1人の男と1匹のクロネコ
「ねぇ、暇ならちょっと付き合ってよ」
1匹の黒猫がやつれた俺にそう言った。
そんな俺は山で首を吊ろうとしている真っ最中だった。
3ヶ月付き合いのあった彼女に先立たれ早くも2年が過ぎ、30になった俺は、そんな悲しみを堪えつつ夢である画家を目指しつつ会社に勤めた。
彼女はよく俺の絵を褒めてくれていたが、今ではもう誰も隣にはいない。
しかし1人で黙々と絵を描き続け、希望を少しでも見られる日を待っていた。
だが、現実は、希望の光さえも見せてはくれなかった。
会社では人間関係に悩み、そのストレスの影響で創作のアイデアがまとまらず、好きだった絵もだんだんと手につかなくなった。
そしてある時、画家の夢を諦め、筆を折った瞬間に悟った。
「俺は一生、このままなんだな。」
そう考えた時、俺は今まで無いくらい絶望した。
もうこのまま何もなせず生涯を終えるのか。
それは30歳からあと何年までなのか。
誰も居ないまま1人で死んでいくのか。
このまま、死んでいくのか。
「このまま...死ぬのかな...」
そう思った頃には俺はもう既に、絵の参考として置いていたロープを手に持ち、裸足のまま夜の街を歩いていた。
その足は、近くの山へと続く夜道を、ただ呆然と歩いていた。
気付いた頃には深い森の中で、自分の目の前にロープがユラユラと揺れていた。それを見て俺は、近くにあった小さめの丸太を転がし、その上に乗り、ロープを掴んだ。
「由美....怒らないでくれよ...」
そうつぶやきロープを首にかけようとした。
「何してるの、キミ。」
透き通った声が近くで聞こえた。
あぁ...ついに幻聴まで聞こえ始めたか...そこまで疲労してたんだなと、またロープに目を向けると、
「おーい、そこのやつれたサラリーマン〜」
....違う....幻聴じゃない...
幻聴だと思っていたが、声がずっと聞こえる、が、誰も居ない。
あるのはただ薄暗い木々だけだ。
すると、その声はため息を吐き、続けてこう言った。
「なんで毎回周りばかり見るかなぁ〜...下見てみな〜?」
その声の通り真下を見る。
「クロ....ネコ....?」
そこに居たのは1匹のクロネコであった。
体は小さいが尻尾は長く、サラサラの黒い毛並みに包まれた綺麗な黄色の目がこちらをジッと見つめていた。
なんでクロネコがこんなところに...?
するとクロネコは鳴いた。
「ねぇ、今暇でしょ?」と。
...............は?
「ねぇ、暇ならちょっと付き合ってよ」
ネコが....喋ってる....?
これが1番最初の出会いだった。