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最前線  作者: TF
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Dead End ユ キ・サクラ (98)

懐かしい感覚を思い出していると声が聞こえてくる。

『コミュニケーションは、主に夢の中でのみ、だとしても…俺との付き合いは長い、何年も共に生きてきたのだから、記憶に残ってくれていると思っていたの、だが、所詮、夢は夢、泡沫の如き泡沫な泡っということなのだろう。残念なことに、起きれば覚める、忘れていくのだな…幾度となく、幾夜も幾夜も、子供達と共に遊んだ日々は失われているのか…』

どんどんと話せば話すほど声に張りが消えていく、ゆっくりと声がしんなりと…力弱くならないの!

まったくもう!情けないと思わないの?前世では、娘さん居たんでしょ?ちゃんと、親として接してきたの?関わってきたの?そんな直ぐに弱気になるなんて!偉そうにしてたけど、本当のとこは育児とか関わろうとせずに奥様に任せて、放置してたんでしょ?親としてちゃんと接してきたの?娘さんから慕われていたの?

『ぬ、っぐ、し、て…いたと…おも…い、たいです。慕われて…した…われて…い、る、と思いたいです…』

ほら!自信がない!偉そうに断言できていない!らしくないよ!国王様だったんでしょ?見え透いてるよ?

もう!ダメじゃん!人のことガール扱いしといてさ!自分も未熟じゃん!親として、大人としての威厳がどんどん、消えてるよ?私の中から!

『…何も言い返せない、俺の中にある自信が打ち砕かれた完膚なきまでに、すまない、今の俺では何を言ってもユキに響かないと思う。情けないと痛感している、お願いしても良いだろうか?娘の扱いは…あまりその…』

記憶にないんでしょ?お父さんってやつってさ、みんなそう!お父様もそうだったもの。仕方がないなぁ、淑女として!任せて!

小さく震えながらも私の体を掴んだ腕の力は緩まることがない…小さな子供をあやす様に頭を撫で優しく声を掛ける、実家の妹たちが怯えている時と同じように。

「大丈夫、心配しないの。お姉ちゃんが傍に居るからね。怖くない、怖くない」

何度も何度も、優しく声を掛け、頭を撫で、背中を撫でていると少しずつ腕に込められた力が抜けていく。

うんうん、私だってお母さんみたいに人の心の寄り添えるんだから、貴族らしく!大家族で育ってきたからね!妹弟のお世話には、慣れてますとも!


背中に回された手の力がゆっくりと抜け、怖くなくなったのか、視線を上げて、周りを見渡す始める、のだが…

「ここ、どこぉ?」

直ぐに表情が曇り、弱々しい声と共に、もう一度、腕が震え始める。


うん!失念していた!この地下室が余りにも殺風景っていうか、非日常すぎて見慣れないものだらけだよね!小さな子供からすれば今の状況なんてパニックを起こすのは当然だよね!


これ以上、混乱させないように、慎重に、優しく優しく、相手を落ち着かせるように声を整えて優しく頭を撫でながら語り掛ける。怖くないよってね。

「ここはね、お姉ちゃんの仕事場、ユキちゃんはお兄ちゃんと私と一緒にここに来たんだよ」

「…なんでぇ?」

絞られた声を出され、上目づかいで縋る様に潤んだ瞳で見詰められると、胸が締め付けられちゃう。抱きしめて守ってあげたくなっちゃう!!嗚呼、これが、母性ってやつか!?

母性がどういう物なのか感じ、その衝動に流されないように踏みとどまる、抱きしめてぇ…頭を撫でながら優しく慈愛を込めて微笑みを作る

「ちょっとした、用事でね。来たんだよ。ほら、痛いでし?何時までも、床に膝を付けてたら痛いでしょ?おいで、ソファーに座ろう、ね?立てる?」

ゆっくりと立ちあがろうとすると、小さく頷いて立ち上がってくれる。ユキさんって本当、言われたとおりにするよね?純情な感じが幼さを引き立ててくる。こういった顔は今まで誰にも見せてこなかったんだろうな、っていうのが勇気くんの態度で伝わってくる。

これ程までに抵抗することなく、わがまま言うことなく幼い時を過ごしてきたってことはさ、偉大なる戦士長は教育パパさんだったのかな?教育が厳しかったのかな?偉大なる戦士長ってさ、街の皆から聞く内容でイメージしていたのが、ほがらかでおおらかなイメージなんだけどな?

そこは、やっぱり、偉大なる戦士長が育った環境が大貴族だったから、かな?自分はそういう風に厳しく育てられたから、そうしたのかな?親として威厳ある態度で接していたのかな?ん~、そこんとこどうなの?勇気くん?


…返事が返ってこない。まぁいいか、知ったところでだもんね。


それよりも、今は目の前にいる人を落ち着かせてあげないとね。

立ち上がったユキさんの手を引いてソファーに座らせる。

今の状況がまだ、呑み込めていないのか、それとも、居心地が悪いのか、落ち着かないみたいで、小さく震えながら周囲を見渡している。


瞳も潤んだまま…うーん?恐怖心が薄れていない、そんなに怖いかな?この部屋?一緒にぐるりと見回してみる。


私としては、必要最低限って感じでさ、機能性に優れていて随所に迄、拘りぬいた設計。機能美として完璧で美しいって、感じるんだけどなぁ?

やりたくもない…こともない、出来れば、私以外の私に押し付けたい研究をするためにどうせならってことで、徹底的に拘って作った自慢の地下室なんだけどなぁ。


この美しさがわからないのは寂しいなって気持ちがあるけれど、どう感じるのかは人それぞれ、押し付ける気はない。

そんな事よりも、まずはね、震えている子供を安心させないといけないよね。

取り合えず、落ち着かせるために、何か飲み物でも用意してあげる…のが一番かな?


何かあったかな?ん~む、冷蔵庫に何か、あったかなー?思い出してみると、あった様な気がする。

果実ジュースの類だったら、あったような、無かったような?今の時刻が昼間だったらよかったんだけどなぁ…無かったとしてもさ、昼間なら食堂のおばちゃんにリクエストを直通の受け渡し口からオーダーするんだけど、残念なことに、今は夜!…確実に自室に戻って休んでるからいないだろうなぁ。


っとなると、茶葉とかなら、ある!ってことはだ、飲み物を要するってことは、私が沸かすってことになる…別にそういうのがしたくないってわけじゃない。独りの時とか自分で用意したりするから私だって問題なく淹れることはできるよ?

一応ね、ここって関係者以外立ち入り禁止にしてあるけれど、関係者であるお母さんとメイドちゃんは顔を出してくれるんだよね。

だから、紅茶とコーヒーは常備してある、あるんだけど…

直近で自分で淹れた記憶がない!!うん、淹れることはできるけどさ…半年に一回くらいしか自分で淹れないから、茶葉の保存具合を知らない。

マメなメイドちゃんが状態を悪くするなんて思わない、だから、たぶん、カビてないと思う…

メイドちゃんが定期的に交換してくれたり、お母さんが遊びに来た時に淹れてくれたりしてくれているから、たぶん、大丈夫…たぶん。


正直に言うと、茶葉の状態が悪いのかよいのか、ぱっと見で判断が出来ないんだよなぁ…

悩んでいたって仕方がない、行動あるのみ!時間は有限だ!特に私のはね!


ユキさんから離れようとすると、ぐっと背中を引っ張られてしまう…服を掴んできよったか。

振り返ると、今にも泣きそうになっているユキさんが震える腕で私の服を掴んでいる、こうなるとさ、子供って手を放してくれることってさ、そうそうないんだよね。


妹たちもそうだった、独りにされるのは心細いよね、ちょっとの距離でも離れられるのは怖いよね。ある程度、安心させないとね。

「大丈夫、お姉ちゃん、喉渇いたから飲み物取ってくるだけだから、ほら、ここからでも見えるでしょ?あそこの白い箱の中に飲み物があるから、それを取ってくるだけ、だから、大丈夫、それにさ、ユキちゃんも喉が渇いたでしょ?持ってきてあげるから、ね?」

微笑みを絶やすことなく、慈しむ心を忘れないで、相手を安心させるようにゆっくりと話しながら掴んだ腕を優しく撫でると

「ねぇ、ここ、怖い、悪の親玉が…悪い人が悪いことするために何かするとこでしょ?はやくでようよ」

以外と、落ち着いているみたいで、冷静に自分が感じていることを伝えてくれるんだけど…違和感を感じてしまう。


おっと?マッドなサイエンティストな雰囲気が伝わっている?

…何かの童話でこんな感じの部屋ってあったかな?


王都にある英雄譚とか、童話の本を長い事、取り寄せていないからなぁ…

もしかしたら、そういった新作の本が出回っているのかな?だとしたら、それは良い事だよね!人の想像する力が芽生えてきているのは良い事だ!

豊かになれば遊び道具も自然と生まれる!私も、遊べれる様になれたらよかったのになぁ…っと、いけない、今はユキさんに集中しないとね。

「そんな事ないよ、ここはね、怪我した人を治す為に必要なものを研究している場所。悪い事なんて何もない。明日を諦めない為の研究をしている、お姉ちゃんの仕事場だよ。悪い人はいない。だから、ね?安心してね」

掴んだ手のひらを私の頬に当てさせ、私の空いている片方の手を伸ばして、ユキさんの頬に触れる。すべすべしているお肌、どんな手入れをしているのだろうか?

「そう、なの?」

信用してくれたのか、声の震えと、体の震えが落ち着いていく。

よかったよかった、聞き分けが良い子で。ふぅっと心の中で安堵の吐息が漏れる。

「そうだよ、怪我した人を治す為にね、必要な研究をしているの、お姉ちゃんね。こう見えて研究者!人々を治す為に頑張ってるんだよ?」

「…ぁ、本当だ…白いシャツがある」

ん?白いシャツ?なんぞやっと、視線の先を見ると、薬品が直肌につかないようにする為に用意してある白衣が壁にかけられている。

…白衣って概念、ユキさん、知っているの?…あー、服飾関係のお仕事を実家でされていらっしゃるから、知って…いるかな?白衣を発注したのは一度や二度じゃないし、似たようなものは昔から作られているもんなぁ…

「そうだよ、お姉ちゃんはあれを着て、頑張ってるんだよー」

壁にかけてある、白衣を指さして微笑むと

「それじゃ、お姉ちゃんってお医者さんなんだね!」

屈託のない笑顔で返される?どうして?微笑みを返してきたっていう感じではない?なんだろう?

この笑顔は私ではなくその向こう…私の知らない信頼関係が構築されている?何だろう?医者に対して絶対的な信頼を寄せている感じがする?


平民の人って医者にかかる余裕なんて、ない、気がするんだけど?ユキさんとこは、お医者さんと繋がりが、ある?


…ん~まぁ、お母さんと戦士長の関係をユキさんも知っていれば、医療関係の人に対して良いイメージを持っていても不思議ではない、か?

それに、戦士長の実家が実家だもんなぁ、病気したと知れば医者位すぐに手配するか。


此方をつぶらな瞳で見詰めてくるので嘘では無いけれど、真実でもない嘘をつく

「そうだよ、お医者さんだよ~」

笑顔で本当のような嘘をつく、正確には私ってさ、医者では無いけれど、医療の知識もあるし、治癒の術式も扱えれるから医者として活動しようと思えば出来る。

だから、嘘ではないが、本当でもない。医者として活動しても問題ない教養はあるけれど、それを主軸としていないってだけ。嘘ではない。

「だからね、大丈夫。落ち着いた?」

こくりと、頷く。震えた様子も無いので、離れても大丈夫そうかな?

ゆっくりと離れると、掴まれることなく手を放してくれる、ちょっと待っててねっと微笑みながら離れ、冷蔵庫へ向かう。


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