Dead End ユ キ・サクラ (49)
「だから、それを補佐するために俺の魂を…術式に精通している魂をこの体に放り込んだのかもしれないな…ただな、どうも引っかかるんだよ、俺は、特別術式に対して才能があったとは思えれない、普通の才能無き何処にでもいるような人物だったはずだがな?まったく術式と関わっていないわけではないけどな、聖女様と、白き黄金の太陽と長く共にしていただけだっていうのにな…そんなわけで、ユキが敵からの干渉を防ぐ手立ても、魅了の魔眼を制御する術も無いって言うのはそういうことだ、己の体が親から受け継いだものじゃない、突如、ねじ込まれた能力だから扱いきれないし、異なる世界のルールで育った魂だからこそ、敵からの干渉を防ぐことが出来ないってわけだ」
…敵からすれば、誤算があるとすれば、勇気くんが、暴走させない様にユキさんの心をずっとケアして、時には守ってきたからってことなの、かな?
それとも、勇気くんが術式に対して才能を目覚めさせてしまったって部分が、大誤算だったのかも?
敵からすれば、過去に術式に対してある程度理解力がある人物を探していて、かといって、研究者のような人物は避けたかったとか?
「俺としてもユキの心を守り続け、人類を助ける人柱になろうとは思っていたんだがな、誤算があった、困ったことにな、この街に来てから敵の干渉が強くなってきていて、俺一人じゃユキの心を守り切れそうも無かったってことだな、敵との距離が近づいて干渉が強くなってしまったのかもしれないな…敵に感づかれるかもしれないが、どうしても敵の干渉を防いでユキの心を守らないといけなかったんだよ」
…だから、こんな危険な真似をしてでも敵からの干渉を防ぐ空間を作り出したって事か…
勇気くんが抱えている事情を把握し、理解しようとしていると、そっと肩を掴まれ胸元に抱き寄せられる?ふわ、ぇ、きゅうに、なに?
「あの夜、君が来てくれた、聖女様と同じ白き髪にただならぬ雰囲気を纏った人物、あの日、世界を救う為に立ちあがった聖女様を見た時、世界が動くと感じた時と同じように感じた、俺はまた、彼女と共に世界を救う旅に出るのだと、魂が震えた、歓喜した、遠き未来で孤独に目を覚ました、俺を知る人物は誰もいない、俺と共に歩んだ友はいないそう思ってユキの中で生きてきた、だけど、あの瞬間に俺は独りじゃないって知ることが出来た、サクラ、君に会えてよかった、ありがとう、俺を孤独な戦いから救ってくれて」
力強く抱きしめられる、震える腕からはいろんな感情が伝わってくる…
私もね、勇気くんと同じことを感じたよ?
孤独な、何度も何度も死んでは立ち上がるっていう孤独な戦いを強いられてきて、世界中、どこを探しても私と同じ時空を共にしてくれる人はいないんだろうなって感じていたから…
…私達は同じように時の流れに逆らって、本来であれば絶対に出会う事のない魂…だからこそ、惹かれあうのかもしれない…
勇気くんが孤独を忘れる様に私を強く抱きしめる。
自然と私の腕も勇気くんを抱きしめる様に手を回し力いっぱい抱きしめる。
お互いの、震える腕が落ち着くまで…お互いの心を重ねあった…
ゆっくりと離れた後は、少し気まずかったけれども、それ以上に、お互いの心?魂?に何か繋がりが出来たような気がして、心が、魂が、暖かくなっているのが感じる。
離れてすぐに、勇気くんが話し始める、よかった、こういう時になんて言葉を選んだらいいのかわかんないんだよね。
「そんなわけでだ、ユキの心を今後も、ケアしてくれると嬉しい、敵からの干渉は負の感情を誘発させ、膨らませ、過度な負荷を与えて破滅させる手法だ、心に余裕があり、明日を強く求めれば自然とその考えを否定することが出来るっと、俺は思っている」
確かに、言われてみれば、耳鳴りがしているなってタイミングで湧き上がる負の感情、心を暗くしようとするあの、嫌な流れ!
その考えは間違ってる!って、強く否定すると引っ込むよね?しこりを残さずにさ、そういうことだったんだね。
敵のやつ…そうとうめんどくさくてまだるっこしい手法を選んでくるじゃん?どうして、攻めてこないのだろうか?
つい、思ってしまったことをポツリと呟いてしまうと、その言葉に勇気くんが反応を示す、もしかして、何か心当たりあったりする?
「ん?敵がどうして攻めてこないって言う理由を知りたい?ってことか?」
勇気くんが敵の事情を知っているわけ無いと思うけれどさ、私が気が付いていないこととか、何か考えがあるのなら聞いておきたいかな。
こういう話題って誰にもできないもん、敵が知恵を持っているなんてね、お母さん以外、誰も信じてくれないよね。
「俺も、敵からの情報を直接、得ているわけではないが、推測はできるのだが、確証はない、けれども…」
なんだろう?含みがある言い方?別に推測だけでもいいんだけどな?過去に何か気付いたことがあるのなら教えて欲しいな。
「推測だけじゃない…実はな、断片的な情報で良ければ俺は敵から手に入れたことがある」
おぉっと?一気に話が変わってきたっていうか、うん、勇気くんが嘘を言うわけがない。
私の中にある推察は正しい、敵の中に知恵あるモノがいる。ただし、尻尾は出さない、証拠は残さないってだけだよね。
…まぁ、知ってたって思う程に、私と敵との闘いって言うのは数多く戦ってきてるんだよね、残念なことに、人が知ることが出来ない歴史の中でだけどね!
その多くが!敗北を味わっているんだから、ね…苦い苦い、死の味だよ…
思い出すだけで、心臓が痛くなるから、思い出すのはやめとこう。
それよりも、勇気くんが得たであろう敵の情報の方が大事!!
「情報を得たのが、ユキが幼い時に、あるきっかけで手に入れたことがある、といっても左程、重要な情報では無いけれどな。敵が此方に干渉してきている時に、俺からも何かできないかと何度か抵抗する意味を込めて、逆探知できないか試してみたことがある、その時に偶発的に、今では絶対にできないのだが情報を得ることが出来た、そんな古くて断片的な情報で良ければって感じだ、さらに言えば、それを裏付けるものは何もない、それでもよいか?」
…驚きだよ、勇気くんってそこまで術式に精通しているなんて思っても居なかった、敵からの干渉を逆手に取って情報を取りに行くなんて、私では、どう頑張っても、その答えに辿り着けないしやろうとも思わない。
「このやり方はお勧めしないぞ?今となって改めて考えてみたが、この手法は、ごく普通の人である限り、絶対にしてはいけないからな?なんせ、肉体から魂を切り離して相手先に向かって飛ぶっという離れ業をもって実行したのだからな、肉体に繋がれている、接続されているって表現の方が適切かな?敵との干渉、つまりは、何かしらの術式と接続されている状態ってことだ」
えっと、つまりは、Aという肉体にBって人が意識のパスを繋げていて、本来であれば入力出力の関係でAからBへのアクセスはできない、BからAへ出力する事のみが可能って状況?それを…強引にBからAへ向かって入力しか出来ない状況を逆流するようにAからBへ出力したってこと?
「繋がっているっという、その状態を切断されない様に、此方側からもその状態をキープしながら逆探知する、探り探り、飛び飛びで、どの道を通ったのかわからないが、確実に繋がりを辿り続けてることによって進み続けた、単純に説明すると、繋がった敵の魔力を辿っていき此方に流れてくる魔力の流れに逆らって進み続けるっていう考え方だ」
なるほど、イメージとしては、バケツの中にある水滴、それを自身と見立て、ホースを水道に繋げてバケツの中に水を流し込む、バケツに向かって放たされる自身が水滴であれば激流と感じるほどの水の流れを逆らい、水の大元へ向かって激流を逆らって進み続けるってこと、だよね?無理くない?
「これら全て、当時と同じ状況下が再現できたとしよう、仮にサクラがそれを実行するとなると、まずは、サクラの体からサクラの魂が抜けるっということになる、敵と繋がっている状況下で、魂をよそに飛ばしてみろ?魂が抜けた体なんて誰が守る?外見は守れても中は守れないぞ?純粋にこういった術式は完全に敵の方が上手だろう?一瞬で敵に体を乗っ取られるからな?」
うわ!?やめとこ!!一瞬、私も出来るかなって考えたけれど、やめとこ!!
…でも、やり方だけは何かの参考になるかもしれない、っていうか、参考どころじゃないじゃん?私がいま研究している、肉体と魂を切り離して新しい肉体に宿すっていう研究内容にとって必要な技術じゃん!…後でじっくりと、教えてもらおう。技法さえ理解すれば、安全策も講じることが出来る。ゼロの情報ではなく1でも情報があれば、それに足し算をしていくことは容易だからね、概念さえ理解すれば、だけどね~…
次々と渡される新情報によって、私の心は研究者としての好奇心が湧き立ち違う意味で彼との会話に興奮してしまう。
一刻も早くその技術を知りたいなって声を掛けようと思ったけれど、勇気くんの話はまだ終わりではなかった。
「その時に、得た情報だとな…感情でいえば、”恐”だ…」
驚いたことに、敵の情報を掠め取るまで彼は深く深く、何処に居るのかもわからない敵へとアクセスすることが出来たのだ、私はてっきり、手法を試すことが出来たけれど、途中で弾かれたものだと思っていた…それだけじゃない、私が抱いていた物とは大きくかけ離れ敵がそんな感情を抱くなんて想像したことも無い、今一度考えるが、その情報が正しいとは思うことが出来ない…だって、恐れだよ?その感情が何を意味するのか考える
恐れ?…恐れる、つまりは、怖がってる?あの強靭な肉体を持っていて、私の最大火力を受けても耐えれる程なのに?何を恐れるというの?向かうところ敵なしなのに?
困惑し、到底、理解できない、私が今まで対峙してきた相手の情報を総合的に判断すると、その情報が何かしらの情報操作とか、敵からすれば、自分に向かってくる相手に嘘の情報を渡したのではないかと考えしまう程に、あり得ない情報…思考の渦に飲み込まれそうになっていても彼の説明は止まることが無い、一旦、思考の渦に落ちるのはやめないと。
「サクラは…敵が現れた時に受けた仕打ちを知って、いるよな?」
…?仕打ち?…ん?私が敵にしたこと?
「今でも武勇伝として語り継がれている、はずだし…こういう英雄譚に興味は、いや、そもそも、その英雄譚に出てくる英雄と特殊な繋がりがあるから知っているか」
武勇伝?英雄譚?っとなると、始祖様の事?ぁ、もしかしてあれかな?人類が突如現れた敵の軍勢に滅ぼされる寸前に天から舞い降りた救世主、始祖様降臨によって蹂躙された武勇伝ってことかな?
…っとなると、恐れているって、まさか、え、始祖様を?敵は、始祖様がまだ、この大地にいるとか思ってるの?
そんなバカなって顔で勇気くんを見つめていると
「サクラは賢いけれど、時折、常識の枠から出れない時があるだろう?」
ぽんぽんっと頭を撫でてくる…ぐぅ、見透かされているのが腹が立つけれど、事実だから文句が言えない!
「俺が敵の立場だとしても、怖いさ、自分と同じか、または、それ以上の力を有している同胞が、瞬きをしているほどの一瞬…その瞬く間に消えたんだぞ?戦慄するだろう?」
敵の立場として考えれば、そうだよね。
自分と同格の存在が、一瞬で倒されちゃったら、自分も一瞬で倒されるってことだもん…それも、超長距離からの、普通であれば届くわけが無いと思うような距離でも槍が同胞の体を貫いたのを見ていたとすれば…
うっわ、それは、確かに怖い、怖すぎるよね。必死に逃げるよ…




