Dead End ユ キ・サクラ (99)
冷蔵庫を開けると、コルクで蓋がされている瓶がある。それを見て思い出す。
そうだったそうだった!喉が渇いても良いように、葡萄ジュース送ってもらって冷蔵庫に入れてからすっかり忘れていた、まだ、開けてなかったんだった。
…二日前のだけれど、大丈夫だよね?冷やしてあるし。ルッタイさんとこに何日前に搬入されたのか知らないけれど、何とかなるっしょ?
ぽんっとコルクを抜くと、酸味のある香りがしたが…まぁ、葡萄だし?大丈夫!大丈夫!
カップに少し注いでから念のために、ティスティングをする為に、舌の上に少しだけ乗せてみる…うん!問題なし!葡萄ジュースとして普通の酸味!だと思う!
二つのカップにジュースを注いで、運ぶ。大貴族の人達が私がこうやって飲み物を運んでいるのを見たら、腰を抜かすんだろうなぁ。
っという、背景を考えてしまい、驚く貴族たちの顔を想像してしまい笑ってしまいそうになる。
笑ってしまいそうになるのを我慢しきれず、つい微笑みながら近寄ったのが功を制したのか、ユキさんも笑顔でカップを受け取り口に含むと
「ん!美味しい!」
ぱっと、花が咲いたような可愛らしい笑顔で喜んでくれる。その表情を見て、ああ、こういうのっていいなぁっと感じてしまう。
「よかった、遠慮しないで飲んでね」
つい、私もつられて笑顔になってしまう。
そうだよ、私が求めていた、友達とのやり取りってきっと、こういう感じなのだろうなぁ…
二人和やかに、お茶?会をする。っていっても、ユキさんがノンビリとジュースを飲むのを見守ってるってだけだけどね。
ユキさんの可愛らしい笑顔を肴にジュースを飲んでいると、ユキさんはジュースを飲み干したみたいで、ぽけっと、した感じで呆けている。
違う、落ち着いたから眠たいんだ、目をシパシパと、閉じたり開けたりしている。
そうだよね、ユキさんからすると過酷な訓練によって体が疲れているだろうからね。眠たいよね、出来るのなら寝かせてあげたい…
このまま、つぶらな瞳を閉じさせるようにあやしてソファーに寝かせてあげるのが良いのだと分かっていても!
そうしてあげるのが優しさだと分かっているけれども!ここに来た意味がなくなる!効率的に考えると今日のうちに話を進めたい!!
んね!勇気くん!
『…』
試しに振ってみたが、反応が無い…?常時私の心を覗き込んでいるわけではないってこと?
もう!話したいときに話せないのは不便だなぁ!非効率的!
心の中で盛大に溜息をついてから、ユキさんから空になったカップを受け取り、私とユキさんが使ったカップを机の上に置いてから、ユキさんの隣に座る
眠そうに舟をこぎ始めているので、そっと、太ももに手を当てて
「ねぇ、ユキちゃん、ううん、ユキさん、起きて、話がしたいの」
相手を委縮させないように寄り添うように声を何度も掛けると、呆けていたあどけない表情が変化していく、徐々に…徐々に…
五分も経過したころには、普段のユキさんへと表情が切り替わっているんだけど、困惑した表情になっていき、何故か、視線が泳いでる。
「…ぇ、ぁ、う…」
今の状況を理解したのか、困惑しながらも恥ずかしそうに頬を染めている。幼児退行してしまったのが恥ずかしかったのだろう。
「寝起きだから気にしなくていいよ」
慰めるように、私は気にしていないからねっと微笑むと
「ぅぐ、ひ、姫様、その、距離が近くない、です、か?ほら、僕って男、だよ?ううん、ですよ?」
っむ、そうだった、そっちの方で困惑していたってこともあるのね!こっちは事情を把握していても、其方さんはってやつだね…
こういった事情を会話で言うよりも、魂の同調で共有してくれていると思ったんですけど?そこんとこどうなのさ?ねぇ?勇気くんは、そういうの共有できなかったの?
『…』
だんまりだよ!都合が悪いとだんまりだよ!お父様もそうだった!都合が悪いと何も言わない!これだから、男ってやつは!これだから、お父さんってやつは!
頼りにならない人は放置放置!まったく…本当に子供を育てたの?って文句しか出てこない。
仕方がない、手間だけど、私が事情を知っていることを伝えよう。
「ユキさん」
太ももを撫でながら正面から顔を見つめると、気恥ずかしいのか目をそらしている。怒られると思っている感じかな?眉毛が八の字だ。
ぺちんっと軽く太ももを叩き
「知ってるから大丈夫、お兄さんから全部…本当は本人の口から教えてもらうのが一番なんだけど、聞かせてもらっていたんだ、ユキさんの心が女性だって」
八の字の眉毛が驚きの表情へとゆっくりと変わっていく
「え?…ぇぇ?お兄さん?」
お兄さんなんていないけど?っていう、声に出さなくても表情で伝わってくる。顔に出やすいなユキさんは。
「夢の中で、いなかった?子供達をまとめる大きなお兄さん」
「…なんで、知ってるの?」
瞬時に険しい顔つきになる。
警戒される段階に迄、強引に、踏み込み過ぎたか?でも、仕方がない、こればっかりは遠回りすると辿り着けそうにない。
たぶん、ユキさんとしては、夢の中の出来事なんて、誰にも言ったことのない話なのだろう。
土台は出来た、ここ!ここが一番!勇気くんの出番でしょ?論より証拠!!
「勇気くん!聞こえてるんでしょ?応えて」
ユキさんの奥にいるであろう人物に助けを求めると
『ああ、聞こえているとも…すまない、お化け扱いされるのは、その、なんだ、その、だ…少々、その、怖がらせるつもりはなくてだな…その』
震えている様な、言葉を出す事すら、躊躇ってしまっているかのような弱々しい声が聞こえてくる。
あーなる、なる。うんうん、娘に怖がられるのってお父さんとしては嫌だってことだね?いや、可愛い妹に嫌われたくない、の方が正確かな?
勇気くんって意外と度胸ないよね?誰かに嫌われるのが苦手な人?それとも、家族だけには嫌われたくない人?
『…』
だんまりは肯定だよ?
私も同じ意見だから別に悪い事じゃないよ。嫌われたくない人に嫌われるのは辛いもん。
「ねぇ?何処にいるの?あれ?何処を見回しても、私たち以外に、誰もいない気がする。何か不思議な魔道具でも使わっているの?…ですか?」
未だに状況が呑み込めていないのか、首を左右に動かしたり上下に動かしてから、私の後ろを見ようとしたりしている。
ふわふわと頭を動かさし続けているユキさんが、不思議そうに周囲にあるであろう何かを探して視線を躍らせている。
此処で直ぐに、探し物は何ですかって、テッテレーって、言ってみたいけれど、それは、私がしてはいけない。勇気くんが向き合う事。
「ん~。ネタばらしー!って言いたいけれど、それは、私が担当するのはおかしい、よね?お兄ちゃん♪」
ユキさんの奥にいる人物に首を傾げてからウィンクをすると
『姫君の言うとおりだとも、年頃の娘との接し方がわからない、情けない男だと嘲笑うがいい』
「あれ?また、聞こえる…どこからだろう?」
この流れはもういいから、ほらほら、早く進めなってー時間ないよ~?ケツカッチンだよ?
急かす様にパンパンっと手を叩くと、ユキさんは誰か呼んだの?やっぱり潜んでるんだっと囁くように独り言を言い。
急かされているのが分かっているお兄ちゃんは意を決して
『ユキ…俺の声が聞こえているだろう?聞き覚えは…ないか?』
どこだろー?っと、まだいないはずの誰かを探し続けている。
あれかな?声が聞こえていないっぽい?人を探すことに集中して聞こえてない、っとか?自由気ままだなこの人…空気読めないタイプの人だな。
『俺の姿を探すのは、よすんだ、問いかけに答えてくれユキ』
「は~い…何処にいるのか見つけたかったな、魔道具とか、かな?だとしたらわからないから、お手上げだね」
キョロキョロと周囲を未だに探しながら天井に向かって返事をし始める。
不思議な人、自由気ままでいて、されど、他人を尊重する…何をするのか読めないって言うのが、個人的に好きだなー、良い遊び相手になりそう!
「声に覚えは…ないようである、すっごく、何だろう?どう、表現したらいいんだろう?知らないはずなのに知ってる。知ってるはずなのに、知らない。こういうのってどう、言うんだろう?どう…」
ちらっと、こっちを見て助言を求めてきてる?意外と…胆が据わってらっしゃる。さらっと、上司である私を利用しようとするなんてね。
利用できるものは利用するたち?ふーん、いいね!気が合うじゃん。私も、同じ考えだよ。
さて、聡明な私が答えに応えて見せましょう。
知っているようで知らない、知らないはずなのに知ってる。既視感ってなると、デジャビュって言うんだけど、これは、違う、よね?
夢の中を他者が介入してコミュニケーションを図る、なんて、どう表現するんだろうね?胡蝶の夢?が、近いのかも?夢と現実の境目が無くなるってのが、そう、かな?
明確な答えが思い浮かばない為、視線をううん?っと右斜め上に移しながら、つい、眉をぐにゃぐにゃに変化させていると
「ぁ、姫様が悩むってことは、上手い例えが無いんだ、なら、別にいいや。賢い人が知らないのなら私が知るわけもないもんね…ないですよね。」
ふっふーんっと、自慢げにしてる。何を誇らしく感じているのだろうか?っていうか、こいつ、試したな!ずりー!意外と…狡賢いなユキさんって。
私が知っていれば教えてもらえるし、知らないのならそういった表現が無いってことになる。自分よりも賢い人が傍に居るのなら利用してやれってね。
うんうん、それくらい、狡賢くないと生きていけないから、いいんじゃない?
「なら、変にかっこつけなくてもいいよね。答えはYES、不思議と貴方の声を聞いても警戒心が警告してこない。素をさらけ出しても知っているから問題なし、逆に外行の態度をとったところで、私の素を知っているから気苦労、無駄なんじゃないかって、不思議とね、感じるよ?貴方は、僕の…ううん、私を守ってくれていたって。」
声の主が何処にいるのかわからないと諦めたのか、それとも、彼の存在を自身の上空に感じたのか、上を向いて声を出している。本能的に上に居るのだと悟ったのだろうか?
私も、勇気くんは何故か、上に浮遊しているか、ユキさんの後ろにいるようなイメージなんだよね。
『そうだ、俺は…君が…ユキが物心ついた時から、ユキの傍に居続けた、ユキの心っというと、少し不思議な感覚だな、正確には心には居座っていない、ユキの体に居座っているが正解か?つまりだ、ユキの体に共存する魂の一つだ。そして、俺と同じ境遇っと、言っていいのだろうか?正確にはわからない。その、夢の中で子供達と共に遊んだ記憶は無いか?』
行き成りドストレートに物事を伝えたせいか、ユキさんが口を開けて眉を八の字にしてから、首を軽く傾げる。
その反応は正しい、いきなりすぎて意味が分からないってなるよね。私も同じ状況だったら、そうなる。
そもそも、魂って概念、ユキさんが知っているのだろうか?
っていうか、勇気くんって意外と色んな表現しってるよね?王族だから?大昔は魂って概念があったのだろうか?




