18、 嬉しいのに戸惑うのは私だけじゃないらしい
ホワイトデーを過ごした週明け。
滝が絶妙な顔をしていた。
「どうしたの?トラブル?」
持ってきた書類を渡しながら聞くとため息をついていた。
「仕事じゃないけどなー。ちょっと今いいか?コーヒー奢る」
「別にいいけど…」
滝に連れられて休憩室に行く。
渡されたのは緑茶。
「コーヒーって言ってなかった?」
「今のお前はこれだろ」
「…まあ」
貰った緑茶を開けて飲む。
戻ったら午後イチの会議の準備しなきゃ、と頭の片隅で思う。
「で、何?由里香のことでしょ?」
「おー、さすが」
困ったように笑う滝。
「ホワイトデー、うまくいかなかったの?」
「いや、めちゃくちゃ喜んでくれた」
由里香の最近のハマっているものや欲しい物のリサーチをさせられまくった結果、
ピアスと由里香の気になってたイタリアンに行くと言っていた。
「へー、じゃあなんで?」
「…同棲しないかって、言ったんだよ」
「へ?」
変な声が出てしまった。
別に半同棲状態の2人だから同棲を提案するのは当たり前のことだと思う。
「それでなんで落ち込むのよ」
「…ちょっと待ってって言われたんだよ」
「へえ??」
再び変な声が出てしまった。
あのデレデレしちゃう由里香が?
「聞き間違えでなく?」
「…ではなく」
「え-…なんで?」
「俺が聞きてー」
ガクッと項垂れる滝に同情する。
「まあ、そうよね」
「はー…」
「それとなく聞いてみる?」
「…それは最終手段にしたいが、その余裕もない」
頼まれたと判断し、由里香に飲みに行こうと連絡する。
「そーいや、お前らはどうだったんだよ」
滝の言葉に熱を思い出して顔が熱くなる。
「…もらったわよ。マドレーヌとマカロン。白ワインも一緒に飲んだわ」
「それで?」
滝が見てくる。
「…一緒にいたいのは本気だからって」
「そっか」
ふっと微笑む滝。緑茶を飲むといつもよりも苦く感じた。
その日の夜。
由里香と行きつけの居酒屋に行った。
「お疲れさま」
「お疲れー!」
カチンッとグラスを合わせる。
由里香は嬉しそうにレモンサワーを飲む。
「美味しいー!でも珍しいね。月曜に飲みに誘うなんて」
「んー?ホワイトデーどうだったのかなーって」
お通しの枝豆を摘んで食べる。やっぱり枝豆は外せない。
チラッと由里香を見ると顔が赤くなったり落ち込んだりしていた。
「どうしたの?何かあった?」
「…同棲しないかって言われたの」
顔が真っ赤になった由里香。
「あら、いよいよ」
「…でも、ちょっと待ってって言っちゃった」
真っ赤な顔から一転、泣きそうな顔。
おや?これは…。
「嫌だったの?」
「ううん!!すっごい嬉しいよ!」
グイッと前のめりになってきたので驚く。
「嬉しかったの?」
「うん!」
「じゃあなんで?」
そう聞くと由里香が俯く。
「…嬉しかったけど、どうしようってなったの」
「どうしよう?」
「今までも半同棲みたいだったし、早く一緒に住めたらなって思ってたけど」
顔を上げた由里香はまた顔が赤くなってる。
「いざ一緒に住もうって言われたらビックリしちゃって」
「あー…なるほどね」
嬉しいのに、待ってたのに、実際に来たら戸惑ってしまう。
だから思わず「待って」と出てしまったのだろう。
「連司に嫌われちゃったかな…」
「大丈夫よ。早く答えてあげたら喜ぶわよ。電話してきたら?」
そう言うと由里香は頷いて電話をしに席を外した。
由里香を待ちながらビールを飲む。
「嬉しいのに戸惑っちゃった…か」
私だけじゃないんだな、と思って少し安心した。
素直に喜びたいのに喜べない、それがもどかしい。
由里香の様子に戸惑い反面、嬉しさがあることに安堵する蓮華。
こういうのキュンキュンします。
そして滝くんの落ち込みは想像しただけでもにやけちゃう。




