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最前線  作者: TF
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Dead End ユ キ・サクラ (86)

意識が浮上する…ここは何処だろう?わたしは・・・私は・・・そう、私は私。

それ以上でもそれ以下でもない。


ゆっくりと目を開けて、周囲を見渡す。灯りが灯っているが優しい明かり、柔らかい光、弱々しくもあるけれども、必要最低限の灯り。

古い、とても古い方式の夜を照らす灯り。

優しく小さな灯りに照らされて見える世界は、いつまでも変わらない、必要最低限の物しかない部屋、殺風景と感じてしまう部屋。

年をとっても、不必要なものは置こうとしない人、昔からそうだったよね。

…単純にお金が無かっただけっていうのもあるんだろうけどね、お母さんって一応貴族出身だから、この街の管理を任せられた側の人だから王家から報酬が出てるはず。

でも、自身の研究を続けていく為にお給金はそっちにまわしていたから、お金が無かったんだろうね。


嗚呼、懐かし、この殺風景な景色。

お母さんには、ううん、この街の人には少しでもいいから優雅に過ごしてもらいたくて、大衆浴場を豪華絢爛にしたんだよね。

私が純粋に憧れていた日本の銭湯をイメージしたかったっていうのもある!んだけど、その理由ってぶっちゃけると照れ隠しだからね?


今の時間は…夜

場所は…言うまでもない、お母さんと私達の部屋…


嗚呼、よかった…この時代に意識を浮上させることが出来て良かった。

この時代であれば、タイムリミットまでにかなりの研究を進めれる。


狙っていたのはこの時期…祈りを捧げて、見えたように感じた世界もこの辺り。

天真爛漫で、自分のこと以外どうでもいいや!って考えていて、変な固定概念に囚われることなく、自由な発想でしたいことをしていた時代。

何もしがらみも無く…若い頃は色んな人に迷惑をかけちゃったなぁって感慨深く感じてしまう時代


狙いすました時代に意識を浮上させていただいたのは、きっと、私だけの力じゃない。

始祖様に感謝を捧げるために、立ち上がろうとしたのだが、視界に映る全てが懐かしすぎて涙が溢れてしまいそうになるのを堪える。


このベッドで…幾夜も幾代も…お母さんと一緒に過ごした。

年月も経過して、ボロボロになっても、修繕を繰り返して使ってきたベッド…


古くなったから買い替えようよって言っても、これでいいのよって変えてくれなかったベッド。

あ、マットレスやシーツは新しいのに何回も、交換してるよ?ベッドの基礎の部分ね?


この時代だと、変な傷も無いし、色褪せてもいない…私を…ううん、私達を守り続けてくれたベッド


ベッドの温もりを優しさを噛み締めるように感じてから…視線を窓の方へと向ける。

満月の夜…ちょうどいい…神聖なる月が私を祝福してくれるように見つめてくれている、始祖様に感謝を捧げに行こうかな。


懐かしいベッドから降りる…そして、お母さんがいる方向を見る。

本音を言うと、今の状況を作り出してくれた始祖様に感謝を捧げる為に、真っ先に満月を見ながら祈りを捧げたかった…だけれど、この状況で行き成り月に祈りを送るのはお母さんが変に警戒してしまう。


部屋主であり、ずっとずっとずーーーっと、支え続けてくれた…大事な人に、お母さんに…挨拶をしないとね。


ベッドから立ち上がると、お母さん事、ジラさんは…此方に視線を向けない。目を閉じて集中している?

なんだろう?何かを握りしめるようにして、祈りを捧げているみたいな感じ?


お母さんってそこまで敬虔な信者だったかな?…それとも、叔母様の意識が浮上しかけているっとか?


祈りを捧げている人に声を掛けても良いモノかと考えていると、月の光が反射してネックレスをしているのが見えた。

思い出すように気が付く、そうか、このころのお母さんは…まだ愛する人との別れから立ち直れていなかった時期、そうだよね、そうだったよね。

今でもたまにネックレスをしていることがある。愛する人との思い出が詰まったネックレスだって教えてくれた…

愛する人へ捧げる祈りの最中に邪魔をするのも申し訳ない、そう感じてしまう、だけれども…此方の事情もある。

恐らく私の意識がこうもはっきりと動けていること自体が特殊な状況で限定的なのだと思う、限られた時間に限られた状況、するべきこと、成すべきことをしないといけない。


私が起き上がっても気が付かず、無心で祈りを捧げていられるのも、そういった姿を見せたくない相手が熟睡していると思っているから、一度寝たら起きてこない、私が起きてくるとは思っていないから、だろうね。


「今宵は満月なのね、良い月じゃない」


祈りを捧げている若い…はずなんだけど、今とあまり見た目が変わらないっていうのが、驚きだよね。ほんっとびっくりした、私の中にある最後の記憶と大して変わってないんだもん、声を掛けてから驚いたよ、気持ち最後の記憶の方がふっくらと健康的かな?って感じ、若い頃の方が気持ち痩せてる?ってくらいしか違いが無い。


封印術式がどれ程までに強力なのか思い知ったよ、そりゃ、私の肉体も成長しないわけだよね。


今も、昔も、人並外れた努力によって、若さを保ち続けている美魔女ことにもう一度、声を掛けよう、なんて声を掛けたらいいかな?

思考を一旦、内側へ向けて、過去の私がどういう風に接していたのかきっかけを探してみる。


…うん、思考の奥底を覗いてみたんだけど、駄目だった。この時空の私はしっかりと寝ている。

…ここまでしっかりと、私の意識が浮上しているのは珍しい気がする。どんな要因がそれを許しているのかわからないけれども、成すべきことをしないとね。

…どうやって声を掛けたらいいのか悩む必要なんて無いよ。素っ頓狂なことを言わない限り、お母さんは何を言っても信じてくれる。

…最後に、会いたかったな…ううん、きっと、会えているはず、きっと…笑顔で抱きしめてもらって頭を撫でられたと思う。


心の中で頬を叩く。

死ぬ間際の未練を思い出している暇はない!

急いで、私が覚えている限りの情報を書きだしたい…だけれど、視線が目の前の人に吸い寄せられてしまう…


嗚呼、駄目だ。お母さんの顔を見ると縋りついて頭を撫でて欲しくなってしまう。


お母さんからすれば、今の私は幼い私じゃないと薄々と勘づいているはずだろうから、大人として…淑女として…威厳溢れる貴族みたいに…振舞わないと

「私も一杯、頂いてもよろしいかしら?」

淑女として落ち着いた雰囲気を装って、お母さんに声を掛けると、手慣れた手つきで紅茶を淹れてくれる。

渡された紅茶を一口飲むと、当時の味を思い出してしまう。そうだった、この時の紅茶は砂糖とかも豊富にあったわけじゃないからストレートティーが多かった

今みたいに改良して風味豊かになった高い紅茶ではなく、誰もが飲めるように作られた平民が愛用している茶葉…懐かしいなぁ…

この茶葉ってちょっと苦いからさ、苦いのが得意じゃない私の為に、お母さんは砂糖をいつも用意してくれていたんだよね。


でも、お母さんが私みたいに砂糖を多く入れている姿を見たことが、無い気がする。

大人としての振る舞いを察して、お母さんは大人用に淹れてくれたのだろう…

つまり、お母さんはいつも、砂糖をあまり入れないで飲んでいた、これが、お母さんの味なのだろう。


当時の知れなかったことが知れたことに少し嬉しいという感情が湧き上がってくる。

でも、その姿を見せないように頬をきゅっと絞めて、笑みが零れないように気を付ける。


溢れ出る感情が発露を求めるようにしてくるので、紛らわせるために、視線を彷徨わせる。

窓際から差し込む光が目に留まる…光に誘われるように、始祖様に導かれるように窓際へと紅茶を片手に進んでいく。

窓際に辿り着くと、故郷を思い出すかのような哀愁が込み上げてきてしまう、当時の…幼い頃の世界を見てしまいたくなり、窓際に腰を掛けるように体重を預け。


もう一口、紅茶を含む…


「ふぅ、落ち着くわね、ありがとう、私の命を繋ぎ止めてくれて」


自然と、声が…心が溢れ出てくる。お母さんには本当に感謝しかない、その事を伝えてしまいたくなる。

この時代は、本当に落ち着いていた、未来の私は激務に追われすぎて、こういったゆったりとした時間を過ごせれていなかった…

もっと、こういった時間を大切にしないといけないってわかっていても…手を止めると敵が口を開けて待ち構えているような気がしてしまう時があった…

嗚呼、そうか、焦り…っか、焦りで思考が停止して、安着な、楽な方へと考えを走らせてしまったのかもしれない…絶望の未来を体感したからこそ得られる経験もあるっか…

そんなの、一度きりしかない人生を歩んでいる人は気が付くことなんて無いんじゃないかな?


私と、同じように、もう一度…彼は望んでいないといっていた、そんな、新たな生を強制的に与えられた…

空に浮かぶ満月を見て、この時代にも勇気くんが何処かに居るのだろうっと考えてしまう。

何処かっていうか、わかりきっている。ユキさんの魂と共にいる。

会って話をすれば、何か変わる可能性もあるだろう、だけれど、都合よく彼に会ったときに意識が浮上するとは思えれない。

時が来るまで私達は出会うことは無い。


月の光が何か忘れていない?っと語り掛けてきたような気がした。忘れていませんとも、始祖様に感謝を捧げないとね。

真っ暗な闇に浮かぶ大きな月を見て、感謝の念を送る…不思議と声が聞こえたような気がした…


ううん、はっきりときこえた。


聞こえてきた声の雰囲気は歓迎しているような感じでもなく…優しくも、なかった…

加護の中に残されている始祖様の残滓は…私を好ましく思っていない、理由は…何となく察していたし、その声でわかってしまった。わからされてしまった。


時渡っという、時魔の一族だけが成し得る秘術…それに近しい現象を起こしているからだ。

至極丁寧に淡々と冷酷にも聞こえるような雰囲気で…


始祖様の残滓が警告してくれた…”粛清されるぞ”っと…


…なら、私を粛清するついでに、この世界を救ってよっと悪態突く様に返してみるが、それ以上返事は返ってこなかった。


月を眺めていると、徐々に段々と…

視線の中に警戒が強くなってきているお母さんをほおっておくわけにもいかないよね、ゆっくりとしている時間も無いし。

対話を始めよう…


沈んでいる今代の私から少しだけ記憶を観させてもらった、今最もホットな話題がある。まずは、その問題を解決しないといけない。

この時代に必要だったもの…まずは、封印術式について説明をしていかないといけない。


この時代に完成された私とお母さんが協力して編み出した、封印術式…

完成された術式を渡すつもりはない、少しだけ削って情報を渡す。

この流れがあったからこそ、お互いを尊重し助け合おうというきっかけになったのだと私は感じている。

その流れを断ち切ってはいけない。


情報を渡すと、目的を果たしたからか、それとも、封印術式が完成されていない状況下で意識が浮上した成果、魔力を消費し過ぎたのかもしれない。

意識が消えていくように揺らいでいく、別れ際に見えた、お母さんの姿が・・・


お母様と重なってしまう。本当に私の中にあるお母様と瓜二つ…

そんな、お母様と瓜二つの人にそんな目を、意思を向けられるのは辛いなぁ…


つい、悲しいという感情を溢してしまうと、抱きしめられてしまう…

溢れ出る感情がただただ、抱きしめられただけで救われる。


「貴女には救われてばっかり」


最後に、感謝の言葉を伝えると、私の意識は暗い闇の中へと押し込まれていく…




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