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面談

 彼女無し歴イコール年齢、趣味は編み物、表向きは卓球を嗜む(たしなむ)、そんな男子高校生の俺には弓タコさんの呟きは重すぎた。


 その一方で、編み物好きさん達は人生経験豊富な方々が多く、皆励ましや慰めを寄せていて俺なんかが出る幕はなかった。気付かなかった振りをしていよう、それが俺のできる精一杯だ。そう思った。


 ただ数日経って流れてきた呟きは胸をついた。


『励ましてくれて有難うございます。四年付き合った彼でした。私の事を思い出せないから別れてくれと言われたのがただ辛かったのです。編んだものが全部糸に戻ってしまったようで。糸と編み図が残っていたらまだ戻れるのに、彼には糸すらないのかもしれない。』



 塾で、武原先生を見かけると元気かどうか気になった。泣いた跡とかないかなとか。痩せたんじゃないかとか。編み物新作編めてる?とか。


 全部口に出せない心配で、知ってるとも言えないし、SNSで慰めるのもよく分からないし。気にしすぎてとうとう九月の模擬試験の成績が下がってしまった。


 当の武原先生に呼び出されて面談になってしまった。


「何かあった?大丈夫?」


それはそのまま俺が言いたいです。


「夏休み遊んじゃった?1番の追い込みだったのよ?部活引退してまとまって勉強ができる夏休みの後、維持するならまだしも、下がるなんて。」


武原先生は夏休みどうしてましたか?


「TU大学よね?総合文系志望だし。これは大学入ってからも頑張り続けないと希望の学科に入れなくなっちゃうから、今から息切れしないでね。」


「先生は頑張ったら、いい事ありました?」


思わず口から出た言葉に武原先生は目を見開いて口を閉じた。


「あ、思わず、すみません、間違えました。」


慌てて(あわてて)取り繕った(とりつくろった)


「大学楽しかったわよ。修士までいったし。長谷川くんはそれで塾の職員?なんて思っちゃうのかもしれないけど、私なりの教育への関わり方って言うのを模索中なの。まだまだこれからよ。」


そう言って彼女は美しく笑った。


「人生に悩んじゃったのかな?今はとりあえず勉強してみなよ。そういう時だよ。」


人生というか、あなたの呟きに悩まされてましたが、


「分かりました。いろいろ忘れて頑張ります。」


そう答えて面談を終わらせた。家から通える国立大学に入れなかったら、下宿となったり、私立大学になったらお金が掛かるからバイト三昧になる。浪人になってしまったら受験期間が延びてしまう。編み物が遠ざかるばっかりだ。


 どうせ俺の心配なんてあの人に届く事はない。俺はSNSを凍結させて編み物を封印して、弓タコさんの事も全部蓋をして受験勉強に没頭した。




 


編み図とは


ここで表題にもなっている編み図ですが、編み物を作るための手順図とよく説明されてます。編み記号や段数、目数などが書かれ、どのくらいの大きさになる、どの種類の糸をどのくらい使うかなど編み物の設計図のようなものです。

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