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最前線  作者: TF
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Dead End ユ キ・サクラ (83)

『いくな!さくら!帰ってこい!戻ってこい!!』

脳内に響き渡る声にビクっと体が跳ねる。さっきから、誰が私の名前を気安く呼ぶのだろうか?

周囲を見渡すと誰もいない…薬の影響だろうか?幻聴?幻視?なに?劇薬は投与したのは私だけ、じゃ…


この光景は幻視ってこと?いや、それにしては…街の人達の動きが、幻視とは思えれない


状況がよみ込めない?どういう状況なの?

『さくら!直ぐに離れろ!!死ぬぞ!!』

ぇ?しぬ?どうして?


騎士や戦士と一緒にいる子供達が私に向かって指を指すと、戦士や騎士達の顔つきがひょうへん、する?

どうして、街中で…広場で抜刀するの?どうして、槍をむけるの?どうして、弓を手に持って矢をつがえるの?


「緊急事態!!人型が一体!!街に紛れ込んだぞ!!子供達を守れ!!!」

向けられた視線が狂気へと変わる、殺気へと変貌していく、弓矢が私に向けられる!?


瞬時に弓矢の弦に向かって、念動力を産み出す術式を構築し、ハサミのように寸断力を発生させて切る!!

それとほぼ同時に、踵を返し、広場から逃げるように駆け出す!!


私が幻視を見ているんじゃない!!この街にいる全員が幻視にかかっている!!

何処かの世界線、何処かの私達が一度やられて全滅した幻術の類!?

やってくれんじゃん!!!っじゃ、この声も幻聴ってこと!?


それに・・しては・・・ききおぼえが・・・


『逃げろ!!逃げるんださくら!!おれは、もう少し、抵抗してみせる!!!』

ゆ、うき、くん?ああ、そうだ、この声は…勇気くん!!!意識が戻ったの!?

『俺の事はいい!!逃げろ!少しでも遠くへ!!出来るかわからないがやれることはやってみる!!』

幻聴ではなく信用できる人からの声であれば!


急いで、認識阻害の術式を展開…しようにも体内を流れる魔力を感じることが出来ない、先ほどの念動力で打ち止め…か…

足と膝に力を込め全力で地面を蹴る。


極力、人の視線から逃れるように、公園にあるベンチの裏、木々の裏、茂みの中、普段人が滅多に来ない倉庫の中…


点々と、私を追いかけてくる人達の視線から逃れるように、点々と…


「これで…うん」

かなり方々を歩かされた…街を縦横無尽にぐるぐると逃げ回ったけれど、目的の場所は人の目が分厚いから近づくことが出来そうもない…

出来るのなら、勇気くんと合流したかったけれど、どのルートを選んでも人が居て近づけない。


気付かれないように観察してみたはいいけれど、完全にこの街は掌握されていると考えた方が良い。

…もう、この世界は…現時点をもって破棄せざるを得ない程に…駄目だろう…


抵抗する気は完全に失せてしまった、かといって、未来を諦める気はない。私が築いてきた成果物を失うわけにはいかない。

この世界の未来は諦めたとしても、違う世界の私が先へ進む為に情報を送るべきだと犠牲になる為の覚悟や…死…できている。


未来を諦める程、心は折れていない。

だから、現状、唯一、この異変と闘っているであろう勇気くんと合流したかった…


勇気くんが居るであろう、病棟ってのは、普段から人の行き来が激しいから、何処を見回しても誰かいるし、何かを探す様に視線を彷徨わせているから、人型に見えている私を探しているって感じだろうね。

人が居ない方向…いない方向を探して、病棟に入れないかぐるりぐるりと回ってみたが…って、感じ!

気が付けば、人が少ない場所を探していたら、開発途中で立ち入り禁止にしている、公園の端っこに追いやられちゃったってわけ!


この状況をひっくり返すのは無理だとわかっていても…性根の部分が諦めが悪いっていうのもあって、ついつい、打開策を考えしまう。

無理だと分かっていても、せめて…せめて、最後くらいっていう思考が込み上げてくる。


はぁ、心配だなぁ…あの、慌てたような感じ、勇気くんだけが異変を感じ取り、異変の原因を知り、なにかと闘っているっというか抵抗している感じが伝わってきたから。

『そうなんだが、な…済まない、抵抗虚しく…』

急に脳内に響く声にぴゃっと小さな悲鳴を禁じ得なかった!いるならいるって言ってよ!

…どの道、気配無く声がすることになるから、驚くことは決まってたけどね!

止まりかけてた心臓が完全に止まるとこだったじゃん!!


ドッドッドっと、息を潜めようと心音すら弱くなっていっていた私に心臓がまだまだ、力強く動いてくれるってわかったのはちょっと嬉しいけどさ!

驚きながらも、眼球を動かして周囲に人がいないか、不自然に木々が揺れていないか、枯れ葉を踏む音がしないか耳も澄ませる。


幸いにして、私の声は誰にも聞こえなかったみたい!はぁ、あっぶなぁ…洗脳されている程度でこの街の人達に攻撃なんてしたくないからね…


『優しいな、サクラは…』

うん、ありが…まって、こっちの思考読んでる?読めてる?

『ああ、それが何か?困ることがあるのか?』

あるわ!乙女の心に土足で踏み込んでこないでよ!お父さんとして娘さんの部屋に勝手に入って怒られたりしなかったの!?

『…ノックをすればよかったという事、か?それはすまない、だが、この状況下ではな、どうしようもなかったのだ、許せ』

…まぁ、いいよ?私も勇気くんに…会いたかったから、いいよ?


『俺もだ、長い間、すまなかったな、ユキを救う為に全力を出していたから…』

何か、していたんだね、生きててよかったよ。積もる話もあるけれどさ、まずは、どうしてこうなったのか、何か理由を知っているよね?

状況教えてもらっても良いかな?


『状況か…一言で言うと』


”ユキが暴走した”


…そっか、何となく予想はしていたけれど、やっぱり、っか…


街の異変、本来いることが有り得ない子供達…

ユキさんの中には子供たちが居ると勇気くんが教えてくれた、それが、具現化したのだろう、原理はわからない。

わからないが、あの魔眼であれば、この街にいるほぼ、全ての人があの魔眼を一度でも見ている、パスが繋がっているとみて、いいだろうね。


そして、勇気くんの存在…

逃げ回っている時に、何となく可能性が高いのがそれじゃないかなぁって薄っすらと思っていたけれど、ビンゴだったか。


話を聞くと、危惧していた不安の一つだった。

目覚めたユキさんが、自身の体を見て、そのストレスに耐えきれるとは思えなかった。

目が覚めて、鏡を見て、顔の半分以上、頭皮の殆どが火傷で焼かれた影響で、皮膚の殆どが焼けただれ、腕も足も…

それだけじゃない、自分が命がけで守ろうとした命も…失われ、何のために命をとしたのか…わからなくなる、目覚めた直後に急激なストレス…


心が持つわけがない。狂気へと…誘われるのが必定ってね。


『ああ、そうだ、あいつの中に湧き上がる葛藤につけこまれた、必死に抵抗したんだが…無理だった』

その時の心情を語ってくれた、わかるよ。ユキさんの悲しみが。


託された未来を守るために、敵の攻撃に耐え続け、痛みも、敵からの殺気に晒され続けるストレスも、託された命があったからこそ。

我が身を犠牲にして、助けたと思っていた。

目が覚めて、看護師さんに状況を聞いたら、何れ分かることだからっと教えてくれた…


寝起きで聞いていい内容じゃないよ、普段の医療班だったら絶対に心の傷を推し量ってからストレスに耐えられるかどうか、見極めてから…そういうのを話すのに、迂闊過ぎる。


『完全に同意だ、気が付くと俺の意識が表面に浮上してきてユキの体から追い出されてしまったからな』

…え?追い出されたの?私はてっきり…今どこに居るの?


『起きた時には既に、宙を漂っていた、慌ててユキの中に戻ったときには全てが手遅れになったのだと悟ったよ…ユキには申し訳ないが記憶を覗かせてもらったからな』

成程、さも、起きていたらこんな状況にはならなかったって言いたいんだね?


『そう、だな…自信をもって、そうだと…言いたいが、今回ばかりは言い切れないな…俺は…ユキの命を救うだけで手一杯だった、虚を突かれた…隙を突かれた…』

勇気くんが何をしていたのか、教えてくれた。その内容を聞いて疑問に感じていた部分がこんな時に知る。こんな時だっていうのに、疑問が解消されたことに嬉しさを感じてしまう辺り、性根はどんな時であろうと変わらないのだろうなと感じてしまう。

敵が扱っていた驚異的な攻撃力を誇るあの魔道具を一身に受けていた…

あの状況下で、どうしてユキさんがあの魔道具に耐えれていたのか、ずっと疑問を感じてはいた。

私はてっきり、連発による威力減少かと思っていたら、勇気くんが持つ術式の中に、魔力障壁っていう術を用いて、あの魔道具から生み出される衝撃を緩和していたっと教えてくれた。


勇気くんが持つ術式は戦闘に特化しているような気がする。時間があれば教えて欲しかった、な。


爆発から、免れた後は、ユキさんの中に流れる魔力全てを使って命を失わないようにしてくれていたんだね。



『さて、悠長に…経緯や、原因を語ったはいいが、どうする?索敵範囲は当然、広げているだろう?さくらなら、気が付いていると思うが、何か策はあるのだろう?街に向かってきている奴らの事は気が付いているだろう?』

過大評価し過ぎだよ?初耳なんですけど?あの状況下で、死の大地に意識を向ける何てできるわけないじゃん。そもそも、平時でも無理だよ?

『そうか、それも、そうだな…済まない。では、改めて現状確認をしよう、まず、ユキの魔眼が暴走した』

うん、魔眼を完封する為の何かを…今後は用意していかないといけないだろうなぁ…

『それに伴い、ユキの中に居た大勢の子供達が外に飛び出て好き勝手に遊び始めた、状況を打開するためにユキに語り掛けてみるのだが、敵からの干渉が強く、俺の声が一切ユキに届く気配が無かった、何とか、ユキの体から魔力を拝借して敵からの干渉を防ごうとしたのだが…』

現状の結果から見て、出ていないってのはわかってはいるけれど、何かあったのかな?

『俺は…今になって…初めて知ったよ、あの術式を維持するのに子供達の存在が必要だったという事がな…どうやら、俺一人では術式を制御しきれないみたいだ、サクラが用意してくれた術式も軽々と奴らは突破していた、恐らく、ユキの心が壊れたからだろう、ユキ自ら破滅の言葉という甘言欲しさに招き入れた、そんな悲しい推察が出来てしまう程に、ユキは自身の状況に絶望していた』

頑張った報いが…って考えると、致し方ないよ。彼女の心が弱いって責めることなんて出来るわけがない。

『その結果、ユキの魔眼、魅了の力に汚染されている…この街にいる人達全員が魅了の魔眼に操られるように子供を守るために動き出した』

…たぶん、魔眼だけじゃないと思う、この街に志願してきた人達はさ…子供達の未来を守るために志願してきた人もいるから。

子供が欲しくて…でも、叶わなかった人も…いるから…

『そして、子供達の見ているモノ全て、敵に筒抜けてしまっているのだろう、だからだろうな、全ての軍勢が此方に向かって行軍を開始している…俺が敵から得られた情報は以上だ』

暴走した原因の一端は私にもある…研究結果を示せれていなかったから…

私が…彼女にどんな傷だろうが、どんな欠損だろうが、どんな火傷だろうが…未来を示してあげれて無かったからだ。


至らない私が悪い…この結果を招いてしまった私が悪い…

私しか、未来を創造できる人が居ないのに…結果を残せれなかった、示されなかった、期待に応えれていなかった。

こうなることが…敵には見えていたのかもしれない、私を自由にさせない…


…敵がこの舞台を、この状況を、この流れを読みに読んで実行し…嵌めに嵌めて…

真っ暗闇に誘われた私達が…迷わず進めるように道を照らし、足元を照らし、進む道をこっちだよっと優しく微笑みながら声を掛けて誘導するように…


どう考えても罠としか考えられない様な状況であっても!それすらも気づかせないように確実に計画を進めてきたのだとしたら天晴じゃん!

はは!手を叩いて褒めてあげるよ!…


なんて言うとおもうてか!!知恵無きお前らがそんな策を講じれるわけがない!!

ぜってぇ!先生の魂、悪用してんだろ!てめぇ!!ぜってぇぶっころす!!


…激しい激情を感じているはずなのに、心臓が跳ねることは無い



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