4、 忘れられなかった人
正月休み後の初めての収録。
メンバーとの仕事だから気がラクだ。
一人の時は何年経っても緊張する。
「おはよ」
中に入るとメンバー挨拶を返してくれる。
いつもの定位置に座って携帯をいじる。
「あ、そういや新年の挨拶してなかったな」
「確かに、明けましておめでとう。今年もよろしく」
ハルくんが言うと、善ちゃんが挨拶をする。
みんなで深々と頭を下げて新年の挨拶。
大嶋智
間宮晴人
林田善
高橋瑛太
4人グループRuneは今一番人気のアイドルグループと言われている。
でも俺達は気にせず、自分達のやりたいようにやっている。
自分は自分、メンバーはメンバー。その考え方に助かっているし、普通に友達として好きだ。
「なんか、智くん嬉しそうだね」
ハルくんに言われて俺は驚く。
「え、わかる?」
「わかりますよ。何年一緒にいると思ってるんですか」
瑛太に言われて思わず笑う。
「で、どうしたの?正月、そんなに楽しいことあったの?」
善ちゃんに聞かれて携帯を見る。
そこには忘れられなかった人の名前。
「…やっと会えたんだ」
そう言うとメンバーの空気が変わった。
「例の彼女さんに会えたの?」
ハルくんの優しい声に頷く。
俺が蓮華に会いに行くことはメンバーには伝えていなかった。
でも、会いに行ったことがどれだけ大きいことかはわかってくれている。
「良かったじゃん!やったね!」
善ちゃんの嬉しそうな声に救われる。
「うん、ありがとう」
「…で?また付き合うの?」
瑛太の問いかけに首を横に振る。
また付き合えたらどんなに嬉しいだろうか。
「…今は会えるだけでいいんだ。向こうには向こうの生活あるし」
俺が言うと何とも言えない空気になった。
「あ、でもまた連絡取っていいってなったからいいんだ。それもできないかと思ってたし」
ニコッと笑うとハルくんが苦笑した。きっと上手く笑えてなかったんだろうな、と思った。
「ハルくん、どう思う?」
智くんと善がメイクをしている間、一緒に待っていた瑛太に聞かれた。
「何が?」
「智くんの話。勝手に会いに行ったこと」
ムスッとしている瑛太に苦笑する。
智くんにべったりな瑛太。きっと会う前に話してくれなかったことに怒っているんだろう。
「会えたことは良かったとは思うよ。ただ…」
「ただ?」
「…相手はなんで今更って思ってるんだなって」
俺の言葉に瑛太は言いたいことがわかったと思う。
俺たちの中で最年長の智くん。リーダーだけど、まとめたり仕切ったりしている訳ではない。
でも、俺たちにとって必要な拠り所でいなくてはならない存在。
『…俺、最低なことしてきた』
だから、彼は一番大切な存在を手放した。
それは自分だけの問題でなくなるから。
相手を守るためにも。
「それに、この事を知ったメディアがいないか不安なぐらいかな」
「…ハルくんは大人だね」
瑛太は落ち込んでいるような怒っているような顔。
俺はポンポンッと頭を撫でる。
「俯瞰してみる癖がついてるだけだよ」
「それが大人だって」
「瑛太もそんなに変わんないだろ?」
俺たちは智くんから1歳ずつ違う。
一番下の瑛太は時々子供っぽくなる。
「ふーんだ」
拗ねた瑛太にクスッと笑いながら瑛太の好きなお菓子を差し出した。
1本目の収録後、休憩しているとハルくんが隣に座った。
「はい、これお土産」
ハルくんの手にはハルくんの地元のお菓子。
俺がこれが大好きなのを知ってからは毎回買ってきてくれる。
「わー、ありがとう。食べていい?」
「どうぞ」
クスッと笑われる。1つ年下だけどしっかりしているハルくん。
仕事の話し合いもまとめてくれる頼れるお兄さん。
俺とは正反対だから憧れる。
「…久しぶりに会ってどうだった?」
もぐもぐと食べているとハルくんに聞かれた。
少し離れた所でゲームしてる二人の声が響く。
「…綺麗になってた。大人の女性って感じで」
「うん」
「でも、変わってないところもやっぱりあって…」
目を伏せると思い出すのはこの前会った蓮華。
大人になったけど、昔の面影も残っていて。
「やっぱり大好きだなって思った」
「…そっか」
ハルくんが呟いた。
忘れられなかった人はやっぱり大好きだって再認識をしたんだ。