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最前線  作者: TF
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Dead End ユ キ・サクラ (71)

異様な雰囲気に包まれている、日常から大きく乖離したメイドちゃんに声を掛けるが…何が起きたのかメイドちゃんに声を掛けても、視線が泳いで、歯を震わせ、言葉を出そうとしても出せていない…埒が明かない、緊急事態であれば、今すぐにでも外に出て自身の感覚で状況を把握するべきだ。

申し訳ないけれど、メイドちゃんの心を平穏に導く時間すら惜しいと感じ、狼狽え顔面蒼白の人物を押しのけ…外に出る

「…なに?何が起きたの?」

外に出ると街に漂う音や空気が違う、張り詰めている?

明らかに何時もと雰囲気が違う?街の人達が全員慌ただしく駆け回っている?


この状況から、何が起きたのか考える。


街の人…非戦闘員が慌ただしく駆け回るのなら、考えられる事と言えば。…犠牲者がでた?それも、街を揺るがすほどの?…嫌な予感は考えてはいけない現実になる。

頭を振って、違う可能性を探る。最終防衛ラインでも突破された?

…いや違う、突破されたのなら鐘を鳴らし続ける人物は皆を守るために死ぬまで、鐘を鳴らし続ける。

今は…耳を澄ませても…うん、鳴っていない?

鳴っていないからと言って油断してはいけない、鐘を鳴らす人が襲われて死んでしまって鳴らす人がいないっという可能性も十二分にある。


そうなると、防衛ラインどころか、門を突き破って街中にまで、敵が侵入していることになる!


いや待って、それも違うでしょ?だってそれなら、駆け回っている人達が駆け回っていることがおかしい。…脳裏に過る否定したい答え…頭を振ってこびりついてくる考えを振るい落とす。

門を突き破って人型が攻めてきたら、非戦闘員は直ちに作業を辞め、全力で非難する、っという避難訓練を定期的に行っている。

その様な事態になったら王都へ逃げる様に訓練で骨の髄まで叩き込んでいる。これが、王都に向かって駆けだしていたのなら、だが違う。


駆け回っているってことは、中に敵が侵入したってことは無いっと考えるべきだろう、なら、何?どうして駆け回っているの?


この場所ではこれ以上の情報を得ることは不可能。なら、動きべき。そうだよ、こんな場所で考え込む必要が何処にある?速く移動しよう…一瞬だけ、メイドちゃんがいるであろう後ろへと視線を向けるが、地下の研究所に通じる扉からメイドちゃんが出てくる様子はない。

うん、取り合えず、ココを離れ、人が集まっているであろう転移陣がある広場に向かおうと体の向きを変え走り出そうと、したのだが、私の服が捕まられる。

掴んできた手が震えているのが布を通して伝わってくる…勇気を振り絞って手を伸ばし、服を掴む…

安全そうな地下へと通じる通路から表に出てきて、私を掴む行為に対して勇気を振り絞って偉いねって、褒めてあげたいけれど。


本音を言うと、報告が出来ないのなら引き留めないで欲しいって…感じてしまった辺り、私の心は、もう、人の心が無いのかもしれないなぁ…


メイドちゃんには、常日頃から、お世話になっているので、無下にはできない。勇気を振り絞った褒美として、話を聞いてあげますか…非常事態だっていうのに、もどかしい。怖いのなら、そのまま地下で隠れていてくれていいのに…ゆっくりと振り返り、怯えながらも私の事を思い余計な勇気を出してくれた人物に向き合う。

「落ち着いて、ね?大丈夫だから、声に出せないのなら、無理をしなくてもいいよ?怖いのなら隠れててもいいからね?誰も責めたりしないよ?」だから早く離せ。私が動かないといけない状況なんだから、縋るな。

優しく微笑みながら、震える手を両手で包むように掴んで落ち着かせようとする。

掴んだ服を離す気配が無い、っというか、手に込めた力が抜けなくなってしまっている。彼女の心を落ち着かせない事には先に進めそうもない。

優しく微笑みながら、目の前で青ざめている女性に指示をだす。まずは、深く深呼吸をしてもらう、震える腕は震えたまま…

自分自身では越えられない状況だというのなら、他者の温もりが必要なのだろう。

そっと、震える女性の体を抱きしめてから、思い出す。

私がこういった予告も無く突如飛び掛かってきた精神性のストレスによってパニックを起こした時にどの様にして心を落ち着かせてもらったのかを…

お母さんがしてくれたように、幾度となく背中を撫で体が震えるのが落ち着くのを待ち続ける…こんな状況で置き去りにしてパニックを起こされて地下の研究所に何かあるとよくないから、しょうがない、緊急事態だけど、これくらいの時間くらい、あるでしょ?あるよね?っと、一刻も早くこの場から立ち去りたい自分に言い聞かせながら、震える女性が正気を取り戻すまで待ち続ける。


この間も、何か取り返しのつかない状況になっていないか、不安を感じていると抱きしめた体の震えが落ち着いていく?

「ぁ、ぅ、ごめ、ごめんなさい、報告する係のわた、私が、こんな、こんなことにな、なる、なんて・・・」

少しずつ落ち着いてきたみたいだね、僅かだけれど、未だに声が震えているし体も震えているけれど、内に宿る嵐が落ち着き、正常なる思考を取り戻しつつあるからこそ声を出せる。


…メイドちゃんがこうなっているってことは、考えたくないけれど、街全体がそうなりつつある?だとしたら駆け回ってる人はパニックを起こしているってこと?

直ぐにでも離れて、広場に駆けつけたいけれども、この状況であれば、少しでも事前情報を入手しておいた方が良いのかもしれない。

駆けつけた現場がパニックを起こしていて誰も正常な会話が出来ない可能性も無きにしも非ず、だからね。

「答えれる範囲でいいから、ゆっくりと、辛くない範囲でいいから、話せる?」

背中をポンポンっと、急かす為ではなく、優しく叩くと、ゆっくりと頷く、落ち着きを取り戻しつつあるってことでいいんだね?質問を続けるよ?

質問は簡潔に、短文で。パニックを起こしている人物にはこれが一番。

「敵が攻めてきたの?人型?」

震える体がまた震え始める、どうやら、また、新しく人型が出てきたってことね…たったの一体にここまで怯えるわけが無いし、街の皆が駆け回るような状況だと考えれば、複数体同時に出てきたって可能性が出てくる。まぁ、そもそも、鐘が鳴っている時点で人型と接敵したって考えるのが普通だけどね。どのタイプだろうか?…考えたくないけれど、またも、魔道具持ちかな?切り札使えないんだけど?

確認しておくべき内容、聞きたくないけれども、踏み込まないといけない内容に踏み込む…何となくだけど、そうじゃないかと察してきてはいる、こびりついて離れない嫌な予感がする、聞きたくない内容に一歩踏み込む…

「被害は?…まさか、誰か、死んだ?ま、さか、ね?」

この一言で目の前の女性の呼吸が荒くなる…

最悪だ、敵の一手を封じる為に切り札まで使って状況を変えた、流れを変えたと思っていた!

事態は…好転したと感じていた…だけれど、そうじゃなかったか…いやな予感ばっかり的中する…やっぱりあの水の魔道具を持った人型は私を釘付けにする為だけの捨て駒だったってわけね。絶望を奏でるのがお上手でっと、絶望を跳ね返すほどに憎悪が湧き上がってくる。

湧き上がる憎悪が震える女性に伝わらないように、死を悼む様に声を振り絞る。

「…そう、っと、なると、魔道具持ちってことだね、ありがとう、それだけわかれば」

知りたい情報は得た、犠牲者が出たからこそのパニック、それが街中を包み込んでしまったってわけね、負の感情は伝播するのは…早い。

メイドちゃんから離れ、一刻も早く広場に向かい、パニックに陥ろうとしているであろう人達に檄を飛ばしに行かないといけない。

離れようとする…だけど、再度、服を掴まれる?なに?人が亡くなって辛いのはわかるけどさ、これ以上犠牲は出させないよ、大丈夫、なんとか

「ちが、ちが、…亡くなったのは…ユキさんの部隊です」

心臓が止まったかのように感じてしまう、重い一言だった…


しこうが ていし する

すすもうとした あしが うごかない ひざが ふるえはじめる


縋るような気持ちで、魔力のピンを打つ…勇気くんなら、勇気くんなら!きっと、きっと!返してくれる…でも、反応が無い…

心が一気に黒く染まる、湧き上がる感情が理解できない程に膨れ上がっていく。

黒く染まった感情が全身を駆け巡った後、心臓がギュっと握られたように痛くなり、即座に脳が沸騰するかのような激情が抑えきれない程に湧き上がり、溢れ出てくる…

脳から伝わってくる激情が全身に行き渡り全ての血管が広がり、全身が心臓に生まれ変わったかのように震える。


震え始めた膝は直ぐに力強く…ううん、もう、感覚なんて無くなってしまった。


震える人物の手を払いのけ、無我夢中で駆け出す。

無我夢中で駆け出している間、現実を受け止め切れない私の思考は、真っ白に染まっている為、何も考えられない…


少しでも思考を動かそうとすると、全てを捨てて、明日を捨てて、激情をぶつけてしまいそうになるから…


広場に到着して、慌ただしい人の流れを見ると、転移陣から色んなナニカが運ばれている…焦げたようなにおいが漂った…

転移陣の中から背の高い女性が駆け出すのが見えた気がする…心臓が叫んでいる…思考が加速しようとする…全てを…だめだ、まだ、明日を諦めたくない…


はぁはぁっと息を整えているのか、自身の心を落ち着かせているのか、自分自身がどういう状況なのか、わけがわからない、理解できない状態で何もせず、周りを見渡す事も無く立ち尽くしていると大柄な戦士が声を掛けてくる、周りの音がうるさすぎて何を言っているのか聞こえない。

ううん、違う、聞こえないんじゃない理解したくないんだ


目の前の戦士が私と思われる人物の肩を掴んで声を荒げている、ごめん、よくわからない、よくわからない、私はそんな言葉を聞きたくない。

聞きたくない…ききたくない…ききたくな、い・・・きき・・・たく・・・な・・・い・・・




…反応が返ってこないことに落胆したのか、見たことのない表情をしたあと、頭を下げて肩を掴んだ腕が震えている…

ゆっくりと肩を掴んだ腕を離し、その辺にいる人達に声を掛けて私から離れていく…


音がどんどんと、何処か、遠くに流れていくような、私を、置いて、世界が、何処かに、いってしまうような気がする。


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