27、 キミは進んでいく
【Runeがドーム公演を発表しました】
6月中旬の金曜日。
朝ごはんの後の紅茶を飲む手を止める。
TVを見るとRuneが笑っていた。
また1つ、彼はステージを上げたんだと感じた。
定時になったけれど、仕事が終わらない。
顔を上げるとほとんどの人が残ってる。
日本人は働きすぎだと本当に思う。
「なーかくら」
振り返ると滝がいた。
「何?」
「お前、あとどんぐらいで帰れそう?」
「…2時間ぐらい」
「じゃあ終わったら声かけて。飲むぞ」
「は?」
滝は手を振って自分の席に戻って行った。
2時間後、私たちはいつもとは違う居酒屋の個室にいた。
「…ここ、どこ?」
「俺と智が飲む店」
ビールを飲む滝にため息。
「なんでここ?」
「ここなら色々聞かれないし、信用抜群」
「そうじゃなくて」
「それに、お前に紹介したい奴がいるんだよ」
滝がニヤッと笑った。
その時、個室の扉が開いた。
「ごめん、遅れた」
「おー、お疲れ」
入ってきた人物に驚きを隠せない。
「ちょ、滝 !!どういうことよ!」
滝の腕を掴んで揺する。
「さっき言ったろ。紹介したい奴がいるって」
「言ってたけど…」
チラッと見るとその人は苦笑していた。
「初めまして蓮華さん。間宮晴人です」
「…初めまして。中倉蓮華です」
目の前には智の大事なメンバーさん。
何が起きてるんだろうと他人事のように思った。
事前に頼んでいた飲み物と料理が届いて、乾杯をする。
飲んだビールで体がキュッとなる。
「はー、うめー」
「で、滝どういうこと?」
滝を睨むとキョトンとされた。
「だから紹介したいって」
「紹介したいならどんな人を紹介するか事前に言うでしょ」
私がそう言うと間宮さんは苦笑した。
「連司くん、これじゃあ智くんと同じだよ。連司くんも初めて俺と会った時、智くんに同じこと言ってたじゃん」
間宮さんに言われて滝はヤベッという顔をした。
「…滝?言うことは?」
「…すんません」
私達のやりとりに間宮さんはクスクス笑った。
「で、何で私に紹介なのよ」
「俺がお願いしたんです。蓮華さんに会わせて欲しいって」
間宮さんが言うと滝は頷いた。
「間宮さんからですか?」
「はい。昔から聞いていた蓮華さんとお話してみたくて」
「…私と話すことなんて」
そう言うと間宮さんは首を横に振った。
「…智くんはずっと蓮華さんを傷つけたと言ってました」
「…」
「でもそれは俺達のことを守る為だったんだって。だから謝りたくて」
間宮さんの言葉に驚く。
「謝る…?」
「…俺達の事情で傷つけてしまって申し訳ありません」
間宮さんが頭を下げてきた。
「…これは、智がそうしろって言ったんですか?」
そう聞くと間宮さんは首を横に振った。
「いいえ。これは俺の独断です。智くんだけじゃなく他の2人にも言ってません」
その言葉に安心する。
「ならよかったです。智が謝れって言ってたなら怒鳴ってました」
「え?」
間宮さんが驚く。私はビールを一口飲む。
「あの頃、智にとって守りたいのは間宮さん達が一番だった。ただそれだけです」
「でも…」
「高校生なんて背伸びした子供です。…両方を守るなんてできません」
あの頃はわからなかったけれど、今ならわかる。
高校生とはいえ、まだまだ子供。自分達だけで守れる力なんてない。
「だから…謝らないでください。謝ると智の選択が間違えてたって事になっちゃいそうで」
「…わかりました」
間宮さんが小さく頷く。滝を見ると優しい目。
「…うざい」
「何だよ。何も言ってないだろ」
そんなやりとりをしていたら扉が開いた。
見ると息を切らした智がいた。
「え?智?」
「智くん、何で?」
「俺が連絡したー。3人で飲むんだって自慢したら来た」
滝がニヤニヤしながら間宮さんの隣に移動する。こいつ…ムカツク。
智は隣に座ってきた。
「ごめん、迷惑だった?」
「別に…。お疲れ様」
「うん、蓮華も」
フニャッと笑う智に苦笑する。
「智くん、俺達もいるよー」
「ごめんごめん。てかハルくん、今日の事教えてくれなかったじゃん」
「あー、ごめん」
2人のやりとりは兄弟みたいだな、と思った。
「俺だって蓮華に会いたかったし」
「…そういうの言わないでよ」
顔が熱くなるのがわかった。
滝がまたニヤニヤして見てくる。
月曜日に大量の仕事を振ってやろうと決めた。
君は変わろうと真っ直ぐに進んでいるんだ
蓮華さんとハルさんの初めまして。
ハルさんが謝った事についてはそろそろ…
智くんは蓮華さんの事になるとすぐ来ちゃう




