Dead End ユ キ・サクラ (67)
直ぐに、顔を上げ周囲を確認すると、指示通り、現場に残された腕無し顔無し猿もどきが既に補給部隊がいる場所に運ばれている。
他の部隊が接敵し此方に向かって誘導されてくる敵の姿はまだ見えない…今後雪崩れ込んでくる敵の数を考えるのなら、今のうちに筒を換装するのが一番だろう、先ほどよりも長い時間、連続稼働することになるだろうからね!
補給部隊に指示を出して、運んできてもらっている筒を換装してもらっている間に、魔道具を扱った戦士に使用してみて何か気が付いた事…問題点があるかのかどうか確認すると
どうやら、肩に担いで作動させていたので轟音によって片耳が聞こえにくくなってしまった。耳栓必須だったか…
これに関しては申し訳ないとしか言いようがない、人を使っての試運転をすればよかった、これ程までに激しい音が出るとは思ってもいなかった。
後、跳ね返ってきた砂で何処か怪我をしていないか確認すると、事前に渡してある簡易的なマスクなどのおかげで気管支などは問題なさそう、ただ、鎧がかなり傷ついてしまっている。
まぁ、その辺はちゃんと治すから良いよね?人体に大きな被害が無ければ良し!じゃないかな?ほかに健康的な被害が出てきたら、その時、相談に乗ればいいや。
戦士と相談したのち、肩に掲げて扱うのは耳が痛くなるので、次は、わきに抱えて作動させることになる、魔道具の反動も強いわけじゃないのでわきに抱えても特に問題は無さそう、問題は照準って感じだけど、意外と範囲が広いから何とかなる、かな?
後、考えられるのが打ち出す衝撃がわき腹から伝わってくるって部分だけど、鎧が当たるから骨や肉にまで、衝撃が伝わるようなことは無さそう、かな?
問題の轟音だけど、脇の下から響くのは鼓膜的にどうなのだろうか?その辺りについて確認したほうがいいよね?
無理をしていないか確認すると、耳が聞こえないと言っても僅かに聞こえているので完全に聞こえないわけじゃないので任せてください!むしろ、使わせてほしいっと嘆願される。
表情、仕草、感情の昂りを目の当たりにして、懸念していたことが起こりつつあると実感してしまう…
人は簡易で誰でも扱えれる、今までの努力を踏みにじるような凄まじく強力な力を手に入れてしまったら努力を忘れ溺れてしまうっという懸念点。
決戦用魔道具という力の暴力、人の身では到達することが出来ない圧倒的な力…使い手の心を蝕む…
力に溺れない人にしか触れさせない方がいいのかもしれない…地球ではこういうのをトリガーハッピーって言うんだっけ?
今まで苦労してきたことが一瞬で解決する、恨みつらみのある敵を易々と蹂躙することが出来るなんてさ、そんな力に溺れるなって言う方が…無理があるよね。
私だって、あの力を見て戦慄するものがあるのと同時に、あの破壊力を傍で実感したんだよ?笑みが自然と浮かんでしまうくらいに、敵が瞬時に溶けたのを見て悦に入ってしまいそうになったから…
決戦魔道具の驚異的な攻撃力に今まで感じたことのない感情、それが何なのか言葉で言い表せない初めてすぎる感情を整理し終わるころには筒の換装も終わっていた。
小さな休憩時間としては丁度よかったみたい、だって、戦士も耳が聞こえてきたっと教えてくれて次もやる気満々ですって言われてもさ、そんなにあの魔道具を使いたいのだろうか?彼の表情を見てそんな事を考えるのがあほらしくなってしまう。目が完全にイカれてやがる…
次は、先ほどよりも長く使用する事になると思うので幾ら、耳から少し遠ざけたところで鼓膜へのストレスは僅かな差だろう、なら、簡易的でもいいから守る物が欲しいよね。ポケットからハンカチを取り出して、補給部隊が持っている道具の中に小さなハサミもあるのでハサミでカットして小さく丸め、念のために適当にハンカチを切って簡易的な耳栓を作って渡す。
突如、ハンカチを切って何をしているのかわかっておらず、丸まったハンカチを渡すと、力に溺れた表情から現実に帰ってきたのか、涙を流しながら耳栓を受け取り、耳の中に詰め込んでいく…
まったく大袈裟だな~ハンカチ一つくらいで。そりゃ、愛用していた品物だけど、っさ?別に良いよ。何時か物は無くなるんだから。
再度、決戦用魔道具が何時でも使えれる様にセッティングをして戦士に渡すと、一連の流れで気持ちが切り替わったのか、覚悟を決めたような顔つきで魔道具を脇に抱え敵がやってくるであろう場所に向けて立ち、魔道具を起動させ、何時でも発射できるようにスタンバイを開始する。
敵がやってくるのを今か今かと、待ち構える、待ち続ける…警戒している前方から繁みが揺れるのを待つ、何か物音がするのを待つ…
周囲にいる騎士も戦士も補給部隊も全員が次の獲物がどんな風に蹂躙されるのか心を躍らせながら今か今かとソワソワしながら待っていると、予定通り、茂みから獣共が顔を出してくる。
連携が取れている。私達が待ち構えているこのポイントに向かって獣共が誘導されていくのを見て流石だねって褒めてしまいたくなる。
茂みから姿を現した獣が何かを探す様に首を動かし眼球を動かし耳を動かしているので、魔道具を持った戦士がおい!っと声を掛け耳を此方に向けさせ、足をドンドンっと地面を固める様に踏んで、敢えて挑発をする。
その姿を見た鹿や猪が此方に向かって駆けだすと、先ほどの声に反応したのか繁みの奥から色んな獣が頭を出してくる。熊も居れば、虎もいる、珍しく狐もいれば、角付兎もいる。普段であればこの数は脅威と感じるが、戦士が向かってくる敵に向けて魔道具のスイッチを入れると、人型よりも脆いやつが相手だと…打ち出された全ての物質を削り取っていくという理不尽な砂の暴力…そこには生死を賭けた正々堂々というような誉れのある戦い、命を賭けるような誇らしい戦場とは無縁だと肌で感じてしまう、どうしようもない避けようのない無情な事象によって死の大地には、大量の何かが転がっていく…
魔道具の威力によって獣共を消し飛ばす…
とは、表現が違うか、な?いや、一瞬で削り取られて無くなっているから消して飛んでいくっていうのは間違いではない、のかな?
こんな光景を見たことが事が無かったから表現を表す言葉を紡げない。研究者として失格だと笑われちゃうね。
でも、巻き起こる恐ろしい光景を、研究者として、殲滅者として、この死の大地で多くの命が失われていった人達の想いを継ぐ者として脳に焼き付けていく。
魔道具に狙われた部位が物凄い勢いで削り取られていく…体液が飛び散る事も無く、敵が魔道具の恐ろしさに気が付く頃には体の何処かが跡形も無く消えている。
突如として消えた自分の部位に驚き慄き戦慄しているころには照準が頭を取られ…敵が動き出す前に跡形も無く消えていく。
獣同士が連携なんて取れるわけがない、目の前にいる同胞が無残に死を晒したとしてもお構いなしに全力で目の前に敵を殺す為にその道中に転がっている同胞の死体に足を取られない様に避けるどころか踏みつけて大きく跳躍するモノもいれば、踏み抜いてドシドシと我が物顔でのっそりと吠えながら歩くモノもいる。自然に生きる生き物とは思考が違い過ぎる。恐怖・生存本能は、何処に置いてきたのやら。
敵の部位が消えていく過程をまじまじと見ていていると、えげつないっと感じてしまうあたり、私はまだ人の心があるのだろう。
人の心が目の前の光景を見るのを嫌がっている傍ら、目の前の光景は値千金だと言わんばかりに脳に焼き付けようとしている。
研究者の思考が冷静に分析し、問題点を挙げてくる。
問題というか、今後の課題。
これが最終決戦…死の大地の最奥という過酷な状況下で稼働が出来るのかどうかってのも、気になるよね。
構造的に砲身はある程度、耐えられると思う、思うんだけれどさ、換装できるつまりは交換できる部分に関しては問題なさそうなんだよね。
問題が、大元の魔道具、敵から奪った力場を産み出す魔道具が、連続使用に耐えれるのかどうかっていうのも気になるんだよね。
敵から奪った魔道具を解析をし続けてわかったのが、この魔道具の仕様ってのが、空気を圧縮して、前方に向けて念動力と共に勢いよく放出するって感じの魔道具なんだよね、今の使用方法は完全に仕様書から逸脱した使い方なんだよなぁ。本来であれば圧縮した空気を解き放つタイプなのを、連続的に圧縮して直ぐに打ち出す、常に前方に向かって力場を産み出し続けるっていう、瞬間的に作用させる魔道具を、連続的に作用させてしまっているから…もつのかな?これ?
上げればキリがない問題点が次々と湧き上がってきて一つずつ向き合っていく、戦場のど真ん中だというのに冷静に分析しようとするなんてね…死の大地に慣れ過ぎてない?私って?
っふ、鼻で笑ってしまいたくなるほどに、私は死に慣れ過ぎてしまったのだろうなっと幼き頃に望んでいた世界とかけ離れすぎた状況に可笑しいと感じてしまった。
色んな思考が複雑に絡まることなく流れていく、私の中に何人の私が渦巻いているのかもう、理解しようとは思わない。研究者としての私が浮上してくる。
値千金の情報が目の前にあり、それをひたすら、瞬きを許さない程に集中している部分が情報を処理してくれている。
仕様から逸脱した使い方をした魔道具が、どの程度もつのか?連続で運用したら筒の部分はどの程度で、使い物にならなくなるのか?
良いデータが取れそうと戦場だというのに、いつの間にか用意された椅子に座って観察を続けていく。
騒音が渦巻く戦場を一歩引きながら、手の空いて騎士や戦士に守られながら、指揮官の風格を漂わせながら眺め続けていると、後方で戦場では聞くことのない声が聞こえてきたので誰だろうと振り返ると、補給部隊に混ざって研究塔の人が珍しく死の大地まで出てきてる。
気になって仕方がなくなって、好奇心が背中を押したんだろうな。非戦闘員であれば、恐怖のあまり一歩を踏み出す事すら躊躇ってしまう死の大地に踏み入れる、なんてね…
長年、お披露目されることなく、研究している事すら口外を禁じるほどに徹底的に秘密裏に開発していた決戦用魔道具の戦果を間近で見たいのだろう。何年も何年も失敗を重ねて、重ねてさ、溜め込んだカタルシスが解き放たれたんだもんね、その気持ちは大いにわかるので咎めたりしない。自分たちが何年もかけて生み出した魔道具の戦果を目の当たりにできる機会なんて無いもんね、たっぷりと目に焼き付けるといいよ。




