111、 静かなる怒り
読んでいただきありがとうございます!
本作の芸能界は作者の妄想で構成されております。
本編の更新は毎週日曜のAM8:00ごろです。
「と1/2」シリーズは不定期です。
年が明けた1月3日。
「智くん、何時に来るって?」
「14時」
「わかったわ」
母さんとお昼の片付けをして気持ちを落ち着かせる。
年末、父さんを説得し続けたけどなかなかOKが出ず、今回は諦めようとしてた。
でも大晦日。
『蓮華』
大掃除も終わってリビングで母さんとお茶をしていたら父さんに声をかけられた。
『…連れてきなさい』
それだけ言って自分の書斎に戻った父さん。
驚きすぎて固まってると母さんに肩を叩かれた。
『智くん、連れてきていいって。よかったね』
『…うん』
その後、仕事と仕事の間の休憩中の智からメッセージがきたので、OKが出たことを伝えた。
【本当!?ありがとう!】
文面は嬉しそうに見えたけど、夜の生放送を見てたら顔がどこかこわばっていた。
伝えるタイミング、間違えたなと思って心の中で謝った。
14時ちょっと前。
「姉ちゃん。俺もリビングいていい?」
ソワソワしてる啓太。
「いいけど、こっちのテーブルにはいないでね」
「そこは空気読めますー」
そんな話をしてるとインターフォンが鳴った。
玄関を開けるとキャップを深めに被ってマスクをした智。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
中に入ってもらうと、智はキャップとマスクを外す。
「智くん!!」
啓太が嬉しそうに出迎えると智も嬉しそうに笑う。
「啓太くん、久しぶり。マジで大きくなったなー」
「久しぶり!!」
ウキウキしてる啓太と話してると母さんがリビングから出てきた。
「智くん、いらっしゃい」
「お久しぶりです。お邪魔します」
ちょっと固くなる智を見て苦笑する。
「あ、これよかったら」
そう言って差し出したのは有名なケーキ屋さんの袋。
「あら、ありがとう!人気でなかなか買えないって有名なところじゃない!」
母さんが嬉しそうに受け取る。
「この前、ロケで行ったのでその時に。パウンドケーキなんですけど」
「嬉しい!この後出すわね。さ、上がって」
「コート、預かるね」
促されて智は上がる。
智のコートをハンガーにかけて、壁のフックにかける。
リビングに入ると父さんはまだいない。
「呼んでくるから座って待ってて」
母さんが父さんを呼びに行く。
智が座る様子がないので、声をかけると首を横に振った。
「大丈夫。おじさんに会うまで立って待ってる」
「…わかった」
私が紅茶を淹れてテーブルに置いてると父さんが入ってきた。
「…」
「お久しぶりです。お邪魔してます」
頭を下げて挨拶をする智をチラッと見て座る父さんにムッとする。
「ちょっと父さん」
「蓮華、パウンドケーキ持っていって」
注意しようとしたら母さんに止められた。
『今回、蓮華はあまり口出ししちゃダメよ』
母さんに言われたことを思い出す。
パウンドケーキを出して私と智、母さんも椅子に座る。啓太はローテーブルの方でこっちの様子を見てる。
「今回、お時間をいただきありがとうございます。
お正月のこのタイミングでのお願いになってしまい、申し訳ありません」
智が頭を下げると父さんは小さく息を吐いた。
「いや、構わない。忙しいだろうから取れる休みも少ないだろう」
「ありがとうございます」
「それで、今日は?」
無表情の父さんに智はまっすぐと見つめる。
「今日は蓮華さんとお付き合いをさせていただいているご挨拶と
時間はかかるかもしれませんが結婚を考えていることをお伝えしたく、お時間をいただきました」
そう言うと父さんの表情が強張った。
「高校生の時、僕が蓮華さんを傷つけたことはわかってます。
でも、どうしても蓮華さんと一緒にいたくて、会いに行きました」
「なぜ、蓮華を傷つけた」
ピリッとした声に智も言葉が詰まる。
「そ、れは…あの頃はデビューして、蓮華さんを守れる自信が無くて」
「だからと言ってキミが蓮華を傷つけていいのか?」
「…いいえ」
だんだん声が小さくなる智の足に置かれた拳がより固くなる。
「キミの親御さんも蓮華のことを心配して声をかけてくれた時もあったんだ」
「え…?」
「そうなの?」
智が驚いて顔を上げる。私も初めて聞いた。
「ええ。たまにスーパーとかで会って立ち話してたぐらいなんだけどね。
智くんから蓮華と別れたって聞いて心配してくださってたの」
「そうだったんだ…」
「それに蓮華に会いにきたと言うことは守れる自信がついたからなんだろう。実際に守れてるのか?」
父さんの言葉にまた智は目を言葉を詰まらせる。
「…守れるぐらいの力がついてると思ってましたが、今は周りの友人やメンバーの力を借りてます」
「じゃあキミ一人では守れてないんだな」
「父さん!!」
思わず声を上げて立ち上がる。
「黙ってなさい。今、彼と話しているんだ」
「でも!!」
「…いいんだ、蓮華。本当のことだから」
智が腕を掴んでなだめてくる。その手は震えてる。
私は椅子に座って智の手を握ると冷たい。
「キミが蓮華を傷つけたことは一生許すことはないだろう」
「…はい」
「大人になった娘の交際に口を出すつもりはないが、芸能人と交際、結婚するということは蓮華もメディアの標的にされる。メディアだけじゃない、今の時代はネットで標的だ」
「…はい」
「蓮華の全部を守れる、仕事仲間や応援してくれる人たちからも祝福されるぐらいになっていないのなら、今回も許すわけにはいかない」
「…」
智は俯いたまま何も言わない。
「書斎に戻る」
父さんが立ち上がると智も立ち上がった。
「高校の時のことは許さなくて大丈夫です!!それは僕自身も許せないことなので!」
ピタッと立ち止まる父さん。
「今のこともおっしゃる通りで何も言えません。
ですが、もう蓮華さんから離れないって決めたんです。なので蓮華さんを守れるようになったら…またご挨拶させてください」
頭を下げる智。リビングが緊張した空気になる。
「……勝手にしなさい」
父さんはそう呟いてリビングを出て行った。
父の静かな怒りは深く、濃いものだった。
蓮華さんを大切にする父親心だからこそ、厳しい言葉。
根本は大事な娘の為なんでしょう。
そして実は蓮華さんを心配していた智パパママ。
智くんは今回のご挨拶で、改めて決意をしたのです。
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