれど…それは、貴方が見せてくれていたの?」
『そうだ、正確には俺が全ての舞台を用意したわけじゃない、ユキの体には、俺とユキ、その他にも名も無き子供達が複数名いる。見せただろう?俺達がどの様な存在なのか…』
恐らく、魂の同調で見せられた不幸な結末を思い出してしまったのだろう。辛そうな表情をしている。
「あれは…幻とかじゃない、現実味が、リアリティがあった、実際に起こった出来事だと、感じてしまう。アレが現実ではないって軽々しく否定できない。それじゃ、その…見せてもらった出来事、全てが正しいってこと、だよね?」
うん。この流れだと、私は置いてけぼりになりそうな予感!
これは、黙って二人のやり取りを見守ろう、私の出番はもっともっと後!私の出番ってやつは、培養液で何が出来るようになるのか、ユキさんに伝えるだけだもん。
出番が来るのを見守るってのは、いいんだけどさ…
二人だけの世界が始まって、完全に私の事を忘れて会話し始める。
予感が的中したって感じ、こりゃぁ暫くの間、私の出番は無いのだろう!
っであれば、こういった隙間時間がもったいない!っと、判断したので、すぐ近くに置いてある資料を手に取って軽く演算を開始する。
二人の会話は長くなりそうだし、じっとしているなんて、非効率的!
現実世界でって言うのも何か語弊がありそうだけど、本来であれば交わることのない二人の会話だものね。長くなるのは当然だよね。
ユキさんからすれば知ってるようで知らない他人。勇気くんからすれば長年見守り続けてきた妹のような存在。
うわぁ…なんか、二人の間にある温度差が凄そう…
そんな二人の間に入るなんて、無駄な時間、付き合ってらんな~い、私はパース!
そもそも、私だって、二人と知り合って間もない赤の他人だもん、何をどうサポートすればいいのかわかんない。
こういった状況を整理する能力は私にはない!そんな経験した事も無い!お母さんみたいに場を繋いだり取りなしたりなんて出来るわけもな~い。
だから…これでいいの。私が居ない方が、二人も遠慮なく、対話ができるでしょ?
そりゃぁ、赤の他人だっていっても、気になる二人のことを知る良い機会だから、時間の無駄ってわけじゃないけれどさ…
この状況で~、あの二人にとって私は必要なのかって冷静に考えるとなると~、今は不必要だと思うっていうか、お邪魔じゃん?
そーいうわけで、私には私にしか出来ないことを効率的に進めよう!
…他人がどうなろうが知ったことじゃない、もん。それでいい、この先の未来を考えると、変に深い情が湧いてしまうと…決めた覚悟が揺らいでしまうかもしれない、から、ね。
覚悟にゆらめきを感じさせないために、作業に没頭しよう。私の未来はもう、決まっているのだから。
培養液に入れて培養している物質の経過観察ノートを確認したり、中身を取り出した臓器が正常に動いているのか疑似血管に繋いで反応を見たりやることは山積み。
その最中も、ふいに聞こえてくる会話。っていうか、一方通行の声!聞かないようにしようとしているってのに!!聞こえてくる!!強制的にね!!
困ったことに勇気くんの声って、音じゃないから、頭に響くんだよなぁ…
出力する範囲を定められないのか、現状が最小なのか、実は調整できない、そういった理由なのかさぁ、わかんないけどさぁ、意識を逸らしたいのに、頭に響いてくる…うるさい…
盗み聞きしてるような気分にもなってくるし、会話の内容が片方だけでも聞こえてしまうと、何となく察してしまうじゃん?
人様の家庭の事情に首を突っ込みたくないんだけどなぁ…
プライベートって言葉しってる?って言いたくなる内容ばっかりなんだけどー?
そんな内容がさ、否応なしに頭に入ってくるのは如何なものかと?こんなにも赤裸々にしていいの?って、くらい、ユキさんが幼い時に何をしていたのかっていう情報が入ってくる。
思い出話はさー、後日にしてくれないかなぁ…ちらっと時計を見る。うーん、ここに来てから20分も経過してるんだけどぉ?
むむー…今まで静かな環境で独りで研究していたから、頭に響く声が気になって仕方がないんだけどぉ?
幸いにしてユキさんの声は遠くに居るからなのか、声が小さいからなのか、私にはあまり届かない、雑音として脳が認識しないからいいんだけどぉ?
勇気くーん?音量の範囲絞れますかー?
…返事がない。意識を此方に向けていないのか、此方の意識を読み取るのを放棄しているのか…
はぁ、もう、どうでもいいよー!この状況に慣れろってことねー!わかったよもう!だんだん、勇気くんの声がノイズに聞こえてきたぁ!うるっさいなぁもう!!
イライラしながら、研究を進めていく。少しでも意識を逸らさないと、勇気くんに怒鳴ってしまいそうになる。
苛立ちをぶつけるのは違うので、意識を研究に向けて集中させノイズが気にならないまで高めよう。
まず、現状を一旦、把握しよう。
研究そのものは、完成したって言っても問題ない、問題では無いんだけど、課題がある。
・培養に必要な時間の短縮
└未来の残滓が求めるスピードは、現時点では不可能!
大量生産であれば、器具を増やせばいいだけなんだけど、一つを早くってなると無理
・必要な素材を減らして無駄をなくす、最小で最大効果を得る
┗物資だって無限じゃない、貴重な素材を無駄にしない為には必要
・技術の転用
┗浸透水式っという、新しい術式が生まれつつある、っていうか、これもまた、あの悪魔みたいな魔女が遺した手記から転用っというか
うん、参考にしたが正解かな?それをより安全に、より効率的に…ある程度、私は扱えれるけれど、これを他の人でも
ある程度、気軽にできるようにしないといけない、お母さんも出来ることはできるけれどって感じだもんな。
これに必要な液体を精製するのがまーじで、とんでもねぇ金額だから、これを主体にして研究するのは今代では諦めた方がいいレベル
技術の確立だけで、その先については、何処かの私に託そう、まじで、無理
・技術の普及
┗新機軸の技術をどうやって、研究塔にいる皆に共有するのかって問題。
講義を開催したとしても、全員が理解する迄、何年いるんだって話
・施設をコンパクトにする
┗研究塔に押し込めるサイズにまで小さくしないといけない、出来れば、この地下室は私だけが自由に入れるようにしておきたい。
すぐ隣に重要な設備があるから、なんだけどね…ん~研究塔の地下に作っても良かったんだけど、いっそのこと、大規模な施設を地上に造っちゃおうかな?
予算は…次の私がどうにかして工面するでしょ?今代の私は、事業にあまり手を出していないから潤沢な予算はないんだよなぁ~。
・必要な魔力消費を下げる
┗これまじで、大事、指一本培養するだけで、どんだけ魔力を消費するんだってくらい効率が悪い。
理想としては、大規模な魔石ではなく、標準的というか、一般的っていうのも私達基準だしなぁ…
研究用魔石だと、だいたい、3人いれば満タンにチャージできる、よね?それを使い切るくらいで生成できるようにしたい。
それくらいの魔力で運用できるくらいには効率を向上させたい。
って感じかな?…冷静に課題を見直して得られた感想はただ一つ
はい!時間足らない!全てにおいて時間がたーりない!私という貴重な存在があと3人は欲しい!
今の状況で人体を錬成できるのかって?結論だけで言えば…出来ない事も無い。ただ、無理というか、無茶なだけ。手順などもすでに考案済み。
まず、一つの案として。
体のパーツを個々に分けて培養していき、出来上がったやつを繋げていって、一つの体を精製するって考え。
腕を精製する、指を精製するっといった風に個々の培養英気で個々のパーツを作ってやればできる。
臓器も同じように精製していけば何とかなる。
後は、浸透水式を使えば細かい部分を繋げれる、その為に術式の準備を終えた水槽に全部のパーツを放り込んで、組み立てるだけ。
ね?簡単でしょ?…いうだけならね。
ぇ?問題はないのかって?あるに決まってんだろ。
まず、個々で肉体を精製するとね、培養のタイミングを間違えると大きさが違ってくる。
左腕と右腕の長さが違うって状況になる。
5センチくらいなら誤差だと思うけれど、10センチ近く離れると誤差じゃなくない?ってなるんだよなぁ…
太さとかに関しては、最小限の大きさで出来上がるから、頑張って左右均等になるようにトレーニングして筋肉を増やしてもらえばいいんじゃないの?知らんけど。
臓器に関しては、まぁ、なんとかなるっしょ?カエルとか、鶏とか、豚とかだと問題なく出来たから、なんとかなるっしょ?
とっくの昔に、それは実験済み!そもそも、培養した臓器をどうやって交換したのかって話。
最初は、お母さんとお母さんの師匠で在り医療の父として名高いセレグさんにお願いしたけれど、一つ交換するだけで5時間?くらいかかったみたいで、二人がへっとへとになって実験とはいえ、これに付き合ってられないって感じだったから、手軽に私独りでも出来るようにしたいってことで、浸透水式を考案したんだよね。
んで、
カエルは、心臓を交換したけれど、ちゃんと1か月経過観察したけれど問題なく稼働していたから、次のカエルを捕まえてきてもらうついでに野に返してあげたよ。
鶏は、首から上を切って、培養したやつと交換するような感じで繋ぎ合わせてみた。
ちゃんと卵を産んで三か月生きたよ?死んだ理由も純粋にお肉として食べる予定だったからって理由なんだけどね。本当はもっと長く経過観察したかった。
だって…畜産の旦那から借りたやつだもん、生殺与奪の権利はあっちがもってるよ?
研究の為に一から育てる環境を作るのめんどくさいだもん!あるもん利用したほうが絶対に効率的じゃん?
豚は、内臓とか、骨とか、筋肉とか?全部試した!
交換した、つっても、こいつは、肺、こいつは、足って感じで一頭につき一か所って感じだけどね。複数個所は試していない。
…脳みそだけは交換してないんだよなぁ。




