34、 守りたいからこそついた嘘〜冬〜
読んでいただきありがとうございます!
本作の芸能界は作者の妄想で構成されております。
無事に蓮華にキーケースをプレゼントできた後日。
俺だけマネージャーの三倉さんに呼ばれた。
「お疲れ様。レッスン後にごめんなさいね」
「お疲れ様です。全然」
会議室の椅子に座る。
三倉さんから1枚の紙を受け取る。
そこにはオーディションの文字。
「オーディション?」
「舞台のオーディション。ポジションとしては準主役ね。受けてみる?」
「え!?」
驚いて大声を出す。
「智はダンスもだけど演技もいい感じとレッスンの先生達から聞いてるから、チャレンジしてみるのはありかなと」
「…いいんですか?」
「いいから話してるのよ。それに、智がこの舞台が出ることになったら3人の仕事もチャンスも増えると思うの」
3人の仕事も増えるならと思って俺はオーディションを受けることにした。
家に帰って携帯を見ると蓮華からのメッセージ。
【今日もレッスンお疲れ様!】
こんな些細なことでも嬉しくて疲れも忘れるなんて重症だな、と思う。
オーディションは無事に合格し、準主役として取材も受けるようになった。
舞台稽古もあって、学校には通えない日が続いた。
「あー…蓮華に会いたい」
「智くん、また言ってる」
瑛太が呆れたように言って、ハルくんに笑われる。
「しょうがないよ。稽古と取材とで全然学校行けてないらしいから」
「行けても早退して話せないで帰ったりする…」
「でも電話はしてるんでしょ?」
善ちゃんが背中に乗ってきた。コクンと頷く。
ラブラブー!と善ちゃんにギューッとされた。
「でも、智くんこのままだと出席数大丈夫なの?」
「んー、それは俺も心配してる。ハルくんのとこは配慮されてるんだよね」
「一応芸能科だからね。赤点取ったら留年決定になるからそれはそれで怖いよ」
だからいつも勉強してるのか、と理解。
それから1ヶ月後。
舞台もスタートして、順調に進んでいた。取材やバラエティ、4人の仕事も増えてきた。
「智、ちょっといい?」
帰ろうとした時、三倉さんに呼ばれた。レッスン室の隅っこで小さく話す。
「3年生になるタイミングで芸能科のある学校に転入を検討してみてほしいの」
「て、んにゅう…?」
「そう。今回の舞台を見た関係者から智に仕事のオファーが増えてて、このままだと学校に行けない日が増えると思うの。仕事も勉強も両立ってなると芸能科のある学校の方がいいのかとは思う。でも、これは智が決めることだから考えておいて。別日に親御さんとも話をさせてほしいの」
「…わかりました」
帰りながら三倉さんの言葉がグルグル回る。
確かに勉強についてくのは必死だし、出席数は担任にも心配されている。
『智!』
でも俺は蓮華といたい。
舞台が無事に終わった頃には秋の終わりになっていた。
「智?大丈夫?」
蓮華が心配そうに顔をのぞいてきた。
俺は苦笑した。
「大丈夫だよ。ごめん、勉強教えてくれてるのに」
「ううん。今日もう帰る?」
「大丈夫」
そう言って勉強を再開する。三倉さんの言葉を思い出す。
「…蓮華、今度の休みにデートしよっか」
「え?いいの?智大丈夫なの?」
「うん。俺がしたいから」
そう言うと本当に嬉しそうに笑ってくれた。この時から俺は何かを察していた気がする。
冬になってクリスマスも近くになった時、俺達はまた呼ばれた。
「来年の春、4人のデビューが決まった。グループ名は『Rune』だ」
社長の言葉に3人は大喜びで俺に抱きついてくる。俺は驚きで動けない。
「デビューをしたら良いことだけでなく、悪く言われることが増える。それは自分達だけでなく、メンバーや家族、友人にも影響が及ぶ。今以上に気をつけて生活するように」
ドクンドクンと胸がうるさい。
デビューを掴んだ。
次の日、現場へ三倉さんの運転で移動していた。
「…智、昨日の社長の言葉、ちゃんと考えなさいね」
「え?」
「自分以外の周りに影響するって話。それは恋人も含まれるわ」
ドクンッとまた胸がうるさくなった。
「特に恋人なんて悪く言われることが多くなる。一般人でも今は特定できる人なんて山ほどいる。そのせいでその人の人生を左右するわけにもいかない」
脳裏に浮かんだのは蓮華だった。
「(俺のせいで…蓮華にも?)」
「…大切だからこそ、ちゃんと考えなさい」
そう言われて窓の外を見る。
さっきまで曇りだったのに雨が降ってきた。
年末・年が明けてもデビューの準備でバタバタしていて、気づいたら2月になっていた。
「今日はありがとう!楽しかった」
「…そっか、よかった」
蓮華との久しぶりのデートだったが、周りが気になって楽しめなかった。
そんな俺に蓮華は足を止めた。
「…智、何かあったの?」
「え?」
蓮華が不安そうな顔をしていた。
「今日、なんだか上の空だったし、あんまり楽しそうじゃなかったみたいだったし…。疲れてるのに連れ回しちゃった?だったらごめん…」
今にも泣きそうになっているのを見て、ハッとする。
自分の行動で相手に影響する
だから気を張っていたのにそれで相手を悲しませてしまう
俺はまだ彼女を守れる力がない
それに、メンバーもデビューの為に頑張ってた
それを俺が邪魔するわけにはいかない
だったら…
「蓮華…別れよう」
たとえ傷つけても守れる方法を取るしかないんだ
「え…、智?」
「前から考えてたんだ。もう、別れようかなって」
蓮華が腕を掴んできた。その目には涙が溢れてる。
「な、なんで?私、何か嫌なことしちゃった?謝るから…別れたくない!」
目を逸らして手を離す。蓮華を見ていたら泣いてしまう。
「別に何もないよ。ただ俺がもう好きじゃない」
「好き…じゃない?」
嘘だよ
「そう好きじゃない」
大好きだ
「お前、嫌い」
だから俺を嫌いになって幸せになって
俺はこんなやり方でしか大好きなキミを守れないんだ
「さようなら」
涙を流しながら立ち尽くす蓮華を置いて歩き出した。
こうして俺は一方的に蓮華に別れを告げて、残りの学校生活は仕事で欠席し、4月から芸能科のある高校に転入をした。
この日から、あの涙と悔しさがずっと俺を縛り付けていくんだ。
守りたいからこそ離れた智くん。
自分勝手に見えるかもしれませんが、思春期の彼には精一杯の愛情表現だったのです。
今回で高校編は一旦終わりになりますが、この高校編が今後も重要なのです。
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高校編の蓮華視点も書こうか検討中です(°▽°)⚪︎⚪︎
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