15、 親友って言われると照れくさいのは秘密
「蓮華の好みって変わってないかな」
「は?中倉?」
俺は飲もうとしたジョッキを置いた。
【今日、時間あったりする?】
智からの連絡に俺は二つ返事でOKをした。
今日はトラブルなく定時で帰れる日だったし、みんなと予定合わないから直帰だったし。
俺達が飲む時は決まった個人店の個室。
智の知り合いの店らしく、その店唯一の個室をいつも使わせてもらっている。
裏路地にある店だから若い人はほとんど来ないらしい。
SNSで拡散される時代だから、そう言う場所がいいんだろう。
そんでもって、普通に飯も美味いから俺も通い始めてる。
「むしろ俺、高校の時の好みとか知らんし」
「あー…そっか」
智が困ったように笑った。
「なんで?…って14日か」
「そう。そんなつもりはなかったかもしれないけど、もらったことには変わりはないから」
刺身を美味そうに食べる智。
ホワイトデーまであと1週間。お返しを考えてるんだろう。
バレンタインデーは俺自身はトラブったけど、中倉は帰れたからそれを智に伝えたら家に行ったらしい。
週明けに中倉にまた怒られた。
『私が帰ったタイミング連絡したでしょ』
『あー…はい。ちょうど連絡をしていて…すまん』
『まあ…いいわよ』
そう言った中倉の耳が赤くなっていた。
何か嬉しいことがあったんだろうな、と俺が嬉しくなった。
「当日に渡すのか?」
「んー、どうだろう。夕方に終わりだから夜に会えたらとは思ってるけど…」
「中倉は定時で帰れると思うぞ。仕事も山場も超えたし、ゆりは俺と一緒だし、裕也は彼女と過ごすって言ってたし」
中倉が飲みに行くのは俺達ぐらいだ。
全員が予定があれば直帰するしかないし、中倉自身も俺達意外と飲むことはないって前言ってたしな。
「そっか。じゃあ仕事の様子見て昼過ぎぐらいに連絡してみようかな」
「そーしろ。今年は金曜だから飲み過ぎても大丈夫だしな。あ、でもお前が仕事か」
「うん。でも昼からだから」
「ふーん。飲むなら次の日に響かんようにしろよ」
芸能人は大変だな、と思う。
TVで智が映っているのを見ると本当に俺の親友なのかと思う。
「連司ってたまに母さんって感じだよね」
「うるせー」
うちは両親が共働きで俺が長男だから下3人の面倒を見てきた。
そのせいか智みたいなことを周りから言われてきた。
ゆりはその安心感がいいって言ってくれるけど。
「ハルくんも連司みたいなんだよね。だからみんな頼っちゃうんだけど」
確かにTVで見てると間宮さんは仕切ったりしてるし、みんなを見守ってるって感じがする。
「間宮さんと同じなのは光栄だな」
そう言うと智は嬉しそうにした。
「自慢な親友とメンバーだよ」
「親友が多いことで」
俺がそう言うと智はキョトンとした顔をした。
「俺の親友は連司だけだよ」
「は?だって今、親友とメンバーって…」
「メンバーは戦友で兄弟って感じ。だから仕事のこともプライベートのことも話すけど」
智は持っていたビールをちびりと飲んだ。
「本当になんでも話せるのは連司だけだって」
耳が熱くなる。
「…光栄ですわ」
「へへーっ」
「…俺も親友はお前だけだよ」
グビッとビールを飲む。
智はさらに嬉しそうに笑った。
「今度ハルくんと飲もうよ!ハルくんも会ってみたいって言ってたし!」
「は?お前、俺の事もメンバーに話してんの?」
「当たり前じゃん!」
芸能人と飲むとかやばいだろ…って呟いたら俺も芸能人なんですけど?って智に言われた。
昔から言ってたけど、親友って言われるのはいつになっても照れくさい。
連司は二人にとっていなくてはならない存在なのです。