Dead End ユ キ・サクラ (56)
彼の立場を思えば、私の想いを、気持ちを…伝えてはいけないような気がしたから…
だって、彼は心の何処かで自分はこの世界に生きる人ではないって考えているから、明日を望んではいるが、自分の望みではなく、人の為、延いては…ユキさんの為…自分が守ろうと動き続けた来た明日を望む動力源も…たぶん、初代聖女様の教えを守る為…
彼は、誰かの為に、誰かの想いを繋げる為に生きてきた、そして、その生に対して不満も無く充足を得て、満足して瞳を閉じた…
明日を望むが、それは、残してきた人類の為、我が世の人生に愁いはなく未練も無い…一片の悔いなし…そんな人物に私は、自分の気持ちを押し付ける事なんて出来そうになかった。
「サクラは賢いな」
背中をポンポンっと優しく叩く様に撫でてくれる
「俺が、今の生について、動揺を覚え、まだ揺れていることに気が付いたのだな」
ううん、ふとね、浮き上がって来ただけだよ…勇気くんの過去が…
「俺の人生は一つでいい一度で良いんだよ、二つは…二度目なんていらない…だけど」
うん、勇気くんの中にあるんだよね、決して揺らぐことのない決意が、人生で一番、見失うわけにはいかない、自分の人生を歩んできた重要な柱
「君が望む世界を得るまでは…俺は…名を貰っておいて、直ぐに変わるわけではない、根っこの部分は柳なのかもしれない…君が明日を望む…」
魂の同調…勇気くんがしてくれたあの儀式は私の中に渦巻いていた、そして、今回の魔力が注がれることがきっかけとなって水面へと浮上してきた。
勇気くんが大切にしていた時間がいつなのか知ってしまった…それだけでいいよ…私だけを見て欲しいなんて、我儘が言えなくなっちゃった…
「これだけは、信じて欲しい、君の騎士であることは」
うん、騎士であり続けて欲しい…勇気くんが柳としてではなく、勇気として前へ…進む…新しい生を受け入れた時に…改めて言葉にして欲しい、かな。
「君の賢さに甘えてしまうみたいで、都合がよいと感じてしまうのも、わかっている…でも」
これ以上は言葉にしなくてもわかってると彼の背中を叩くと、申し訳なさそうに力弱く背中を叩かれる
わかってる、私達は本来交わることのない時空の存在だって…
彼は生き返りたくて生き返ったわけじゃない、人生に未練を感じて再誕を望んだわけじゃない。
システムの管理を任されただけの…存在…だから…
…ん?私、今何を考えたの?…ん?んん?…駄目だ、思考が定まらない。思い出せない?
「これだけは、言わせてもらうが、俺は」
「聖女様に恋はしてないんでしょ?それもね、伝わって来たよ」
突然に答えを遮られたことに驚いたみたい、背中を撫でてた腕がピタっと止まったし、心臓の音もビクって一瞬だけはねた。
「そう、か、魂の同調がここにて芽吹いたってことか…純粋に注ぎ込む魔力が足りていなかったとか、か?」
そこで直ぐに、答えに辿り着いて、原因を探る辺り、研究職に向いてそうだよね。
うん、彼は、聖女様と白き黄金の太陽、その二人の関係性に恋い焦がれた。一人じゃない、二人に恋をしたんだ。
っていうか、好みもわかっちゃったんだけど!勇気くん、ボンキュッボン好きでしょ!!奥様達の姿も見えちゃったんだけど!?っていうか、聖女様って私に凄く似てるっていうか、体型が似てたんだが!?そういうこと?男ってみんな、そういうことなの!?
うがー!!!grrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!
落ち着きたまへ落ち着くたまへっと私の背中をポンポン叩いてくるこの感じ!私の事、子ども扱いしてるでしょ!?
私だって好きでこんな、ちんちくりんに育ったわけじゃないもん!!!
あーあーあ”あ”あ”あ”あ”あ”、おっもいだしたー!そーだよ、そーだよねー!!
この国に蔓延る貴族共はさー!私と縁談しようとしてくるけどさ!私の体が魅力的で声を掛けてきたこと一回も無かった気がするなぁ!私の富、権力、知識が欲しいだけだったなぁ!!あのベテランさんでさえ私には欲情しないって言っていたのを!私知ってるからねー!!娘としか思えんってなぁ!!!
私の体型が好みだっていうのは非常に少数派だっていうのを思い出したぞごらぁ!!
「待て、殺気を抑えるんだ、ユキが反応する、どうどう」
馬じゃねぇんだわ!Grrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!
「落ち着くんだ、君の魅力を感じている隊員も数多くいてる」
それが事実なのも知ってるよ!
でも、その中の1割くらいしか性の対象として見てないのも知ってるからな!魅力を感じているっていっても守ってあげたい娘って感じなの常々感じているからね!!
「君が決して、魅力が無いわけじゃない。見目麗しいと感じ、魅力的なレディだということは知っておいて欲しい」
っぐ、む…もう一声欲しいなぁ…
すっと、後ろにまわした腕を解き、力抜きゆっくりと近くなった彼との距離を離し、じっと、勇気くんの目を見つめると
「…」
視線を一瞬下げて視線を明後日の方向に向けんな!!!Grrrrrrrrrrrrr!!!
怒りを発散するために彼の胸板に何度も拳を降り注ぐが、傍から見たら完全に親子が遊んでいる雰囲気なんだろうなぁ…っく!封印術式がここにきて仇となるか!!
「はぁ~~~!もう、いい!もういいもん!!」
出来る限りの鬱憤を発散した後、よしよしと頭を撫でてくる、それを良しと思っているのなら子供だましだぞ?って言いたいけれどさ、悪い気はしないし、良し!って思ってる部分もあるから腕を払いのけることが出来ないっというジレンマが私の動きを止める。子ども扱い云々は置いといて、撫でられるのは嫌いじゃないもん。だからいいの!
その後は、気持ちを切り替えて、現状報告と、実験がなかなか進まないことについて相談してみると、どうやら、勇気くんもユキさんから研究の事を聞いているみたいで、気になることがあるっと教えてくれる
「今の実験を参考にしている資料が何処かにあるのか?」
…寵愛の加護の事を教えても良いのかどうか、真の協力者であれば全てを語っても良いと思うけれど…たぶん、勇気くんからしても全ての情報を知るのは躊躇うと思うから、詳しい部分はある程度省いて説明したほうがいいよね?
ベースとなっている研究資料を遠い大陸からの出土品で、行商の人が手土産として私に渡してくれたっと嘘をつかざるを得ないけれど、これは致し方ないよね?
「なるほど、そんな古い文献が残っているんだな、っであれば、海を渡れば異なる文化は途絶えていないのだな」
…おんや?心当たりがある?なんで?他の星の事情だよ?
「…その出どころには、心当たりがある聡明で様々な知恵を授けてくれた旅人がいてな、俺らと容姿は殆ど似ているのだが小さく違いがあってな、耳がとがっていてきもち長くて自身の事を長命だって名乗っている人達の所だろう?よかった…あの獣共が他の大陸で大暴れしているってことは無いのだな」
…?何の話だろうか?耳が尖っている?長命?…知らない、なぁ…
不思議そうに首を傾げていると
「…もしや、その方達と交流は無い?…のか?」
正直に言うと、何の話をしているのかわからないと頷くと
「…時の流れは残酷だな、まさか、古き隣人との交流も消えるのか…書物にも残されて…いないのだろうなぁ…っとなると、その資料…彼らの古巣を漁り出土…ああ、そうか、出土って君は言っていたね、墓荒らしからの品で無い事を祈るばかりだな」
ぶっちゃけると、死の50年よりも過去を知る方法って殆ど無いんだよね。
貴重な資料が死の50年で殆ど燃えたり紛失したりで無くなってるから、当時の人達がどんな生活をしていて、どこと交流があって、王都は何年前からあるのかって、具体的で尚且つ信頼できる資料が残されていないんだよね。
王族が管理している王族だけが閲覧できる資料室があるから、そこには残されているかもしれないけれど、ぶっちゃけると、歴史に興味が無いから、調べようともしてなかったんだよなぁ…
大昔を生きた生き字引!柳という、王族が、どういう人達と交流があったのか、興味が湧いてくる!
話を聞いてみると…驚いた…新事実ばっかりなんですけど?
元々、この大陸と海を渡った大陸とは陸続きで海なんて無かったんだ…地殻変動とか、かな?死の50年で暴れに暴れた始祖様のお子様たちが陸地を吹き飛ばしてしまったって可能性もあるよね!山を吹き飛ばしたって、記述が残されているくらいだもん、それくらいしてる、かもしれないよ、ね?現に、私の実家が鉱石を掘り起こしている大穴もさ、元はその時に出来た穴が衝撃によって掘りやすくなって、みたいな事を幼い時に聞かされたような気がしない事も無い!
「こんな辺境の大地にも交流はあったんだよ、数多くの人達が舟や、馬車を使って長い道のりを、色んな街を渡ってな…その中に、耳がとんがった人もいたんだよ、その人は言葉こそたどたどしかったが、外の話…色んな事を教えてくれたんだよ」
耳が長くて何百年も生きるっと言われている種族が居たんだね~…本当に?眉唾物じゃん…どの辺りの地方にいる種族だろうか?もし、それが本当なら蓄えた知識って相当じゃないの?是非とも、全力でお迎えして知恵をお借りしたいんだけど?
「長生きしている人がどの辺りに住んでいるのかって?俺がその人から聞いた話だと、歩いて何十年も掛かる距離にあるってことくらいしか知らないなぁ…方角も大雑把に指を指して教えてくれただけだから、何処だろうか?」
うーん!尚更!その人が言う話が信憑性に欠ける気がするんだけど?
まぁいいや、思い出を馬鹿にするのは違うからね、その知識をいっぱい蓄えてそうな自称長命種さんから、何を教えてもらったりしたの?
「何を?何を…っかぁ…殆どが生活の知恵みたいなことをジェスチャーで教えてもらっただけだからなぁ…これまた、驚いたんだが、この時代って、人を鷲掴みに出来るほどの大きな鳥もいないし、森の中にスライムが生息していたりも…しないんだよな?」
…人を運べるほどの大きな鳥は死の大地でも確認は出来てないかも?っていうか、森の中に生き物がそもそもいない…死の50年で生態系が大きく狂っちゃったから…
ってか、スライムってなに?どんな生物?英雄譚とかに出てきたりする架空の生き物だと思っていた、あのスライム?
「そう、なのか、もう、生息していないんだな、あの鳥が近くの上空を通ったときの恐怖は皆知らないんだな、そして、スライムのあの気持ち悪い感覚も知らないのだな。俺達が子供のころは森の中で遊んでいるとスライムが落ちてくることなんてしばしばあってな、スライムが何処で生まれてくるのか子供ながら話しあったりしたもんだけどなぁ…」
へー…言葉通りに受け取るとスライムってのは実在していて、液状のアレ、ってこと、だよね?…本当に、実在したの?スライムって、何かの比喩かと思っていたんだけど?実在して、いたのか…そっか、そうなんだ…なら、他の大陸にはまだ生息しているって可能性あるってことじゃん?…研究に必要なスライムが実は自然由来で生息しているのだとしたら?めちゃくちゃ近道にならないかなそれ?うわーほっしぃ!!それをベースにすればいいのかな!?
「今だからこそ、子供のころの発想だと笑い話に出来るのだが当時の俺達は真剣に意見を交わして、全員がたどり着いた結論は、スライムは鳥の涎ってことで決着がついたんだよ、懐かしい思い出だ…」
…なんか、聞きたくない結論すぎて、なんて返事を返せばいいのかわからないのでスルーして、スライムってどんな形状をしていて、どんな特性があるのか聞いてみよう!
「ん~、当時はそういったことに興味があって研究するような人がいなかったから、わからないが、俺が知ってるっとなると、ベトベドしていて、長い間、直肌に触れると、ちょっと皮膚が溶けるような感じがするって、くらいか?後、生態系としては、恐らくだが、普段は木の葉とかを食べてるんじゃないかぐらいしか知らないんだ、申し訳ない」
ちょっと、皮膚が溶ける、っとなると、弱酸性ってことかな?
…酸性かぁ…確かに何かを溶かすなら酸性の方が適しているよね…今、実験に放り込んでるやつってどっちなんだろう?酸性だったかな?アルカリ性だったかな?その時点で間違っている可能性高いよね?うん、紫キャベツで今度調べてみようかな?
実験に用いたい素材が何を取り寄せたらいいのか少し、参考になる良き情報を心の中にメモをしておいて、他にも気になるのが、その、とんがった耳の人は生活の知恵を教えてくれたみたいだけれど、具体的に何を教えてくれたのだろうか?
「ああ~…ぁぁー…あー…」
覚えてないってことかな?この感じ?
「本当にどうでもいい内容だぞ?食べれる木の実とか、その程度だった…かな?」
生活の知恵ってわけね、成程ね~、普段見ている野草も実は食べれるって知らない事ってあるもんね。
その人は、そんな事を伝える為に世界を旅しているの?っと尋ねると、思い出したみたいな感じで驚いて
「そうだったそうだった、思い出した、聞いたことがあったよ、その人がどうして世界を旅しているのか、その人はな、世界に散ったある技術を探していたみたいなんだよ」
散った?技術?散った?ってことは、大元はその人たちが編み出した技術?技術を探す?無くしたの?技術って無くなるの?長命種、だよね?何でなくなるの?何で散るの?
はぁん?っとつい、お前は何を言っているんだという目をしてしまうのだが、勇気くんは私の表情を意に介することなく思い出せたのが嬉しいのか嬉しそうにしている。
「俺も…その技術が何なのか、詳しくは教えてもらっていないのだが、今にして思えば、術式関連の技術なのだろうなってわかるきがする、そうか、あの人は術式とか、魔道具を探していたのかもしれないな…残念だよ、あの人には少なからず恩を感じていた、あの人と出会ったのが大人の時であれば、違った答えを提示することができたのかもしれないな、うん、惜しい事をした気がする」
あー、うん?うん…騙されていない?大丈夫?変な人じゃないのそれ?って突っ込みたいけれど、幼い頃の思い出みたいだから黙っていよう
って、感想もあるし、魔道具を求めて探しているのは全大陸の人が、そうだから、そういわれると旅する理由にはなるよね!魔道具って便利だもん!それを解析して量産出来たら、大儲けできるもんね!旅する価値があるある!ってことはさ、その人ってお宝ハンターってやつじゃないのかな?




