12、 親友は可愛いのです
バレンタインが終わり、2月も末になった。
今日は蓮華と飲みに行く日だから定時で必ず帰るんだ!
「西山さん、今日は定時ピッタ?」
「はい!蓮華と飲みに行くんです!」
隣に座る先輩に聞かれて頷く。
クスッと笑われた。
「本当、仲がいいわね」
「はい!」
蓮華とは入社前のオリエンテーションで初めて会った。
『あ、あの!』
『はい…?』
『仲良くなってほしいです!!』
『へ…?』
一目見た時に友達になりたいと思ったので、思わず声をかけていた。
あとから同期からは「公開ナンパ(笑)」と言われることになるけど。
蓮華はツンッとしているけど、可愛いところも多くて一緒にいて楽しい。
自慢の親友だ。
定時のチャイムと同時にPCを閉じる。
本当は月末は忙しいけど、今日は許してほしい。
「すみません、お先に失礼します!」
「はーい」
「お疲れ様」
総務課はみんな優しいから送り出してくれた。
連司達は呼び止められることが多いみたい。
休憩室で待っていることを蓮華に連絡すると10分遅れると返信が来た。
OKと送ると休憩室でのんびりする。
「お、珍しいな」
「ゆり、帰るのか?」
雨宮くんと連司が入ってきた。
きっと残業前の一息なんだろう。
「お疲れ様!そうなの、蓮華と飲み行くんだ」
「そういえばそうだったな」
連司がコーヒーを買って飲む。
雨宮くんはコーラ。見た目に反して甘党なんだよね。
「ほーん。俺らも残業後に飲み行くか」
「そうだなー。あと2時間ぐらいだし」
ため息をつく連司。
疲れてるのかな。
「あ、今日連司の家泊まってもいい?連司の家の方が近いから」
今日の予約したお店は前から行きたかったお店。
連司の家の方が近いからそのまま泊まった方が早いし連司ともいれる。
「いいぞ。先帰ってたら風呂入れておくな」
「ありがとう!」
嬉しくなって笑っていると頭を撫でられた。
同い年のはずなのにこの安心感はすごい。
「いちゃついてんじゃねーよ」
「そうよ。手をどかしてもらっていいかしら、滝」
雨宮くんの声の後に蓮華の声。
顔を上げると疲れた顔の蓮華。
「蓮華、お疲れ様!」
「由里香、お待たせ。ごめん遅くなって」
「大丈夫!」
連司がちょっと不機嫌になったのがわかった。
「なんだよ。俺の彼女だぞ」
「そんなの知ってるわよ。今日は私とデートなの」
「…そんなの知ってる」
更にムスッとする連司。
高校の同級生同士だからか遠慮が無いのが見ていて面白い。
「それに、みんな滝を探してたわよ」
「げ。お前、もしかして俺に押し付けた?」
「そんなことないわよ。最終確認するだけにしてあげたんだから」
「…それ、押し付けじゃねーかよ」
楽しそうな蓮華と困ったようにする連司。
見ていて面白いけど、ちょっとヤキモチなのは内緒。
予約していたお店に移動して乾杯をする。
「お疲れー」
「お疲れ様」
カチンッとグラスを合わせて飲む。
蓮華はビールで私はレモンサワー。
「はー、美味しい」
嬉しそうに小さく笑う蓮華。
蓮華のこの顔が好きだなーって思う。
「蓮華もビール飲めるようになったんだね」
「まー、営業に付いてって接待するようになったらね。選択肢はほぼ無いし」
こうやってお酒に強くなるのか…と呟く蓮華。
蓮華は入社当時は連司にしか表情を見せなかった。
だから余計に2人が付き合っているのでは無いかと噂されていた。
『え?滝と付き合うとか絶対にないから』
『そりゃこっちの台詞だ』
入社したての時に3人で飲みに行った時に聞いたらそう返ってきた。
ちょっと安心したのは秘密。
「蓮華、最近よく笑うようになったね」
そう言うと驚かれた。
あれ?無自覚?
「…笑ってる?」
「うん。時々だけど。嬉しいことでもあったのかなって」
ふふっと笑うと蓮華は気まずそうにしていた。
「嬉しいこと…というか」
「うん?」
注文した料理が運ばれる。
いい匂いだ。
「懐かしい気持ちが来てるだけよ」
そう言う蓮華は幸せそうに笑った。
やっぱり、私の親友はかっこよくて可愛い。




