105と1/2、 コーヒーの香りはあの時の思い出
読んでいただきありがとうございます!
本作の芸能界は作者の妄想で構成されております。
本編の更新は毎週日曜のAM8:00ごろです。
「と1/2」シリーズは不定期です。
4月半ばに久しぶりに電話をかけてきたのは甥っ子。
「智、久しぶりだな」
【浩二おじさん、久しぶり。今大丈夫?】
「おー、いつも通りのんびりしてるから大丈夫だ」
【おじさんらしいね】
智は弟夫婦の2人兄妹の長男だ。
弟家族はいつまでも独り身の俺を気にしてくれる。
弟嫁さんも気軽に接してくれるからありがたい。
「で、どうしたんだ?」
【あのさ、おじさんペンション持ってたよね?ちょっと使わせてもらえないかなって】
「え?ペンション?あんな山奥だぞ?」
驚いて聞き返す。
確かにペンションは持っている。年に2回使うぐらいだ。
海が隣接しているエリアなので、市場で新鮮な魚介を買ってから山奥のペンションに行く。
弟家族とも何回か行ってるから智も場所は知ってる。
【うん、あのペンション。GWに借りてもいいかな?】
「いいけど…一人で過ごすのか?」
【ううん。彼女と】
思わぬ単語にソファーからずり落ちた。
【こ、浩二おじさん?大丈夫?】
「…大丈夫だ。悪い」
話を聞いていくと高校の時に別れた例の彼女らしい。
あの時の智は覇気がなく、カラ元気で仕事をしていた。
「良かったな。次こそ手を離すなよ」
【うん、もちろん】
力強い返事に智の成長を感じた。
電話を終えてからコーヒーを淹れてベランダに置いてあるテーブルに置く。
椅子に座ってボンヤリと外を眺める。
「…そうか、智はまた付き合えたんだな」
思い出すのは柔らかく笑う彼女。
「…元気にしてるか?」
呟いた声は街の音に混ざって消えていった。
俺が社会人に2年目の春。
休日は図書館に通っていた。
「…あ、またいる」
いつも同じ窓側の席で読書している彼女。
彼女に気づいたのはたまたまだったけど、いるとちょっと嬉しくなる。
それは読書仲間意識として。
同世代で毎週末図書館に通ってるのは珍しい。
彼女がいるのかな、と探すという密かな楽しみがいつの間にか追加されていた。
そんな風に過ごしていたら夏が過ぎ、秋になった。
「えーっと、この辺だった気が…」
学生時代に読んでいた小説をもう一度読みたくなって探す。
さっき観た純愛映画に影響された。
探していると目的の本を見つける。
手を伸ばしたら反対側から別の手が伸びてきた。
「「あ」」
相手を見るといつも見ていた彼女。
「…」
「あ、どうぞ」
彼女が譲ってくれそうになって意識を戻す。
「あ、いいえ!僕は読んだことあるのでどうぞ」
「え?」
「久しぶりに読もうと思っただけなので」
他の本を探しに行こうと背中を向ける。
「あの!!」
声をかけられて振り返る。
思ったよりも声が響いたみたいで他の利用者もこっちを見てくる。
「あ…えっと」
「場所、変えましょうか」
苦笑して提案すると顔を赤くした彼女が頷く。
思わず可愛いな、と思ってしまった。
場所を変えて話をすると彼女も俺のことを認識していたらしい。
そこからは毎週一緒に読書をするようになった。
図書館に行ったら彼女を見つけて隣に座って読書。
ただそれだけなのに今まで以上に楽しみになった。
「大嶋、彼女でもできたか?」
会社の先輩に聞かれて驚く。
「え?」
「最近、なんか前より元気だから」
「…そうですか」
自分では気づかないものだ。
でも変化があったとしたら彼女との時間。
まさか小説みたいなことが自分に起こるとは思わなかった。
「浩二さん、どうかしましたか?」
彼女に声をかけられてハッとする。
今は恒例になった図書館近くのカフェでのお茶タイム。
帰りに一緒にコーヒーを飲むようになった。
「あ、いえ」
「今日、ボーッとされてるみたいですけど…もう帰りますか?」
「大丈夫です!すみません」
せっかくの楽しみな時間をすぐに終わらせる訳にはいかない。
「なんでもないです」
「本当ですか?無理はしないでくださいね」
彼女の優しさが心に染みる。
「あの…好きですって言ったら困りますか?」
気づいたら言っていた。
彼女も固まってるし、俺も固まる。
「…あ、えっと、なんでもないです!!」
帰ろうと立ち上がると手を掴まれる。
「!?」
「…困らないって言ったらどうしますか?」
頬を赤くした彼女を見て俺は夢なのかと思った。
「…夢か」
ベランダでゆったりしていたら昔の記憶を夢で見ていたらしい。
冷めたコーヒーを飲みながら過去を思い出す。
その後は彼女と楽しい日々を過ごした。
そして初めてご家族にお会いした日。
その時に彼女が日本大手企業の社長令嬢だと知った。
『キミみたいな男には任せられない』
『我が家の敷居には合わない』
次々と飛んでくる言葉は事実で。
彼女の父親に何も言い返すことができなかった。
『俺ではあなたを幸せにできない』
そう言って別れた。
それを思い出して胸が苦しくなる。
「…社会人2年目の男じゃ、そう言われてもしょうがないのかな」
思い出して苦笑する。
それから俺は引っ越しをして図書館にも行かなくなった。
ただ、彼女の父親に言われた言葉が悔しくて投資などの勉強をしてそっちで生計が立てられるぐらいになった。
だから会社を辞めて郊外の田舎に引っ越した。
でも今でも独り身なのは彼女が忘れられないんだろうと自負している。
「俺も重い男だな。智のこと言えないな」
小さく笑ってまたコーヒーを飲んだ。
コーヒーが飲めるようになったのは彼女がコーヒーが好きだったから。
久しぶりの「と1/2」は浩二おじさんの過去のお話でした。
浩二おじさん、実はドラマチックな恋をしていたのです。
それがきっけで不動産投資やら株やらで生計を立てる男に。
きっと負けず嫌いなんでしょうね。
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