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5、 複雑な気持ち

「まず、言うことあるわよね」

「……すみませんでした」

新年初出勤、早々に滝を見つけて詰め寄る。

珍しく私がにっこりと笑っているので、滝は冷や汗が止まらないようだ。

ため息をついて腕を組む。

「なんで教えたのよ」

「あー…うん」

目を逸らす滝にネクタイを掴む。

「滝?白状した方がいいわよ?」

「怖い怖い!!お前が笑うと怖い!!」

手を離すと滝はネクタイを直す。

降参したように小さくため息。

「俺も久しぶりに会ったんだよ。その時に中倉が同じ会社で働いてるって話してよ」

「…それ、話す必要あった?」

「だからごめんって。久しぶりでテンションも上がってたし、酒も入ってたし」

「言い訳はいらない」

「はい…」

シュンッと小さくなる滝。

「…滝も知ってるでしょ。私たちが最後どんな感じだったか」

「まあ…本人から聞いてるしな」

智にとって滝は芸能人になっても態度が変わらない唯一の友達だと言っていた。

だから何でも相談していたのだろう。

「会っても気まずくなるに決まってるのに」

実際、気まずさはあった。でも一緒にいて落ち着くのは変わらなかった。

「それでもあいつはお前に会いたかったんだよ」

「…何で今更」

「それは本人から聞いてくれ。俺から言える事じゃない」

はっきりと言う滝にこういうところが信用されているんだなと思う。

小さくため息をついて頷いた。

「…迷惑だったか?」

滝がぽつりと呟く。その顔は複雑そうな顔。

「迷惑と言われたら迷惑だけど…」

「だけど?」

「…泣きそうにはなった、かな」

そう言うと滝は理解したらしく、そっかと呟いた。


仕事始めの一日が終わり、帰路につく。

電車の窓をぼんやりと眺める。

「本人から聞いてくれ…か」

『また…連絡してもいい?』

会いに来たあの日、智から連絡をしていいか聞かれたので、とりあえず頷いた。

だから連絡は取れるが、LINEで聞くようなことではない。

「どうしたもんか…」

ため息をつく。新年早々、ため息ばかりだ。

家についてTVをつけるとRuneの特番がやっていた。

ゲストと一緒にゲームしたり、料理する人気番組だ。

そこには智ももちろんいて、楽しそうに笑っている。

「…人の気も知らないで」

きっとこの特番や年始の番組は年末に収録されたであろうから、相当の激務だったと思う。

その後に私に会いにくるってどういう事なんだろうと思う。

しかも、別れてから7年ぐらい経っている。

「…7年か。私も大概ね」

忘れられないまま7年も経ってしまった。

未練タラタラだな、と思う。


でもしょうがない。

だってもう最後の恋だと思うほど、大好きだった。

だから会えた時は本当は嬉しかった。


小さくため息をついて夕飯を作る。

その時、ピコンッと携帯が鳴った。

【お疲れ。今日から仕事?俺も仕事始め】

絵文字の無い文章がポップアップされる。

なんとなく楽しそうな感じがするからきっとメンバーとの仕事だったんだろう。

『メンバーがさ、いいやつばっかで』

この前来た時にそう話していた。

それを聞いて、彼にこれ以上踏み込んではいけないとも思った。

彼はやっぱり住む世界が違う人。

「…わかってるんだけどな」

わかってるけど、会えた嬉しさが入れ混じる。

ぐるぐる考えながら作るのは生姜焼き。

疲れた体にピッタリだ。

「いただきます」

一口食べる。うん、美味しくできた。

【うん、美味しくできた】

TVから今思っていた言葉が聞こえた。

見ると智が満足そうに頷いて食べている。

「…言うことまで一緒って何よ」

苦笑しながら箸を進める。


悲しみと戸惑いと嬉しさが心を支配する。

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