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ニットカフェ糸

 今の俺の行きつけのニットカフェ「糸」は、編み物好きの麻里さんとコーヒーにこだわる邦雄さんという50代の夫婦が経営している。麻里さんは自分で毛糸の染色も手がけていてホームページで見たその珍しい糸が欲しくて行ったのが始まりだ。


 最初は


「お母さんに頼まれたの?」


と子どものお使い扱いされたが、もう23才で社会人で編み物をする本人だと言うと、


「やだーすごい童顔!中学生いや、やっと高校生の思春期真っ盛り母想い男子かと!で?このひょろっとしたキミがまさかの社会人で編み物好き?え?」


かなり驚かれた。ジェンダーバイアスも真っ青の見た目評価をされ、こっちもびっくりだ。でもその正直さも潔く(いさぎよく)コーヒーも美味しく、不定期な休みに行って過ごす数時間が楽しみになった。


 そこで、レインボーうさうさの色違いを麻里さんの染めた糸で編みたくて相談していたら、なんと「作者が教えるネットで話題のレインボーうさうさ編み方講習会」なるものをこのカフェで開く話が決まってしまったのだ。


 ドキドキしながら当日を迎えた。編み物をする男で、レインボーうさうさの作者だなんて受け入れてもらえるのかと。


 いざ蓋を開けてみれば、このニットカフェの常連さんが来てくれたり、SNSのフォロワーさんがオフ会だと集まってくれたりと予想以上の盛況となった。

 

 しかし、肝心の俺は武原先生が現れてパニクッた。そして俺を見た時の彼女の見開いた目にもしかして覚えてくれているのかと期待した。


 なかなか話しかけられないまま講習会が終わり、解散してから、武原先生が店を出てしまっている事に気づいて慌てて追いかけた。


「武原先生!待ってください。久しぶりです。長谷川です!」


駅へ向かって歩く彼女がゆっくりと振り返った。あれから5年ほど経って、武原先生は柔らかい笑みを浮かべてくれた。


「やっぱりあの長谷川くんだったんだ。私のこと覚えてくれてたんだ。」


「あの、少し、お時間頂けませんか?」


走ってきたので息切れがした。


心良く頷いてくれた武原先生とまたニットカフェ「糸」に戻って麻里さんにお願いして隅の4人掛けのボックス席に座った。


「ブレンドコーヒー下さい。武原先生は?あ、俺おごります。好きなもの頼んで下さい。」


「おごるって、あっそうか長谷川くんもう社会人?」


頷くと、


「そっかー。全然変わらないから、つい塾生さんに奢ってもらうのは遠慮しなきゃと思っちゃった。」


「クククッ」


オーダーを待っていた麻里さんは笑いを堪えきれていない。


「童顔らしいですね。」


ちょっとムスッとしながら答えると、


「ね。初めて面談した時も背は大きいのに可愛い顔してるなってびっくりして印象に残ったの。編み物している姿、今日初めて見たけど長い手足で細かい事してる姿にかなりびっくり。あ、カフェオレお願いします。」


そんな風に見られていたとは思わなかった。

次回が最終話になります。

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