表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最前線  作者: TF
329/700

Dead End ユ キ・サクラ (42)


私の心が何処か深い場所に落ちそうになっていく、何かが耳元で囁いているような気がする、何かが、私に語り掛けている様な


みみなり が する


「あら?起きてたの?」

突如、何処からか声がして暗い世界から救い上げられるように、意識が明るい世界へとシフトする

声がした方に視線を向けると何か箱を持っているお母さんが此方を見て

「あーやっぱり、予想通りね」

慌てて此方に駆け寄り私の隣に座り、箱から何か道具を取り出し始める

「痛かったのね、自分で何とかしようとしたけれど出来なかったのね、まったく、こうならないようにこれからは、運動して体を鍛えなさいよ?」

手際よく、私が痛みを感じた場所に何かが塗られていく、ひんやりとして気持ちが良い、心地が良い…

「あーもう、ほら、泣かないの」

涙が溢れ出ているのか、頬を何かが伝っていく

「よく頑張ったわよ、自分で何とかしようとするその姿勢も素晴らしいモノよ、偉いわね」

そっと優しく抱きしめてくれる、そっと優しく頭を撫でてくれる、そっと優しく背中を摩ってくれる…

気が付くと、声を出しながら涙を流しお母さんに抱き着いていた…




「はい、これで処置はお終い、後は、ほら、横になりなさい、回復の陣も持ってきてあるから」

ベッドの上に回復の陣が描かれている布を敷いて、その上にゆっくりと寝かせられる

回復の陣が起動すると、ジンジンっと響く様な痛みが少しずつ落ち着いていく。

きっと、塗り薬との相乗効果でそう感じるのだろう


気が付くと、つい先ほどまで感じていた負の感情が完全に消えている。


…痛みが無くなり冷静になって考えると、どうして今更、そんな事を考えてしまったのだろうか?答えなんてとうの昔に出て納得できているっていうのに。

どうして短命だぁ?今の私をみろよ!私達の一族、イラツゲの、ルの運命を生きた者たちから見れば一番長生きしてるよ!

それに!短命だろうが何だろうが、死ぬときは死ぬ!大昔の王都なんて、産まれてすぐに死ぬ赤ちゃんだって山ほどいたじゃん!

人はいつどこで死ぬかなんてわからない、誰も知らない!短命だっていうけれど、私よりも若くして死ぬ人もいる!私よりも長生きする人もいる!


だから何だっての!嘆いたって運命は変わらない!その日その日を全力で生きて、全力で駆け抜けたらいいじゃん!悔いなんて残さないで!それでいいじゃん!


どうして、世界の為に礎にならないといけないだぁ?私の望みをかなえる為だろうがっての!私の願いを叶える為には平和な世界が必要なの!礎に、踏み台になってたりしてない!目的の為に動き続けている!その結果!世界の為になってるだけ!私の我儘を叶えて行った結果!勝手に他人が幸せになっただけ!


どうして、短い人生を他人に捧げないといけないのかって?捧げたつもりなんて無い!むしろ…捧げられてばっかりだったよ。

今もこうやって私が生きているのは、多くの人が明日を信じて繋いでくれたおかげ…

戦士長が必死になって愛する人と生きようと明日を夢見て藻掻き続けた、足掻き続けた…

その足掻きがあるからこそ、お母さんは私の傍に居てくれた、どうしようもない屑で自分勝手な私を支え続けてくれた!…人生を捧げるように傍に居てくれた!!


私は…お母さんみたいに、お母様みたいに…自分の命を誰かに捧げたことなんて…ない…


今だって、優しく微笑んで、ほほえんで…なんか、ゴリゴリって音がするんだけど?ざらざらって音がするんだけど?お母さん?私のベッドの隣で何をしているの?

どうして、手には真っ黒な液体が入ったグラスを握っているの?どうして、白い液体をそれに混ぜるの?何を混ぜたの?何を入れたの?お母さん?え、匂いがこっちまでくるんだけど?すっごく苦そうな、すっごく変な臭いがするよ?っていうか、土の臭いがするんだけど?気のせいじゃないよね?ねぇ?それなに?ぇ?何を用意したの!?


え、やだ、上半身を起こさせないで?ねぇ?やだよ?飲みたくないよ?ねぇ?ねぇ?ねぇえええええええええ




「あら、意外と飲めない事も無い味ね、プロポリスをベースにして、ハチミツと牛乳と豆乳を混ぜてみたけれど、飲めない事も無いわね」

飲めないよ!!!って全力でツッコミを入れたくなるけれど、そんな気力をもぎ取るかのような味と臭いでした…健康オタクめ!!

涙目で訴えていると口直しとして牛乳にハチミツを入れた飲み物を飲ましてくれたので許して、あげ…ようかなぁ、もう!


痛みも引いてきて、口の中も落ち着いてきたので、体が完治する迄、お母さんと他愛のない会話をしつつ、近況を報告しあう。

こんな朝もあっても良いと感じることが出来た、大事なものを再確認することが出来た、明日を信じて進む力が胸に宿るような気がした。

ドアがノックされる音がしたと思ったらすぐに扉が開き「あ、ぁ、っと、おはようございます」メイドちゃんが部屋の中に入ってくる

「それじゃ、後は小娘に任せて、私は部屋に戻るわね」

隣に座っていたジラさんがゆっくりと立ち上がる、その仕草と雰囲気が幼き頃に見ていたお母様そっくりだった

「うん、お母さん、ありがとう」

自然と感謝の言葉が声に出ていた良いのよ気にしないでっと優しく微笑んで頭を撫でてくれる

手を振りながら、部屋を出ていくお母さんを見送る

「お体の方、良くないのですか?」

賢いメイドちゃんはこの状況を直ぐに理解したみたい

「大丈夫、運動不足が祟っただけ、起こしに来てくれてありがとう」

ベッドから上半身を起こして挨拶をすると、私が素直に感謝の言葉を言うことに驚いたのか目を点にしている。

「それじゃ、今後はもう少し早くに起こして医療の父っと名高き人物と一緒に早朝ランニングに参加しましょう、私もお付き合いします!」

むんっと両脇をしめて頑張りますよっとポーズを取って鼻息を荒くしてやる気を見せてくれるのは良いんだけどさ、正直に言えば、したくないなぁ~…

苦笑いをして約束をしたようなしていないような有耶無耶にしようと努めてみるが、たぶん、スケジュールに余裕がある日は起こしに来そうだよね…


しゃーない!運動不足ってのは常々、理解しているし!小食と言えど!理想のプロポーションが崩れるのは姫としての威厳が崩れちゃうからね!

どっかのハゲデブみたいな姿には近づきたくないからがんばろっかな!その血を紡いでるから私もその才能を秘めているってことだからね!うっわぁ!気を付けよう!!


運動について前向きに検討するっという形で心の中で決着している間にメイドちゃんがスケジュールを調整してくれた内容を報告してくれる。

取引先の人も非常事態だという事であればっと、快く頷いてくれたみたい。

この街が防衛の要だという事を知らない人は誰もいない、こういう時に文句を言う人は世間から石を投げられてもおかしくない狂人者認定されてしまうからね。


確認も終わったので、ベッドから這い出ると、寝起きに感じていた、ぴりっとするような、ずきっとするような痛みは完全になくなっている…ってわけでもなく、節々がちょっと痛いかな?ってくらい。

立ち上がって屈伸などをしても、股関節に痛みは軽度残ってるっかなー?って感じ

歩いてみると、足裏の痛みも足首の痛みも若干、違和感を感じる程度で問題は無さそう


うんうんっと頷いて確認し終わると、メイドちゃんに服を着替えさせられながら「あまり、ご無理をなさらないでくださいね?」心配そうに声を掛けられてしまう。


メイドちゃんには、当然、伝えてある。

私の体が弱い事を伝えているし、病気やケガが治りにくい体質であることもしっかりと伝えている。


だからこそ、怪我のリスクしかない場所、私が死の大地に行くことを何時だって反対してきた。

今回だって、私がメイドちゃんに何も言わずに死の大地に出撃したことをよくは思っていないだろう。

それでも、私が指示を出す前に、方々へスケジュールを変更するために駆けまわってくれていた。夜になっても姿が見えなかったのは、きっと遅くまで各地へ足を運んだり手紙を用意してたりしてくれていたのだろう。


誰が何と言おうと私の業務を完璧に補佐できるのはメイドちゃんしかいないし、いざって時に、取引を任せられるのは彼女以外にありえないだろうね。

優秀なメイドに育ってくれて嬉しい限り!


打ち合わせも軽く終わらせてメイドちゃんが取引先に会いに行くっということで部屋で別れる

別れ際に「メモ書きを乱雑に私に届けてくれるのは良いのですけど、起こして!って内容だったときは…笑っちゃいましたよ」っと、笑顔で言い残して部屋を出て行った。

普段から、メイドちゃんは決まった時間に起こしてくれるけれど、昨日の夜に見当たらなかったので念のためにって感じだったんだけど、余計なお世話だったかも?


さて、準備も万端、体の痛みはまぁ、集中力が削がれるほどではないので、問題なし!

ぐぐっと背筋を伸ばしながら部屋を出ていく…何故か部屋を出るタイミングでつい、後ろを振り向いてしまう。


誰もいないのに


変な感覚に後ろ髪をひかれながら、部屋を出る。いってきます…



外に出て、転送陣がある広場に到着すると支援物資を積み上げるように運んでいる新兵達の姿があった。

恐らく私達が帰ってきてから打診でもあったのだろう、セーフティーエリアからね。

何を運んでいるのか念のために確認してみる、食料とか、包帯とか、術譜とか…

うん、今回の異様な敵の接近に関しては長期戦になりそうな予感はしていたから、その事も伝えようと思っていたけれど、言う必要もなさそう。

経験豊富な戦士達がしっかりと先を見据えて動いてくれている、だからこそ、私も安心して後方支援に徹することが出来る。


全員の準備が出来次第、転送陣を起動させ死の大地へと出撃するって形で良さそうだね。

陣を起動する為だけに、本日はお休み予定の人がスタンバってくれている、頼んでも居ないのに自ら買って出てくれる、嬉しい限りだよね。

指示だけを待つのではなく、自ら、今何が必要なのか、何を求めているのかしっかりと考え動いてくれる。


転送陣の起動は基本的に人力で行う様にしている、魔石での起動も出来るけれど、極力、人力で行いたい。

理由は、魔石で起動しちゃうとうっかり魔石を外し忘れて常時、転送陣が起動してしまうっていうヒューマンエラーっていう恐れがあるから

人力だと、魔力を込める人が居なくなればさ、陣は自動的に停止するからね。

まぁ、魔石が空っぽになったら勝手に消えるから、魔石でもいいっちゃいいんだけどね~…本音のところ、まだまだ魔石の構造が改良しきれていないから、陣を起動させる規模の魔石を持ち運ぶのって重たいから邪魔って言う理由が本音だったりする…技術力の低さが露呈するのが嫌で誤魔化してます!ぅぐぅ、頑張って新しいロジックを産み出さないと。


医療班が使っている回復の陣も魔石ではなく人が行うのもそういった理由があるってことー、セーフティーエリアに魔石を運び込むだけでかなり大変になっちゃうし、その魔石をチャージするのもまた、大変だってことになる。自然回復する人で行うのが今のところ一番効率が良かったりする。

後は、安全面もやっぱり影響あるんだよね、陣を起動しっぱなしにすると回復を促す陣が過剰に反応して治療を受けている人に余計な負荷を与えてしまう恐れがあるからなんだよね。


セーフティー機能を取り付けたいんだけど、なかなか、上手い事いかないんだよなぁ…


地球の技術みたいにさ、回路みたいなのを作りたいんだけど、上手いこといかない。

どういう状況なのか、適切な状況判断を魔道具そのものが自動で判定、判断してON、OFFをしてくれないといけないっていう部分が何時まで経っても解決できないんだよなぁ…

オートメーションっていう考えには至っているんだけど、実現できる方法が確立できていない。

AIっていう人工知能を産み出し、プログラミングっという高度な命令プロセスを利用している言語は本当に素晴らしいと思う。

っていうか、そのプログラミングを記憶する媒体も凄いんだよなぁ…陣もそれを参考にして複数の術式を組み上げて相互作用させて実行しているんだけどさー、条件を複雑にすればするほど、陣が巨大になっちゃうし、どっかでミスが生まれたりすると暴発するし、何かの弾みで描いた陣が崩れると機能しない!停止するだけならいいんだけど、さっき言ったみたいに魔力が変に変換されてショートする様に暴発すると魔道具そのものが壊れちゃうんだよなぁ…


だから、魔道具そのものにもある程度耐久力が必要となってくる。


その点、敵から奪った魔道具の殆どが、ベースがあの人型が扱う事を想定しているからなのか、そこそこ頑丈に出来てたりする。

指輪タイプとかは脆いけどね~、でも、指輪タイプの凄い所が、如何に指輪サイズに術式をコンパクトに簡略化して刻み込むのかってのが解析すると伝わってくる。

これを作るのは、とっても、とーーっても!凄い技術力!ってのを感じるんだよね。


壊れた指輪タイプの断面図を見て驚いたもん、指輪そのものを形成する物質を複雑に成形し、術式を指輪の表面に掘るのではなく指輪を形成している物質の中に術式を立体的に刻むって言う概念は非常に参考になったもんね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ