22と1/2、 あんな恋がしたいと思った
「ケイー、お前GW何してんの?」
「バイトとバイトとバイト」
「お前、どんだけバイトすんの」
友達に呆れた顔をされた。
「いいじゃん。俺の勝手だし」
「彼女の相手はいいのかー?」
「一緒にバイトなんで、終わったらデートですー」
CDショップでバイトをしている俺はそのバイト先で彼女ができた。
ちょっと天然でほんわかした彼女。
「リア充め!!俺とも遊べ!」
「はいはい。予定が合えばな」
「でも、ケイがCDショップでバイト始めると思わなかったなー。
高校の時はカフェだったじゃん」
こいつは高校からの友達だから前のバイトも知ってる。
俺はある人を思い浮かべた。
「…まあ、いいじゃん。じゃ、バイトなんで」
教科書をカバンに詰めてバイトに向かった。
後ろから「遊べよー!!絶対だぞーーー!!」と叫んでいる友達の声がした。
GW初日。
今日はバイトの後すぐに帰った。
久しぶりに姉ちゃんが帰ってくるから、早く帰ってこいと母さんに言われた。
「姉ちゃん何時になるって?」
「あと1時間ぐらいよ」
「ほーん」
TVを見ていると画面に智くんが映った。
Runeの新曲のCMだ。
「この曲マジかっこいいよなー。うちの店でもずっと流れてる」
「Runeが人気なのもあるんだろ」
父さんが新聞を読みながら答える。
父さんは智くんに対してずっと怒ってる。
きっと姉ちゃんがたくさん泣いたのを見てたから。
だからと言って、俺たちがRuneの番組を観ててもチャンネルを変えたりはしない。
純粋に、静かに娘を悲しませたことを怒ってるんだ。
「ただいまー」
姉ちゃんの声がしてハッとする。
「姉ちゃんおかえり!」
とりあえず、荷物を運んでやろうかな。
***
夕飯後、姉ちゃんと片付けをする。
昔、智くんが姉ちゃんが無自覚にモテるから嫉妬していたという話をすると驚かれた。
あれ?秘密だったっけ?
「智くん、結構独占欲強いよ?小学生の俺でもわかるぐらい」
そう言うと昔を思い出した。
小学6年の時、智くんがウチに遊びにきた時、たまに俺とも遊んでくれた。
『智くんはお姉ちゃんのどこが好きなの?』
いつも姉ちゃんを優しく、愛おしそうな目で見ているから思わず聞いてしまった。
智くんは照れたように笑った。
『全部だけど、一番はちゃんと自分を持ってて、真っ直ぐなところかな』
『まっすぐ…?』
『そう。何に対しても真剣に正面から向き合うところ。
それでキレイだからすごいモテるんだよね、蓮華』
『へー』
すると智くんはちょっと怖い顔をした。
それは当時の俺からすると、かなり怖い顔…というか雰囲気だった。
『だから俺、嫉妬しっぱなし。男子と話しているだけで睨んじゃうから友達に注意されるんだよね』
またいつもみたいなフニャッとした顔になった。
人生で初めて見た嫉妬だったと思う。
でも、それだけこの人は姉ちゃんを好きでいてくれるんだとも思った。
「そ、それよりも啓太は彼女とどうなの?上手くやってる?」
キュッと水を止めた姉ちゃんの声に意識を戻した。
「やってるよ。明日もバイトの後にデートだし」
「あら、いいわね。前に会った子よね」
コクンと頷く。
前、平日の夕方にデートをしていたら、たまたま仕事中の姉ちゃんに会った。
営業さんの付き添いで外回りだったらしいけど、その時に彼女を紹介した。
「あの後大変だったんだよなー。彼女が「お姉さんかっこいい!!今度お茶したい!!」って」
可愛い系な彼女、きっとカッコキレイな姉ちゃんを見て憧れたのだろう。
姉ちゃんも苦笑してる。
「あの時は仕事モードだし、顧客先後だったから余計そう見えたのかな」
「かもね」
「彼女ちゃんも同じCDショップのバイトだっけ?」
「そー。彼女、洋楽が好きで始めたんだって」
「そうなんだ。じゃあ啓太もそんな感じ?啓太がそんなに音楽好きだったなんて知らなかったな」
姉ちゃんの言葉に俺は小さく笑った。
部屋に戻って買ってきた雑誌を持ってベットに寝転ぶ。
開くと智くんが特集で載っていた。ドラマ主演で載ってるんだろう。
『でも、ケイがCDショップでバイト始めると思わなかったなー』
『啓太がそんなに音楽好きだったなんて知らなかったな』
別に音楽がすごい好きとかではない。ほどほどに聞く感じだ。
でも、今のバイトの求人を見つけた時に思ったんだ。
少しでも、2人が元に戻れるようなきっかけが欲しいって。
俺がCDショップでバイトしたからって、2人がまた連絡取るとかは無いのはわかってる。
智くんがどうこうしてるなんて、TVを見た方が早いのも知ってる。
わかってるけど、藁にもで縋る思いだったんだ。
「…何してんのさ、智くん。あんなに姉ちゃんを大事に見つめてたじゃん。早く…迎えにきてよ」
俺の憧れの人が、俺の大切な姉を悲しませないで、また笑い合って欲しい。
それが俺の願い。
2人の恋は羨ましくて、あんな風に大切に想い合える恋がしたいと思ったんだ。
2人みたいな恋に憧れていた啓太くん。
憧れて大好きだからこそ、智に戻ってきて欲しいのです。
そして実はちょっとシスコン気味なのです。




