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忌み子の治療

 翌朝、俺達は長老ニャンゴの案内で里の外れにある小屋を訪れていた。


「ここは忌み子が生まれても処分されなかった子供たちが暮らしています」


 処分されなかった……か。残酷な言葉だ。

俺と同じ境遇のせいか心が痛む。


 子供達の人数は五人。

 三歳から四歳くらいの子供達だ。


 世話をしているお婆ちゃんが一人いる。

 布団で寝ている子が三人、木工細工のおもちゃで遊ぶ子供が二人いた。

 無口で遊ぶ二人の子供も心なしか元気がなさそうに見えた。


 ここは子供たちを処分できなかった人達が僅かなお金を出し合って運営されているとの事だ。

 運営と言うよりもただ生かされていると言った方が正しい。


「この小屋以外に各家庭で世話をされている子供がまだ数名います」

「そうなんですか」


 他にもまだ忌み子が居るのか。

 この子達は自分の境遇をどう感じているのだろう。


「この子達は自分の運命を知っているのですか?」

「はい。そのように言って聞かせています」


 くぅ。きっついなぁー。

 短い命を理解させる方も、する方も辛い。


 猫耳族は成長が人族より早い。そのためなのか、長く生きても五、六年くらいだそうだ。

 レイダ達も辛そうな表情を隠さない。


 自分も忌み子の運命を知って途方に暮れた頃がある。

 しかし、この子達と比べたら()()()()()()()()()は随分とマシだったと思う。

 しかも、使用人がいる不自由の無い生活。


 この子達は物心が付く歳には自分が苦しみながら死ぬ運命を悟らされる。

 それならば、生まれて直ぐに処分……も、ある意味人道的な行為なのだろうか。

 いや、そんなのあっちゃいけない事だ。


 しかし、俺に答えは出ない。


 ここの忌み子にも俺と同じような文様の赤黒い痣が首にある。

 絶対に秘密はあるはずだが、今は手掛かりも何もない。


 せっかく自分以外の忌み子に会えたのだ。

 俺になにか出来ることは無いのだろうか。


 俺は以前から文様の痣には秘密があると思っていた。

 だから調べてみようと思う。


「レイダ。この子達の痣を一人づつ、出来るだけ正確に紙に描いてくれ。最後に俺の痣も頼む」

「はい、レオ様。家庭で育てられている忌み子もですか?」


「うん、全ての忌み子が対象だ。それを比較して何か掴めないか調べてみよう」


 俺は寝込む子供達の浮腫(むく)れた姿を見つめていると、ふと思い出す。

 浮腫みの原因は身体の許容値を越えた大きな魔力が体内に溜まり続けて起きた現象だ。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 俺はポケットからドグルートの魔石を取り出した。

 魔力を触れているものから吸い上げるイメージ。


 吸い上げる量の設定と魔石に溜まった魔力の量を色で表すパラメータを魔石に付与する。

 そして寝ている子の中で最も身体が()れあがっていた男の子を選んだ。

 見た感じ、残り一年も持たないと思う。


「これをこの子の胸の辺りに載せて長い布きれで身体を巻いて固定してみてください」

「この魔石を……ですか?」


「はい。後で詳しく説明しますが、この子達は生まれながらにして高い魔力を持っています。それが原因で長く生きられないのですよ」


「え。生まれながらに高い魔力をですか……」

「だから溜まった魔力を吸い出してみようと考えました」


 ニャンゴは突拍子も無く魔力という言葉が出てきたことに、()も驚いたようだ。

 そりゃ、忌み子の原因が多過ぎる魔力だと気付く人がいない世界。


 忌み子本人が幼過ぎて()()()()の自覚が無いままに死んでしまう。


 大人も微小な魔力しか持っていない事が普通なのだ。

 これに気付ける可能性のある人は魔術や魔法に長けた一握りの人だろう。


 男の子の胸に魔石が布で巻かれ、固定された事を確認する。


「この子の容体が変化しないか、誰かを付けて確認をお願いできませんか? 二日ほどで結構です」


 二日ほど観察して変化が無ければ恐らく失敗だ。

 もっと魔力の吸収量を増やせば結果は直ぐに出るのだろうが、急激な魔力量の変化は弱った身体にどんな影響があるのかわからない。


 だから少ない一定量を吸い続けるよう魔石に設定したのだ。


「レオ様、礼を言うのはまだ早いのですがこのようなご協力、本当に感謝致します」


 頭を深く下げるニャンゴ。

 今日の彼は仙人のコスプレは続けているが、その態度は立派な里の長老だった。

 最初からそうすれば良いのにね。




◇◇◇




 部屋に戻ると、()()()疲れが出たので昼食まで休息を取る事にした。

 サラ達が早朝に食材を届けてくれたため、ダリルとエナ、レイダが直ぐに食事の支度を始める。


 やる事が無いナロウと俺はダイニングでレモン水のような飲み物を水差しから木の器に移す。

 それを一気に飲んで一息つくとナロウが神妙な顔で俺に話しかけた。


「レオ様、もしあの忌み子達が助かったと仮定しましょう。あの子らが今度は神子(みこ)として里から酷使される事にはならないのでしょうか」


 俺もその可能性には気づいていた。

 もしもここの忌み子が助かったとする。


 今後は生きていくために溢れてくる魔力を制御、もしくは解放させる必要がある。

 それには魔術を使って魔力を消費するのが一番効率がいい。

 空となった魔石に魔力を注入したり、魔道具を作成することも可能になるだろう。


 それを魔力が乏しい種族が手にしたらどうなるのか。

 色々と考えなくてはならないだろう。


 特に悪意に満ちた運用は最後には身を滅ぼすことになる。

 しっかりと管理されてこそ、里や住民達に有用な武器となるのだ。

 そこらをどのように里は考えるのか。


 俺の持てる技術の全てを忌み子達に伝えたとして将来、ブーメランのように俺に不利益な事象が跳ね返ってくる可能性だってある。


 例えば、何かの原因でこの里と敵対した時などだ。

 未来永劫、あり得ないとは言えないだろう。


 恐らくここの忌み子達は助かる。

 その自信がある。

 今回の処方は理に適っているのだ。


「確かにあの子達がその豊富な魔力で魔術師になる可能性は高いと思う。でもそれは彼らが助かってからの話だ」


「はい、そうですね。その時は私達もレオ様と共に考えましょう」

「うん、助かるよ」


 テーブルに並び始めた昼食を眺めながら『面倒なことにならなければ良いが……』と、俺は(ひと)()ちた。




◇◇◇




 午後からはレイダと里を散歩する。

 俺は一人が良かったのだがレイダが『レオ様のお世話係は私ですから!』と言い張って付いてきたのだ。


 きっと、エナ達と一緒に部屋の片づけをするのが嫌だったからだな。

 ナロウにはニャンゴの元へ行かせ、魔道具などの魔力が無くなった魔石を集めるように指示した。


 魔力が残っていない魔石の方が魔力を吸収できる許容量が大きいからだ。


「レイダ、痣の摸写は良いの?」

「はい、そんなの直ぐに描けますから」


 あんまり適当に描かれても困る。

 他に頼める奴がいないんだよなー。


 ダリルは文字を書けないし、エナは小屋の掃除や飾りつけなんかで忙しい。

 ナロウは俺が頼んだ事で精一杯だ。


「それを見て文様の違いや意味を研究するんだ。適当に描かれちゃ困るよ」

「わかってますよ!私にお任せください!」


 ん-。全く信用できんのだが。

 まぁレイダも気晴らしも必要だろう、俺だってそう思って散歩してるんだし。


「それならレイダには特別命令を与える。里の人に出会ったら元気よく挨拶してくれ!」

「はい!元気は私の取柄ですから!」


 デカい胸をバンって張るレイダ。

 こういう時のレイダは案外使える。

 だって何も考えないのだから。


 ちなみに俺とレイダは里で使っている靴を譲り受けている。

 木靴なので履き心地はイマイチだが。


 里の人達に挨拶をしながら適当に歩いていると、二十メートルほど先にある林の辺りから聞いたことのある声が耳に届く。

 しかし、大きな木が何本か生えているため、複数の人影がちらりと見える程度だ。


「頼んでみようよ!絶対なんとかしてくれるって!」

「いくらなんでも彼はまだ子供だろ?そんな事ができるはずがないじゃないか!」


「じゃ、レオ様が元気なのは証拠にならないんッスか?」

「人族だ。まだ数年は生きれるんだろう。今はまだ元気なだけかもしれないじゃないか」


 サラとニーナの声。

 そして昨日の夕食会で見た彼女たちの父親ドルーの声だ。

 俺が忌み子だって事で何やら喧嘩をしている様子だ。


 俺が目合わせするとコクリとレイダも頷いた。

 木靴は足音が大きいので『魔靴』を気靴に纏わせて消音する。

 俺達は木の陰に隠れながらゆっくりと声のする方に近づいた。


「「「こんにちは!サラちゃん、ニーナちゃん!」」」


 エエエエエエエッ!レイダ、なにデカい声で挨拶しちゃってんの!

 隠密作戦、レイダの裏切りにより無惨にも散る。


「あ。レイダさん、レオ様」

「こんちわッス!」

「こんにちは。なんかお見苦しい話をお聞かせしてしまったようで……」


「こんにちは、ドルーさん、マリーさん。サラ、ニーナ」


 こちらに振り向いたドルーがばつが悪そうな顔で挨拶する。

 すると近くの家から()()()()()()の赤ちゃんとサラ達の母親マリーがひょこっと顔を出した。

 良く見れば赤ん坊の首には忌み子の痣がある。


 今までのサラの言動がスパッと俺の意識の中で繋がった。

 サラは村の忌み子の問題よりも、自身の弟を心配していたのだ。


「ね、お父さん、頼もうよ!ダメで元々なんだから、ね?」

「レオ様はまじパねぇッス!絶対になんとかしてくれるッスから!」

「あ、あぁ」


 ドルーは観念した様子でマリーに向かって手招きする。

 マリーは俺達に軽く会釈をすると、赤ん坊を抱いてこちらに歩いて来た。


「そ、そのですね……」

「レオ様。この子はロイドと言います。私達が望んだ男の子なんです」


 マリーはドルーの言葉を遮るように話し始めた。

 そして忌み子として生まれてきたロイドが不憫で()()も出来ず、将来に怯えながら生活をしている。

 などと涙を浮かべながら思いを打ち明ける。


「レオ様は『治癒』の魔術も凄いと娘たちから聞いています。忌み子であるレオ様も自ら運命を克服したと娘たちが興奮して話すんです。そんなレオ様ならきっと治してくれるって……」


「なるほど、サラ達の様子が少しおかしかったのはロイドの事があったからなんですね」


 サラとニーナも少し恥ずかしそうに頷いた。


「先ほどニャンゴさんと村の外れにある忌み子達が暮らす小屋に行ってきたんですよ。

マリーさんと同じことをニャンゴさんも感じていたようです。

そこで効くかはまだわからないのですが一番重症な一人だけ、治療を始めたところです」


「あ、はい」


 ドルーとマリーには()()()()()()()()の話はあえて言わなかった。


 治療が有効だとして、今後どうするかは改めて関係者で話し合う必要がある。


「ですから、その結果が出てからになると思います。二日程ですからそれまで待ってくださいね」


「やっぱりレオ様は凄いッス!」

「レオ様、ありがとう!」

「いや、まだ治療可能って決まったわけじゃないから」


 俺はこの里でめちゃくちゃ重要な人物となってしまったことに少し不安を覚えた。



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