25、 あなたの幸せを手放して欲しくないんだ
チーフマネージャーに呼ばれて俺たちは事務所の会議室にいた。
「何だろーね」
善が首を傾げる。
俺も不思議に思っていた。
「ライブはもう決まってるし、新番組始まるなんて聞いてないし」
「ハルくんがわからないなら俺たちなんて検討つかないじゃん」
瑛太がため息をつく。
智くんだけ顔がこわばってる。
「智くん?」
「…あ、ごめん、何?」
困ったように笑う智くん。きっと何を言われるか何となくわかっているのだろう。
そんなことを思っていたらチーフマネージャーが入ってきた。
「お疲れ様。ごめんなさいね、待たせちゃって」
「本当だよー」
瑛太がムスッとする。
チーフマネージャーは俺たちがデビューする前から担当してくれてる。
だから俺たちの性格はもちろん、大きな悩みごとは大体相談してきた。
芸能界の俺たちの母だ。
「休憩時間だと思ってのんびりしてたでしょ、どうせ」
「バレたー?」
善がニコニコして言うとチーマネはため息をついた。
「ま、最近はありがたいことにお仕事いただいているから、引き続き頑張って。
体調だけは気をつけて。風邪とか引いたら各自担当マネに言うこと」
カバンから資料を取り出しながら言うチーマネは本当に母みたいだ。
「今日はなんで全員集まったの?」
俺が聞くとチーマネは資料を配った。
受け取った資料には「ドーム日程」と書かれていた。
「…ドーム?」
俺の呟くにチーマネは頷いた。
「そう。今回のアリーナの追加でドームが決定しました」
「マジ!?やっったーーーーー!!」
善が飛び跳ねる。瑛太も驚きで固まってる。
「…ドーム」
智くんが目を見開く。
ドームでライブをすることは智くんの中で密かな目標だと前に言っていた。
「これでRuneはまた一段上がったので、より気を引き締めていくように」
チーマネの言葉がいつも以上に重く感じた。
***
軽く打ち合わせをした後、Runeの番組収録だったので、みんなで移動する。
後ろにはゲームをする瑛太と寝てる善。
俺の隣の智くんは外を眺めている。
「…智くん、大丈夫?」
そう聞くと智くんはいつものようにフニャッと笑った。
「大丈夫。ありがとう」
でもその笑顔は何だか泣きそうで。
その理由はたぶん、さっきのチーマネの言葉。
『ありがたい事にドーム公演が決まりました。なので、みんなはより一層気を引き締めるように。
少なくともスクープなんてされないように』
今、スクープになりやすいのは智くん。
それは本人も自覚している。
「…しばらくは会えないな」
ポツリと呟く智くん。
運転しているのが智くんのマネくんだから呟けたんだろう。
「智くん…」
「あ、でも最近は電話もするようになったんだ。ちょっとだけど」
「え、今まではしてなかったの?」
「うん。電話の前に会いに行ってた」
いつもはボンヤリしてるのに、蓮華さんの事になると積極的になる。
「おいおい…」
「ちゃんと行っていいか事前に聞いてるよ!」
慌てる智くん。そりゃ常識だ。
「…でも、もう気軽に行けないから気をつけるよ」
「割と今までもそうだけどね」
チクリと言うと小さくごめん、と聞こえた。
でもどうにかしてあげたいと思えるのがこの人の不思議なところ。
携帯を出して連司くんに連絡をする。
【今度、相談したいことがあるんだけどいいかな?】
するとすぐに返信が来た。
【おー、いいぞー。俺が解決できることなら笑】
連司くんは芸能人だからって特別扱いもしない。
それが嬉しい、と智くんに言ったら嬉しそうに同意してくれた。
【連司くんにしか相談できないことなんだよね】
【あー、理解。おっけー、ハルが都合いい日に飲むか】
OKの俺たちのスタンプを送ってきた連司くんに思わず笑う。
スタンプ買ってくれてるんだ。
「智くん、今度飲める日ある?」
「え?いつだっけな」
「日曜なら午前で終わりっすよ」
運転しながらマネくんが答えてくれる。
さすが。
「日曜なら俺も14時に終わるから、午後予定空けておいて」
「わかったー」
連司くんにも午後空いてるか聞いたらOKが出た。
どこで飲むか考えていたら引越しの処分手伝って欲しいとのことで連司くんの家で飲む事になった。
「処分の手伝い?」
「連司、結構飲むんだよね。酒とか珍しいの買うのに1人であんまり飲まないから溜まるんだって」
「へー。引越しするから処理したいってことか」
「彼女さんと同棲するから余計に処理したいらしいよ」
智くんの言葉に俺は当日聞くことが増えた、と思った。
携帯を仕舞って外を眺める。
『俺ができることは何でもやるよ。お前達だけで抱え込むな』
初めて飲んだ時、智くんが寝てしまった後に言われた言葉。
今回はその言葉に甘えようと思う。
俺たちのステップアップにあなたがまた諦めることをしないようにするんだ。
今度こそ幸せになってほしいハルさん
今回は味方が増えたので頑張るのだと意気込む姿が弟感あります




