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最前線  作者: TF
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Dead End ユ キ・サクラ (23)

心の騒めきが落ち着くことが無いのと等しく、私の仕事も落ち着く暇が無い!

原因は分かっている無理くりスケジュールを変更したツケがかなり大きく、ここ数日ずっと動きっぱなしで、身も心もへとへとだった…

何でも良いので癒しが欲しい…誰かに甘えたい…


そんな事を考えていると、ちょうど、オリンが目の前を通過していったので、何となく、本当に何も考えずに声を掛けてしまった…

用事も無いのに、王族の隠し子だというのに、オリンも私と過去に繋がりがあるのを悟られない様に気を付けているというのに…声を掛けてしまった…


最初、オリンも何事かと警戒していたのだが、他愛のない会話だったので徐々に張り詰めた緊張が抜け、新兵にこの街に来てどう?っという話題、新兵の誰にもでも聞いているのだろうと察したのか、終始穏やかに、他愛のない当たり障りのない無意味だけれど、上官として新兵を気遣う部分としては重要で大事な会話に付き合ってくれた。

ってなわけで、会話の内容も、上司が部下に最近調子はどうなの?困ったことは無いかね?頼ってくれていいんだからね?っというような感じで、わかる人にはすぐにわかってしまう。


偉い人が偉ぶりたいだけっというどうでもいい内容、私だったら早く終われよって思う内容。


普段の私なら、そんな無駄な会話をしない…

権力を誇示するような事なんてしない、したところで意味が無いし、ただただ、相手を不快にさせるだけだから…

それなのに、オリンと話す内容が何もなかった、きれるトークデッキがそれしか思い浮かばない程に…私は憔悴していたのだろう…


そして、オリンの察しの良さと人前の優しさに甘えてしまった…ささっと会話を切り上げたらいいのについ、5分ほども話し込んでしまった…



だから、気が付かなかった、憔悴して何も考えずに動いていたから何も警戒していなかったから、気が付かなかった。


…すぐ近くから視線が向けられていたことに…万全な私だったら絶対に気が付いたであろう視線に…



オリンと別れ、部屋に戻ろうと歩を進めた時に、聞こえてきた音が、空耳だと思っていた。

最悪なことに、その視線を気が付かなかったばかりに、聞こえてはいけない音を聞いてしまった…



【…やっぱり、女性の方が好きだよね…】



この空耳が、空耳ではなく、誰が何の意味を込めた音なのだと、感情から漏らした吐露だと…意味を早くに理解し気が付いていれば、私は…


…死ぬことはなかったのだろう






疲労困憊、意気消沈、四面楚歌、エトセトラエトセトラ!っていう状況によって心のエネルギーは空っぽに近い。

動く気力も無いって状況でも動かないといけない、誰か本当に変わってほしい。私は私にしか出来ないことが山積みすぎる…


幾度となく、街を出ては戻りを繰り返していると気が付けば、あと数日で新月の日が近づいている。だというのに…

私の心は、休まることが無かった、新月に向けて気力を充実させたかったのにできなかった。


偏に、あの一件の影響が大きく影響しているからだと理解している、それを改善する方法も理解している、永遠に答えが出せないからだ。

どんな答えで在ろうと答えが出ればそれに向かって決意を固めることが出来るが、永遠に答えがでず移ろいでいる。


待ち望んでいたわけではない、何かの判断材料になればよいと思って宰相に頼んでいた調査内容が届き、受け取ったのだが、本当にどうでもいい内容ばっかりだった…

読んでいる途中で燃やしたくなるほどに…


王族の中心にいる立場となった宰相と言えど、始祖様が現れる前の情報を入手する手段は無かったみたい。

つまり、柳の言葉を信じる為の判断材料が無い、無いのだけれど、今の状況から見て私は柳の言葉を信じるしか、道が残されていない気がする。



だが、柳の言葉を信じたとすれば、ユキは…確実に敵の先兵となる…その事実を、正直に言えば、未だに私は受け止め切れていない…受け止めることが出来ない。



仮に、もしもとして、考えはしたよ?

ユキが敵の先兵だったらどの様に対処すればいいのか、どの様に扱えばいいのか、逆にそれを逆手に取れないかとかね…でも、有効な一手が思い浮かばなかった、全部中途半端だし、その程度の事、敵からしたら些事かもしれないし、その様に私が動いてくるのを待っているような気がする。


ユキをどの様に処罰すればいいのかっという手順も流れも…考えはした。


だけど、考えはしたが、それを実行するのかっという決意が出ることはなかった。

常に、何時だって、私の考えは答えを出せることなく、グルグルと堂々巡りをしてしまっている。

決定的な何かが欲しい、だが、その何かを待っているっというのが一手遅いっという致命的な結果を招くのではないかという不安が私の心臓を掴んで離さない。


私は何時だって一手遅いから…


…そんな事ばっかり考えているせいか、だんだんと、お腹の辺りが気持ちが悪くなってくる…あいたた、胃の辺りが痛い。


気分を紛らわせようと、頭皮をがしがしと爪を立てないでひっかき、あーもう!っと勢いよく椅子から立ち上がるが…

目的も無く立ち上がっただけで、何をするわけでもない。壁にかけられている時計に視線を向ける、そろそろ食事の時間…


ふぅっとため息をつき、折角、立ち上がったのだから、食堂でご飯でも食べよう…お腹が気持ち悪いのはきっとお腹が空いて胃液が溢れ暴れているだけだと言い聞かせながら。

自室のドアを開き、疲れ果てた心を休ませるために何も考えず、何も警戒せず、行き当たりばったりの状態でゆらめきながら進み続ける。


気が付けば、食堂の前。何時もように食堂に入ると、ご飯怒気っと言う時間を考慮していてもそれ以上に人が溢れていた。


うーん、これは~、食事を受け取ったとしても、空いてる席はないんじゃないかな?部屋で食べようかな?でも、折角来たのだから、孤独に独りでモソモソと食べると味なんてしないだろうし、誰かの温もりを感じていたいから食堂で食べたいなっと考えていると、自分の順番になったので、いつも、いつだって元気で私達の胃袋を支え続けてくれるお母さんこと、ルッタイさんが「姫様!珍しいね人が多い時間にくるなんて!よっぽどお腹が空いたんだね!多めにするかい?」って言われたので「何時も通りが嬉しいな!」っと応えるとルッタイさんとは長い付き合いだから私が小食なのを知っている、何時も通りの量を用意してくれる。


ルッタイさんから食事は受け取ったのはいいのだけれど、トレーを持ちながら空き席を探すが、空き席は見当たらない…

いや、見当たらないわけじゃない、空いている場所はある…



それは、そこは、近寄りがたい場所、ユキの付近だ…



どうしてかわからないが、ユキの正面、両隣が空いている、偶々、誰かがユキの隣に座る予定があるから空いているのか、偶々、先ほどまでユキの近くで食べていた人が食べ終えて混んでる状況なので直ぐに席を明け渡す為に動いたのか、何故か空席となっている…


隣でも、正面でもどうぞっと言わんばかりに空いている…

その状況にお腹がより一層気持ち悪くなってしまう…


少し立ち止まって、私の後ろに並んでいた人達は何処に座るのか観察する…

どうしてかわからないが、空いている席に誰も座ろうとしない、ユキの近くに行くのを誰もが躊躇っている?嫌われているという報告は誰からもきいてない。なぜだろうか?

ユキは孤立しているように見えるのが、もしかしたら、ユキの周りにいる人達からすれば日常で当然の流れなのだろうか?


他の人達が知りえることが無い情報を知っている、私からすれば、獣の先兵であるユキの異常性を街にいる皆が本能で感じ取り、近くに居たくないからではないかと邪推してしまっている。


そして、どうして敵がユキという人類偵察、及び、寝首をかくために用意した先兵に魔眼を与えたのか、その思惑が見えたような気がする。

異常性を異常性と感じさせない、僅かに感じた違和感を好意と言う感情によって隠し、ユキが持つ異常性を中和するために、魅了の魔眼というこの世界では聞いたことも見た事も無い遺物を埋め込んだのだろう。


そんな考察が瞬時に湧き上がってきてしまう、程に、疑心暗鬼はとまらない


トレーを持ちながら軽く首を振り、動かないといけないと自身の心に呼びかける。

だって、立ち止まって考えれば考えるほど…私の心は良くない方向へと向かって行く。


他に席が空く気配もないし、ユキの隣に座るべきなのだろう、そう感じながらも視線をユキの方に向けると


一瞬だけ、ユキと視線が交わってしまった…目が合ってしまった…心臓が握られたような感じがして殺されるかと思ってしまった。

わかってる、ユキからは殺気なんて何一つないってことくらい、疑心暗鬼に陥っている私が感じた幻覚だってわかっている…

自身の周囲には空き席があるユキからすれば、席は空いているけど?っという感じで見てきたのだろうが…駄目だ、私にはそこに踏み込む勇気が無い…


私からすれば、その席は…


大きな大きな口を開け、餌が飛び込んでくるのを待ち構えているドラゴンにしか見えなかった…


ドラゴンにしか見えなくなってしまった恐怖心によって、何処かの世界戦で食いちぎられた記憶が蘇ったのか、自然と足が震え始める。

震える足を気取られない様に、そっと、トレーを持ったまま、空き席が見当たらない人達と同じようにそっと、食堂を出ていく…


別におかしくない、うん、おかしくない、食堂の席が埋まっていた時は自室で食べて、食器を返しにくればいい…食堂で食べないで自室で食べる人も数多くいる…

だから、きっと、ユキの目にもそう映っているはずだと自分に言い聞かせながら震える足で自室に向かって歩いて行った…


バクバクと鳴り響く心臓の音に紛れ、聞こえないはずの幻聴が聞こえたような気がした


【やっぱり、私って…嫌われているのかな?…誰からも…だれも…】



この幻聴が、幻聴ではなく何も余計なフィルターを通さずに真摯に受け止めていれば…

誰かが傷つき、悩み、助けを求める声だと・・・彼を人として認識できていれば・・・あんなことには・・・


後ろ髪を引かれるような気持ちになりながら自室に戻るが…食事は喉を通ることが出来なかった…



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