表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/37

プロローグ①

 揺れる、揺れる、馬の嘶き、辟易する。馬の足を速めた前の業者、後ろの少ない護衛は応戦するために離れて行った。

 窓を突き破って入ってきた鍵縄のとっかかり。見えたのはメイド服、メイド服にしては動きが秀逸すぎる。

 暗殺者、突入してきたメイド風の女、振り上げたナイフ――スカートの中から取り出したコインガンを向ける。ぎょっとした表情、吹っ飛ばす。破裂した女。

 この先には崖がある。

「うわぁあああ」

 おそらく業者が振り落とされた。ドップラー効果をともない悲鳴が遠ざかっていく。グラリと揺れて、刹那が止まって見えた。今だけの無重力。

 隣の女性を模した夜術、エルフリーデを使い、体を衝撃から守る。死体と踊る。衝撃をエルフリーデで守り、目の回るような空間の移ろい、彩る景色。

 ガラス片や辺りにぶつかった反動で、エルフリーデは人間としては生存不能なほど歪に歪んでいた。もっとも彼女は人間では無いのでこの程度は何ともない。

「あー痛い」

 久しぶりに言葉を発したようにも感じる。やっと解放されたからか、事態、自体に反して心と体は軽かった。

 スカートを脱ぎ、取り出したのは戦闘用黒衣と、黒羽の外装。コインガンの上部を開き、コインを装填する。

 死体を確認しに来るはずだ。エルフリーデを残して外へ出る。全員殺す。誰が死んだかわからなくするように。どうせこの後全員、口封じで殺される。ならぼくが殺しても構わないじゃないか。その方がいい。やらせてよ。たまってんの。

 やってきた暗殺者。退路を断つ、断たれる。コインガンを構え、発砲。何かする前に発砲、発砲発砲。指にかかるトリガーの反動と、射出されたコイン。着弾地点で破裂するコインと、コインの性能を理解できずに死んでゆく人々。

「ドラッベンラヴァーナヴィー‼」

 そんなお前に恨まれることしてないと思うけれど、見知った顔の女性、死体を盾に突っ込んでくる。死体を踏み台にして、振り下ろされるナイフ。構えたガンを横にしてナイフを抑え、なんでナイフなのと首を傾げるが、致死性の何かが付着されているのかもしれない。ナイフをいなして足を払い、顔に向けて発砲、避けられるが、コインは渦を巻き咲き乱れ、頬を八つ裂きにする。悲鳴と、破裂する左目、払った足と、心臓に銃口を――。


 相手が何か言葉を発する前に、引き金を引いていた。心臓にめり込んだコイン。衝撃と命の簒奪。

「さよなら。マルグリーダ」


 索敵、索敵、索敵、最後。吐き出した息と、肩に乗せる銃。今日、やっと終わったの。やっと終わった。ドラッベンナヴァーナヴィーとしての人生が終わりを迎えた。それを感じて、強い解放感と、微弱な喪失感と、意味の無さを痛感して、やる気も溜飲もさがっていく。


 殺したマルグリーダ。抉れた服と肉、血の匂い。

 変形したエルフリーデが、馬車の中から出て来て、歩くたびに体が元へ戻っていく。彼女は人ではない。生物ですらない。エルフリーデの持ってきた鞄を受け取り、遠吠えが聞こえる。思ったよりも早い。魔物ホロウが来る。四足の黒い獣たち。

 エルフリーデを伴い、その場を離れる。襲い掛かって来たホロウを、コインガンをバッドにして打ち返す。

「食い物をあっちだ‼」

 死体に群がる魔物の群れを見ながら、精々食い荒らしておくれと、そうすれば、もうぼくは、私は死んだ事になる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ