110、 伝わらないのがもどかしい
読んでいただきありがとうございます!
本作の芸能界は作者の妄想で構成されております。
本編の更新は毎週日曜のAM8:00ごろです。
「と1/2」シリーズは不定期です。
年末年始はいつも通り、帰省。
でも今回はちょっと違う。
28日の夕方、実家に到着。
「蓮華、何かあった?ソワソワしてるけど」
「あー…うん」
ちょっと濁してると母さんは不思議そうにした。
『…ご両親にご挨拶に行こうと思ってるんだ』
智と話をして父さんがOKなら1月3日に智が挨拶にくる。
もしダメなら3日からは智の家で過ごす予定だ。
確認するなら父さんの顔を見ながら話したいと思って早めに帰ってきた。
気まずいまま年始を迎えたくない。
荷物を片付けて夕飯。
今日は焼き魚だ。
「美味しいー」
「うまー」
「いいお魚があってね。さすが年末年始ね」
「うん、うまいな」
父さんも美味しそうにしてる。
元々口数が多いわけでは無いけど、家族で仲良くするのが好きな人だ。
だから私が智にフラれて落ち込んでた時、すごく怒っていた。
『もうあんな奴のことは忘れなさい!!』
フラれた日、あまりにも泣く私に言った父さんの言葉。
その時の顔が怒りで満ちていたのを今でも覚えてる。
他愛も無いことを話ながら夕飯を食べて食後のデザートタイム。
今回は私が気になってたモンブラン。
「姉ちゃんは今回も2日に戻るの?」
啓太に聞かれてドキッとする。
「あー、今回は3日までいるかも…」
「そうなんだ。ここ何年かは2日までだったじゃん。どうしたの?」
今回ばかりは啓太を恨みたいかも、と思いながらフォークを置く。
「…父さん」
一人、日本酒を飲んでいた父さんに声をかける。
「どうした?」
「お願い、があって」
「なんだ?」
不思議そうな顔の父さん。
私からのお願いなんて珍しいのだろう。
緊張で喉がかわく。
「…会って欲しい人がいて」
そう言うと母さんと啓太がハッとするのがわかった。
「そうか、どんな人なんだ?」
父さんは一口、日本酒を飲む。
「…大嶋智、さん」
智の名前を言うとピリッとした空気になった。
「…何?大嶋智って高校の時のか?」
「そう。3年前ぐらいに再会して、去年の夏にお付き合い始めたんだけど」
「…」
「智が父さんと母さんに一度挨拶したいって」
「ダメだ」
トンッと置かれたお猪口の音が響く。
「なぜ娘を傷つけた男と会わないといけないんだ」
「そうだけど、でもそれは理由が!」
「どんな理由でも傷つけたことには変わりないだろ」
予想通りの反応だけど、思った以上に頑なだ。
「父さん、一回会ってみたら?智くんだって父さんに殴られる覚悟で挨拶したいって言ってるだろうし」
「そうよ、話ぐらい聞いてあげたら?」
啓太と母さんが後押ししてくれる。
「…」
「父さん、お願いだから会って欲しい。私も智と話をしたから、また付き合おうって」
「会わないと言ったら会わない」
そう言って父さんはリビングを出て行った。
お風呂に入ってリビングでボーッとテレビを眺めていると智が映った。
年末の特番でグループで出てるみたいだ。
「…やっぱりダメかぁ」
「しょうがないわよ。母さんも父さんの気持ちもわかるもの」
コトンッとマグカップが置かれる。
中はハーブティー。
「蓮華を傷つけた。しかも長い間落ち込むほどに」
確かにあの時はずっと落ち込んでた。
高校卒業する時には戻ってたけど、どこか気持ちはずっと沈んでた。
「そんな相手に挨拶に来たいって言われてもって思ってしまうのは自然なことだと思うわ」
「…母さんも会いたくない?」
そう聞くと母さんはふふっと笑った。
「蓮華の話を聞いてなかったらそうなってたわね。
でも母さんは智くんと再会してどんな風に過ごしてたかを聞いてたから」
「母さん…」
テレビに映る智を母さんは見る。
「だから”今”の智くんに会って話を聞きたいなって思ってる」
「…ありがとう」
お礼を言うと母さんは頭を撫でてくれる。
「智くん、来るならいつの予定?」
「3日」
「じゃあ、それまでに父さんを説得しないとね」
「うん、頑張る」
小さく頷くと母さんはまたふふっと笑った。
会って欲しい気持ちが伝わらないのがもどかしい。
蓮華パパ、完全NGの姿勢で蓮華さんも困った状態。
でもそれは親心なんです。
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