20、 胸が痛むのは気のせいだ
由里香と滝の件も落ち着き、日常が戻ってきた。
3月は決算もあり、各部署がバタバタしていた。
「中倉さん、これお願いできたりする?」
先輩が申し訳なさそうに話しかけてきた。
「大丈夫ですよ」
「ありがとう。ね、彼氏できた?」
そう聞かれて驚く。
「いませんよ!」
「じゃあ好きな人とか」
一瞬智の顔がよぎる。
「いませんって。急にどうしたんですか?」
「んー?だってなんか綺麗になったなーって」
「へ?」
先輩はクスッと笑った。
「いやね、元々美人さんなんだけど、最近より綺麗になったって言うか…可愛くなった感じ?」
「はあ…」
「だから恋してるのかなーって」
この先輩は冗談とかでこういうことを言う人ではない。
本心なんだろうな。
「褒めていただいたのは嬉しいですが、何もないですよ」
そっかー残念と先輩は自分の席に戻った。
その後、パソコンのモニターに反射して映る自分をジッと見ていたのを滝に見られていじられた。
バタバタした日々を終え、残業をして帰ろうとしたら滝と雨宮に声をかけられた。
「お疲れー」
「おつ」
「お疲れ様。2人も今帰り?」
「そ。で、ちょっと飲んで帰ろうってなってるんだけど、お前も行かね?」
雨宮に誘われてちょっと考える。
明日は休みだし、いいか。
「いいわよ。由里香も誘う?」
「もう誘ってる。まだかかるみたいだから先に飲んでてって」
滝が携帯をいじりながら言う。きっと返信しているんだろう。
「じゃあ行くか!」
雨宮の嬉しそうな声にクスッと笑った。
いつも行く居酒屋に着くと飲み物と料理を注文する。
「「「お疲れ」」」
カチンッとグラスを合わせる。
2人がグイーッと飲む姿を見て、さすがだなっと思った。
私はそんなに一気に飲めない。
「「うまー」」
「疲れてるから余計にね」
そう言うと2人も頷いた。
続々と料理が届く。仕事やどうでもいいような話をしながら由里香を待つ。
するとお店のTVから智の声が聞こえた。
ちらっと見ると彼らの冠番組。
「おー、Runeはやっぱ人気だなー」
「そうだな。毎日誰かしら見るもんな」
雨宮と滝がTVを見ながら話す。
滝も智との仲は2人に話していないらしい。
「でも大変だろうなー、プライベートとか無さそうだし」
「どうなんだろうな。確かに休みは無さそうだ」
さすが営業。サラッと会話ができるのがすごいと思う。
私は下手なことを言わないように黙ってる。
「ちょっとした事でも話題にされるもんなー。この前もリーダー、女優と騒がれてたし」
「え?」
思わず声を上げてしまった。
「ん?中倉、リーダー派?」
雨宮に聞かれて首を横にふる。
「え、違うけど。TVに対して驚いただけ」
番組ではプチドッキリが仕掛けられていたので、それのせいにした。
「女優と話題になってたっけ?」
「ほら、1クール前のドラマで共演してた女優。2人でタクシー乗り場にいたってやつ」
そう言われて滝は思い出しようだった。
「ああ、ドラマの打ち上げで他にもいたやつだろ?」
「そ。結局2人ともそう言うし、なんならドラマスタッフも証言してたからそうなんだろうけどな」
「まー、パパラッチはいい感じに撮りたいんだろうなー。話題性あるし」
滝はきっと智に聞いていたのだろう。
私だけ動揺してる。
「中倉はTVあんま観ないんだっけ?」
「そうね。その話題も知らないし」
「あの頃はお前、仕事に追われたからなー」
12月ごろは確かに休日出勤もしていた。
滝がフォローしてくれるのがありがたいが、小さく胸が痛んだ。
由里香も合流して、ほどほどに飲んで解散をした。
電車に揺られながらボーッと中吊り広告を眺める。
そこには仲良く写っているRuneの雑誌広告。
こんなに人気があれば、スキャンダルぐらいあるに決まっている。
それが正しい、正しくない関係なく。
「…」
しかも周りは綺麗な人達ばかりだ。
いいな、と思うこともあるはず。
『わかって欲しいんだ』
『俺、蓮華と一緒にいたいって言ったのは本気だって』
そう言ってもらえる自信がないのも確かで
でも
『この前もリーダー、女優と騒がれてたし』
嫌だと思う自分がいるのも事実なんだ
「…わがまま」
消化しきれない感情と自分の矛盾に嫌気がさしてくる。
胸が痛むのは気のせいであってほしい。
ガラスに映る自分を見ながらそう思った。
自分の気持ちがわからなくて胸が苦しくなる
認めてなくても可愛くなって周りに気持ちがバレてる蓮華さん
ふとした時に感じる壁に素直になれないのです




