1、 私は高嶺の花ではない
冬は好きだ
休みやイベントが多いからという理由もあるが澄んだ空気が好き
と言ってもイベント系はあまり関係ないけど
雪が降ればもっと嬉しい
ただ、一つ
『お前、嫌い』
嫌な記憶があるだけ
「中倉ー」
同僚の滝連司に声をかけられて振り返る。
180cm、細マッチョ(らしい)、身なりもちゃんとしていて、明るい彼は会社の人気者。
「お疲れ様」
「おつー。今日の同期忘年会行くだろ?」
「その予定。残業にならないことだけ祈るわ」
横に並び営業部に向かう。
滝とは考えが似ているからか一緒にいても嫌な感じはしない。
だからと言って好きになったりはしない。
それは滝も一緒。
「連司ー!蓮華ー!」
滝と次の営業先についての話をしていると、前からは同じく同期の由里香。
可愛い。
「お疲れ様」
「ゆり。どうした?」
「2人が見えたから来ちゃった」
ニコニコと笑う由里香。
素直さとこの愛嬌さで人気者にならないはずがない。
そしてこの2人は付き合っている。
お似合いカップルだ。
「総務は今大変なんだろ?いいのかこんなところにいて」
3人で話しているともう1人の同期の声。
「お疲れさん、裕也」
「ひと段落ついたからいいんですー!同期飲み会もあるし!」
「そうだった。何時からだっけ」
「19時よ」
同期の中でも仲がいいこの4人。
「お、いたいた、中倉探したぞ」
振り向くと事務課課長がいた。
「課長、すみません」
「いや、急ぎじゃないから大丈夫。4人揃うと余計に目立つなお前ら」
「やめてくださいよ…」
なぜか高嶺の花組と呼ばれる私たち。
他の3人はわかるけど、なんで私まで…。
本当にやめてほしい。
営業部 滝連司
システム部 雨宮裕也
総務課 西山由里香
事務課 中倉蓮華
仲良し4人組はこの会社の高嶺の花。
そう言われたのは入社して半年してから。
2年ぐらい経つのにまだ言われているのはなんでだろうか。
愛嬌がある由里香や人当たりがいい滝、ツンデレだけどなんだかんだ優しい雨宮が人気なのはわかる。
なんなら顔もいいし仕事もできる
天は二物を与えないとか嘘だと思うぐらい。
それに比べて私はほぼ無表情。愛想は0に近い。
仕事は人並みだとは思う。
単純に人見知りが激しいだけで、周りを嫌っているわけではない。
それを3人は気づいてくれたから一緒にいてくれるんだと思う。
そう思うとやっぱり高嶺の花ではない。
前、課長にもそう言ったら「お前、自己評価低すぎ」と笑われた。
***
同期会も終わり、帰宅中。
滝が由里香との結婚はまだかと他の同期に聞かれて苦笑いしてた。
由里香が近くにいなかったとはいえ、今聞かないでくれって感じだった。
『ゆりってどんな指輪がいいと思う?』
休憩室で一緒になった時に聞かれた言葉。滝は滝なりにタイミングを見計らっているのだろう。
2人には幸せになってほしい。
「結婚…か」
親にも言われる。
社会人2年もすれば慣れてきて少しはプライベートも充実しろという感じだった。
今は彼氏はほしいとは思っていない。
いない…けど
『蓮華』
過去に縋っている自分がいるのも事実だ。