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最前線  作者: TF
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Dead End ユ キ・サクラ (78)

ベテランさんは全治一か月

女将は二度と戦場には出さない

ユキさんは…戦うどころか、日常を生きるのもやっと…意識は戻るかは不明だが、全治三か月

私は、皆よりも治りが遅いから、全治2か月って感じかな?


報告書をそっと、机の上に置き、確認済みというサインをするために、左手でペンを取ろうとするが、距離感を掴めず、一回だけ掴めそこなった。


掴み損ねた際に腕を伸ばしたという小さな小さな、衝撃だといのに痛みが襲い掛かってくる、上半身を動かすだけで体が痛い。

いつつ…いたいなぁもう…痛み止めを投与していてもこれだもんなぁ…

何とか痛みに耐えながらペンを取り書類に名前を書く、左手で書かれた文字は少々歪だった。


司令官として、幹部として、絶対に目を通さないといけない書類に目を通し終えた。

悲しみを背負いながら、私は次に向けて動かないといけない、体の骨が折れた程度で、休むわけにはいかない。


席を立ち、足を引きずりながら錬金窯の中を確認する…

これから半年間、私は地下に引きこもると幹部連中に宣言して来た…

「失った四肢を再生させるために!私の研究は急を要する!半年で良い!半年でいいから時間をちょうだい!みんなを助けるために!!私に時間を頂戴!!」

この言葉に幹部全員が立ち上がって拍手を送ってくれた、湧き上がる拍手の渦のその先…遠めに見えた、お母さんが大粒の涙を流しているのが見えた…

うん、あの涙は叔母様の涙も含まれていると思う、大切な人の子供が重傷だからね。

それに、今、ユキさんが目を覚まして、自身の体を見てしまったら…真っすぐ受け止めれきれるとは思えれない…

絶望の末、自ら未来を閉ざしてしまってもおかしくない程に…絶望的な状態だもんね。


セレグさんにお願いして、寝ているユキさんの顔を見せてもらった…直視できるような状態じゃなかった…


幹部から、街の皆から、マリンさんから…前途有望の眼差しをこの小さな背中に向けられ地下室へと進んでいった…

皆の期待を背負うのは慣れている、絶対に研究を成功させる!培養液を産み出す!皆を救う!私はまだ、この世界を諦めない!あきらめるもんか!!!


大きな声を張り上げたいけれど、喉を損傷していて声が出ない、頬を叩いて気合を入れたいけれど、叩くと体が痛くてしたくない。

なので、心の中で叫び力を、決意を焚きつけ、命を燃やす…


ただ独り、孤独な研究が開始される…

ううん、独りじゃない、研究の為に色んな人に迷惑を…仕事を押し付けたから、独りじゃない。


仕事を押し付けた一人として、メイドちゃんには申し訳ないけれど、非情に申し訳ないけれど!めちゃくちゃ仕事を押し付けた!

私が地下に籠っている間、他の街への取引に関して、全ては緊急事態の為に一時中断する事となる、それの話し合いぐらいなら、メイドちゃんでもできるでしょっと押し付けた。

王都への連絡などや、報告もメイドちゃんに押し付けた!こんな状態であいつに会ったら、襲われかねないからね!


怪我によって絶望している人達を励まし支えるのは医療班にお願いした。

先の戦いで心に大きな傷を負った人達のメンタルケア、そういった仕事は私には向いていない。

向いていなくても、希望を示すことはできる、絶対に自ら生きることを諦めてもらいたくない、結果を出さないといけない…


全てを背負い、全てを助ける為に、犠牲になる覚悟を決めつつ、この状態でも世界を救えるという僅かな可能性を胸に抱き、暗い暗い…死者たちが眠る地下で研究を続ける。


ふと、周囲を見渡してみたくなり、見回してみる、大きな試験管、人ひとりすっぽりと入る大きさ…

培養液を産み出す為に成分を抽出した何かが転がっている、試作段階の培養液で途中まで培養出来たような気がする変な肉片が瓶の中に入っている…


ははっと、乾いた笑いが出てしまう、誰がどう見ても今の私を見たら、世界を転覆させるようなマッドサイエンティストにしか見えないだろうね…

マッドサイエンティスト上等!後ろ指を指されるような人体実験はまだしてないから気にするなっての!


乾いた笑いの影響か、少しだけ気分が晴れた気がしたので、研究を再開する。

大きな試験管に浮かぶ、肉片を眺めながら、思考を加速させていく…魔力を消費しない程度に…思考を加速させる。





研究室に籠り切っていると、昼なのか夜なのかもわからない。

時折、この地下研究所にやってくる医療班が包帯を変えてくれたり、点滴を交換してくれたり、魔力を全力で補充してもらった時に、ついでに、外の様子を教えてもらっている。


大きな変化はないみたいだけど、ベテランさんがリハビリで体を動かすようになったと教えてくれた。


ユキさんの容体は変わらず、意識は戻ってきていない。

医療班団長と医療の父がつきっきりで看病してくれている、今もなお、予断を許さない状況。

二人が診てくれているのであれば、心配はいらない。


女将は、退院して左腕の作業訓練を開始するために通院してもらっている。


怪我した人たちも明日を生きる為に動き出していることを知ると、私も、頑張らないといけない気持ちにさせてくれる。


孤独に研究をしていると、ココが地下だからなのかわからないが気が滅入ってきて、心の力が徐々に弱くなっていくのを感じたりする。

絶望に飲み込まれないように、明日を生きたいという心を奮い立たせ研究に打ち込み続けていると…


珍しい訪問者が地下にやってくる


「邪魔するよ!」「邪魔するのである!」

カジカさんとマリンさんが包帯だらけの恰好で地下の研究所にやってきては、周囲を物珍しそうに見ている。何の用事だろう?

「はぁ~…地下って場所だからねぇ…辛気臭い場所だろうなぁって想像していたけれどさぁ、これは…あたしの想像を超えてくるねぇ…何が何だか、わかんないさぁねぇ…なんだいこの大きな、おおきな、酒瓶みたいなものは?」

試作培養液たちが入っている試験管を見て大きな酒瓶って表現する辺り、女将らしいね。

「…学のない吾輩には、ココにあるものがいったい、何をしているのか一切わからぬのである、だが、一つだけわかることがあるのである…姫様は聡明である、決しては無知では無いのである、どんな状況であろうと自分を馬鹿にしては、下に見ては…たしか卑下っというのであるか?してはいけないのである」

何処から、誰から聞いたのか、会うなり励ましてくるじゃん、珍しい。

励ましてくれたことに感謝の返事を言おうとしたら

「メイドのやつからこれを受け取ったのでな、読んで欲しいのである」

カジカさんから一枚の紙を受け取り、何だろうと読む…だぁ、めんっど!?断ってよこれくらい!!

はい、はい、っと頷くことしか、YESしか言わない人に王族との話し合いを任せたのが失敗だったかなぁ?


私は研究に没頭するって宣言したんだから、これくらい、さらっと逃げてきてよ、まぁいいけどさ…はぁ、思い返したくないなぁ…


紙に書かれていた内容を簡潔に言うと、戦闘記録を寄こせってさ!

知ったところでお前じゃ何もできないだろうに、うっとおしいなぁもう!

お前なんかに割く時間なんてないっての!うざいなぁ!!


書類を見てぷんぷんと怒っているのを二人が察したのか、申し訳なさそうに声を掛けてくる

「その…書類を作成して、欲しいので、ある、吾輩達では…その、学が…無さ過ぎて、何をどう書けばよいのかわからぬのであるぅ」

「すまねぇ!姫様!あたしもこういったのって書いたことが無いからちんぷんかんぷんなんだよ!しかも、王族相手になんて余計にどうしたらいいのか!忙しいのはわかってんだけど、助けてくれさぁ!」

二人が私にお願いするのもわかる!だって、こういうのって本当に二人からすれば縁遠いもんね…

それに、カジカさんに任せるわけにもいかないよね…だってさー、ある報告書を見てるから知ってんだよなぁ!

カジカさんが書いた報告書って短文過ぎて…書いてあった内容が、こういっちゃいけないんだけど!馬鹿すぎて!『敵が向かってきた、剣で切った』って感じのばっかりだもんなぁ!王族に提出する文としては不向き!

同じように、女将がこういった文章を書けるとは誰も思ってない、それにさ、右腕がそういう状況じゃ実は書けたとしても、字が汚くなり過ぎちゃって…かけないよね。


凡その文を作成するのに適したのは私しかいないってわけだよね…カジカさんって字が汚いけど、本人が読めたらどうにかしてメイドちゃんに清書してもらえばいいか。

「うん、わかったけどさ、作るけど、協力はしてよ?ほら、私だって」

左指で自身の右腕が包帯によって上半身に括りつけられるように固定されているのを指さす。

右腕が使えないので、右腕が使えるカジカさんにペンを渡す

「わ、吾輩、字が汚いのであるぞ?」

不安そうに受け取る、そんなの知ってるよ。

「カジカさんが読める文字だったら大丈夫、清書はメイドちゃんにやらせるから、後でカジカさんが朗読するような形でメイドちゃんに伝えればいいし、メイドちゃんがカジカさんの字を読めたら問題ない。だから、字が汚いっていうのを気にしないで、メモ書きみたいに書いてよ」

此方の意図を伝えると、それなら任せるのであるぅっと、自信無さげに頷いてくれた。


手早く、文字を書けるのは、この中じゃカジカさんしかいないだもん。しょうがない。

カジカさんが怪我した箇所ってさ、折れているのは盾を構えていた左腕前腕でしょ?右腕が動くんだから、私達よりもましでしょ…


女将の字ってさ、過去に見たことがあるけれど、カジカさんよりも汚いっていうのは、今、言う必要はないよね?利き腕で汚いってのに、左腕で書けるわけないよね?



っというわけで!書記をカジカさんが担当!

全員、思い出したくないけれども!


…あの時の戦いを思い出していく。



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