14、 幸せそうなあなたがいて嬉しくなるんだ
智くんが嬉しそうにペンを見ている。
「智くん、そのペンどうかしたの?」
俺が聞くと緩んだ顔で答えてくれた。
「これねー、蓮華のだったんだ」
「智くん、名前は言わない方がいいよ」
ハルくんが注意すると智くんはハッとした。
「そうだよね、気を付ける」
「てゆーか、それ持ってていいの?お花さん、困っちゃうんでないの?」
瑛太がゲームをしながら言う。お花さんって何?
「瑛太、お花さんって呼び方はどうかと思うけど」
「え?だって名前言うよりは良くない?」
「そうだけど…」
ハルくんとの会話で理解する。俺らだけのニックネームか!
「でもなんでお花ちゃん?」
俺が言うと瑛太に呆れた顔をされた。
「善くんはおバカですねえ」
「なんだって!」
俺がプンプンするとハルくんが苦笑した。
「蓮の花、だろ?」
「そー」
瑛太が肯定した。
「だからお花ちゃん!」
「納得してもらったみたいで」
瑛太がニヤッと笑った。
この顔をしてる時は嬉しい時だ。
瑛太はツンデレだけど、結局は俺達だけには甘えるところがあるから、それが可愛いんだよね。
「しかも、この前の収録に使ってなかった?」
ハルくんが言うと智くんは頷いた。
「そしたら、もう返さない方がいいんじゃない?もし見つかったらお花さんが困るし」
「あ…そっか」
同じ物を持っているだけでSNSで騒がれてそれが記事になる現代。
注意するのはもはや取材陣だけでは無い。
「代わりのペン、渡してあげたら?」
ハルくんの言葉に智くんは顔が明るくなった。
本当にお花ちゃんが好きなんだな。
「連絡してみる!」
『俺、最低なことしてきたんだ』
笑っているけど、泣きながら苦しそうに言う智くんを見て胸が痛んだ。
俺達とのデビューと引き換えに一番大事な人を手放した。
でも今は違う。
『会ってきたんだ』
今度こそ幸せになってほしいと願うんだ。
俺達を守ってくれたからこそ。
今度は俺達が智くん達を守りたい。
「仕事で使うからもう新しいの買ったって」
シュンっとしている智くんに笑ってしまう。
あらら。
「ま、そうだよね。だから無くさないようにシールしてるんだろうし」
「ハルくん、なんでわかるの」
「だって、いつも使うお気に入りは無くしたくないじゃん?」
「「確かに」」
俺と瑛太が声を揃える。
ハルくんがクスッと笑う。
「そしたら智くん、新しい何か買ってあげたら?」
瑛太の提案に智くんは更に嬉そうな顔をして携帯で検索を始めた。
「あれ?あんまりいい気分じゃないって言ってなかった?」
俺が言うと瑛太はそっぽを向いた。
「別に。智くんが元気ならいいし」
「へー」
ニヤニヤしていると肩にグーパンされた。
素直じゃ無いところも可愛いな!
仕事終わり、今日はハルくんと一緒に送ってもらってる。
「善、どうしたの?嬉そうだね」
ハルくんに言われて頷く。
「智くんが楽しそうだから嬉しいなって」
お花ちゃんと再会するまでは楽しそうだけど、どこか壁があった。
けれど、今は純粋に楽しんでいる気がする。
「そっか」
「うん!」
ハルくんは嬉そうに笑ってくれた。
「智くんはさ、デビューする為に、仕事がくる為に自分を殺してくれてたじゃん」
「…そうだね」
「そんな智くんが自分の事を嬉しそうに話してくれるのが嬉しいんだよね」
「うん」
「だから、次は俺達が智くんの幸せの手伝いができたらいいなって思ってるんだよね!」
俺がそう言うとハルくんは嬉そうだけど、どこか悲しそうに笑った。
「そうだね。そうできたらいいね」
きっとハルくんは俺が感じ取れないことも感じてるんだろうな。
「ハルくん」
「ん?」
「俺、智くんだけじゃなくてハルくんも瑛太とみんなでずっと楽しく仕事したいからね!」
キョトンッてしてたけど、嬉しそうに笑って頷いてくれた。
智くんの幸せは俺たちにとって嬉しいことなんだ
更新がのんびりですみません