Dead End ユ キ・サクラ (97)
「…これは、圧巻だな…俺の知らない世界すぎて眩暈がする」
何度も何度も、視線を往復させてこの部屋にあるモノ全てを眺めているので、もっともっと、感想を述べて欲しい、感動して欲しい、異質な空間を楽しんでほしい!っという、遊び心が止められなくなってしまい、手を引っ張って、魔道具の数々を説明するためのツアーを開催した。
一周して出てきた感想が
「君の頭脳はまさに大陸で1番なのだろうなぁ…俺では一生、何度だろうと人生をやり直したとしても辿りつけない境地、凄かったとしか、言葉が出てこない。」
最高の誉め言葉で締めくくられました!…道中で一つだけ、説明しずらいモノがあったので、そこはスルーしてもらったけどね!
用意した道具一式を、この目で全ての事情を知ってから見ると、使うんだよなぁって再認識させられてしまい、溜息が心の中で漏れ出てくる。
はぁ、用意したのは良いけれど、本当に使う日がくるなんてなぁ…お母さんに協力してセットしないといけないって考えると…心が折れそう…お母さん、絶対に反対するもん。やだなぁ、お母さん泣くだろうなぁ…
近々行われる家族会議をどうやって説得すればいいのかって悩みが浮上してきていると肩をぽんっと優しく触れられ
「ありがとう、これだけの材料があればユキを説得できる…説明してもらったばっかりで、二度手間になるのが、申し訳ないのだが、ユキにもう一度、説明をしてあげて欲しい」
彼が目を閉じた瞬間に、中性的な雰囲気、男の人っぽい感覚が抜け出ていく…
暫くの間、彼の目が開かれるのを待ち続ける…次に目が開かれる時は彼女かな?
ゆっくりと目が開かれ、ぼんやりとした感じが伝わってくるくらい寝ぼけたようにはふぅっとあくびをしたり、視線を彷徨わせてから
「…どこ?ぇ?あれ?」
っと、状況を読み込めてきたのか、驚いた表情で周囲を見回しているので
「おはよう、ユキさん」
声を掛けると更に驚いたのか一瞬だけ飛び跳ねるように離れられてしまう。
そりゃ、驚くよね、見たことのない場所でまだ夢の中?って思ってしまうような状況で見知った人物に声をかけられたら
それも寝起きでね。
「っば!?っは!?っど、・・・え?」
驚きすぎたのか心臓に手を当てながら座り込んでしまう。
勇気くんと違ってオーバーリアクション、うんうん、年相応って感じがして、驚かせがいがある、いいなぁ、こういうおもちゃ欲しいなぁ。
「はいはい、深呼吸して深呼吸」
座り込んだユキさんと同じように私も姿勢をかがめて声を掛けると言われたとおりに深呼吸をしてくれる。
…ユキさんは何処でも、どんな時でもユキさんだ、人の言われたことを素直に実行してくれる。
未来の残滓が、感慨深く出てこないで、今代の私は私だから…って跳ね除けたいけれど、感傷に浸るのは致しかた、ない…かな?
ユキさんが幾度となく深呼吸をして、驚いた表情となり、落ち着きを取り戻していく。
美しい顔立ちにあどけない仕草、これで体も女性だったら、多くの貴族が魅了されて…血筋を考えると王女にでも祭り上げられてしまっていたかもしれない。
っという、危険な未来を感じてしまう。
「おは、よう…ございます。ひ、ひめさ、ま?」
状況が理解できつつあるみたい、これが夢ではなく現実だと徐々に実感が湧いて来てるのだろう。
リアルな夢をみていたら、今も夢かと思ってしまう程に非現実的な空間だよね、ここって。
「はい、おはよう。目が覚めてきてくれたかな?新兵のユキさん」
ぱんぱんっと膝に着いた地面の汚れをはたきながら立ち上がると、ユキさんも倣ってゆっくりと立ち上がり、もう一度、ココが何処なのだろうか周囲を見回していると
唐突に頭に手をやり、右目を瞑る、何かの痛みでも発生した?大丈夫?顔を覗き込む
「・・・・」
頭に手を当てながら、視線を彷徨わせることは無く、何処を見ているのか焦点があっていない?瞳孔に乱れが生じている?視界のピントが合わせれていない?大丈夫かな?ソファーに連れて行った方がいいかな?
手を繋いでソファーへ誘導しようとしたら大粒の涙が滝のように溢れ出て、そのまま、がくんっと膝をつき地面に伏せてしまう。
ごめんね、私の腕力だと支えきれなかった。
唐突な状況、私はこういう状況に陥ったことがあるから、わかる。
…もしや、勇気くん、未来で起きた出来事、ユキさんに垂れ流す様に強制的に共有したんじゃなかろうな?
精神が育ちきっていない人にその仕打ちは酷過ぎるよ?大丈夫?過酷すぎやしないかい?
床を何度もバンバンっと叩きながら小さく丸まってしまった猫のような姿勢の女性から、この世の終わりのような嗚咽が鳴りやまない目覚ましのように鳴り響き…狭い地下室が彼女から溢れ出る感情で埋め尽くされていく。
その姿を見て私自身も、いたたまれなくなってしまい、何故か申し訳ない気持ちへと染まっていく。
勇気くんは、ほんっと、ほんっとにもう!強引だよね?そういうところが貴族なんだよなぁ!
どうなるかくらい相手の気持ちを考えてよね~、こうなるのは目に見えてるでしょ!ソファーに誘導してからにしてほしかったかも?
固い床を何度も叩いてー、手を痛めるよ?っと、言わんばかりに肩を叩いてこっちへいこうよっと、腕を掴むが、微動だにしない…
錯乱状態の人ってどうやって移動させたらいいんだろう?
腕を掴んで、どうしたらいいのだろうかとユキさんの傍に寄り添っていると呟く様な悲痛な声が聞こえてくる。
「わた・・・わたし・・・わだしのぜいで」
どうやって慰めようかと思考を巡らせていたら、突如、ユキさんの体から羽?鳥っというよりも、昆虫がもつような羽のようなものが生えてくる!?
なにこれ!?これは知らない!?未来の残滓もこれには驚きを隠せていない!?未知の状況なんてどう対応したらいいのかわかんないよ!?
『心配するな、落ち着かせる』
何処からともなく聞こえてきた声が、頭に響いたと思ったら、目の前で震えている体からふっと、羽のようなものが消える?羽が出ていた箇所を触ってみるが、皮膚が隆起していた様子が無い…幻覚の類?幻視の類かな?
そっと、ユキさんの肩に触れると、ぐしゃぐしゃになってしまった表情で此方を見てくる。
綺麗な顔立ちも、こうなっちゃうと、ただの小さな子供に見えちゃうね。
溢れ出てくる涙をハンカチで拭ってあげ、手を差し伸べる。
「ごめんなさい…ごめん、わたし、わるいこ…だから…だから…」
手を差し伸べているのだが、何処を見ているのか、一向に手を握ろうとしない、顔を覗き込むと…焦点が合っていない
過剰なストレス?過去のトラウマ?…こういう時にお母さんがしてくれたことを思い出せ…うん、そうだよね
包み込むように顔を抱きしめ、優しく声を掛ける
「悪い子じゃないよ。ユキさんはユキさんとして、頑張ってた。ユキさんは何も悪くない。悪くないんだよ」
蓋をしていた何かが溢れ出てしまったのか、止まらない嗚咽が、いつか収まるようにと、彼女から溢れ出る感情を少しでも受け止めてあげるように背中を撫で続ける。
敵が何かしらの方法でユキさんの魂に何かを植え付けている可能性もある。叔母様のように。
何が地雷になるのかわからないっていうのも、辛いモノだよね。私達が後手に回るのも仕方がない、敵が持つ技術や策略が私達の、想像できる範囲を軽々と超えてくるから。
『すまない、解放される呪法を抑えるだけで何も出来なくなってしまった。ありがとう、ユキの心を落ち着かせてくれて』
唐突に申し訳なさそうに声が聞こえてくる。不穏なワードが聞こえてきたような気がしたけれど、きっと、魅了の魔眼に付与された何かしらの罠の類だろう。
っていうか、こうなることくらい予想してたでしょ?本当にさー、年上でしょー?頼りにしてもいいの?
『頼りにしていただけるように善処するっとしか、言えぬのが辛いものだな…結果を示すことが出来ていなかったからな、滅んだ俺は』
未来の私だって負けまくってるから大丈夫、ほんっとけっちょんけちょんのぼっこぼこに幾度となく蹂躙されているんだから、大丈夫。最後に勝てばいい、最後に敵を滅ぼせばいいんだからさ、どんな手段を使ってでもね…
未来が見えているかのような用意周到に張り巡らされ続けて、何処に敵が埋め込んだ地雷があるのか、想像できない程だもん、きっと、他にもありそうだけどさ、私達が揃えばどうにかなるはずだよ、だから、一つずつ対処していけばいい…はは、少しだけ明日を見る心の強さが戻ってきてる気がする。錯覚でも嬉しい、かな。
敵が埋め込んだのを抑えて見せたんだからさ、これはチャンスだよ!勇気くんから見て、どんな術式だったのか、後で共有してね!対策を講じるから。
『ああ、すまない、そちらの方は俺はダメだ、からっきしが過ぎるな。君さえ良ければご教授願いたい』
殊勝な心掛けでよろしい!私と一緒に無限の研究に手を出そうね!術式の世界は深すぎて抜け出せないんだから!
っふ、っと笑ったような声が聞こえてきた。その笑い声が何故か私に勇気を灯してくれる、明日を目指せと。
『…して、ユキよ、声が聞こえるか?』
「っふわ!?…ぇ?他にも誰かいるの?」
突如話しかけられたのか、驚いて体がビクっと跳ね、ゆっくりと私の胸から顔を離して周囲を見回している。
仕草があどけない…実年齢よりも幼く見える。もしかしたら、此方の方がユキさんの本質なのかもしれない。
新しい気付きは、今じゃないよね、それは行ったの置いといて!さておき!一言文句言っておかないとね!ちょっとーお父さん?落ち着いてきた娘を驚かすなよー。まったく。
ユキさんとさー会話というか、対話といいますか?そういうコミュニケーションは普段からしているの?って、んー…
お父さんは、ややこしいよな…っていうと、お兄さんって呼んだ方がしっくりくるかな?
『そうだな、ユキにとって父とはただ一人だ。俺は、そうだな、うん、兄っという形の方がユキにとって、しっくりとくるだろう』
「ぇ!?また、声…ぅぅ、どこから?おとこのひと、いないよ?やぁだ、おばけ?やぁだ、お姉ちゃん怖い…」
背中に手を回されてぎゅっと抱き寄せられ、私のお腹におでこがぎゅっと力強く押し込まれるので、慌てて腹筋に力を入れたけれど、力が強く、けふっと空気が漏れてしまった。
大丈夫大丈夫っとぽんぽんっと背中を撫でるように叩き、落ち着かせていく。実家の妹を思い出すなぁ、夜中に怖くて行けないからってトイレに付き添ってあげたなぁ。
おばけなんて…見れたらどんだけ良いか…きっと、今も見守ってくれていますよね?お母様?




