11、 望みたい未来
思わず抱きしめていた。
でも、ずっと抱きしめたかった。
それが本音。
『でも、智たちを見て救われてる人が日本、世界中にいるってすごいことだと思う』
『いろんな規制や背負うのもが多くても、たくさんの人の心の支えになれるのは本当にすごいことだよ』
そんな風に思っていてくれたなんて思いもしなかった。
腕の中には昔よりも小さく感じる蓮華。
俺がでかくなっただけなんだろうけど、時間の差を感じる。
「…どうしたの?」
小さく呟く蓮華。
涙が出てくる。
今だに信じられない。
自分が手放したくせに、またこの腕の中にいる。
愛おしい存在。
「…ごめん。ありがとう」
そっと離して笑う。
でも蓮華の表情が渋い。
ちゃんと笑えてないのだろう。
「蓮華がそんな風に思ってくれてた事が嬉しくて」
そう言うと蓮華は気まずそうに目を逸らした。
「…だって、ちゃんと楽しそうに仕事してるから」
「え?」
「TVや雑誌で見かけるの。グループでやってる時はいつも嬉しそうな、安心したような顔してる」
蓮華はハーブティーの入ったカップを触る。
「それは智だけじゃなくて、全員がそういう顔してる。だから人気なんだなーって思うし、多くの人が元気をもらえるんだって」
毎日毎日不規則な生活と驚くようなスケジュール。
それは俺だけじゃなくて他のメンバーも同じで。
だから全員が集まると嬉しくなる。
「会社の後輩の子が言ってたわ。今度ライブ行くからそこまで頑張れるって」
ふふッと笑う蓮華。
俺は、胸が締め付けられる。
「そう言うの見てると、やっぱりすごい人達なんだなって思うよ」
ゆっくりとハーブティーを飲む蓮華を見て、後悔をする。
やっぱりあの時、手を離すべきではなかったと。
****
次の日、俺は小さなタッパーを持って楽屋に入る。
「はよー」
「智くんおはよ!!」
善ちゃんがニコニコ挨拶してくれる。
本当、犬みたいだ。
「おはよ。珍しいね、朝から荷物」
ハルくんが台本から顔を上げて聞いてくる。
俺は手に持っていたタッパーを開ける。
中には2種類の生チョコ。
「わ!チョコだ!珍しいね!」
「貰い物?しかも手作り」
2人が見ている時に瑛太が入ってきた。
「はよっす」
「おはよ、瑛太」
「瑛太!智くんがチョコ持ってきた!」
低血圧な瑛太の眉間がさらに深くなる。
「は?チョコ?この人、洋菓子苦手じゃん」
「でも持ってきてるんだって!しかも手作り」
瑛太がタッパーを覗くと驚く。
「マジ?どうしたの?」
「…例の人からもらったの?」
ハルくんに聞かれて頷く。
昨日の帰りに無理を言ってもらってきたのだ。
『蓮華、チョコ貰って帰っていい?』
『え?いいけど…そんなに食べられないじゃない』
『言ったでしょ。蓮華のは食べられるって』
そう言うと困ったような、嬉しそうな顔をしていた。
「へぇ…」
瑛太が納得いかないような顔をしている。
「ねぇねぇ!食べてみてもいい?」
甘い物大好き善ちゃん。俺はコクンと頷いた。
「やった!いただきます!」
「俺も」
「…じゃあ俺も」
3人ともチョコを食べる。
善ちゃんは抹茶、ハルくんと瑛太はビターチョコ。
「美味い!」
「本当、市販のやつみたいだ」
「…まぁまぁ」
認めたくないのか、瑛太がずっとムスッとしてる。
俺とハルくんはそれを見て苦笑する。
しばらくして順番にヘアセット。今はハルくんと2人。
「昨日、会えたんだ。押しかけたみたいな感じになったけど」
「おいおい…」
ハルくんが困った顔をした。
「そしたらチョコ作ってくれてて。同僚との友チョコ用だったみたいだけど」
俺が美味いと言った時の蓮華の安心した顔。
それは変わらなかった。
「それでも、俺が好きなチョコで嬉しかったんだ」
「そっか」
「また、前の関係に戻れたらって…やっぱり思うんだ」
「…」
ハルくんを見ると悲しそうな顔。
「今日、チョコを持ってきたのはみんなにも食べてほしくて」
「え?」
「…俺の事、ちゃんとわかってくれてるからって伝えられたらなって」
蓮華とまた付き合いたい。
だけど、それはメンバーにもわかってもらいたい。
だから持ってきた。
「…俺、わがままだよね」
「いいんじゃないかな。俺は応援するよ」
ハルくんが微笑む。
「…善ちゃんと瑛太にもわかってもらえるように頑張る」
「うん、頑張れ」
ハルくんの優しさに涙が出そうになった。
キミとみんなといる未来を望んでもいいですか?




