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最前線  作者: TF
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Dead End ユ キ・サクラ (28)

目を閉じて、ただただ、彼の傍にいることに安らぎを感じながら彼の心臓の音を聞いている。

彼の心に触れたことで安堵したのか、人生でこれ以上はない、と思っていたお母さん、それに、お母様と過ごした日々…それと同等かそれ以上かもしれないほどに安らぎを感じている。高鳴る胸が、安寧を求め安らぎを取り戻していく…


永遠に…このまま…平和に二人、寄り添って生きていけたらいいのになぁ…


心臓の音、この鼓動を感じているだけでどうして、ここまで、心が、淀んだ心が…浄化されるような感じがするのだろうか。

鼓動をより強く感じたくなり自然と彼の腰に回した手を彼の背中にやり、自身に向かって引き寄せる。

彼の全てが傍にいるっと言う状況だっていうのに、私の心は昂ることはなくどんどん、落ち着いてき、落ち着きを通り越して私の心がどうなっているのか曖昧になっていく


曖昧な感覚という初めての感覚に不安はなく、寧ろ心地よく感じている。この瞬間を永遠に味わいたくなり心行くまで堪能していると、頭に何かが落ちてきた感覚がしたので、何が落ちてきたのだろうかと見上げると、私の頬にぽたりぽたりと暖かい水滴が落ちてくる。

大粒の涙を堪えきれなかったのか、暖かい水滴を産み出す存在はの顔は、世界の悲しみ全てを背負ったかのような苦悶の表情をしており、力強く歯を食いしばりながら、涙を流し続けている。

大人と呼ばれる年齢の男の人が感情をあらわにしているシーンに出会ったことが無い私は彼になんて言葉をかけたらいいのかわからず、ただただ、上から降り注ぐまるで彼の心と同じような暖かみを感じる雨を受け止めていると


突如、力強く抱きしめられ

「きみは、きみは…辛かったね、痛かったね…ぅぐ、…ぅ…ぅぅ…」

彼がどうして泣いているのか何となく理由が分かった気がする、彼はもしかしたら私自身でも完全に把握できていない志半ばに散っていった未来の私が過去の私に残した残滓を読み取ってしまったのかもしれない。私自身でもある程度、辛過ぎるがゆえに記憶の底に封印している死の記憶を知ってしまったのだろう。

「これほど、これ、っぐ、ぁ、ここまで、つら、宿命なのか、聖女の一族はみな、これほどまでにせかいのために、あのひとも…世界の為に命を捧げたというのにそ、その連鎖は続くというのか」

抱きしめられる腕が震えている、あれ程迄、落ち着いていた心臓の音も激しく叫ぶように荒れている様な音が聞こえてくる、まるで、彼の心を表現するかのように、心臓の音が荒波のように押し寄せていえる、その音はまるで激しい悲しみの慟哭を代わりに表現してるかのように。

「たった、たった独りで、独りで…なんて、けいよう…しがたい…君は、どうして、独りで…ああ、でも、誰にも説明できる内容じゃない…だからって、独りで…ああ、そうか、過去に起きた魔女狩り…それを危惧して…そう、そうか、王から敵視されているがゆえに、か…君は、なんて、修羅の道を歩むんだ、歩んできたんだ」

彼の言葉の節々から感じ取れる、彼は私のバックボーン、その全てを観てきて尚且つ許容しようと受け止めようとしてくれる、なんて優しく共感性の高い人なのだろうか…

…それだけじゃない、本当に凄い、魂の同調?っという技術。

恐らくだけどさ、私が用意した記憶の壁、急ごしらえだから情報を選択している暇なんて無かったありったけのものを固めたっていうのに、それを全て完全に観てきたってことかな?私が必死に搔き集めて固めた私の人生録を全て観てきたのかな?こんな僅かな…一時、刹那のように短い時間で?


だとすれば、この技術さえあれば、言葉なんて要らない、人は皆、わかりあえるってことになる…

この技術があれば人は他者をわかり、人類の心を一つとすることが出来る、世界から争いを消すことが出来る。

…欲しい、なぁ…私もこれを身に着けたい。


力強く、されど、悲しみと絶望によって震えていた腕の力が抜けたと感じると肩を掴まれ、私達の間に小さな隙間が出来る。

でも、そんな隙間なんて感じさせないくらい、私達の心は繋がっている、通じ合っているのだと感じる。


こんな感覚は生きてきた人生で一度も感じたことが無い。


私の顔をじっくりと眺めてから、ゆっくりと目を閉じてから何度か、心を落ち着かせようと深呼吸をしている。

心が落ち着いたのか、精悍な顔つきがより深く際立ちそうな程、冷静な表情に切り替わったと思ったらゆっくりと目を開き

「ありがとう」

一言だけ言葉を言うと、肩から手が離れたと思ったら彼はすぐに立ち上がり此方を見下ろしているなぁっと思ったのは一瞬だった、目の前で膝をつき私の手を取り

「我が願い、聞き届けたまへ、俺は、柳と言う名を捨て、新たな世界を共に歩む道しるべを得た、その願いを叶えてくれまいか?」

言葉の始まり、これは、恐らく、騎士が王へ嘆願するときに言う言葉?かな?古い世代の言い回しなのだろうか?っであれば、応えてあげないと

礼を重んじるっていうのは良い事だと思うんだよね。

「はい、その願い、聞き届けましょう。心安らかにし、清き心で王に嘆願する願いを申し上げなさい」

背筋を伸ばし、王族のように気品あふれる声を作り、その想いに応える。

「ありがたき幸せ、我が願い、それは」



孤独な世界を旅する孤高なるときの旅人、人類の救世主と成り得る聖女の末裔…我らが姫の騎士となることをお許しください



騎士への志願、その願いを聞くのは一度じゃない、初めてじゃないのに、彼が述べた魂の宣言は凄く心に響いた。

「許可しましょう。今宵の夜から貴方はこの星を、この大地を、遍く人類を救済するための騎士としてその人生を、生涯を歩み続ける事を許しましょう」

新月の夜、誰からも干渉されない私たち二人だけの世界で、私の事を…私の全てを知り、精神が崩壊してもおかしくない程の情報を見てもなお、前へ歩み続けようとする気高き精神を持った不屈の騎士が生まれた。


…この瞬間に、私の中にある、ある感情が、満たされ歓喜したような気がした。

もしかしたら、未来の私は彼だったら孤独な私の傍にずっと寄り添ってくれるんじゃないかっていう、希望と期待を抱いていたのかもしれない。


「っは!我が主の願い、騎士として全てを叶えて見せましょう!」

騎士としての洗礼の儀式は終わりを告げた、儀式剣などがあれば、彼の肩に剣の腹を乗せたりするのだが、剣なんてないから、これでお終い


っと、思っていたら

「では、我が主にお願いがあります、俺の名は過去の名、今瀬を姫と共に歩む為に、新たな名を授けて欲しい」

膝をついたまま立ち上がらないなって思っていたら、まだ、儀式の途中だったのか、確かにこういう時って拝命と同時に命名もすることが多いよね…

うーん、いきなり名前を付けて欲しいって言われてもなぁ、こういうのってさ事前の打ち合わせの末、長い時間をかけて名前って考える者じゃないのかな?…

私ってさ、お母さんにため息をつかれたことがあるんだよね、魔道具とかに名前を付ける時にネーミングセンスが残念だって言われたことがるんだけど、私ってそういうセンスが無いみたいなんだよね~、だから、少しでもいいので何かしら指標が欲しいなぁ…

考えろ!思い出せ!えーっと、確か、ユキさんの名前の由来って勇気ある人って名前だったよね?じゃぁ、そのまんまストレートに勇気でいいんじゃないのかな?

ユキって名前だとどうしても、勇気じゃなくて、雪ってイメージが湧き上がっちゃうんだよね~。

…うん、勇気が一番しっくりくるかも!

相手に悟られない様に思考を加速させ瞬時に答えを出す…明日はお母さんに魔力をたくさんもらわないといけないなぁっと冷や汗を感じながらも冷静に取り繕い儀式を続けていく。

「では、汝の今瀬での名を授けましょう。親が願った想い、その名、その願いを体現する様に我らの新たな希望を与える勇気ある騎士として目覚めることを願い、柳と言う古き名を一時でも良いので忘れ、新たなに勇気の名を授けましょう」

「っは!我が姫からの拝命、承りました」

地面に膝をついていた姿勢からゆっくりと立ち上がり背を伸ばし右手の指先を心臓に当て

「俺の名は、今代の聖女、サクラから与えられた…今後は勇気と名乗らせていただきます。」

此方を見つめる瞳の奥から伝わってくる、今までの彼から見たことのない程の強く、明日を夢見る輝きが感じ取られる。


もしかしたら、彼もずっと困惑し続けてきたのかもしれない…

突如、目が覚めたら死んだはずの自分が未来の世界で目を覚ました、されど、何か使命があるわけでもなくさらには別人格が表となり日々の生活を営んでいる。

この状況で出来ることはなく、ただただ、今の状況を見極めることに費やしてきた。って感じなのかな?まぁ取り合えず


「えっとね、私って堅苦しいの苦手っていうか、嫌いだからいつも通りに接してもらえると嬉しい…かな?」

少し首を傾げて此方の想いを伝えると

「ああ、わかっている、勿論だとも、俺はサクラを最も理解し尊重する人物になったのだからな…君の望むとおりにするさ」

私の中にあるイメージ通りに笑顔を作った後、頭を撫でてくる、くすぐったい…ね。

頭を撫でられるだけで心が暖かくなり自然と頬に熱が行き渡ろうとするのかピンク色に染まる

「さて、此方の事情も理解してくれたと思うから、今日の所はお開きとさせていただいてもよろしいか?そろそろ、妹が目を覚ますのでな」

ん?ちょ、ちょ~っとまって、そちらの事情は理解してないよ私?妹って誰?同室に居るのはオリンじゃないの?オリンって、男だよ?ひょろっちぃし、なよなよしてるけれど、男だよ?

彼の言葉に疑問を感じていると、彼の足先が私以外の向きへと変え立ち去ろうとするので、つい勇気の服を掴もうと手を伸ばすと

「む、すまない、何か用事があるのだったか?だが、申し訳ないユキのやつが表に出てきそうなので早々にこの場から立ち去りたいのだが」

此方の動きに直ぐに気が付いてくれたのは嬉しいんだけど、そっか、時間が無いのか、ん~、聞きたい事、いっぱいあるんだけどなぁ…

「うぅむ、その様な困り顔をされては…まさか、魂の同調で此方の事情が伝わってないとか…」

此方が考えていることが直ぐに伝わるのか、事情を察してくれるのでうんうんと頷くと

「ぁ…すまない、そうか、此方の事情は伝えれなかったか、成程、なら、次は言葉として此方の事情を語らせてもらおう、ただ、申し訳ないが今夜は、これ以上は…うん、難しいな」

時間制限があるみたいだし、次の機会でもいいのだけれどさ、次って何時だっけ?…しんげつのよる…ぁ、成程、一か月近く後になるのか~。後手に回らないそれ?

「騎士として拝命されたばかりだというのに頼みごとをして図々しいにも程があるのだと自覚しているが、すまない、頼みを聞いてくれないか?」

普通は、会って直ぐの人間、それも目上の人にお願いなんて出来ない、そんなのは非常識だってわかっている、けれど、私達の間柄は、初対面とは大きく違う。

勇気のお願いだったら何でも聞いてあげたくなるっという個人の感情は置いといても、私と彼の数奇な間柄なら融通は利かせるつもりだよ?

まかせてっと声に出し、胸を張ると

「ユキのメンタルのケアを出来る限りでいいので、お願いしたい」

メンタルのケア?…ん?彼ってそんなに繊細なの?…せんさいだから、なのか?…

「彼は、彼じゃない…」

…ん?何かの言い回しだろうか?…かれは、かれじゃない…うーんむぅ?どういう意味なのだろうか?

「ユキの魂は…心は女の子なんだ…」

…その一言を聞いた瞬間に全てがストンっと私の胸の中に落ちるのと同時に、自分の中にある固定概念という研究者として持ってはいけない部分に固執してしまった愚かな自分の頬を叩きたくなる衝動に駆られる。

「どうか、ユキの心を救って欲しい。あれには、この環境はきつすぎる、耐えきれるとは思えれないんだ」

過去に…私という弱き姫を守るために多くの騎士達が誓いを立てた、けれども、彼らは私を守ることのみで私に願いを言うことは殆ど無かった。

騎士と姫とは上下関係が明確にあることが多いが、ここはそういった王族の街ではない、私としてはこの街を守り、人類の未来を勝ち取るための同じ仲間、同胞だと感じているし思ってもいる。そりゃぁ、多少の上下関係はあるけれども、私としては明日を夢見て獣共を駆逐するのであれば、理想としては上も下も無く、前に進む為に意見を対等に述べてくれる人を望んでいた。


だからこそ、彼の願いをしてくれる行為に関しては私としても、とってはとても嬉しい事だと感じる…んだけど、願われた内容がちょ~っと冷や汗ものなんだよな~技術的な部分だったらどうとでもなるし、お金をふんだんに使えばどうにかなる問題だったらどんとこいって感じなんだけどさぁ…


同世代の友人が皆無な私にとっては非常に困難なミッションになりそうな予感がする!…されど、突破口はある!


私だけではその願いを叶えれる自信が無いけれども大きく自信満々にまかせてっと言えないけれども!突破口を信じて、私は胸を張り、目に力を宿し彼に宣言する

「まかせて!」

屈託のない笑顔で、彼に安堵して欲しい一心で虚勢をはる。


その姿と声に彼は小さな吐息を漏らし

「すまない、次の新月の夜には全てを語らせてくれ、その間、少しでもいいのでユキのことを頼む、頼むと言っては、ぅぅむ、これが親心だというのはわかっているのだが、無理はしないでいいからな?サクラは忙しいだろう?」

そりゃぁ、忙しいか忙しくないかって言われたらやることづくめで忙しいけれどさ、街の人と会話するくらいの時間くらいあるよ!

それにね、こういうのに適した人物を私は知っているから仕事の配分を調整して最も頼れる人物の手を自由にしてあげれば何とかなると思うんだよね

彼女なら突破口になるって信じれるほどに私はお母さんの事を信頼している。

…不安要素は叔母様くらいかな、愛する騎士様の子供が来るってだけで虎視眈々と意識を乗っ取ろうと考えてそうな素振りがあったからなぁ…


不安要素は上げたらきりがない!人の心なんてわかるわけないんだもん!わかりやすい欲望があればどうとでもなるんだけどね!この手のケアってやつは専門分野の人に任せつつ助言を貰おう!

「だいじょうぶ!まかせて、出来る限りのことはするから」

椅子に座りながらも微笑みを絶やすことなく、されど、背筋には一筋の冷たい水が伝っていくの感じつつも、接していると今宵の彼に残された時間は僅かなのか

「何度も、謝ってもうしわけない!これにて失礼させていただく」

急ぎ足で何処かに向かって歩いていく、何処かって決まりきってるよね、あの方角は寮の建物がある。

自室に帰ったのだろう。


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