Dead End ユ キ・サクラ (30)
目が覚めるとベッドの上…
見知らぬ誰かのベッドではない…
幼き日々を共に過ごした思い出深い懐かしいベッド…
年期も入っているし、新しいのに買い替えようって言っても、まだ使えるからいいのよっと頑なに新しいベッドに変えてくれなかった私達のベッド…
お母様と別れて世界には私一人なのだと孤独を感じていた、でも、ここにきてお母さんが私を受け止めてくれた…
孤独を割素させてくれた懐かしい天蓋…
思い出に浸りながら天蓋を眺め、久しぶりの懐かしいベッドの感覚に浸っていると何処から湧いてくるのかわからないけれど、何とも言えない、感覚が湧き上がってくる。
もしかしたら、街の人達が口にしていた実家への帰省する感覚、この感覚がそうなのかもしれない…
私を見守り守ってくれる人が傍にいるという状況でしか味わえない心からの安らぎなのだろう…
安心無策、そんな感覚を体の足先から頭のてっ辺まで感じ、この感覚を覚えようとしていると、炊事場の方から足音が聞こえてくるので、昔のように声を出す
「私も喉渇いた」っと、炊事場でお茶を沸かしている人物に声を掛けるといつも通りでいいわね?っと返事が返ってくるのでおねがーいっと子供のころと同じように傍若無人、我儘お嬢様っと言った感じで返事を返す。
喉の奥から声を出した影響なのか、久しぶりのこの部屋のベッドだからなのか…お母さんの傍だからなのか、とっても、目覚めが良い。
目覚めが良いからこそ、寝起きだというのに気分も上々!
毎朝のように、もそもそとのたのたと起きるのが億劫とは真逆、手早くベッドから降りて、視線を窓に向ける。
窓の外から入ってくる景色は夕暮れを通り越して日が沈む寸前って感じ。
良く寝たなぁっと両腕を上げ、小さな胸を強調するかのように背中を弓なりにしならせ、背筋をぐぃ~っと伸ばしながらテーブルの近くにあるソファーにんぁっと情けない声を出しながらぽすんと座る
視線をソファーの前にあるテーブルに向けると、テーブルの上には色んな紙が無差別に置いてある、何の書類だろうかと無作為に腕を伸ばし、書類を手に取って読んでみる…
書類の内容を流し見で読んでも直ぐに察することが出来る。
お母さんもやる気に満ちていることが伝わってくる。
基本的にある程度、私みたいに大雑把にその辺に物を置かないでちゃんと片づけをする人がこんなにも書類を散乱させる程に大急ぎで仕事を進めているのが見て取れるし、書類に書かれている言葉も少々荒々しい。
つまりは、お母さんに渡した仕事を大急ぎで進めてくれているってこと。
状況証拠だけどさ、本人から声にしてもらったわけでもないんだけどさ、伝ってくるよね、お母さんもお母さんなりに時間を作ってユキさんの心のケアに勤めるために必死になってくれているって。
この状況を見て何も感じない私じゃないよ?
私だって負けてらんないよね!お母さんに負けないくらい!仕事を大急ぎで進めて!
今!出来ることを探さないといけない!
次の新月までに出来る限りの事を考え、ユキさんに何が出来るのか、勇気が求めるものを実現できる!そんなプランを練らないと、ね!
そんなことをぼんやりと考えていると自然とやる気が満ち満ちてくる気がする。
やる気が満ちた!かといって何一つ良い案が直ぐに思い浮かぶわけも無く、新しいアイディアが生み出されることもない、でもね、そんな状況でも特に焦るような感じはしない。
何故なら
「はい、紅茶、寝起きは甘めが好きだったわね…寝起き限定ってわけじゃないわね、いつも甘めが好きだったわねっと、はい、焼き菓子もあるわよ」
私には、人を導くことに関しては誰よりも信頼できる人物が傍に居るから
知ってるよ?下ネタが多いのも場を和ますためだったり、若い子達の悩みを聞いてあげたり、恋や愛の相談も乗ってあげたりしているのを
テーブルに置かれた紅茶に口をつけて薫りを楽しむ、心も体も満たされる失っては絶対にいけない空間、環境…どう頑張っても代用なんて聞くわけのない掛け替えのない私の実家を失わないためにも頑張らないといけないなって、考えるとね、自然と決意が湧き上がってきて、自分の大切なものが何なのか再確認することができる。
幸せの焼き菓子を齧り、この瞬間を一分一秒を噛み締めているとお母さんはソファーに座ることなく自分の席に向かって歩いていく。
まだ、仕事が終わっていないみたいで、紅茶片手に黙々と仕事を再開する。
その姿を見て、私も仕事を前倒して、少しでも今、出来ることはしないといけないなっと仕事のスケジュールなどを思い出す。
もそもそとぱさぱさと焼き菓子の感触を味わいながら、何処の部分が前倒しにできるのか、何処の部分を詰めれるのか考えていく。
ある程度、見直してみると…うん、ある程度、時間を作ろうと思えば作れない事も無いね!
取引する場所を一点に集めて、ささっと終わらせるのが何時もの定石だよね!
この無茶なお願いを叶えてくれるメイドちゃんには申し訳ないけれど、関係各所に通達してもらおうかな~。
それにね、あそこでの取引なら先方も喜んで来てくれるだろうし、先方が私のホテルで飲み食いするくらいなら奢る奢る!
その程度の出費で時間を買えるのなら買う買う!
…買うんだけど、違うモノも買っちゃうことになるんだろうなぁ~、それもまたよし!
予定変更によるメイドちゃんの気苦労がちょっと増えるけれど、何かしら欲しいモノを用意してあげたらチャラにしてくれそうな気もする!
ささっと幾らくらいの予算が消し飛ぶのか考える…取引で発生し今後の付き合いで生まれる利益をどんぶり勘定で計算する。
うん!未来への投資っと考えれば全然、マイナスにならないから問題なし!っていうか、この程度のマイナスごときで焦る程、私の財力は甘くない!余裕だぜ!
っしゃ!そうと決まれば、メイドちゃんを捕まえて今後の方針を固めてこよっと!!
紅茶をくっと飲み干してお母さんにいってきますっと声を掛けると、仕事に没頭しているのに此方の声に反応し、ゆっくりと顔を上げて此方を見てくれる
「いってらっしゃい、気を付けるのよ~」
机に座り、ペンを人差し指と中指で挟んで持ちながらも、軽く手を振りながら見送ってくれる。
たった、これだけなのに、私の中にいる何かの感情が震えている…あの人と過ごした生活、これだけは守って見せるという決意が湧き上がってくる
湧き上がる活力を胸に宿して進んでいく!お母さんの部屋の外に出てメイドちゃんがいるであろう執務室に向かって駆け足で向かう
執務室にノックもせずにドアをガチャっと音がする勢いで中に入ると、書類整理をしている最中のメイドちゃんと目が合うと同時に少しだけ、ほんの一瞬だけ眉をひそめたのが見えた。
っふ、私じゃなかったら見逃しちゃうね~…
その表情からメイドちゃんの考えが伝わって来るぜ!こんなとこでしょ?
突如、思い付きで予定を変更しに来たのかっとか、面倒ごとを言いに来たのだろうなって瞬時に察したんだろう~~ぅッね!!
当たりだよ、これだから賢い子は…くっくっく…
悪い顔を一切見せずに、張り付けた笑顔でメイドちゃんに挨拶しただけで、メイドちゃんも覚悟を決めたのか張り付けた笑顔で、されど、困った雰囲気をかもし出しつつ話を聞く姿勢をとってくれる。
回りくどい事をせずに真っすぐにストレートに話を進めよう、私の勢いをメイドちゃんも察してくれたので、さっそくスケジュールの変更を伝え調整してくれるようにお願いすると、やっぱりかっと溜息を吐きながら了承してくれたので、後は宜しく!っと声を掛けてから執務室から出ていく。
執務室に長居するとさー、予定変更した理由をさージャブを挟む様に小粋なトークの中に織り交ぜてくるのが見えてるからね!
まったく、私の傍で成長したって考えるとさ、私の影響だろうなって思っちゃうから、こればっかりは何も言えないんだよねー成長したねーって褒めたくもなるし、これだったら、私の代わりを務めれるよねーって強引に取引とかの仕事を任せれるようになるのではないかっていう、期待もしちゃうってもんだよねー
絶対に首を縦に振ってくれることないだろうけどね!メイドちゃんはああ見えて責任感のある仕事は嫌がる節があるんじゃないかなって感じてるんだよね~
逃げるように、取り合えず、外に出たのはいいんだけどさ…
空を眺めてみると、外は真っ暗、夜!こんな時間に何をするわけもなし!っというか、今時間あってもまだ方針が決まってない!
うーん、今から何しようかな?
私がしないといけないことって現時点で何がある?
何もないような気がするし…
う~ん、情報が少ないなぁ…
どうしたものかと、腕を組んで薄っすらと見えない事も無いお月様が上空に向かってくるのを見つける。
ぼんやりと月の先端を見つめながら、何の準備をしたらいいのか、何をどうすればいいのか、考えていると視界の隅に誰かがお辞儀をしながら横を通り過ぎていくのが一瞬、映ったので誰だろうと視線を上空から降ろして、通り過ぎたであろう人物に視線を向けなおすと
ほっほー?あの後ろ姿はー!
これ程までに都合がいいなんて、これこそ運命なのだろうかと、聖なる月のお導きじゃないかって思ってしまう!
まだまだ隠れているお月様に感謝の言葉を述べたくなっちゃうよね!
お月様にペコリとお辞儀をしてそそくさと何処かに行こうとする新兵に声を掛ける
「もう、夜だけど、何処へ行くのかな?」
私の声に一瞬びくりと体を跳ねた後、ゆっくりと此方に振り向く新兵は、私の顔を見て少しあきれたような表情をしている
「ひ、姫様こそ、もう、夜ですよ?寝るお時間じゃないんですか?」
帰ってきた言葉が予想外過ぎて驚いてしまう。
此方がぴょいっと軽めに投げたボールを、ツーシーム宜しくストレートに倍に加速させて投げ返してくるじゃん。うっわ、久しぶりじゃん、子供扱いされるの!
長いこと忘れていたガキンチョ扱いに嬉しくもなり、つい、相手が望むようなガキンチョムーブをかましたくなってしまう。
「そーだねー、もう寝る時間だよ?それは君もだよね?新しい生活環境でさー、慣れない生活を送っているうえに、大変な訓練が控えてるっていうのに余裕だにゃー?さてはお主強者かーぃ?」
少し距離のある新兵の近くまで歩き下から覗き込むようにかるーく意趣返しをしてあげると
「…むぅ」
バツが悪そうな顔をしているので、これは…からかいがいのあるおもちゃのようだと感じてしまい。
私の方がお姉さんだっていうのを見せつけてあげないといけないっという気分に心が染まっていく。
「余裕があるのなら姫様に同行しなさい!」
ぽんっと肩っというか上腕三頭筋を叩いて、新兵の横を通り抜ける
暫く歩いても新兵が付いてくる様子が無いので、ある程度、距離が離れたらすっと逃げられてしまうかもしれないので逃がさないようにしないとね!
「何やってんの?ユキさん?おいていくよー?ほら~速くおいでよー?」
振り向いて声を掛けると、ユキさんは逃れることが出来ないと悟ったのか、少し不貞腐れたような?曇った表情をした後、はぁっと小さな溜息を吐いてから、諦めたのか此方に向かって駆けよってくる
駆け寄ってくるのは良い心がけだけどさー、なんで近衛兵みたいに、斜め後ろをキープするのだろうか?
うん?もしかしなくても護衛している気分?
んむー、完全に年下と思われてるねー…
ふむっと、どうしたものかと考えるとちょっとした悪戯心が湧き上がるので、今は姫様と近衛騎士みたいな感じを装って!ある場所に向かうとしましょう!
道中はユキさんが望む様に、傍若無人な我儘姫様御一行っと言った感じで振舞う!…
予定だったんだけどさ、夜だから人とすれ違わないし、この時間、私が向かう場所に行く予定の人は既に中に入って楽しんでいるだろうから、この時間に向かう人って…
うん、周りを見渡してもいなかった!ちぇー、我儘お姫様御一行ごっこが出来なかったかー、これっきりしか出来ないのになー
まぁいいや




